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貴女のいる時間の中で
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「どうしたんですか?淳子さん。ぼくの顔をじっと見て…。ぼく変な顔してますか?」
そう言って変な顔をしてみた。淳子さんは、吹き出して大笑いしてくれたが、すぐにまた表情を元に戻して、またじっとぼくの顔を見つめて、何か言いたげだ。
「淳子さん?」
逆に淳子さんの顔を覗き込んでみると、淳子さんの目尻が下がって照れた。
「遥人くん…。いやなんでもない。」
「どうしたんですか?途中で言いかけた言葉を止めるとすごく気になるじゃないですか。」
「なんでもないです。ホントに。」
「ホントですか?」
「はい。なんでもありません。」
少し考えて、淳子さんは何を聞きたくて、言って欲しかったのかを頭の中でトレースしていた。
何を言って欲しいのか。絶対何か言って欲しいんだと思うけど、思いつかない。こんな職場では、『わたしのこと好き?』とか、そんなのは絶対ない。ましてや自分の所属する病棟の休憩室でそんなことはない。それではなかったら何を言って欲しいんだろう…。さっき、目尻が下がっていたが、今は目線を逸らして違う方向を見ているが、またそのそっぽ向いてる淳子さんがとっても愛おしく思えてしまった。ここが、病棟の休憩室ではなければ、今のぼくはきっと淳子さんの後ろから抱きしめてしまっているかもしれない。それくらいキュートで可愛いかった。
淳子さんの後ろ姿がとっても愛おしく可愛いと思えるような気持ちを持つようになってきていた。今日はいろんな淳子さんの表情を見たし、いろんな感情の淳子さんも見た。ついこの前の週末に淳子さんの自宅で過ごした時間の後、気になりながらもどこかで気持ちを誤魔化している自分がいた。閉じ込めようとしていたのかもしれないが、そんな『気持ち』を出してもいいのかなぁって思ってしまっている。この『気持ち』を出してしまったら、一体どうなるんだろう。でも『気持ち』はもう自分で制御できるような状態ではないことは、もう自分で気づいている。
「淳子さん。今日ね、いろんな淳子さんの仕草や、表情とか、見たことのないものもあったよ。今まで感じたのことのないものがここにズシンときてる。」
ふと言葉が舞い降りたような自然に吐き出せた。胸の辺りがとても温かくて、心地よい。
「淳子さん。今の、淳子さん。とっても綺麗。いや、とっても可愛い。ずっと見てたい。そんな『気持ち』淳子さんに投げてもいいですか?」
どんなことばを淳子さんは待っていたのか、わからなくてことばに詰まってたのに、一瞬、ことばが出てくると、スルスルと滑らかにドラマや映画のワンシーンみたいに出てくる。さしずめ、佐藤健や松坂桃李みたいな感じで。でも決して俳優で演技をしているわけではなく、演じているわけでもなく、ごく自然に成田遥人としての台詞(ことば)だ。
「でも、仕事中に何言ってるんでしょうね。仕事中にごめんなさい。」
「遥人くん。ありがとう。でも、ホントに仕事中です。そんなこと言ったら、看護部長に言いつけてやろうっと。」
淳子さんは、いつもの小悪魔な表情に戻り、今確実に悪魔の尻尾が見えていた。でもどこか嬉しそうな感じもして、ニコニコしている。どうやら今話した内容が、どうやら正解だったようだ。
「ふう~ん。そうだったんですね。そっかぁ。ふう~ん。淳子さん。そうだったんだ。フフフ・・・。」
少し意味ありげな感じで濁すと、淳子さんはほっぺをぷくっと膨らませて拗ねたような仕草を見せて、僕の顔を覗き込むように身体を近づけてきた。
「淳子さん。ここは病棟の休憩室です。もうすぐ師長が松岡さんつれてきますよ。それにそんなに近づいてきたら、ぼく淳子さんを抱きしめても知りませんよ。」
「そんなことできるもんならしてみたらいいでしょ。出来るんでしたらどうぞ。わたしはそうされてもいいよ。嬉しいし。でももうすぐ、師長が来ますね。そんな度胸が遥人くんにあったらやってみて。」
「そんなの出来るわけないじゃないですか。いま仕事中だし。そんなの出来ないの知ってるくせにそんなこというんだから。」
