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狂い始める歯車

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どれくらい泣いただろうか。


理沙を抱き締めるように伏せて、時間よ進むな、理沙から温もりを奪わないでくれと願いながらも、それとは逆のことが無情にも起こる。


そんな真治の耳に、背後から接近する足音が聞こえた。


だが、真治は顔をあげようとしなかった。


少しでも理沙から離れたくないと思ったからだ。


「少年……」


恵梨香の声が聞こえたが、それ以上は何も言わなくて、ただ真治の背後に立っているだけ。


この状況を見て、察したのだろう。


真治の隣に座り、何をするわけでもなく、ずっとそこにいたのだ。


理沙と二人だけにしてくれとは思っていなかった。


誰がいようと、大切なのは一緒にいることなのだから。


しばらくそのままで時間が流れた。


ゆっくりと顔を上げて、改めて理沙の顔を見た後、真治は隣にいる恵梨香の顔を見た。


「少年、すまない」


顔を上げるのを待っていたのか、目を見てそう呟いた恵梨香。


なぜかその目からは涙を流していて、悲しげな表情を浮かべていた。


「どうして恵梨香さんが泣いているんですか」


いつも強気な恵梨香が、こんな表情を見せるというのは初めてのことで、思わず尋ねてしまう。


だが、誰が泣いたところで、理沙が目覚めるわけではないのだ。
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