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80話 エピローグ 〜積年の想い〜
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波乱の卒業パーティーを終えて一ヶ月近くが経った。
多くのごたごたがあったが、エルフィーナ王女殿下やドラグス王太子殿下のお力添えもあって、グレアンドル家も皆、現状の形に納得することとなった。
現状の形、それは――。
「それではドウェインお義父様、ミゼリアお義母様。私はヴァン様と出掛けて参りますね」
「ああ、わかったルフェルミア。気をつけてな」
グレアンドル家にて、私とヴァン様は婚約関係を修復したことが認められ、私はこのままグレアンドル家に住み込んでいる。
ドウェインお義父様とは元々関係性が良好だっただけに、さほどなんの問題もなかった。
「ええ、ルフェルミアさん。気をつけていってらっしゃいね」
驚いたのはミゼリアお義母様の方で、彼女は以前私にきつく叱責されて以来、本当にギャンブルを断ち切っていたらしく、今はコツコツと借金を返済している。
しかもそのことをきちんと全てドウェインお義父様に話をしたのだという。
それから憑き物が落ちたかのようにミゼリアお義母様は人が変わった。
私に対しても恐れではなく、普通に優しく接する良き義母となったのである。
とはいえこの変化の大きな立役者は、メリアだ。
メリアが闇カジノの繋がりから、ミゼリアお義母様を全てのカジノへの出入り禁止を言い渡した為、ミゼリアお義母様はギャンブルができなくなったからである。
お酒だけは止められていないらしいが、それもドウェインお義父様からきつく制限させられたらしい。
「なあ、ルフェルミア。今日はどこへ行くんだ?」
「あそこよ、あそこ!」
私はヴァンと共に屋敷を出て、以前約束していたあの場所へと向かおうとしていた。
「あら、ルフェルミア様にヴァン様。おはようございますわ。今日はお二人ともお早いんですのね」
グレアンドル家の庭にいたエルフィーナ王女殿下が挨拶をしてきてくれた。
「おはようございます王女殿下。今日は結婚前にどうしてもヴァンを連れて行かなくてはならないところがありまして。二人の大切な場所なんです」
「まあ、思い出の場所なんですのね。私たちもそんな場所を作りたいですわね、リアン様」
「うん、そうですねエルフィーナ王女殿下」
「もう私に敬称と敬語はいらないと仰ったではありませんか」
「あ、ああ。そうだったねエルフィーナ」
エルフィーナ王女殿下とリアン様も無事婚約され、結婚までの間、こうしてちょくちょくグレアンドル家にやってきている。
本来ならリアン様の方が王宮へ行くべきなのだろうけど、エルフィーナ王女殿下はあまり王宮に居たがらないから、これでいいそうだ。
その辺はサフィーナ王女殿下との確執がまだ残っているらしい。
「それにしてもリアン様。闇カジノの件はもう本当に完全に手を引いたんですわよね?」
「うん、やめたよ。……聖女メリア様にきつく言われたからね。王女殿下と結婚するなら、薄暗いことからは手を引きなさい、って」
「本当ですわよ! あんな王家の意向に反する裏ギャンブルの総支配人だなんて、許せませんわ! 全く、聖女様がリアン様の愚行に気づいて止めてくださったから良かったものの……」
聖女メリアは偶然リアン様の闇カジノへの関与を知りそれをたしなめた――。
メリアはそういう作り話をエルフィーナ王女殿下にした。
これの狙いは、リアン様に闇カジノへの関与をやめさせ、王家との風通しをよくする為だ。
それを促したのはドラグス王太子殿下である。
違法行為を嫌うドラグス王太子殿下がメリアに闇カジノの存在について厳しく罰するという話をした為、彼女は闇カジノ関連から手を引いたからであった。
王家との繋がりができたメリアの、リアン様へ対する優しさでもある。
そしてそれはつまりメリアとドラグス王太子殿下との関係性が深くなり始めているとも言えた。
