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八章
九
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すずめの声に、仔弐阿弥は幾分かのためらいを見せて唇を噛んだ。痛みをこらえるように睫毛が震える。しかしすぐにその強張りをほどくように、優しげに微笑んだ。
変わり果てた父の姿ではあったが、その笑みは……すずめに向けられたその笑顔だけは変わってはいなかった。
「父様っ」
しかし駆け寄ろうとしたすずめを、仔弐阿弥は厳しく制した。
「近づくなすずめ。わたしに触れようとしてはならない」
すずめは驚き、足を止め、迷子のように肩を落とした。
「どうして? どうして父様? どうして……」
堪えきれず声を上げた。心の奥底に眠っていた幼い自分が、今になって目を覚ましたみたいだった。
「どうしていなくなったの? わたしと母様を置いて、どうしていなくなってしまったの?」
沈痛な表情で黙した仔弐阿弥に代わって、夢一が答えた。
「おめえの父様──仔弐阿弥は魔思の呪いに侵されてんだよ。そのせいで近付いた者を傷つけちまう」
「魔思の呪い?」
「すずめ」
仔弐阿弥は娘の名を口にすると、着物の袖を捲り上げた。
すずめは短い悲鳴を上げた。仔弐阿弥の腕にはうろこ状に、半透明の氷がびっしりと張りついている。そこから立ち昇る冷気の白とは裏腹に、氷の下の肌は赤くただれ、裂け、ところどころ肉が覗いていた。
愕然と、口元を手で覆ったすずめに、仔弐阿弥は静かに語りかける。
「すべてわたしの責任なのだ、すずめ。わたしは己の欲望に負け、化物を創り上げてしまった。愚かなわたしがそれに気づき、封じようとしたときにはすでに遅く、逆にわたしは自ら創り上げた化物に、このような死の呪いを受けることとなった」
仔弐阿弥は氷の腕を袖の下にしまい、続けた。
「行方をくらました化物をわたしは追わねばならなかった。この命に代えても……すべてを捨て去っても。己の浅ましき欲から生まれた化物を解き放った罪をあがない、それを葬らねばならなかったのだよ」
「父様……」
わからない、わからない……。そんなこと言われても、なにがなんだかわからない。化物ってなに? 父様はいったいなにをしたの?
いつの間にかすずめはぽろぽろと涙をこぼしていた。幼い頃に戻ったみたいに、駄々をこねて泣きじゃくりたかった。そして困ったように笑う父様に、抱き上げてもらいたかった。
けれども、それはもう叶わぬ望みなのだろうか。
変わり果てた父の姿ではあったが、その笑みは……すずめに向けられたその笑顔だけは変わってはいなかった。
「父様っ」
しかし駆け寄ろうとしたすずめを、仔弐阿弥は厳しく制した。
「近づくなすずめ。わたしに触れようとしてはならない」
すずめは驚き、足を止め、迷子のように肩を落とした。
「どうして? どうして父様? どうして……」
堪えきれず声を上げた。心の奥底に眠っていた幼い自分が、今になって目を覚ましたみたいだった。
「どうしていなくなったの? わたしと母様を置いて、どうしていなくなってしまったの?」
沈痛な表情で黙した仔弐阿弥に代わって、夢一が答えた。
「おめえの父様──仔弐阿弥は魔思の呪いに侵されてんだよ。そのせいで近付いた者を傷つけちまう」
「魔思の呪い?」
「すずめ」
仔弐阿弥は娘の名を口にすると、着物の袖を捲り上げた。
すずめは短い悲鳴を上げた。仔弐阿弥の腕にはうろこ状に、半透明の氷がびっしりと張りついている。そこから立ち昇る冷気の白とは裏腹に、氷の下の肌は赤くただれ、裂け、ところどころ肉が覗いていた。
愕然と、口元を手で覆ったすずめに、仔弐阿弥は静かに語りかける。
「すべてわたしの責任なのだ、すずめ。わたしは己の欲望に負け、化物を創り上げてしまった。愚かなわたしがそれに気づき、封じようとしたときにはすでに遅く、逆にわたしは自ら創り上げた化物に、このような死の呪いを受けることとなった」
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わからない、わからない……。そんなこと言われても、なにがなんだかわからない。化物ってなに? 父様はいったいなにをしたの?
いつの間にかすずめはぽろぽろと涙をこぼしていた。幼い頃に戻ったみたいに、駄々をこねて泣きじゃくりたかった。そして困ったように笑う父様に、抱き上げてもらいたかった。
けれども、それはもう叶わぬ望みなのだろうか。
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