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二章
六
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あちゃあ。よりにもよってこんなの選ばなくても。この運の悪さはどうよ、わたし。
思わず顔をしかめたすずめに、夢一の容赦のない嘲笑が飛んだ。
「ひゃははっ、こりゃあ、御見それしたぜ。おめえにはこんなごみがたいそうなもんに見えちまうんだな。すげえ目だ。その目がありゃ、江戸中のごみを拾って歩けるぜ。今すぐ歩きやがれ。江戸を綺麗に片付けちまってくれ。というわけでとっとと出て行ってくれ」
言われなくても出て行くわよ! と、憤りをあらわに立ち上がろうとしたすずめであったが、膝の上にはちみつが相変わらず座ってるのでそれもままならない。
「は、はちみつちゃん、ごめん、どいてくれるかな?」
しかしはちみつはすずめの声が聞こえないのか、すずめが選んだがらくた扇子をためつすがめつしている。
「あ、あの、はちみつちゃん?」
「すずめ」
はちみつがくるりと振り返った。お天道様のような眩しい笑顔を浮かべながら。
「すずめはすごい。はちみつは嬉しいぞ。女中さんに大決まりだぞ」と、弾けるような声で言われても、すずめにはさっぱり意味がわからない。
「あらあら、たしかにすずめさんはこの中から、今一番必要な扇子をお選びになられたのですね。ましろは感心するばかりです」
ましろまでも、意味不明なことを言い出す始末だ。
いや、わたしにもこの扇子、正直、ごみにしか見えないんだけど。
そんなすずめの心中を察したのか、ましろは噛んで含めるように言い添えた。
「すずめさんに一番必要というよりも、旦那様に一番必要な扇子と言ったほうがいいみたいです。だからましろは旦那様にこちらの扇子を手渡すのです」
「なんだよ? はちみつもましろもどうした? 夏の暑さでいかれちまったか?」
夢一はぐちぐちと呟きながらましろから渡されたぼろ扇子を眺めている。要に施された鈴がチリリンと鳴った。
「あ」
その音で思い出したのか、夢一は顔色を変え、自分の額をぴしゃっと叩いた。
「この扇子……」
ましろが「はい」と首肯した。
「先日、三河屋の大旦那様から修繕を頼まれた扇子なのです。たしか期日は……明日なのです」
「いけねえ、忘れてた。すっかり忘れてた。冗談じゃねえぞ。こんな、ぼろ扇子、明日までに直せるもんか? こんちくしょうめ、三河屋、無理難題をふっかけやがって」
「忘れてた旦那様が悪いだけだぞ」
はちみつが至極真っ当な突っ込みを入れたが、夢一はそれを無視して「いけねえ、いけねえ、今夜は徹夜だぜ」と言いながら、扇子を持って店の奥に引っ込んでしまった。
事の成り行きにすずめは呆気にとられつつ、自分を笑顔で見つめているはちみつとましろに視線を送る。
「お店にとって今一番必要とされる物を見つける。これはもう女中さんの鑑さんです」
いや、そんなの、強引でこじつけで偶然で――。
「ということはそういうことなんだぞ」
なにが”ということ”で、なにが”そういうこと”なの、はちみつちゃん?
「すずめさん。扇屋女中さんおめでとうなのです、拍手喝采です」
ぱちぱちぱちぱち。
ましろとはちみつの拍手の中、すずめは夢の中に迷い込んだような心持ちで呆然とするばかりであった。
「おすずちゃん? おすずちゃん?」
名を呼ばれ、はっとして我に帰ると、目の前に心配そうに皴を刻んだ五十兵衛の顔があった。
思わず顔をしかめたすずめに、夢一の容赦のない嘲笑が飛んだ。
「ひゃははっ、こりゃあ、御見それしたぜ。おめえにはこんなごみがたいそうなもんに見えちまうんだな。すげえ目だ。その目がありゃ、江戸中のごみを拾って歩けるぜ。今すぐ歩きやがれ。江戸を綺麗に片付けちまってくれ。というわけでとっとと出て行ってくれ」
言われなくても出て行くわよ! と、憤りをあらわに立ち上がろうとしたすずめであったが、膝の上にはちみつが相変わらず座ってるのでそれもままならない。
「は、はちみつちゃん、ごめん、どいてくれるかな?」
しかしはちみつはすずめの声が聞こえないのか、すずめが選んだがらくた扇子をためつすがめつしている。
「あ、あの、はちみつちゃん?」
「すずめ」
はちみつがくるりと振り返った。お天道様のような眩しい笑顔を浮かべながら。
「すずめはすごい。はちみつは嬉しいぞ。女中さんに大決まりだぞ」と、弾けるような声で言われても、すずめにはさっぱり意味がわからない。
「あらあら、たしかにすずめさんはこの中から、今一番必要な扇子をお選びになられたのですね。ましろは感心するばかりです」
ましろまでも、意味不明なことを言い出す始末だ。
いや、わたしにもこの扇子、正直、ごみにしか見えないんだけど。
そんなすずめの心中を察したのか、ましろは噛んで含めるように言い添えた。
「すずめさんに一番必要というよりも、旦那様に一番必要な扇子と言ったほうがいいみたいです。だからましろは旦那様にこちらの扇子を手渡すのです」
「なんだよ? はちみつもましろもどうした? 夏の暑さでいかれちまったか?」
夢一はぐちぐちと呟きながらましろから渡されたぼろ扇子を眺めている。要に施された鈴がチリリンと鳴った。
「あ」
その音で思い出したのか、夢一は顔色を変え、自分の額をぴしゃっと叩いた。
「この扇子……」
ましろが「はい」と首肯した。
「先日、三河屋の大旦那様から修繕を頼まれた扇子なのです。たしか期日は……明日なのです」
「いけねえ、忘れてた。すっかり忘れてた。冗談じゃねえぞ。こんな、ぼろ扇子、明日までに直せるもんか? こんちくしょうめ、三河屋、無理難題をふっかけやがって」
「忘れてた旦那様が悪いだけだぞ」
はちみつが至極真っ当な突っ込みを入れたが、夢一はそれを無視して「いけねえ、いけねえ、今夜は徹夜だぜ」と言いながら、扇子を持って店の奥に引っ込んでしまった。
事の成り行きにすずめは呆気にとられつつ、自分を笑顔で見つめているはちみつとましろに視線を送る。
「お店にとって今一番必要とされる物を見つける。これはもう女中さんの鑑さんです」
いや、そんなの、強引でこじつけで偶然で――。
「ということはそういうことなんだぞ」
なにが”ということ”で、なにが”そういうこと”なの、はちみつちゃん?
「すずめさん。扇屋女中さんおめでとうなのです、拍手喝采です」
ぱちぱちぱちぱち。
ましろとはちみつの拍手の中、すずめは夢の中に迷い込んだような心持ちで呆然とするばかりであった。
「おすずちゃん? おすずちゃん?」
名を呼ばれ、はっとして我に帰ると、目の前に心配そうに皴を刻んだ五十兵衛の顔があった。
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