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45話 ご褒美ください
「王城に行ってきたのだが、アンネ嬢の存在を確認できませんでした。魔術師ビクターが住んでいる尖塔は、国王陛下でも不可侵で会うことは叶わなかった。お役に立てずにもうし訳ございません」
エバンは片膝を立てて平伏した。
ビクターは300年生きる結界魔術師で、結界魔術に様々な効果を付与出来るので、自身に結界を纏わせ、時空静止付与を与えることによって生きながらえている。有事の際はこの王国に結界を張り守ったりすることもする。300年生きているビクターは怠惰で無関心な人間だが、高感度を上げていくとヒロインに執着し始め、結界に閉じ込め監禁する。となれば、アンネがもしビクターと一緒にいるならば彼に監禁されているのかもしれない。ただ自由がないだけで命までは取らないし、大事にはしてくれるのでアンネは一先ず無事だろうと考えられる。現状彼に立ち向かえるのは攻略対象であり、もしそうなった場合、王城どころか王都も無事では済まないかもしれない。よって出来る事はない。アリスが魔王になったときのため、戦力必要なのでアンネには悪いけどビクターと対立する訳には行かないのだ。たとえ薄情だとしても。
「いえ十分よ。あのビクターを調べてなんともなくてよかったわ」
ビクターは怠惰で無関心だからこそ他人を慮れず、面倒だからと直ぐに結界を張り結界ごとその対象を滅するのが常だった。それは使用済みの汚いマグカップやゴミなどから、魔物や動物、人間までもだ。
「あの……こないだはありがとう……」
「姫の騎士ならば、当然の事をしたまでだ」
「なにかご褒美を差し上げたいと思うのだけれど、なにかあるかしら?」
「姫が俺の為になにかしたいという気持ちだけで、褒美して十分だ」
「それでもなにかしたいんです」
「う゛ーーん…………」
エバンはただ悩んでいる顔だけじゃなく、困ってるような戸惑っているような顔を見せたから、私は首を傾げた。
「どうしたんですか……?」
声を掛けて、そこで思い至る。
「もしかして言いにくい事ですか?」
「自分でもおかしいと自覚がある……」
「私に出来る範囲であれば……頑張ります」
「……それでは、く――をくれないか……」
「ちょっと聞こえなかったですわ。何をほしいのですか?」
「えーと、だから……く―わがほしぃんだ」
「はい? もう一度お願いします」
「あーーもうっくびわだ。ここに着けてくれ」
最初はモジモジと赤面しながら言っていたが、最後には恥ずかし過ぎてか叫び気味に言い、顔を両手で隠して蹲った。
私はガッカリした。彼も普通じゃなかった。忌避するほどではないけれども、あまりにも常識的な行動をするから、彼こそは普通ではないかと期待してしまったのだ。
「だめか……?」
いつもその体躯もあり、堂々と存在感のある人が肩を丸めてしょんぼりしながら、コバルトブルーの目で上目遣いで伺うように私を見た。さながらその姿は飼い主の様子を伺う大型犬みたいだ。
「ふふふ……いいよ。じゃあ買ってくるから待ってて」
私は彼のふわふわと柔らかな銀髪を撫でるちと擽ったそうに片肩を上げて首を傾げた。
「待って……実は、有るんだ」
おずおずと気まずそうに騎士服のポケットから首輪を出し私に差し出した。私の想像するのはもっと控えめな前世のハイブランドであるエル○スのアピチョー○ーみたいなのを想像していたから、あまりにもゴツくて面食らう。さらに錠前付きなのが、拍車をかけた。
私がそれを受け取ると、両膝を着き、顎を上げ、首をさらけ出す。私はそれをエバンの首に付けた。黒革で出来た大型犬がする様な太くごつめの首輪を愛おしげに彼は撫でた。それを見て前から気になっていた事を尋ねた。
「どうしていきなり私の騎士になったの?」
「君がエドモンド殿下の上に座る姿を見て、一目惚れしてしまったのだ。こんな私でも貴方なら受け入れてくれるのではないかと……でも再び拒絶されるのが恐くて、今まで言えなかった」
