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18話 出征当日②
急いで戻って、クレマスタ公爵邸に戻り出征式に行く準備を整える。考えたくないけど、エバンに会う最後になるかもしれないので――戦争に行くのに申し訳ない気持ちがあるが――忘れられない様にめいいっぱいおしゃれして行きたい。
「アン、今まで一番綺麗にして頂戴」
「まぁ。アリスフォード殿下の為ですね。おまかせください」
「違うの。エバン様に魅せたいの」
胸がこそばゆくて、頬が桃色染まってしまう。エバン様は大人の男性なので、大人っぽくなる様に頼んだ。
「え? そ、うですか。かしこまりました」
アンは少し動揺したが、すぐに持ち直し、アルセナの髪を結った。
支度が終わるとアリスフォードやって来た。応接室に向かった。
「アルちゃん、今日はすっごく綺麗だね」
「ありがとう。アリスも素敵よ」
私は今日、レースやリボンは無しで、背中が大胆に開いたドレスを着ている。アリスはいつもより豪華な装飾がついた白い礼服を着ている。肩にはサッシュが掛けられていて、いつもの天使様といった容貌ではよりは、王子様然としている。
アリスは手を差し出したので、エスコートしてもらおうと私の手を重ねたが、アリスの指先が私の指を搦め捕った。こんな繋ぎ方は不適切だからさり気なく外そうとしたが、しっかりと掴まれていて無理だった。
言わなきゃいけない事がある。
「あの、もう迎えに来なくていいのよ。何故か透明の壁が無くなってたから一人で出掛けられる様になったのよ」
私は満面の笑みで言った。アリスに迷惑かけてたのが心苦しかったから、嬉しかったのだ。
「ちっ! 気に入らない……」
「え?」
よく聞こえなかったので聞き返した。
「なんでそんなに嬉しそうなの? まさか好きな男でも出来たの?」
「まさか……」
――そんなんじゃないと言い切れるのだろうか……。エバン様のことは好意はあるけど、これは恋なのかはまだわからない。
「いたっ! …………アリス、手が痛いわ」
「ごめんね。アルちゃん」
繋いだ手を強く握られて痛かった。そしてニコニコと天使の笑顔を振りまくアリス。この私の天使の笑顔を見るといつも釣られて笑ってしまう。
「きゃっ!」
ただ立ってただけなのに、何故が急に足元が囚われソファに仰向けに倒れ込んでしまう。しっかり繋がれたアリスの手を引っ張ってしまい、アリスが覆いかぶさる様に倒れてきた。
唇に熱く柔らかい感触が……。睫毛がぶつかりそうな程の至近距離にアリスの翠色の瞳がある。私の頬にぱさりとアリスの髪が落ちる。
「ご、ごめんね。アルちゃん!」
アリスは慌てて私の上から除けた。私は自身の唇に触れた。
――私のファーストキス……
顔が茹で上がって真っ赤になり、恥ずかしくて恥ずかしくて、動悸が激しい。アリスの顔が見れずに背けてしまう。
「アルちゃん……」
アリスが私の手に触れた。思わず弾いてしまった。気まずい雰囲気が流れる。
「初めてだったの?」
こくりと頷く。
「怒ってる?」
私は首を振った。
「じゃぁなんでこっちを見ないの? ねぇ……」
アリスは私の正面に何度も来るが、恥ずかしくて目も合わせられずに反らし続けてしまう。
「本当は気持ち悪くて嫌だったんでしょう?」
「ち、違うよ。恥ずかしいの。恥ずかしくて堪らないの。だから、どんな顔をすれば良いのかわからないのよ!!」
「僕……もう我慢できないよ……」
切ないアリスの声に思わず顔を見てしまう。見たことない程悩ましげで、困ってしまって押し黙り、やっぱり恥ずかしくて俯いた。少し落ち着いた頬の熱が再燃する。
「朝から忙しくて、お腹ペコペコだよぅ。ごめん、何か食べさせてぇー」
