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“冷血の魔女”
白い魔女と、千里
しおりを挟む「もういい!もういいんだ!千里ちゃん!」
かつやっちょは泣きじゃくる千里を抱きしめた。
その腕の中に、ほんの少し温度が戻ったように見えた。
「……はぁーー。まったく。」
白い息を吐き、シルフィアが冷たく割り込む。
「話にならない。かつやっちょ。見苦しい。その小娘から離れろ。」
「なんだよ!冷血の魔女!千里ちゃんは“今”こんなに苦しんでる!!」
「黙れ。」
シルフィアはかつやっちょの真っ黒いパーカーの首根っこを摘み強制的に引き離す。
軽い。男の体重ではない。ほんとに霊体だ。
シルフィアが静かに口を開いた。
息を吸うコンマ数秒の白い静寂。
「秋山千里。貴様はほんとにどうしようもない臆病者だ。反吐が出る。お前は5つの罪を背負った大罪人だ。これから貴様を裁く。」
冷徹な緑の目を細める。
眼光だけで人を殺めてしまいそうな鋭さ。
「なんで!なんであんたなんかに裁かれなきゃいけないの!私は死んだ!もうそれでいいじゃない!!」
千里は立ち上がった。お腹を押さえながら。
シルフィアは千里の胸ぐらを掴んだ。
「黙れ。生と死の狭間に迷い込んだお前の末路だ。恨むなら運命を恨め。」
語気が荒くなる。心からの怒り。
白い部屋を、3度ぐにゃっと歪ませる。
「あんたなんかに!あんたなんかに!何がわかんのよ!」
千里もまた睨みつけた。
「黙れ。1つ目だ。お前は本当に涼介の事を愛していたか?」
千里の瞳孔が開く。
「愛してた!かっこいい人と付き合えたんだもん!当たり前じゃん!」
「違う!お前は愛ではなく“愛される女を演じた”だけだ。裏切られたと言っているユリに対し、お前が感じている“それ”の正体は何だ!」
「……え?」
ユリに、失望以外の感情?
な、何を言ってるの。
愛される女を演じた?
思い当たる事があった。
ユリはいつもキラキラしていて、対して可愛くないのに男は皆ユリが好きだった。彼氏も絶えないユリを見ていると、ずっとモヤモヤした気持ちになった。仲は良かった。だけど、心の底からユリを親友と呼べたか?
いや、ユリといたのは男が寄ってくるから。
「わたし、わたし……。ユリが、羨ましかった。かもしんない……。」
言葉が白に吸い込まれ、萎んでいく。
「お前はユリへの優越感を満たすために涼介を“奪った”。……違うな。奪ったのではない、“競い合い”を勝ち取っただけだ。
愛されたい、下らない承認を満たす為に貴様はユリと涼介を利用した。」
シルフィアは掴んでいた手を離す。
「傲慢で稚拙で、欲深い。
ユリの涼介への気持ちを知っていたのだからな。さらに貴様は心のどこかで、その。なんだ……クラスメイトか?……を見下していた。いざ自分が蔑まれれば自己を正当化し“可哀想な自分”に逃げる。
極めて曖昧で救われない。」
「そんな。私、そんな事……。見下すなんて!!」
「2つ目だ。」
シルフィアは構わず続けた。
「お金を得るという行為。お金を得る=勝利。
あぁそうだ。どんな世界もそれは変わらない。
じゃあ貧乏は敗北か?家族への不振から“愛”より“金”に逃げた。家を出る?……何も出来ない小娘がふざけた事を。
お前は家族と向き合う事から逃げた。愛される事からだ。身を売り買いして得た金でしか、自身の価値を認められなくなった。」
「それは違う!!お母さんが私を遠ざけた!小さい時からずっと!お兄ちゃんばっかりだったんだよ!それも私が悪いって言うの!?」
「3つ目はまさにそれだ。
母への反発。兄への無関心。
遠ざけたのは母親か?小さな時からそうだったのか?まったく目をかけられなかったのか?いつからだ?父親はお前と兄を区別したか?兄は小さな時から優秀か?彼の努力ではないのか?」
「……違う。」
「そうだろう。なら遠ざけたのは母親ではない。」
