30 / 82
閑話 クレマスタ公爵の憂鬱
私は国王陛下と王妃殿下、第一王子のアリスフォード殿下とお茶をしている。
「私はジュディと約束したの。お互い男女の年が近い子供が出来たら結婚させようねって」
「幸い、アリスフォード殿下のお陰で、政略結婚させる必要がないので、娘自身で婿を選んで貰おうと思ってます」
ジュディとはクレマスタ公爵である私の妻だ。彼女はもう冥府に旅立ってしまったが。
アリスフォード殿下が自身の手柄を国王陛下の忠臣である私の物とするものだから、今まで公爵家の中で序列2位だったが、今ではダントツ1位になってしまった。そのせいで誰も逆らわなくなって、業務も楽になっただったが、自分の身の丈に合わない功績に困っていた。
それに子供らしさが微塵もないアリスフォード殿下が苦手と言うより底のしれなさが――子供相手に言うにはプライドが傷つくが――怖かった。
ある時、王の忠臣だけで会議をしていた。ここにいるメンバーは国王陛下、陛下の補佐官の私、アリスフォード殿下、宰相、騎士団長いた。
「2年前、ようやく捕まえた”月夜の狼王”という王国に巣食っていた犯罪者を一層して、暫くは治安がよかったのですが、最近5つほどの組織が台頭してきて、覇権を争い治安が乱れています」
”月夜の狼王”とは、以前までこの国の裏社会に君臨していた覇者だ。その力は強大で沢山の役人や領主を手中に収め、捕まるのは末端ばかりでなかなか尻尾を捕まえられなかった。が遂に2年前に頭を捕縛し、処刑した。だが、逆に裏社会の秩序は崩れ、現在では悪化してしまったのだ。
「だったら、裏社会もある程度許容し、締め付けず生殺しにしてはどうですか」
「「「えっ?」」」
この場にいた大人の誰もが耳を疑った。取り締まるべき悪を許容するとは考えなかったからだ。
「管理するのです。貧民街がなくならないように、裏社会も無くならない。はみ出た者も国民です。そうしか生きながらえない者も少なくない。であれば、誰かがまとめ管理するべきでは。それに、賭博で借金を背負わしたり、女性を宛てがったりすれば、邪魔な貴族の力も削げます。然し、誰がやるかが問題です」
発言者のアリスフォード殿下以外の一同が黙って顔を見合わせた。その間、アリスフォード殿下が殿下の前だけにある積み上げられたチョコレートを一つ食べ、2つ食べ……5つ目で王妃殿下に止められた。
「美味しい思いもしますが、もし運用に失敗すれば最悪処刑されます。誰か立候補はありますか?」
その場にいる大人の誰もが子供の殿下相手に狼狽して、顔を見合わせていた。またこっそり殿下がチョコレートを一つ摘んで食べていた。王妃殿下は見ていなかった。
「では、誰も居なければ僕がやりましょう」
「で、でもアリスフォード殿下は王国の君主となる身……」
「ヨハイムもいることですし、皇太子は僕でなくても。信の置けるものでないと、謀反でも起こされたら厄介ですから。とはいえ、王族がやると色々と都合が悪いので、傀儡として、適当な下級貴族でも旗頭に上げれば大丈夫でしょう」
「ちょっと待ちなさい! 貴方は未来の国王陛下になるのよ」
「お母様……大丈夫ですよ。ナターシャ妃はあまり野心の無い方で、南方の姫君。この王国での権力はほぼございません。例えヨハイムが即位しても、お母様が脅かされることはないでしょう」
ナターシャ妃とはヨハイムの母である。
「そういうこと言っているのではありません! 私はアリスフォードが未来の国王陛下なるとして育ててまいりました。それがこんなギャングだなんて……許せません」
アリスフォードの母親である正妃が怒って部屋を出ていった。
「はぁー…他に異論がある方いらっしゃいますか?」
残った大人は何も言えなかった。私は今まで、アリスフォード殿下の事を子供らしくないとは思っていたが、まさかここまでとは思いもよらなかった。僅か10歳を幾つか過ぎたばかりの子がここまでのことを言うなどと、この場にいる全員が驚愕していた。
アリスフォード殿下は王妃殿下が居なくなり、ここぞとばかりにチョコレートを堪能し、破顔していた。そして全て平らげ、歴史の授業があると退席した。
「クリマスタ公爵。早くご令嬢に会わせてください」
「絶対に会わせたくありません」
私はアリスフォード殿下控えめに言って、苦手である。だから、決して娘に会わせたくなかった。
「そんなに会わせようとしないなんて、余計気になるよ。でも、僕のお嫁さんになれば不自由な思いはさせないし、絶対に何があっても守れるよ」
私は思った。その通りだと。アリスフォード殿下ほどの力量の持ち主ならば、娘は例えこの王国が滅んでも安心だとすら思える。大人が好むような性格はしてないが、悪人で決してなく、寧ろどんな人間でも国民として扱う様は気宇壮大とも言える。
そして私は気づいてしまった。何故、アリスフォード殿下が恐ろしいのかを。殿下があまり物事に関心を持たないので、その関心が自分にとって都合が悪い方へ向いたらと、私と反目してしまったらと……それが怖かったのだと理解した。
後はただ娘に男を近寄らせたくないとそれだけだった。
「わかりました。連れてくるだけです。紹介はしません」
「うん、ありがとう」
殿下が笑った。久しぶり見る子供らしい可愛い笑顔だった。
殿下が去った後、私は自分の度量の狭さに凹んだ。
後日、殿下が中庭で私の大事な大事なアルセナと楽しそうに話してるのを見て、歯噛みした。
「私はジュディと約束したの。お互い男女の年が近い子供が出来たら結婚させようねって」
「幸い、アリスフォード殿下のお陰で、政略結婚させる必要がないので、娘自身で婿を選んで貰おうと思ってます」
ジュディとはクレマスタ公爵である私の妻だ。彼女はもう冥府に旅立ってしまったが。
アリスフォード殿下が自身の手柄を国王陛下の忠臣である私の物とするものだから、今まで公爵家の中で序列2位だったが、今ではダントツ1位になってしまった。そのせいで誰も逆らわなくなって、業務も楽になっただったが、自分の身の丈に合わない功績に困っていた。
それに子供らしさが微塵もないアリスフォード殿下が苦手と言うより底のしれなさが――子供相手に言うにはプライドが傷つくが――怖かった。
