状況、開始ッ!

Gumdrops

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戦場、膠着ッ!

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 仁村はPL-01の大破を告げるランプを確認すると、PL-01乗員の安否も自分の失敗も一旦頭のすみに追いやって、仲間を撃ち抜いた砲身の持ち主を探した。
「敵戦車撃破!」
 的場からやや喜色を帯びた報告がくる。
 砲塔内にいる的場は、たった今PL-1を撃破した敵戦車の存在に気づいてないようだった。
「油断するな!敵がいる!」
 仁村は、ついさっき砲身が見えたらしき場所をくまなく捜しながら注意喚起を飛ばした。
「8時!敵!」
 仁村が見つけるより早く米田が見つけた。砲がギュン!とモーター音をさせて斜め後ろを指向する。
 こちらが狙いをつけるのと、敵戦車がこちらを狙うのはほぼ同時だった。
 しかし米田の装填は自動装填のそれより早い。
かける、止まれ!撃てェ!」

ドンッ!

 今度は外さなかった。
 停車して撃つことでより正確になった射撃は90式戦車の弱点を的確に捉え、一発で行動不能にした。
「撃破」
「さすが」
 的場の連続撃破に仁村は軽い称賛をおくった。そしてそこで思い出した。
「あ!周藤!」
 戦車の上に周藤隊を乗せたまま激しい戦闘をしてしまった。仁村は背筋が寒くなるのを感じた。
 とっさに車体を見るも、そこには左斜め後ろを向いた砲の根元、防盾ぼうじゅんがやや乗っているだけで人の姿は無い。
 散らかったバックパックが仁村の不安を煽った。
「どうしよ…」
 最悪の想像をして頭が真っ白になった仁村の頭上からその声はかけられた。
「ウチの隊員達なら戦闘になる直前に飛び降りたよ」
 周藤だった。
 砲塔に固定したロープを両手でしっかりと握り、少し青い顔で座っている。
「そんなに離れてないからね。すぐに追いつくだろうけど…。あたしも飛び降りた方が正解だったかも…」
 そう言ってカラビナを外し、戦車から降りていった。砲塔に掴まっていた数人も一様に続いた。
「よ、よかった…、巻き込んでなかったか…」
 仁村はほっと胸を撫で下ろす。
 不安が一つ消えたところでもう一つの心配事であるPL-01を振り返った。
 少し離れた後方でPL-01の車長が大きく手を振っている。どうやら大丈夫そうだ。

 当面の心配が消え、飛び降りた周藤隊隊員が合流するまでの間に、仁村は現状を報告することにした。
「HQこちらタイガー1、敵戦車2輌を撃破するもタイガー2が大破。俺達だけじゃ制圧できそうにない」
『こちらHQ、了解』
 無線が切れ、一呼吸置いてから指示が来た。
『そちらに増援を送るから、位置情報を送ってくれ』
「タイガー1、了解」
 仁村は現在地の座標を報告して、増援と合流するまで戦車を偽装することにした。
「翔、後退用意」
 仁村は後ろを振り返って、隠れる場所に軽く目星をつける。
「後方よし、あとへ」
 後ろの見えない星野に代わって仁村は方向を指示しながら茂みに分け入っていった。

────────────────────
 ペンをポイッと放った今村は、凝りそうになる背筋を伸ばそうと立ち上がった。
「うー…ん、はふぅ。ふわぁ~」
 大きく伸びをすると無意識にあくびが出た。
 眠い。
 頭を使うと──使わなくてもだが──眠たくなる。
(こんなところでうたた寝してると、またみんなに怒られちゃうね)
 そう思って、新鮮な空気を求めてテントの外に出た。

「やあ、様子はどうだい?」
「特に動きはありません」
 テント入り口に立って警戒していた控えの歩哨に声をかける。目覚まし代わりの会話だ。
 照りつける日差しのせいで蒸すように温度の上がったテント内の空気を換気しながら、頭のなかで状況を整理し直していた。
(反撃チームは段階的な防御に止められている。レンジャー2はA組のナナヨンと膠着こうちゃく状態…)
 青く澄んだ空を見上げる。
(ゲリラ掃討組を分割するのが妥当かな…。レンジャー2は連戦だから少し休ませたいし、本部からも少し出すか)
 覚醒してきた頭で部隊を組み直しながらテントに戻る。

「よっこいしょ」
 椅子に座る時つい口癖で言ってしまうが、我ながらおじさん臭いと思う。
 地図上の部隊配置を書き換えながら、今村は無線をとり、たった今組み直した通りに部隊を指揮した。
 テントの外が少し騒がしくなる。
 指示された部隊が集結し、出撃しているのだろう。
(これで戦況はこちらに傾くだろう)
 そう考えて背もたれに体を預け、くるりと横に一回転した。
「そうだ、たまには陣地内を回ってみようかなー」
 戦況が落ち着いてきたと判断した今村は、自陣を散歩することにした。
 今回の試合は情報が錯綜さくそうしていて、現場にいた隊員から直接話を訊くという目的もあったが本音は暑いから出たい、というのはご愛嬌だろう。
 無線を近くの隊員に任せテントを出た今村は、斥候から帰ってきた隊員が休むテントに向かった。
 増援に割いた部隊は出撃を終え、陣地内はやや閑散としている。
 暑苦しいテントから逃げ出し、爽やかな風を感じながら歩くと自然と足取りも軽くなった。
 これが試合でなければ、鼻歌のひとつも歌ったかもしれない。

 そんな今村を木の上から狙う者があった。
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