★完結 【R18】変態だらけの18禁乙女ゲーム世界に転生したから、死んで生まれ変わりたい

石原 ぴと

文字の大きさ
60 / 82

54話 

 魔物の断末魔とそれを駆除する人の声で騒々しい。今、王都の外壁周りにいる魔物を駆除している。
 エバンはバケットサンドの包みを片手に木陰に腰を下ろした。その隣にはありふれたブルネットの髪で純朴そうな青年に扮装したアリスフォードが立っていて、ガラス瓶に入っている飲み物を飲んでいた。

「食わねーの?」
「誰が作ったわからないもの食べたくない」

 現在、他の土地との交易が絶たれ、食べ物の物価が上がり、バケットサンド一つでもそれなりの宝石ほどの価値がある。報酬はそのバケットサンド一つにも関わらず、青年は食べなかった。それは育ちと人を信じない性分のせいだった。
 
「なぁ……何で殺さなかった?」
「……………………」
「邪魔だろ?」
「アルちゃんが悲しむから。それにエバンが死んだら、ずっと一生片時もアルちゃんは忘れない……」

 アリスフォードは皮肉げに笑って、そんなの許せないだろと言う。そして小声で付け足した。それに、嫌いじゃないからと。然し、エバンには届かなかった。

「俺は殺す気だったよ。殺せると思わなかったけど」

 試合ではエバンの方が、明らかに強かった。然し、実戦では体力に限界のあるエバンにアリスフォードは勝てなかった。

「ふーん」

 アリスフォードは興味なさげに空を見た。アリスフォードは不本意だが、エバンのことが嫌いではなかった。これはアルセナ以外の他人に対する彼の最大の好意に等しかった。

「相変わらず、化け物だな。うちの親爺共は……」
「あれが本物の化け物だよ」
「違いねぇな」

 エバンの父で騎士団長であるスペンサー伯爵とエバンの祖父の元スペンサー伯爵が恐ろしい速度で魔物を葬っている。それはまるで芝刈り機のようだった。それをエバンはもう笑うしかないと言って、見ていた。

 二人共、まだスペンサー騎士団長に単体で勝ったことはない。アリスフォードは舌打ちして昔を思い出していた。二人共まだ爺共に勝てたことはない。




「おいっ! 周りこめ……クソっ」

 挟み撃ちにして、同時にエバンとアリスフォードが剣聖と呼ばれるスペンサー騎士団長に攻撃を仕掛けたが、一太刀で二人は薙払われた。彼らは今、スペンサー騎士団長に騎士団の練武場で稽古を付けて貰っていた。

「クソっ」

 まだ青かったアリスフォードは拳で地面を叩いた。なんでも優秀以上に熟すアリスフォードでも、スペンサー騎士団長には二人がかりでも勝てないどころか、一太刀も当てられなかった。アリスフォードはまだ12歳で、しかないことだったが、それをアリスフォードもエバンも許せない。
 ましてエバンはもう21歳で騎士団に入団して3年、もう一人前と言ってもおかしくない。彼我の戦力差は大きく、父の背中には届く位置にない。

 二人は顔を突き合わせ作戦を練った。

「クスギの実の煙幕を使えばいい」

 クスギの実は酢酸のような強烈な刺激臭のする実で、山での匂い消しや煙幕として戦争に使ったりする物だ。その効果は目に滲みて開けられなくなる事だった。

「そんな卑怯なことして意味ないだろ」
「どんな手を使っても勝つ。卑怯な手とか関係ない。勝者だけが正しいと決められる」
「あのな、戦争じゃないんだから……。はぁー、卑怯な手を使って勝っても、実力が上回らなきゃなんの意味もないだろ。それに正々堂々と勝たなきゃあのクソジジイ吠え面かかせられないしよ」
「それはそうだな。地面に屈服させ、足蹴にしないとな……」
「はぁー、お前な……」

 エバンは呆れたような顔をし、少しだけその瞳に侮蔑を含ませた瞳でアリスフォードを見た。アリスフォードはこういうところだと思った。エバンが時々ほんの少しだけ、眩しく見え、そして少しだけ憎たらしいような気がするときがあるのは。今もそういった気持ちが湧いた。頭を振れば、その気持ちは霧散した。
 彼は等しく誰にでも親切で優しく、騎士団長の子息という立場でありながら、貴族の騎士にも平民の騎士にも好かれ、親しまれている。アリスフォードはそれをなんと形容していいかわからないむず痒くうっすら不快な気持ちでエバンを時折見ていた。
 
