半分本当にあった怖い話

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半分本当にあった怖い話

〇〇

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 特に怨みを買ってなくとも。
 別に心霊スポットに足を踏み入れてなくとも。
 恐怖体験が訪れることがある。
 それはまるで災害のように。
 それはまるで事故のように。
 老若男女問わず。

 突然あなたの前に、現れる。

────────────────────
 私がまだ子供の頃。…確か中学一年生だった。
 ずいぶんと昔の出来事だが、大人になった今でも忘れられない。
 今回はそんな夢(?)の話。

 地元の中学校──小・中学校は隣り合っていて家の近くにある──ではなく少し離れた所にある中高一貫校に入学した私だったが、変わらず実家から通っていた。
 オカルトは好きだったがホラーは苦手で、心霊スポットなんて近寄ったこともなく、コックリさんや学校の七不思議なんて本で読むだけ。やってみようなんて考えたこともなかった。
 そんなどこにでもいる、ちょっぴりビビりな少年の、いつもの夜だった。

 いつもの夜になるはずだった。

 私は夢を見ていた。
 夢の始まりは唐突だ。
 私は嵐の大海原に揺れる、土砂降りの甲板に独り立っていた。
 うねる雨雲は月を完全に覆い隠し、辺りを闇に染めていた。
 私は雨を避けるべく独りぼっちの甲板を進み船内へと入った。

 船内はパーティーの真っ最中でドレスコードで着飾った大人達が所狭しと歓談している。
 まだ小さな私は、テーブルと大人の間を縫うようにすり抜けて進んだ。理由は分からない。

 壁際、ドアの横で両親と祖父を見つけた。祖母がいたかは憶えていない。
 親(父母どちらか)が私に何か話しかけた。
 おそらく「もう寝なさい」の類いだと思う。
 その言葉に従ってか、すぐ横の真っ白なドアのメッキが剥がれて金色になっているノブを回して通路に出た。

 そこは左手に寝室の並ぶ長い通路だった。特に何か見たわけではないが、そう感じた。
 右手側の窓のカーテンは全て閉まっており薄暗い。
 明かりはカーテンの隙間から漏れる光のみだ。

 不意に風が吹いた。

 ふわりとカーテンが舞い上がり、窓の外が見えた。
 一面を覆うススキが風に揺れ、漫画のように異様な弧を描く三日月が丘の上の小さなボロ小屋を煌々と照らしていた。
 違和感は抱かなかった。

 通路を進む。自室なんて知らなかったが進んだ。
 1番奥のドアが開いた。誰か出てきた。
 廊下の突き当たりは遠く、顔の識別なんて出来なかったが、女性だと思った。
 白いワンピース(ネグリジェ?)を着た女性は肌も真っ白で大腿まで伸びた黒髪との対比が不気味さを増長していた。
 廊下の真ん中でこちらを向いたままじっと立っている女性に恐怖を感じた。

 ひどく強い風が吹いた。
 カーテンが暴れ、誰かが捨てたのだろうビニール袋が吹き込んできた。

 カーテンが落ち着いた時、女性は同じ姿勢のまま、距離を先程の半分まで詰めてきていた。

 すぐさま踵を返して駆け出した。
 とにかく怖かった。
 足音は聞こえないが、すぐ後ろまで迫ってるんじゃないかと気が気でなかった。
 ドアまで数歩の距離だったが、スローモーションのように体が重く動かない。
 足がカーペットを撫で、手が虚空を掴む。

 長い一瞬に終わりが訪れ、ようやくドアノブに手が届いた。
 最短でドアを押し開け、最短でドアをすり抜け、最短でドアを閉めた。
 開けた瞬間に溢れた光に安堵を覚えた。
 ドア横には家族がいる。

ガッ…

 後ろ手に閉めようとしたドアが閉まらない。
 何かが挟まってる。そんなもの1つしかない!
「うわああああああああ!!!」
 叫びながらドアに体当たりするように振り返った。

ガリガリガリガリ!