「……リアンもミゼリアお母様も、良い方向に向かってくれて本当に良かった」
カテドラル大王都内を歩きながらヴァンが隣で呟く。
出来過ぎなほど、全てが丸く収まり始めている。
「ところでルフェルミア。千年大樹に何の用があるんだ?」
「どうしても掘り出したい物があるの。私の中にまだ余力があるうちに、ね」
私の魔力は日々失われている。
これはきっとルミアの目的が達せられたからだ。この消失の量からすると、私は近々この魔力が完全に無くなる日が来てもおかしくはない。
その前に、まだルミアの魔力が残っているうちに大樹に埋められたアレを取り出したのである。
「そういえばルフェルミアの父上は来月こちらに来てくれるのだろう?」
「ええ。最後の挨拶に来てくれるわ」
「そうか。最後の、か」
「私が完全に足を洗うからね」
私は魔力をほぼ失い、裏稼業としての実力はかなり落ちた。
それにヴァンと結婚することもガゼリアお父様に伝えてある。
ガゼリアお父様はグレアンドル家と顔合わせという名目で私に詳細を聞きに来るのである。そして私は裏稼業から手を引く為、おそらくガゼリアお父様とは最後の挨拶になるのである。
この稼業、手を引く時は今生の別れとなるのが基本だ。
つまり私は、ヴァンの為だけに、それ以外のこれまでの私の全てを失ったのである。
「なんだか懐かしいわね、この場所も」
話しながらベグラム地区に辿り着いていた。
ヴァンとここでチンピラたちに絡まれて撃退したこともあったわね。
「あの時はまさか、本当にこうしてルフェルミアと正式に結ばれることができるだなんて思いもしなかった」
「ええ、私もよ、ヴァン」
そうこうしているうちに、千年大樹が見えてきた。
私がここに来た理由は、千年前のあの記憶を確かめにきたからだ。
「確かこの辺りだったはず」
私は記憶を頼りに大樹の木の根本付近の土を掘り返した。もちろん、素手なんかで掘り起こさない。これでも淑女だ。残された魔力で少しずつ土を掘り起こしていく。
結構深く埋めてあった記憶の宝珠は、私の記憶通りの場所にきちんと保管されていた。
「あった! これよヴァン」
「それはなんだ?」
「これを再生する前に全て話すわね――」
私は前世の記憶、魔女王ルミアだった頃の記憶についてヴァンに話をした。
そしてヴァンの予知夢も彼女の魔力によって引き起こされていたことも。
「そうだったのか。まさかお前と俺の前世にそんな関係性があったとは……」
「だからこそ、私はあなたに惹かれていたのよね」
「俺もそうなのかもしれないな」
「とにかくこの宝珠、再生してみましょうか」
「ああ」
私はキーとなる魔力を練り上げて、宝珠に注ぎ込んだ。
宝珠は薄っすらと光を放ち、そして光が差したその先に映像を投影させ、魔族であるルミアの当時の姿で鮮明な映像として映し出された。
『見えているかしら? いつかの私』
改めて見て驚かされる。
姿も声も本当に私に瓜二つだわ。
『もしこれから先の記憶を見るなら、必ずナーヴァと二人で見てほしいわ。いいかしら?』
私とヴァンは互いに顔を見合わせてこくん、と頷く。
『もしかしたら私が直接言えないかもしれないから、この宝珠越しに、私の想いを込めて届けるわ。よく聞いてね――』
魔女王ルミアの願いは、彼女の願い通り私からきちんと届けることが無事にできた。
『――というわけよ。それと最後にこれだけは伝えておくわ。いつかの私がもし、私の意思に反するような行為、行動を起こし続けるなら私は私自身を消す呪いも同時にかけておくわね。だから何があっても間違えないで』
ルミアの一途すぎる想いが、私を幾度も死に追いやる可能性を作っていたとはいえ、今回の未来に無事辿り着けたのも、全て彼女のおかげだとも言える。
記憶の宝珠の再生が終わると同時に、私の中から何かが抜け出していく感覚を覚えた。
きっとルミアの存在が私から完全に消え去ったのだろう。
私の魔力も完全に消失したようだし。
「ヴァン、私はもう魔力もないただのか弱いひとりの女になっちゃったわ」