 その日、二人がかりでやっとスペンサー騎士団長に一太刀いれる事が出来たのだった。




「カンパーイ!」

 エールの入ったジョッキを勢いよく、アリスフォードのグラスにエバンはぶつけた。エールが手に掛かり不機嫌そうにアリスフォードは顔を歪めた。エバンはエールを一気に半分飲み干した。

 ここは街の大衆食堂兼酒場だ。貴族が来るような場所では無い。エバンは何度も来たことがあるが、アリスフォードは初めてだった。

「今日はやったな」

 今日は初めて剣の師匠であるスペンサー騎士団長に一太刀入れられた日だ。エバンは自然と笑みを浮かべる。

「しょぼい」
「まぁまぁ……いいじゃん。こういう時は呑んで騒ぐんだよ」
「ここ……煩い」
「……お前、だから、友達いないんだよ」
「必要ない」

 アリスフォードには友達がいないのは正確なことじゃない。第一王子として、必要な交流はある。同年代のよく話す間柄にある少年はアリスフォードを友達とは思ってなかった。何故なら無垢そうな外見に反して、非常に大人びたアリスフォードと同世代の少年少女は話しが合わなかった。対してエバンもアリスフォードのことを子供と思わなかった。

「お前、何が楽しくて生きてるわけ?」

 アリスフォードはくうを眺めて考えた。

「……お菓子食べてる時?」

 首を傾げる姿はまるで天使のようだが、彼の本質とは相容れないためエバンは、その姿に愛らしいとは欠片も思わない。

「他は?」
「ん~、強かでこ狡い狸や狐を始末するとに、自分の計略が一部の狂いなく出来たときかな」

 にっこりとアリスフォードが笑った。その笑顔に料理を持ってきた店員が見惚れ手が止まった。

「性格わるっ……そんなんだから、両陛下ご両親も心配なさっておられるんだよ」

 赤面して止まっていた店員が動き出し、お待たせいたしましたと料理をテーブル置いた。香草で焼いた塊肉とソーセージからお腹が減るいい匂いがした。エバンが小皿に取り分け、肉の端を切り取り毒味してからアリスフォード渡した。それを受け取り怪訝な顔をしながら食べたアリスフォードは悪くないと思った。それは料理か、それとも今日の事か、それとも快活なこの兄弟子か……アリスフォードは考えなかった。




 アリスフォードは魔物を切り殺す光景を見ながら、それらを思い出し、知らずうっすらと笑ってた。エバンはそれを見て、気持ち悪っと背筋を震わせ寝転び目を瞑った。
 アリスフォードは何だかエバンに腹がたったので、普通は食べないゲテモノの魔物を焼いている一同のところにやってきて、一つ掴んだ。魔物は食べられるオークなどもあるが、焼いているのは普通食用されないもので、遊びで焼いて食べていた。アリスフォードはそれを持って、寝てるエバンの口の中に突っ込んだ。

「ん? なんだ? 香ばしくて……中は柔らかくて旨味と少し甘みもあって……リトルロブスターの稚魚!?」

 リトルロブスターとは食用出来る魔物である。稚魚のうちに背わたを取って素揚げすると上手い。もちろん、大きく育ってから殻を剥いて食べても美味しい。

「ううん、レッドマンティス」
「うっうわっ! ぺぺっ…………おえっ…ぅおえっ…えっ……、ゲホッ…ゴホゴホ……」

 節足動物の足が地面に吐き出された。未だ、エバンはえづいている。虫など平気そうなエバンだが、大の苦手だった。
 それを見てアリスフォードはお腹を抱えて笑った。それは表情と感情が一致した笑顔だった。
感想 15

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、 王弟殿下と出会いました。 なんでわたしがこんな目に…… R18 性的描写あり。※マークつけてます。 38話完結 2/25日で終わる予定になっております。 たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。 この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。 バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。 読んでいただきありがとうございます! 番外編5話 掲載開始 2/28

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。