状況、開始ッ!

Gumdrops

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タイガー、挟撃ッ!

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「左右に展開!友軍相撃に注意しな!」
 周藤の指示が飛んだ。

ウオオォォ──!!

 周藤・仁村の合同チームが潜む林縁の前方でA組が今にも爆発せんばかりの雄叫びを上げている。
「HQこちらタイガー1、準備よし。いつでも動けるぞ」
『HQ、了解。後は作戦通りに』
 端的に「了解」とだけ返した仁村は息を潜めて前方のA組の様子をうかがいながら、作戦の概要を思い返していた。

────────────────────
 はぐれたレンジャー2の3人を助けた仁村・周藤隊は、さらに5人のはぐれ隊員と合流して着実に前進を続けていた。

『レンジャー2・タイガー1こちらHQ、作戦を下達する』
 そろそろレンジャー2正面のA組と接敵してもおかしくないという頃、HQ今村から無線が入った。
「お?起死回生の策か?」
「と言っても、このまま行きゃ押勝てそうな気がしなくもないがな」
 米田と的場が反応する。
 依然A組の攻勢ではあるが攻めあぐねており、的場の言う通りジリジリと状況は変わりつつあった。
『状況は変わりつつあるから必要ないと思う人もいるかもしれないけど、このままだと時間もかかるし、こちらの隊力も削られるからね。余裕があるうちに決行する』
 読んだかのような無線に的場が顔を引きつらせる。
「エスパーかよ…」

 作戦の概要はこうだ。
 ターゲットはレンジャー2正面の敵。
 まず偵察隊が偽の情報を流し、敵の突撃を誘発する。
 それをレンジャー2で受け止めた所を、周藤・仁村隊で挟み討ち。
 混乱に乗じて撃滅した後、敵本陣まで前進。というものだ。

「HQ、今のレンジャー2で受け止めきれるのか?」
 仁村がHQに訊き返す。
 今のレンジャー2は打撃を受けて隊力が減っている。それが気がかりだった。
『突撃してくる事があらかじめ分かれば少数でも対処できるよ。というわけでレンジャー2は翼陣形に展開。敵の突撃を引き入れて破砕せよ。』
 無線が一旦切られ、一呼吸おいて続いた。
『ただし!突破されたり、動きを読まれたりしないようにね。タイガー1はすぐさま背後から叩いて混乱させること』
『こちらレンジャー2、了解』
「こちらタイガー1、了解」

 仁村は「ふーん…」と思案顔をすると一言。
「これ、俺たち重要じゃね?」
 と、呟いた。
「そんなにっすか?」
 星野はいまいち分かっていないようだ。
 的場が「やれやれ」と説明を始める。
「今のレンジャー2にはアルファA組共を足止めする隊力はあっても倒す力はないわけだ。それは分かるよな?」
「それはまぁ、なんとなく」
 星野の漠然とした返答にがっくりと肩を落とす的場。
「なんとなくってお前…。まあいい、つまり俺達が上手く削らないと防衛線は崩壊。勢いに乗ったアルファ共は本部に乗り込んじまうって寸法よ」
「えぇっ!?それじゃ失敗したら負けるって事!?そんなん無理に突撃させることないじゃないっすか!リスキー過ぎる!」
 的場がの説明に狼狽する星野。
 狼狽のあまりかレオパルトが「ギュリッ」と音を立て蛇行した。真横を走る隊員が驚いて小さく飛び上がって距離を取った。
「おいおい、真っ直ぐ走ってくれよ。心配しなくても今村達がやられる程の戦力は残らんさ。それでも突破されると戦況も大きく傾くし、損耗が大きい事に変わりないから突破されちゃいけないんだけどな」
 仁村が笑って補足した。
 そして米田が
「んん?つまり倒せばいいって事だな!」
 と、1人豪快に頷いていた。
「一番分かってねぇのはコイツかもな…」
 的場が再びガックリと肩を落とした。

