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“冷血の魔女”
白い魔女の悪夢
しおりを挟む――――夢を見た。
何の夢かは分からない。
私は高い高い建物の上に立った。
雪がパラパラと降り始めた。
空を割いた。
立ち並ぶ高層ビル。電車の音。行き交う車。
背を曲げて俯く人達。
鳥になった。
空気の抵抗が肌に突き刺さった。
寒い。
――――世界は氷のように冷たかった。
「わああああ!!……はぁ、はぁ。」
シルフィアは飛び起きた。相変わらずの白い部屋。
「……。」
かつやっちょが隣に座っていた。
「くそ。うなされてたのか。悪い。不快な思いをさせたな。」汗を拭う。
「なあ……シルフィア……。」
「なんだ。」
「あの力を使った後って眠くなるのか。」
「分からない。お前は?」
「眠くないんだ。ここに来てから一度も眠くない。朝も昼も夜もない、ずっと白い。」
「ああ、そうだな。
……どうした?らしくないじゃないか。」
暫しの沈黙。
「…………。」
「……千里ちゃんだよ。
なんで君は直ぐに千里ちゃんの心を見抜けたんだ。俺にはサッパリわからん。
千里ちゃん、ちゃんと天国に行けたのかな。」
「扉の向こうがどうなっているのか、私には分からない。」
「は?……わかんないの?君の魔法でそうなってんのに!?」
「わからない。」
「はぁ、まったく。シルフィア!ほんっとうにさ!ここは何なんだ!肝心のアンタが分からない、分からないばっかりじゃ……。」
かつやっちょは俯いた。
小さな声で、
「面白くない。」
「そうだな。
……何故千里の深層にたどり着いたのか、と言ったな。
私は自ら命を絶つ行動を“罪”だと思っている。まさに善悪の無い罪だ。千里のように、自分自身と向き合う事を恐れ自ら暗闇に足を踏み入れた者は罪の意識を持たない。
故に私のような部外者にあんな感情まかせの言葉でズケズケと入りこまれたら怒りを示す。
つまり……。」
「つまり?」
「勘だ。」
「は?え?いや、マジ?……勘?ほんとに?魔女の力で心の声聞いちゃいましたー。とかじゃなくて?ほんとに勘?」
「……いや、過去に見聞きしたからなのかもしれないが。」
「出たよ、“かもしれない”魔女。万能そうで全然万能じゃねぇな。」
「万能である必要はない。何度も死んだ。私は弱い。」
「でもカッコつけるじゃん。“冷血の魔女”とか。」
「あれは勝手に呼ばれているだけだ。魔王を倒した後、仲間にそう呼ばれた。」
「自分で名乗ってんじゃないの!?」
「違う。」
「……嘘つけ。語感、めっちゃ気に入ってる顔してる。」
シルフィアの顔を覗き込んだが、彼女は少し頬を赤らめそっぽを向いた。
「……悪くはない。」
「なぁ。……お前、死んだやつらがどこに行くのか、本当は知ってんだろ。さっきはぐらかしたけど。」
「知らない。」
「またそれ。ほんとは知ってるくせに。」
「知っていたとしても、お前に言う義務はない。」
「義務とかどうでもいいんだよ。……怖いんだよ、何もわからないのが。」
「恐れるな。お前はまだ生きている。」
「……でもさ、いつか俺も行くんだろ?その“扉の向こう”ってやつに。」
「その時は
――私が案内してやる。」
「……今、ちょっとキュンとしたわ。」
「やめろ。」
「あとも1個だけ聞きたい。」
「なんだ。」
「千里ちゃんのこと、泣いてた?」
「泣く?私が?」
「ほら、目赤かったし。」
「それは……お前の顔が醜かったからだ。」
「おい。」
「いや、違うな。
……少し、胸が痛んだのは事実だ。」
「それを“泣いた”って言うんだよ、魔女さん。」
「……泣いてない。」
――――“冷血の魔女”シルフィア
ほんとに、何者なんだろう。
最初はただの氷の女だと思ってた。感情なんて無い、言葉の刃だけで人を斬るやつだって。
……でも、違った。
彼女の異世界での話は壮絶だ。
何も知らない所から、見知らぬ魔女と勝手に契約させられて。
死ねばある一定の場所に戻ってはやり直す。流行りのファンタジー小説かよ。
しかも内容がエグい。
魔法が使えたってだけで信じてた村人に魔女狩りされて火あぶり。愛すら感じてた勇者に首を跳ねられたり、魔王軍のヤバいのに操られて仲間ほとんど殺したり。
そんな地獄を何度も何度も繰り返した。
ただの魔女じゃねぇんだ。
……ただの魔女も知らんけど。
あの時、千里ちゃんを裁きながら。
――震えてた。
声が、怒ってるようで、泣いてるみたいだった。
誰よりも人の痛みを知ってる声だった。
俺にはできない。
笑わせることはできても、誰かの罪を受け止めるなんてできない。
“笑って生きて”って言うのは簡単だけどさ。
死んだ人間の心を、あそこまで見透かして……心で抱きしめるなんて。
怖いよ。……怖いけど、目が離せない。
本気で誰かを救おうとする奴って、こういう顔をするんだな。
こいつは多分、自分も救われたくてここにいるんだ。誰にも言わないけど、そんな気がする。
――俺も同じかもな。
死んでまで誰かを笑わせようなんて、馬鹿みたいだ。でも、あいつがいると不思議と悪くない。
冷たくて、眩しくて、……触れたら凍えそうなくらい綺麗だ。
シルフィア。
あんたを尊敬するよ。
心がすり減るなら、俺が傍で笑わせてやる。
俺を白い部屋に閉じ込めたんだ。その意味はあったって最期に笑わせてやる。
その時、この世界が少しの“色”を取り戻せるなら、それでいい。
……なぁ、そうだろ?
かつやっちょは、目を閉じて再びウトウトし始めた彼女の冷たい横顔を眺めた。
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