ある時、王の忠臣だけで会議をしていた。ここにいるメンバーは国王陛下、陛下の補佐官の私、アリスフォード殿下、宰相、騎士団長いた。
「2年前、ようやく捕まえた”月夜の狼王”という王国に巣食っていた犯罪者を一層して、暫くは治安がよかったのですが、最近5つほどの組織が台頭してきて、覇権を争い治安が乱れています」
”月夜の狼王”とは、以前までこの国の裏社会に君臨していた覇者だ。その力は強大で沢山の役人や領主を手中に収め、捕まるのは末端ばかりでなかなか尻尾を捕まえられなかった。が遂に2年前に頭を捕縛し、処刑した。だが、逆に裏社会の秩序は崩れ、現在では悪化してしまったのだ。
「だったら、裏社会もある程度許容し、締め付けず生殺しにしてはどうですか」
「「「えっ?」」」
この場にいた大人の誰もが耳を疑った。取り締まるべき悪を許容するとは考えなかったからだ。
「管理するのです。貧民街がなくならないように、裏社会も無くならない。はみ出た者も国民です。そうしか生きながらえない者も少なくない。であれば、誰かがまとめ管理するべきでは。それに、賭博で借金を背負わしたり、女性を宛てがったりすれば、邪魔な貴族の力も削げます。然し、誰がやるかが問題です」
発言者のアリスフォード殿下以外の一同が黙って顔を見合わせた。その間、アリスフォード殿下が殿下の前だけにある積み上げられたチョコレートを一つ食べ、2つ食べ……5つ目で王妃殿下に止められた。
「美味しい思いもしますが、もし運用に失敗すれば最悪処刑されます。誰か立候補はありますか?」
その場にいる大人の誰もが子供の殿下相手に狼狽して、顔を見合わせていた。またこっそり殿下がチョコレートを一つ摘んで食べていた。王妃殿下は見ていなかった。
「では、誰も居なければ僕がやりましょう」
「で、でもアリスフォード殿下は王国の君主となる身……」
「ヨハイムもいることですし、皇太子は僕でなくても。信の置けるものでないと、謀反でも起こされたら厄介ですから。とはいえ、王族がやると色々と都合が悪いので、傀儡として、適当な下級貴族でも旗頭に上げれば大丈夫でしょう」
「ちょっと待ちなさい! 貴方は未来の国王陛下になるのよ」
「お母様……大丈夫ですよ。ナターシャ妃はあまり野心の無い方で、南方の姫君。この王国での権力はほぼございません。例えヨハイムが即位しても、お母様が脅かされることはないでしょう」
ナターシャ妃とはヨハイムの母である。
「そういうこと言っているのではありません! 私はアリスフォードが未来の国王陛下なるとして育ててまいりました。それがこんなギャングだなんて……許せません」
アリスフォードの母親である正妃が怒って部屋を出ていった。
「はぁー…他に異論がある方いらっしゃいますか?」
残った大人は何も言えなかった。私は今まで、アリスフォード殿下の事を子供らしくないとは思っていたが、まさかここまでとは思いもよらなかった。僅か10歳を幾つか過ぎたばかりの子がここまでのことを言うなどと、この場にいる全員が驚愕していた。
アリスフォード殿下は王妃殿下が居なくなり、ここぞとばかりにチョコレートを堪能し、破顔していた。そして全て平らげ、歴史の授業があると退席した。
「クリマスタ公爵。早くご令嬢に会わせてください」
「絶対に会わせたくありません」
私はアリスフォード殿下控えめに言って、苦手である。だから、決して娘に会わせたくなかった。
「そんなに会わせようとしないなんて、余計気になるよ。でも、僕のお嫁さんになれば不自由な思いはさせないし、絶対に何があっても守れるよ」
私は思った。その通りだと。アリスフォード殿下ほどの力量の持ち主ならば、娘は例えこの王国が滅んでも安心だとすら思える。大人が好むような性格はしてないが、悪人で決してなく、寧ろどんな人間でも国民として扱う様は気宇壮大とも言える。
そして私は気づいてしまった。何故、アリスフォード殿下が恐ろしいのかを。殿下があまり物事に関心を持たないので、その関心が自分にとって都合が悪い方へ向いたらと、私と反目してしまったらと……それが怖かったのだと理解した。
後はただ娘に男を近寄らせたくないとそれだけだった。
「わかりました。連れてくるだけです。紹介はしません」
「うん、ありがとう」
殿下が笑った。久しぶり見る子供らしい可愛い笑顔だった。
殿下が去った後、私は自分の度量の狭さに凹んだ。
後日、殿下が中庭で私の大事な大事なアルセナと楽しそうに話してるのを見て、歯噛みした。
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?
夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。
けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。
思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。
──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……?
※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる
しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは
ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、
王弟殿下と出会いました。
なんでわたしがこんな目に……
R18 性的描写あり。※マークつけてます。
38話完結
2/25日で終わる予定になっております。
たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
番外編5話 掲載開始 2/28
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。