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61話 エバン視点①
俺の差し出した手を取ってはくれなかった。空いてる手を握りしめ、堪える。
目も見てくれなかった。捨てられると本能的に思った。楽しそうに笑うアリスフォードとアルセナ姫を見てるのが辛かった。然し、護衛対象から目を逸らすことは出来ない。だって俺は姫の護衛騎士として誇りを持っている。私情で手を抜くなんてそんなみっともないことは、騎士としてのプライドが許さないからだ。
アリスフォードは姫の前でしかしない顔で嬉しそうに笑っている。羨ましかった。でも側にいて、姫を守れることに幸福を感じてもいた。
自分と無関係な人間を百万人殺してもなんとも思わない人間が辛いだと言って、姫を騙してる。アリスフォードの価値観はしっかりと整理されている。アルセナ姫が頂点に、国王夫妻などの家族、クリマスタ公爵、俺と俺の祖父と|親父に、使える家臣など。そして、国と国民はそれに害を及ぼさなければ庇護する対象である。その程度の愛着しかなくても――所有欲か、それとも姫が、この国を愛してるからか――国政はきちんと――歴代に賢王と名高い者と肩を並べるほど立派に――熟している。
姫がアリスフォードを抱きしめた。アリスフォードが俺に向かって優越感浸った顔で笑う。それを俺はただ見ることしか出来ない。
姫がほしいと欲張ってしまったから、離れていったのかもしれない。もう欲張らないから、ただ命を賭けて守らせてくれるだけでいいと思い直す。駄犬ならぬ駄騎士だと罵り、殴られてもいいから、俺の方を見てほしかった。
クリマスタ公爵邸に到着した。アリスフォードに抱きかかえられ、姫は御者台から降りた。側にいれるだけでいい思ったのに、胸がチリチリと焦燥する。
長い拷問のような時間が終わり、やっとお声を掛けて貰えた。喜んで側に侍るが、告げられた言葉に目眩がした。
「エバン……明日から護衛はグッドウィン卿にお願いするわ」
「かしこまりました」
力なく答える。何故かなんて知りたいけど、辛辣な言葉は聞きたくない。グッドウィン卿は立派な騎士だと自分に言い聞かせるが、俺より弱いやつに任せられない……でも、主の命令は絶対だから聞くほかない。
――姫に捨てられたら、どう生きていけばいいのだろうか……
「ひ、姫!?」
アルセナ姫が振り返る。
「休暇、一度も取ってないでしょう? ゆっくり体を休めてね」
「俺は大丈夫です。アルセナ姫を守ること以外……」
「アルちゃん! アンネリースが見つかったんだ」
「えっ? 本当! どこにいるの?」
「ごめんなさいエバン。今度話しましょう」
姫とアリスフォードは屋敷内に向かっていった。腹黒いアリスフォードのことだ、態と気の引く話題を振って、連れ去ったのだろう。この話は数日前にわかっていたが、最大感謝されるタイミングを計ってまだ言っていなかったのだろう。アリスフォードのよくやる手だから。
去っていく二人の背中を眺めた。また捨てられたと思った。暫く姫の残像を残しながら佇んだ。
「エディ! 会いたかった!!」
見知った髪の女性が俺に後ろから抱きついた。俺をエディと呼ぶ女性は一人しかいない。幼馴染で元婚約者のリーネルだった。
「バーグリー夫人、ご無沙汰しております」
「やだわ。エディ、前みたいに“リー”って呼んで!」
「呼ばない。バークリー侯爵様に申し訳ないだろう」
「主人は亡くなったの。魔物の大群が押し寄せたときに運悪く王都から出ていて……」
「お悔やみ申し上げます。バークリー侯爵様のご冥福をお祈りします」
手を組んで、黙祷を捧げた。
「じゃあ、俺はこれで」
厄介ごとの予感がして、早々に切りあげようとしたが、腕に縋りついてきた。俺は眉を顰めバークリー夫人を見下ろした。
「待って! どこにもいくところがないの。大奥様に追い出されたの!」
それもそうだろと思う。二人の結婚は子爵家と侯爵家の格差婚で前バークリー侯爵夫妻に反対されていたが、子を授かり、強引に結婚する事になったため、前バークリー侯爵夫人にリーネルはかなり嫌われていた。
「そうか、じゃあ……」
懐から、財布を取り出し渡そうとしたが、押し返された。
「そんな申し訳ないわ……。少しでいいの。泊めてちょうだい」
彼女の新緑色の瞳が潤んで輝いている。昔は目を見るたびあんなに切なくなったのに、欠片も何も思わなかった。
「リボン、解けている」
リボンが解けて、胸の谷間が露わになっているので結んであげた。昔は官能的な彼女の体が無邪気に触れる度に、あんなにドキドキしたのになぁ……。若かったな俺……クスリと自然に笑みが溢れる。
「どうしたの? エディ?」
「いや。懐かしいなと思って。部屋借りてやるから……」
「お金がもったいないわ。物価も高くて、手持ちのお金じゃ生活出来そうにないもの」
「実家……帰れよ」
「勘当されたの知ってるでしょ」
「このご時世だ。わかってくれるだろ?」
「もう行ったけど、入れてもらえなかったわ」
「仕方がないな」
彼女にもう恋心など微塵もないが、幼少時代を過ごした情があるので受け入れる事にした。
「ありがとう! エディ!」
――あっぶねぇ!