エバンは最初は騎士と姫の物語に憧れる少年で、側にそれを体現していた叔父夫婦がいた。叔父は騎士としても優秀で強く優しい。道で倒れている人がいれば助け、物請いにはパンを与え、犯罪者に襲われている人がいればその剣を抜き守る立派な人物だった。いつか自分も叔父のような心優しき立派な騎士になり、その夫婦みたいに唯一の姫を見つけ仕えたいと思っずっとずっとていた。然し、思春期の危うい時期にその理想だった夫婦の秘密を見てしまった。素晴らしい騎士である叔父が、首輪を付け、可憐な姫である叔母に跪き、叔母に命令されるまま犬の様に足を舐める様を……。その光景にショックを受けたが、次第に自分もそうされたいと――犬の様に忠誠を近い、従順に、ご主人さまだけを見つめる、思うままにされたいと――思うようになった。
エバンには幼馴染の婚約者がいた。まだ正式に結ばれた婚約では無かったが、時期がくれば婚約披露し結婚する筈だった。またエバンもその幼馴染も淡い恋心を抱いていて、お互い想い合っていた。
だからエバンは普通じゃないとわかってはいても、信頼している幼馴染に犬の様に成りたいと話した。彼女のなら受け入れてくれると思ったから。
然し、気持ち悪いと拒絶された。
当時は目の前が真っ暗で、将来が黒く塗りつぶされたような気がして死にたいぐらいショックだったが、当時を振り返れば、思春期の潔癖な時期にそんな事を言われれば、嫌悪されても仕方がなかったとわかっていると言っていた。
今、彼女は別の男と結婚したらしい。そして、幸せになってるといいねと言った。
「それくらいなら大丈夫。大したことない。受け入れるわ」
明るくあっけらかんと見えるように、笑顔で答えた。それはエバンに向けてだけ言葉じゃない。少なからず衝撃を受けた自分に対しての言葉だった。
私が動揺を見せれれば、エバンの心に影を落としそうだったから。だって嫌じゃないといえば嘘になるけど、実際にその程度なら受け入れられるから。
私の言葉を聞いてエバンは曇りなき笑顔を浮かべ、私の足を取り足の甲にキスを落とした。
顔を上げたエバンと視線が合う。
澄んだ青い瞳を見つめ、私も一応笑みを浮かべた。
エバンは片膝を立てて平伏した。
ビクターは300年生きる結界魔術師で、結界魔術に様々な効果を付与出来るので、自身に結界を纏わせ、時空静止付与を与えることによって生きながらえている。有事の際はこの王国に結界を張り守ったりすることもする。300年生きているビクターは怠惰で無関心な人間だが、高感度を上げていくとヒロインに執着し始め、結界に閉じ込め監禁する。となれば、アンネがもしビクターと一緒にいるならば彼に監禁されているのかもしれない。ただ自由がないだけで命までは取らないし、大事にはしてくれるのでアンネは一先ず無事だろうと考えられる。現状彼に立ち向かえるのは攻略対象であり、もしそうなった場合、王城どころか王都も無事では済まないかもしれない。よって出来る事はない。アリスが魔王になったときのため、戦力必要なのでアンネには悪いけどビクターと対立する訳には行かないのだ。たとえ薄情だとしても。
「いえ十分よ。あのビクターを調べてなんともなくてよかったわ」
ビクターは怠惰で無関心だからこそ他人を慮れず、面倒だからと直ぐに結界を張り結界ごとその対象を滅するのが常だった。それは使用済みの汚いマグカップやゴミなどから、魔物や動物、人間までもだ。
「あの……こないだはありがとう……」
「姫の騎士ならば、当然の事をしたまでだ」
「なにかご褒美を差し上げたいと思うのだけれど、なにかあるかしら?」
「姫が俺の為になにかしたいという気持ちだけで、褒美して十分だ」
「それでもなにかしたいんです」
「う゛ーーん…………」
エバンはただ悩んでいる顔だけじゃなく、困ってるような戸惑っているような顔を見せたから、私は首を傾げた。
「どうしたんですか……?」
声を掛けて、そこで思い至る。
「もしかして言いにくい事ですか?」
「自分でもおかしいと自覚がある……」
「私に出来る範囲であれば……頑張ります」