「大丈夫だ。お前のことは何があってもこの俺が一生をかけて守り抜いてやる。だから何があっても俺から離れるなルフェルミア」
「ありがとう。愛しているわヴァン」
「俺もだルフェルミア」
私とヴァンは大樹の下で、互いの愛を確かめるように口付けを交わしたのだった。
多くのごたごたがあったが、エルフィーナ王女殿下やドラグス王太子殿下のお力添えもあって、グレアンドル家も皆、現状の形に納得することとなった。
現状の形、それは――。
「それではドウェインお義父様、ミゼリアお義母様。私はヴァン様と出掛けて参りますね」
「ああ、わかったルフェルミア。気をつけてな」
グレアンドル家にて、私とヴァン様は婚約関係を修復したことが認められ、私はこのままグレアンドル家に住み込んでいる。
ドウェインお義父様とは元々関係性が良好だっただけに、さほどなんの問題もなかった。
「ええ、ルフェルミアさん。気をつけていってらっしゃいね」
驚いたのはミゼリアお義母様の方で、彼女は以前私にきつく叱責されて以来、本当にギャンブルを断ち切っていたらしく、今はコツコツと借金を返済している。
しかもそのことをきちんと全てドウェインお義父様に話をしたのだという。
それから憑き物が落ちたかのようにミゼリアお義母様は人が変わった。
私に対しても恐れではなく、普通に優しく接する良き義母となったのである。
とはいえこの変化の大きな立役者は、メリアだ。
メリアが闇カジノの繋がりから、ミゼリアお義母様を全てのカジノへの出入り禁止を言い渡した為、ミゼリアお義母様はギャンブルができなくなったからである。
お酒だけは止められていないらしいが、それもドウェインお義父様からきつく制限させられたらしい。
「なあ、ルフェルミア。今日はどこへ行くんだ?」
「あそこよ、あそこ!」
私はヴァンと共に屋敷を出て、以前約束していたあの場所へと向かおうとしていた。
「あら、ルフェルミア様にヴァン様。おはようございますわ。今日はお二人ともお早いんですのね」
グレアンドル家の庭にいたエルフィーナ王女殿下が挨拶をしてきてくれた。
「おはようございます王女殿下。今日は結婚前にどうしてもヴァンを連れて行かなくてはならないところがありまして。二人の大切な場所なんです」
「まあ、思い出の場所なんですのね。私たちもそんな場所を作りたいですわね、リアン様」
「うん、そうですねエルフィーナ王女殿下」
「もう私に敬称と敬語はいらないと仰ったではありませんか」
「あ、ああ。そうだったねエルフィーナ」
エルフィーナ王女殿下とリアン様も無事婚約され、結婚までの間、こうしてちょくちょくグレアンドル家にやってきている。
本来ならリアン様の方が王宮へ行くべきなのだろうけど、エルフィーナ王女殿下はあまり王宮に居たがらないから、これでいいそうだ。
その辺はサフィーナ王女殿下との確執がまだ残っているらしい。
「それにしてもリアン様。闇カジノの件はもう本当に完全に手を引いたんですわよね?」
「うん、やめたよ。……聖女メリア様にきつく言われたからね。王女殿下と結婚するなら、薄暗いことからは手を引きなさい、って」
「本当ですわよ! あんな王家の意向に反する裏ギャンブルの総支配人だなんて、許せませんわ! 全く、聖女様がリアン様の愚行に気づいて止めてくださったから良かったものの……」
聖女メリアは偶然リアン様の闇カジノへの関与を知りそれをたしなめた――。
メリアはそういう作り話をエルフィーナ王女殿下にした。
これの狙いは、リアン様に闇カジノへの関与をやめさせ、王家との風通しをよくする為だ。
それを促したのはドラグス王太子殿下である。
違法行為を嫌うドラグス王太子殿下がメリアに闇カジノの存在について厳しく罰するという話をした為、彼女は闇カジノ関連から手を引いたからであった。
王家との繋がりができたメリアの、リアン様へ対する優しさでもある。
そしてそれはつまりメリアとドラグス王太子殿下との関係性が深くなり始めているとも言えた。
「……リアンもミゼリアお母様も、良い方向に向かってくれて本当に良かった」