悲痛な声を上げるアリスが可愛くて……いつものアリスだったからほっとした。頭を撫でるといつものように破顔して……って、いつもと違って抱きついて来た。私の背中にアリスが手を回す。
「アルちゃん……僕、本当に…もう、我慢が効かないよ……」
耳元でしゃべるから、息が耳朶に掛かって擽ったくてゾクゾクとして……身を捩る。
「もう待てないんだ……」
私の首筋を舐めあげ、耳をガジガジ齧った。
「ひゃぁっ! ア、ア、アあアリス? それぃや~、やめてぇ」
「なんで?」
「あぁああ、今、食べ物、食べ物を何か…も、貰ってくるからぁー」
アリスを押しのけ厨房に走った。
先程アルセナがソファに転がりこんだ時、アリスフォードが黒い笑みをしている事に……転んだのが故意だった事にアルセナは一生気づくことはない。
「あーあ、逃げられちまったなぁー。アルちゃんの首筋あまくて、ハァ……美味しかったなぁ。フフッ、早く食べたいな!」
アリスフォードは黒い欲望に濁った目をして笑って……彼女が戻るのを心待ちにした。アリスフォードから黒い粒子が立ち昇る。突然マケールが現れ、アリスフォードの腕に齧り付いた。
「グルルルルルゥー」
マケールの体が発光し、光の粒が黒い粒子を打ち消した。
「バカ犬、役に立つじゃないか。今日は、シャトーブリアンのステーキを出してやる」
アリスフォードの素直じゃない謝辞を……謝辞と言うにはあんまりな言葉を言った。しかし元来、厭世家で天の邪鬼の彼にとってはお礼に等しい。いつもは分厚い猫を被っているが、しかし、彼の身近な人には本性はバレている。クリマスタ公爵閣下もエバンもその一人である。
「わんわんっ」
犬っころが嬉しそうに尻尾を振った。
「さっさと行け!」
「キュ~ン……」
名残り惜しげにアリスフォードを見た。マケールはアルセナに会いたかった。この男に従っているのも、アルセナの為だった。
マケールがしょんぼりと肩を落とし、アリスフォードをちらりと見ながら霞のように消えてった。
「アン、今まで一番綺麗にして頂戴」
「まぁ。アリスフォード殿下の為ですね。おまかせください」
「違うの。エバン様に魅せたいの」
胸がこそばゆくて、頬が桃色染まってしまう。エバン様は大人の男性なので、大人っぽくなる様に頼んだ。
「え? そ、うですか。かしこまりました」
アンは少し動揺したが、すぐに持ち直し、アルセナの髪を結った。
支度が終わるとアリスフォードやって来た。応接室に向かった。
「アルちゃん、今日はすっごく綺麗だね」
「ありがとう。アリスも素敵よ」
私は今日、レースやリボンは無しで、背中が大胆に開いたドレスを着ている。アリスはいつもより豪華な装飾がついた白い礼服を着ている。肩にはサッシュが掛けられていて、いつもの天使様といった容貌ではよりは、王子様然としている。
アリスは手を差し出したので、エスコートしてもらおうと私の手を重ねたが、アリスの指先が私の指を搦め捕った。こんな繋ぎ方は不適切だからさり気なく外そうとしたが、しっかりと掴まれていて無理だった。
言わなきゃいけない事がある。
「あの、もう迎えに来なくていいのよ。何故か透明の壁が無くなってたから一人で出掛けられる様になったのよ」
私は満面の笑みで言った。アリスに迷惑かけてたのが心苦しかったから、嬉しかったのだ。
「ちっ! 気に入らない……」
「え?」
よく聞こえなかったので聞き返した。
「なんでそんなに嬉しそうなの? まさか好きな男でも出来たの?」
「まさか……」
――そんなんじゃないと言い切れるのだろうか……。エバン様のことは好意はあるけど、これは恋なのかはまだわからない。
「いたっ! …………アリス、手が痛いわ」