「私、自身……。ほんとは、助けて欲しかった。ずっと。……感じてたよ色んな事。お父さんも優しかった。話したかった。もっともっと話しかけたかった!!」
「そうだ。助けてほしいと感じていながら“話さなかった”。それは怠慢だ千里。」
「う……。うぅ……。ぐすん。何で、何で今更。
もっと、もっと一緒に居たかった。……お母さん。
いや、いや。何でわ、たし。……死んじゃったの。いや、嫌だ。今更こんな気持ちになってるの。」
「4つ目だ。」
シルフィアは千里に背を向けた。
かつやっちょは静かに、静かに2人の会話を聞いていた。
シルフィアにも感じる事があるのだろう。会話の端が揺らいでいた。
「お前は全て“ユリの裏切り”、“母の偏愛”、“兄の圧力”のせいにした。あぁ。くそっ!!自分自身を直視せず!何もかも!他人のせいにした!!したんだ!!」
シルフィアの怒りが溢れる。
何千回も死に戻りを繰り返した女の子。
自ら命を絶つ選択を何千回も拒んだ女の子。
自分のせいで何千回も世界が終わった女の子。
それがシルフィア・ローズ。
彼女にはその重みが痛い程理解できた。取り返しが付かなくなる事も……。
「ちょ!ちょ!シルフィア!……ダメだ!千里ちゃんには重すぎる!それ以上は辞めろ!もうライフはゼロだよ!」
かつやっちょは千里の前で両手を広げた。
「黙れ、愚か者。」
シルフィアの声が、一瞬で冷えた。
「……それが、何を意味するか分かっているのか?」
かつやっちょが唇を噛む。
「そこを退け!
何もかも不愉快だ!5つ目は“今”その何も出来ない小娘がここにいる罪!!
わかるか!?全てを誰かのせいにした挙句、貴様は自分で命を絶った!!逃げたんだ!!それは罪だ!!ふざけるな!!秋山千里!!違うか!!
パパ活とやらも、親友に写真とやらをばら撒かれた事も、母親や兄に見放された事も、性に飢えた男の待つ場所へのこのこ行った事も、妊娠した事も。
全てお前が“選んだ”!!お前が、選んだんだ!!」
「ああ、あぁ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァ!!!」
千里は絶叫した。
白い部屋が揺れる。
静寂の白が、真っ赤に裂けた。
叫びの余韻が消える頃、また白が静かに戻っていく。まるで、何もなかったかのように。
「あ、あ、あ。……。私が。私が。えら……んだ。」
「そうだ。千里。最後にまた聞かなければならない。
我は“冷血の魔女”シルフィア・ローズ。貴様を裁く者。
生きるか、死ぬか。」
「………………。」
涙と沈黙が流れた。
白い部屋は白と静寂を取り戻した。
――どれだけ時間が経っただろうか。そんなに経っていないのか。
もう分からない。
千里は静かに語りだした。穏やかに。
「私……。ごめん。
もう少し早く気がつけてたら……。ユリにも、この子にも生きて謝る事が出来たのかな。
うん。………生きながらえてもこの生命に見合う人生は見つけられそうにないよ。だから、ね。」
「そうか。分かった。」
シルフィアは深い森のような緑の目を静かに閉じた。
「ま、待ってよ!そんな!千里ちゃん!生き返る術があるかもしれないのに!!ダメだ!逝ってはダメだ!」
かつやっちょもまた涙を流し引き止めたが、千里の顔は初めて見る笑顔。
「……そん、な。」
「かつやっちょさん。ありがとね。シルフィアさんにはお礼言わないから!!」
「そう。そっか、そうだよね。
……千里ちゃん、俺からもありがとう!ずっとこの魔女と二人きりだったから張り詰めてたんだ!可愛い女の子と話せて良かった。シルフィアにはお礼なんていらないよ……。」
かつやっちょは右手を挙げる。
「秋山千里。扉を開く。」
シルフィアが手を伸ばすと、千里の後ろに白い扉が現れた。
白い部屋を脱出する。
……いや、天国への扉か。
ガチャ。千里は扉を開けた。
「さよなら。冷たい魔女サマ。」
「ごきげんよう。」
微笑の奥には、誰も知らぬ痛みが滲んでいた。
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