「……それでは、く――をくれないか……」
「ちょっと聞こえなかったですわ。何をほしいのですか?」
「えーと、だから……く―わがほしぃんだ」
「はい? もう一度お願いします」
「あーーもうっくびわだ。ここに着けてくれ」
最初はモジモジと赤面しながら言っていたが、最後には恥ずかし過ぎてか叫び気味に言い、顔を両手で隠して蹲った。
私はガッカリした。彼も普通じゃなかった。忌避するほどではないけれども、あまりにも常識的な行動をするから、彼こそは普通ではないかと期待してしまったのだ。
「だめか……?」
いつもその体躯もあり、堂々と存在感のある人が肩を丸めてしょんぼりしながら、コバルトブルーの目で上目遣いで伺うように私を見た。さながらその姿は飼い主の様子を伺う大型犬みたいだ。
「ふふふ……いいよ。じゃあ買ってくるから待ってて」
私は彼のふわふわと柔らかな銀髪を撫でるちと擽ったそうに片肩を上げて首を傾げた。
「待って……実は、有るんだ」
おずおずと気まずそうに騎士服のポケットから首輪を出し私に差し出した。私の想像するのはもっと控えめな前世のハイブランドであるエル○スのアピチョー○ーみたいなのを想像していたから、あまりにもゴツくて面食らう。さらに錠前付きなのが、拍車をかけた。
私がそれを受け取ると、両膝を着き、顎を上げ、首をさらけ出す。私はそれをエバンの首に付けた。黒革で出来た大型犬がする様な太くごつめの首輪を愛おしげに彼は撫でた。それを見て前から気になっていた事を尋ねた。
「どうしていきなり私の騎士になったの?」
「君がエドモンド殿下の上に座る姿を見て、一目惚れしてしまったのだ。こんな私でも貴方なら受け入れてくれるのではないかと……でも再び拒絶されるのが恐くて、今まで言えなかった」
エバンは最初は騎士と姫の物語に憧れる少年で、側にそれを体現していた叔父夫婦がいた。叔父は騎士としても優秀で強く優しい。道で倒れている人がいれば助け、物請いにはパンを与え、犯罪者に襲われている人がいればその剣を抜き守る立派な人物だった。いつか自分も叔父のような心優しき立派な騎士になり、その夫婦みたいに唯一の姫を見つけ仕えたいと思っずっとずっとていた。然し、思春期の危うい時期にその理想だった夫婦の秘密を見てしまった。素晴らしい騎士である叔父が、首輪を付け、可憐な姫である叔母に跪き、叔母に命令されるまま犬の様に足を舐める様を……。その光景にショックを受けたが、次第に自分もそうされたいと――犬の様に忠誠を近い、従順に、ご主人さまだけを見つめる、思うままにされたいと――思うようになった。
エバンには幼馴染の婚約者がいた。まだ正式に結ばれた婚約では無かったが、時期がくれば婚約披露し結婚する筈だった。またエバンもその幼馴染も淡い恋心を抱いていて、お互い想い合っていた。
だからエバンは普通じゃないとわかってはいても、信頼している幼馴染に犬の様に成りたいと話した。彼女のなら受け入れてくれると思ったから。
然し、気持ち悪いと拒絶された。
当時は目の前が真っ暗で、将来が黒く塗りつぶされたような気がして死にたいぐらいショックだったが、当時を振り返れば、思春期の潔癖な時期にそんな事を言われれば、嫌悪されても仕方がなかったとわかっていると言っていた。
今、彼女は別の男と結婚したらしい。そして、幸せになってるといいねと言った。
「それくらいなら大丈夫。大したことない。受け入れるわ」
明るくあっけらかんと見えるように、笑顔で答えた。それはエバンに向けてだけ言葉じゃない。少なからず衝撃を受けた自分に対しての言葉だった。
私が動揺を見せれれば、エバンの心に影を落としそうだったから。だって嫌じゃないといえば嘘になるけど、実際にその程度なら受け入れられるから。
私の言葉を聞いてエバンは曇りなき笑顔を浮かべ、私の足を取り足の甲にキスを落とした。
顔を上げたエバンと視線が合う。
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