「そうです。わかっていってみた。だって・・・遥人くんのさっきの言い方がなんかわたしにイケズをしているようで、ちょっと仕返ししてやろうと思った。」
机の下で、僕の手を握って、にこっと笑った。それがまたとても可愛かった。あぁ、淳子さんには勝てないなぁ。一枚淳子さんのほうが上手だったようだ。
「遥人くん。」
「はい。なんですか」
「遥人くんは、私には勝てないんです。私の魅力の虜になっているし、私の粉をいっぱいかぶっているから、『淳子病』の病に侵されてしまっているの。わかりましたか?」
「そうなんですね。ぼくは『淳子病』という不治の病に侵されているんですね。特効薬も治療薬も、ワクチンもないから、これからどんどん病は進行していくんだ。『淳子病』に侵されていくなら、それでもいいですよ。虜ですから。淳子さんに虜になってますから」
認めてしまった。これはある意味告白したも同然。そう受け取られても仕方ない。ぼくは淳子さんのことが好きなんだ。とっても好きなんだ。彼女が笑えば僕も笑って、彼女がふざければ、僕もふざけて、彼女が不安になったら、僕も不安になって、彼女が涙したら、僕も涙して。彼女がすることは、僕も一緒にしたいと思っている。これは紛れもなく彼女に恋している。淳子さんは、ちゃんと受け止めてくれるのだろうか・・・。
「ふう~ん。そうなんですね。遥人くん。そうなんだ。ふう~ん。わかりました。遥人くんの『気持ち』を受け止めたよ。」
机の下で僕の手を握った淳子さんの手は力を増して、ぎゅっと握ってきた。力強くその力強さから、淳子さんの気持ちがどんどん伝わってきて。ぼくは力が抜けそうになった。
「遥人くん。」
「はい。淳子さん。なんですか?」
「遥人くん。わたしも遥人のこと。虜になっている。こんなわたしでもいいの?わたしは遥人がいい。遥人じゃなかったらイヤ。遥人が好き。私の気持ち受け取ってくれる」
ここが、病棟の休憩室ではなかったら、どうなっていただろう。
「ここが、病棟の休憩室ではなかったら、どうなっていただろう・・・。ぼくは淳子さんを思いっきり抱きしめていたかもしれません。押し倒していたかもしれません。僕も淳子さんの気持ちを受け止めたよ。しっかり受け止めたから。」
そう言って変な顔をしてみた。淳子さんは、吹き出して大笑いしてくれたが、すぐにまた表情を元に戻して、またじっとぼくの顔を見つめて、何か言いたげだ。
「淳子さん?」
逆に淳子さんの顔を覗き込んでみると、淳子さんの目尻が下がって照れた。
「遥人くん…。いやなんでもない。」
「どうしたんですか?途中で言いかけた言葉を止めるとすごく気になるじゃないですか。」
「なんでもないです。ホントに。」
「ホントですか?」
「はい。なんでもありません。」
少し考えて、淳子さんは何を聞きたくて、言って欲しかったのかを頭の中でトレースしていた。
何を言って欲しいのか。絶対何か言って欲しいんだと思うけど、思いつかない。こんな職場では、『わたしのこと好き?』とか、そんなのは絶対ない。ましてや自分の所属する病棟の休憩室でそんなことはない。それではなかったら何を言って欲しいんだろう…。さっき、目尻が下がっていたが、今は目線を逸らして違う方向を見ているが、またそのそっぽ向いてる淳子さんがとっても愛おしく思えてしまった。ここが、病棟の休憩室ではなければ、今のぼくはきっと淳子さんの後ろから抱きしめてしまっているかもしれない。それくらいキュートで可愛いかった。
淳子さんの後ろ姿がとっても愛おしく可愛いと思えるような気持ちを持つようになってきていた。今日はいろんな淳子さんの表情を見たし、いろんな感情の淳子さんも見た。ついこの前の週末に淳子さんの自宅で過ごした時間の後、気になりながらもどこかで気持ちを誤魔化している自分がいた。閉じ込めようとしていたのかもしれないが、そんな『気持ち』を出してもいいのかなぁって思ってしまっている。この『気持ち』を出してしまったら、一体どうなるんだろう。でも『気持ち』はもう自分で制御できるような状態ではないことは、もう自分で気づいている。
「淳子さん。今日ね、いろんな淳子さんの仕草や、表情とか、見たことのないものもあったよ。今まで感じたのことのないものがここにズシンときてる。」