────────────────────
 仁村が回想を済ませるとA組の士気は最高潮に達していた。
「ここまで士気上げるなんて横田はどんなデマを流したんだ…?」
「是非とも教えてもらいたいものだな」
 仁村の呆れたような呟きに周藤が可笑しそうに同調した。
 同じく分隊を任されている身として気持ちが通じる所があるらしい。
 周藤の方を見ると目だけが合った。
 汗で剥がれかけたドーランで表情は分かりづらいが整った顔に苦笑を浮かべているようだった。
 俺も同じ顔をしてるんだろうなと思いつつ、仁村はA組に意識を戻した。

──お前らァ!突撃だー!
──ぶっころせー!
──チェストォー!
──万歳マンセー万歳マンセー

「おーおー、穏やかじゃないねぇ」
「西南戦争がしたいのか朝鮮戦争がしたいのか分かんねェな」
 米田と的場がニヤニヤと様子をうかがっていた。

──吶喊とっかん!!

 そうこうしているうちに猪頭指揮のもと、A組の突撃が始まった。
 いくつかの分隊に分かれたA組は整った傘形隊形で突っ込んでいく。
「おお、すげぇ。見事に統制のとれた突撃だな。てっきりただの脳筋だと思ってた」
 感心する仁村をよそに、A組の先鋒があっという間に膠着こうちゃく状態にあったレンジャー2との距離を詰めた。
 何も知らないレンジャー2であれば確実に突破を許したであろうそれは、しかし空振りに終わった。
 とっくに交戦が始まってもおかしくない所まで攻め上がったにもかかわらず、銃声どころかC組1人見当たらないのだ。
 士気上々のA組とはいえ流石の不気味さに足を止めた。
「うおおおおおお、おお、お…お?」

──ウィィィィィィ…

 モーター音。
 少し冷静になったA組の先鋒が音のする方を見上げた。
 ボサ茂みだ。大きな。ボサだと思った。
 こちらを見つめる偽装された砲口と目が合うまでは。
「せ、戦車だあああああ!!!!」
 不運な彼の悲鳴はまさしく引金となり、激しい銃撃が始まった。
 正面に戦車、左右に歩兵という状況にA組は大混乱に陥った。

ババババッ、ババババババッ
パパパン、パパッパンパン

『うろたえるな!応戦しろ!』
『撃ちまくれ!一気にたたみかけろ!』
 双方の怒声が飛び交い、激しい銃撃戦に移っていく。
『引くな!押せ!押せェ!』
 猪頭が一層大きな声で怒鳴った。
『逃げる奴は許さん!』
 一喝して突破を試みる。猪頭に続いてA組が1点にまとまり始めた。

「そうはさせん!」「そろそろ行くか」
 周藤と仁村の掛け声で一斉にチームが動き始める。

ブォン!…ギュゴゴゴゴゴゴ

 背後から突如聞こえてきた装軌音にA組は更に混乱した。
『まずい!後ろからも戦車だ!』
『うわああああ!挟まれた!』
 混乱に乗じて近づいた周藤隊がトドメを刺す。
「「グレネード!」」

ボシュ、ボシュッ!

 爆発に巻き込まれた隊員が崩れ落ちた。
『わあああああ!ちくしょおおおおお!!』
 目の前で仲間をやられてヤケになったのか、何人かが銃を乱射し始めた。

ババババ、カチッ!カチッ!

『あっ!た、弾切れ!?』
 機関銃と違って小銃の装弾数は少ない。
 すぐに弾切れを起こして攻撃の手が弱まった。
 この好機を逃す仁村ではなかった。
「今だ!やれ!」
 敵前に躍り出たレオパルト2A6タイガー1が機関銃を乱射する。
 PL-01タイガー2も灌木を踏み潰して加勢する。

──うわあああああああああ
──やめてくれえええええええええ
──ひぃやああああああああああ

 そこからは一方的で、敗残兵が投降するのに時間はかからなかった。

「よ、よーし!形勢逆転だあ!一気に攻め上がるぞぉ!」
「「「…お、おー」」」
『こちらHQ、みんなよくやった!見事な逆転だ!ここからは一挙攻勢に…って、あれ?みんなどうしたんだい?』
「いや、いいんだ…なんでもない…」
 あまりに凄惨せいさんな光景を前に、勝利よりも大事な何かを見失っている気がしてならない仁村達であった。

 ともあれ窮地を脱したC組の攻撃が今、始まる。
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