「ごめんね。アルちゃん」
繋いだ手を強く握られて痛かった。そしてニコニコと天使の笑顔を振りまくアリス。この私の天使の笑顔を見るといつも釣られて笑ってしまう。
「きゃっ!」
ただ立ってただけなのに、何故が急に足元が囚われソファに仰向けに倒れ込んでしまう。しっかり繋がれたアリスの手を引っ張ってしまい、アリスが覆いかぶさる様に倒れてきた。
唇に熱く柔らかい感触が……。睫毛がぶつかりそうな程の至近距離にアリスの翠色の瞳がある。私の頬にぱさりとアリスの髪が落ちる。
「ご、ごめんね。アルちゃん!」
アリスは慌てて私の上から除けた。私は自身の唇に触れた。
――私のファーストキス……
顔が茹で上がって真っ赤になり、恥ずかしくて恥ずかしくて、動悸が激しい。アリスの顔が見れずに背けてしまう。
「アルちゃん……」
アリスが私の手に触れた。思わず弾いてしまった。気まずい雰囲気が流れる。
「初めてだったの?」
こくりと頷く。
「怒ってる?」
私は首を振った。
「じゃぁなんでこっちを見ないの? ねぇ……」
アリスは私の正面に何度も来るが、恥ずかしくて目も合わせられずに反らし続けてしまう。
「本当は気持ち悪くて嫌だったんでしょう?」
「ち、違うよ。恥ずかしいの。恥ずかしくて堪らないの。だから、どんな顔をすれば良いのかわからないのよ!!」
「僕……もう我慢できないよ……」
切ないアリスの声に思わず顔を見てしまう。見たことない程悩ましげで、困ってしまって押し黙り、やっぱり恥ずかしくて俯いた。少し落ち着いた頬の熱が再燃する。
「朝から忙しくて、お腹ペコペコだよぅ。ごめん、何か食べさせてぇー」
悲痛な声を上げるアリスが可愛くて……いつものアリスだったからほっとした。頭を撫でるといつものように破顔して……って、いつもと違って抱きついて来た。私の背中にアリスが手を回す。
「アルちゃん……僕、本当に…もう、我慢が効かないよ……」
耳元でしゃべるから、息が耳朶に掛かって擽ったくてゾクゾクとして……身を捩る。
「もう待てないんだ……」
私の首筋を舐めあげ、耳をガジガジ齧った。
「ひゃぁっ! ア、ア、アあアリス? それぃや~、やめてぇ」
「なんで?」
「あぁああ、今、食べ物、食べ物を何か…も、貰ってくるからぁー」
アリスを押しのけ厨房に走った。
先程アルセナがソファに転がりこんだ時、アリスフォードが黒い笑みをしている事に……転んだのが故意だった事にアルセナは一生気づくことはない。
「あーあ、逃げられちまったなぁー。アルちゃんの首筋あまくて、ハァ……美味しかったなぁ。フフッ、早く食べたいな!」
アリスフォードは黒い欲望に濁った目をして笑って……彼女が戻るのを心待ちにした。アリスフォードから黒い粒子が立ち昇る。突然マケールが現れ、アリスフォードの腕に齧り付いた。
「グルルルルルゥー」
マケールの体が発光し、光の粒が黒い粒子を打ち消した。
「バカ犬、役に立つじゃないか。今日は、シャトーブリアンのステーキを出してやる」
アリスフォードの素直じゃない謝辞を……謝辞と言うにはあんまりな言葉を言った。しかし元来、厭世家で天の邪鬼の彼にとってはお礼に等しい。いつもは分厚い猫を被っているが、しかし、彼の身近な人には本性はバレている。クリマスタ公爵閣下もエバンもその一人である。
「わんわんっ」
犬っころが嬉しそうに尻尾を振った。
「さっさと行け!」
「キュ~ン……」
名残り惜しげにアリスフォードを見た。マケールはアルセナに会いたかった。この男に従っているのも、アルセナの為だった。
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