カテドラル大王都内を歩きながらヴァンが隣で呟く。
出来過ぎなほど、全てが丸く収まり始めている。
「ところでルフェルミア。千年大樹に何の用があるんだ?」
「どうしても掘り出したい物があるの。私の中にまだ余力があるうちに、ね」
私の魔力は日々失われている。
これはきっとルミアの目的が達せられたからだ。この消失の量からすると、私は近々この魔力が完全に無くなる日が来てもおかしくはない。
その前に、まだルミアの魔力が残っているうちに大樹に埋められたアレを取り出したのである。
「そういえばルフェルミアの父上は来月こちらに来てくれるのだろう?」
「ええ。最後の挨拶に来てくれるわ」
「そうか。最後の、か」
「私が完全に足を洗うからね」
私は魔力をほぼ失い、裏稼業としての実力はかなり落ちた。
それにヴァンと結婚することもガゼリアお父様に伝えてある。
ガゼリアお父様はグレアンドル家と顔合わせという名目で私に詳細を聞きに来るのである。そして私は裏稼業から手を引く為、おそらくガゼリアお父様とは最後の挨拶になるのである。
この稼業、手を引く時は今生の別れとなるのが基本だ。
つまり私は、ヴァンの為だけに、それ以外のこれまでの私の全てを失ったのである。
「なんだか懐かしいわね、この場所も」
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ヴァンとここでチンピラたちに絡まれて撃退したこともあったわね。
「あの時はまさか、本当にこうしてルフェルミアと正式に結ばれることができるだなんて思いもしなかった」
「ええ、私もよ、ヴァン」
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「あった! これよヴァン」
「それはなんだ?」
「これを再生する前に全て話すわね――」
私は前世の記憶、魔女王ルミアだった頃の記憶についてヴァンに話をした。
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「だからこそ、私はあなたに惹かれていたのよね」
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「ああ」
私はキーとなる魔力を練り上げて、宝珠に注ぎ込んだ。
宝珠は薄っすらと光を放ち、そして光が差したその先に映像を投影させ、魔族であるルミアの当時の姿で鮮明な映像として映し出された。
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姿も声も本当に私に瓜二つだわ。
『もしこれから先の記憶を見るなら、必ずナーヴァと二人で見てほしいわ。いいかしら?』
私とヴァンは互いに顔を見合わせてこくん、と頷く。
『もしかしたら私が直接言えないかもしれないから、この宝珠越しに、私の想いを込めて届けるわ。よく聞いてね――』
魔女王ルミアの願いは、彼女の願い通り私からきちんと届けることが無事にできた。
『――というわけよ。それと最後にこれだけは伝えておくわ。いつかの私がもし、私の意思に反するような行為、行動を起こし続けるなら私は私自身を消す呪いも同時にかけておくわね。だから何があっても間違えないで』
ルミアの一途すぎる想いが、私を幾度も死に追いやる可能性を作っていたとはいえ、今回の未来に無事辿り着けたのも、全て彼女のおかげだとも言える。
記憶の宝珠の再生が終わると同時に、私の中から何かが抜け出していく感覚を覚えた。
きっとルミアの存在が私から完全に消え去ったのだろう。
私の魔力も完全に消失したようだし。
「ヴァン、私はもう魔力もないただのか弱いひとりの女になっちゃったわ」
「大丈夫だ。お前のことは何があってもこの俺が一生をかけて守り抜いてやる。だから何があっても俺から離れるなルフェルミア」
「ありがとう。愛しているわヴァン」
「俺もだルフェルミア」
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