ふと言葉が舞い降りたような自然に吐き出せた。胸の辺りがとても温かくて、心地よい。
「淳子さん。今の、淳子さん。とっても綺麗。いや、とっても可愛い。ずっと見てたい。そんな『気持ち』淳子さんに投げてもいいですか?」
どんなことばを淳子さんは待っていたのか、わからなくてことばに詰まってたのに、一瞬、ことばが出てくると、スルスルと滑らかにドラマや映画のワンシーンみたいに出てくる。さしずめ、佐藤健や松坂桃李みたいな感じで。でも決して俳優で演技をしているわけではなく、演じているわけでもなく、ごく自然に成田遥人としての台詞(ことば)だ。
「でも、仕事中に何言ってるんでしょうね。仕事中にごめんなさい。」
「遥人くん。ありがとう。でも、ホントに仕事中です。そんなこと言ったら、看護部長に言いつけてやろうっと。」
淳子さんは、いつもの小悪魔な表情に戻り、今確実に悪魔の尻尾が見えていた。でもどこか嬉しそうな感じもして、ニコニコしている。どうやら今話した内容が、どうやら正解だったようだ。
「ふう~ん。そうだったんですね。そっかぁ。ふう~ん。淳子さん。そうだったんだ。フフフ・・・。」
少し意味ありげな感じで濁すと、淳子さんはほっぺをぷくっと膨らませて拗ねたような仕草を見せて、僕の顔を覗き込むように身体を近づけてきた。
「淳子さん。ここは病棟の休憩室です。もうすぐ師長が松岡さんつれてきますよ。それにそんなに近づいてきたら、ぼく淳子さんを抱きしめても知りませんよ。」
「そんなことできるもんならしてみたらいいでしょ。出来るんでしたらどうぞ。わたしはそうされてもいいよ。嬉しいし。でももうすぐ、師長が来ますね。そんな度胸が遥人くんにあったらやってみて。」
「そんなの出来るわけないじゃないですか。いま仕事中だし。そんなの出来ないの知ってるくせにそんなこというんだから。」
「そうです。わかっていってみた。だって・・・遥人くんのさっきの言い方がなんかわたしにイケズをしているようで、ちょっと仕返ししてやろうと思った。」
机の下で、僕の手を握って、にこっと笑った。それがまたとても可愛かった。あぁ、淳子さんには勝てないなぁ。一枚淳子さんのほうが上手だったようだ。
「遥人くん。」
「はい。なんですか」
「遥人くんは、私には勝てないんです。私の魅力の虜になっているし、私の粉をいっぱいかぶっているから、『淳子病』の病に侵されてしまっているの。わかりましたか?」
「そうなんですね。ぼくは『淳子病』という不治の病に侵されているんですね。特効薬も治療薬も、ワクチンもないから、これからどんどん病は進行していくんだ。『淳子病』に侵されていくなら、それでもいいですよ。虜ですから。淳子さんに虜になってますから」
認めてしまった。これはある意味告白したも同然。そう受け取られても仕方ない。ぼくは淳子さんのことが好きなんだ。とっても好きなんだ。彼女が笑えば僕も笑って、彼女がふざければ、僕もふざけて、彼女が不安になったら、僕も不安になって、彼女が涙したら、僕も涙して。彼女がすることは、僕も一緒にしたいと思っている。これは紛れもなく彼女に恋している。淳子さんは、ちゃんと受け止めてくれるのだろうか・・・。
「ふう~ん。そうなんですね。遥人くん。そうなんだ。ふう~ん。わかりました。遥人くんの『気持ち』を受け止めたよ。」
机の下で僕の手を握った淳子さんの手は力を増して、ぎゅっと握ってきた。力強くその力強さから、淳子さんの気持ちがどんどん伝わってきて。ぼくは力が抜けそうになった。
「遥人くん。」
「はい。淳子さん。なんですか?」
「遥人くん。わたしも遥人のこと。虜になっている。こんなわたしでもいいの?わたしは遥人がいい。遥人じゃなかったらイヤ。遥人が好き。私の気持ち受け取ってくれる」
ここが、病棟の休憩室ではなかったら、どうなっていただろう。
「ここが、病棟の休憩室ではなかったら、どうなっていただろう・・・。ぼくは淳子さんを思いっきり抱きしめていたかもしれません。押し倒していたかもしれません。僕も淳子さんの気持ちを受け止めたよ。しっかり受け止めたから。」
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