 ドアに挟まれた青白い手がこじ開けようと枠を掻き毟る。
「父さん!母さん!」
 次第に押し開けられるドアの隙間から覗く目と目が合ってしまった。
 真っ黒。虹彩など無いかのように。虚空の様な瞳に吸い込まれる感覚がした。
「父さん!!母さん!!」
 いくら呼んでも気づかない両親に助けを求めるように横を見た。

 何事も無いかのように談笑していた。
 声はおろか、姿さえも見えないかのように。

 もうダメだ!ドアが開く!
 そう諦めても仕方ない程にドアはガタガタと揺れていた。
 パーティー会場にいるはずなのに誰一人として気づかない、声すら聞こえない。
 ドアの暴れる音しか聞こえないホール。

 しかし祖父は違った。
 異変に気づき、その大きな体でドアにタックル。
 ドアはバタンという大きな音を

     〇     〇

 立てなかった。

 視界が真っ赤に染まる。黒く淀んだ赤だ。
 真ん中には2つの〇。
 テレビ画面を見ているようだった。
 静寂の中に声が響く。
 声はエコーをかけたように長い尾を引いて消えていった。

──なんて言ったんだろう…?「また」って聴こえたけど…

 画面が切り替わると、そこは地元の小学校だった。
 私は忘れ物を取りに真夜中の小学校に入っていった。
 忘れ物はバットとボールだ。野球はしたことなかったが…。
 下駄箱を通って廊下に出る。
 1階は一年生のフロアだ。左手に教室が並んでいる。
 灯一つ無い廊下を月明かりが照らしている。
 どの教室に向かうのか、私は1歩踏み出した。

 廊下を強い風が吹き抜けた。

──来た

 廊下の突き当たりから真っ白い女が姿を現す。
 私はこの先の展開が分かっていた。ついさっき体験したかの様に想像できた。
 どこかで見た時より近い。表情が見て取れた。
 見開いた目。血の気のない白い唇。

──逃げなきゃ!

 振り返ろうとした私は、異変に気づいた。
 身体が動かない。
 金縛りとかではない。
 意思と身体が別物になったようだった。
 私は映画を見るように、ただ女を見ていた。
 瞬き一つ叶わない。否応無く映像が流れ込んでくる。

…ふ

 突如女が音もなく一回り大きくなった。
 いや、距離を詰めたのだ。
 この流れも知っている。

…ふ

 私の焦りを嗤うかの様に距離を詰めてくる。
 もう10mも無い。

…ふ

 どれだけ怖くても、暴れようとも、眼球一つ動かない。
 女の真っ黒な瞳まで見える距離。
 次の移動で目の前に来るのが直感的に分かった。

…ふ

 一瞬、目の前が真っ黒になった。

    ○     ○

 立て続けに視界が暗赤色に染まり、聞き覚えのある声が響いた。視界には2つの○。

──また…。なんだ、なんなの…!

 私は家の中にいた。
 リビングからキッチンを見ていた。
 キッチンの入り口には白い暖簾のれんがかかっている。
 そして暖簾の下から白いワンピースと白い足がのぞいていた。

──うそだろ。近すぎる…

 一般的なリビングだ。大して広くもない。
 私は暖簾から目が離せなかった。

ぶわっ!

 屋内に強い風が吹いて暖簾が舞い上がり、女の姿が露わに

     ○     ○

 有無を言わさず画面が赤黒く染まる。
 声が響く。
 ガラスの花瓶に生けた百合が「カラン」と音を立てた。

────────────────────
 ガバッと身体を起こした私は全身が寝汗でぐっしょりと濡れていた。
 咄嗟に周りを見渡す。
 大丈夫。ドアも窓もカーテンも閉めた。閉めて寝た。
「なんて夢だ…」
 いつもなら忘れるのに、悪夢に限って鮮明に憶えている。

…ぶるっ

 寝汗をかいたからか、肌寒い。
 すっかり眠気が吹っ飛んだ私は、せめてシャツを着替えようとベッドを下りてからハッとして足を止めた。
「リビング通らなきゃじゃん…」
 夢と分かっても気味が悪かった。
 夢で見た光景がフラッシュバックする。
 船、学校、家…距離を詰める女。
「一瞬で近づくし、ホント怖かった…」
 強い風が吹いて、汗だくの体を更に冷やす。舞い上がるカーテンとガタガタと鳴る窓が怖い想像を膨らまさせる。
「近づく…現れる場所も距離も近づいてたよな」
 リビングに現れた時なんか5mと離れていなかった。
 
──リビング?

 膨らみきった妄想は最悪の予想を弾き出し、総毛立った私は咄嗟に窓を見た。
「閉まってる、よな」

──じゃあ、なんで、

 目の前のドアに視線を戻す。
 当然リビングより狭い自室。ドアは目と鼻の先だ。

──ははっ…、流石に考え過ぎだよ…。だってアレは夢の話で…

 ほっぺたをつねろうとした右手はピクリとも動かなかった。

ぎ、ぎ、ぎ、

 ドアがゆっくりと開く。
 涙が溢れて視界がぼやけた。

──また…かよ、僕は…何もしてないのに!

 理不尽な恐怖に悪態を吐くが、声にはならなかった。

ぎ、ぎ、ぎぃ

──またか、やっぱり…なんで、なんでまた僕なの!なんで!


     ○     ○

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