彼女が抱きついて来たので、躱したら地面に顔面をぶつけて馬車に轢かれたヒキガエルみたいにうっぷした。彼女を拾って、宿舎の自室に案内した。
目も見てくれなかった。捨てられると本能的に思った。楽しそうに笑うアリスフォードとアルセナ姫を見てるのが辛かった。然し、護衛対象から目を逸らすことは出来ない。だって俺は姫の護衛騎士として誇りを持っている。私情で手を抜くなんてそんなみっともないことは、騎士としてのプライドが許さないからだ。
アリスフォードは姫の前でしかしない顔で嬉しそうに笑っている。羨ましかった。でも側にいて、姫を守れることに幸福を感じてもいた。
自分と無関係な人間を百万人殺してもなんとも思わない人間が辛いだと言って、姫を騙してる。アリスフォードの価値観はしっかりと整理されている。アルセナ姫が頂点に、国王夫妻などの家族、クリマスタ公爵、俺と俺の祖父と|親父に、使える家臣など。そして、国と国民はそれに害を及ぼさなければ庇護する対象である。その程度の愛着しかなくても――所有欲か、それとも姫が、この国を愛してるからか――国政はきちんと――歴代に賢王と名高い者と肩を並べるほど立派に――熟している。
姫がアリスフォードを抱きしめた。アリスフォードが俺に向かって優越感浸った顔で笑う。それを俺はただ見ることしか出来ない。
姫がほしいと欲張ってしまったから、離れていったのかもしれない。もう欲張らないから、ただ命を賭けて守らせてくれるだけでいいと思い直す。駄犬ならぬ駄騎士だと罵り、殴られてもいいから、俺の方を見てほしかった。
クリマスタ公爵邸に到着した。アリスフォードに抱きかかえられ、姫は御者台から降りた。側にいれるだけでいい思ったのに、胸がチリチリと焦燥する。
長い拷問のような時間が終わり、やっとお声を掛けて貰えた。喜んで側に侍るが、告げられた言葉に目眩がした。
「エバン……明日から護衛はグッドウィン卿にお願いするわ」
「かしこまりました」
力なく答える。何故かなんて知りたいけど、辛辣な言葉は聞きたくない。グッドウィン卿は立派な騎士だと自分に言い聞かせるが、俺より弱いやつに任せられない……でも、主の命令は絶対だから聞くほかない。
――姫に捨てられたら、どう生きていけばいいのだろうか……
「ひ、姫!?」
アルセナ姫が振り返る。
「休暇、一度も取ってないでしょう? ゆっくり体を休めてね」
「俺は大丈夫です。アルセナ姫を守ること以外……」
「アルちゃん! アンネリースが見つかったんだ」
「えっ? 本当! どこにいるの?」
「ごめんなさいエバン。今度話しましょう」
姫とアリスフォードは屋敷内に向かっていった。腹黒いアリスフォードのことだ、態と気の引く話題を振って、連れ去ったのだろう。この話は数日前にわかっていたが、最大感謝されるタイミングを計ってまだ言っていなかったのだろう。アリスフォードのよくやる手だから。
去っていく二人の背中を眺めた。また捨てられたと思った。暫く姫の残像を残しながら佇んだ。
「エディ! 会いたかった!!」
見知った髪の女性が俺に後ろから抱きついた。俺をエディと呼ぶ女性は一人しかいない。幼馴染で元婚約者のリーネルだった。
「バーグリー夫人、ご無沙汰しております」
「やだわ。エディ、前みたいに“リー”って呼んで!」
「呼ばない。バークリー侯爵様に申し訳ないだろう」
「主人は亡くなったの。魔物の大群が押し寄せたときに運悪く王都から出ていて……」
「お悔やみ申し上げます。バークリー侯爵様のご冥福をお祈りします」
手を組んで、黙祷を捧げた。
「じゃあ、俺はこれで」
厄介ごとの予感がして、早々に切りあげようとしたが、腕に縋りついてきた。俺は眉を顰めバークリー夫人を見下ろした。
「待って! どこにもいくところがないの。大奥様に追い出されたの!」
それもそうだろと思う。二人の結婚は子爵家と侯爵家の格差婚で前バークリー侯爵夫妻に反対されていたが、子を授かり、強引に結婚する事になったため、前バークリー侯爵夫人にリーネルはかなり嫌われていた。
「そうか、じゃあ……」
懐から、財布を取り出し渡そうとしたが、押し返された。
「そんな申し訳ないわ……。少しでいいの。泊めてちょうだい」
彼女の新緑色の瞳が潤んで輝いている。昔は目を見るたびあんなに切なくなったのに、欠片も何も思わなかった。
「リボン、解けている」
リボンが解けて、胸の谷間が露わになっているので結んであげた。昔は官能的な彼女の体が無邪気に触れる度に、あんなにドキドキしたのになぁ……。若かったな俺……クスリと自然に笑みが溢れる。
「どうしたの? エディ?」
「いや。懐かしいなと思って。部屋借りてやるから……」
「お金がもったいないわ。物価も高くて、手持ちのお金じゃ生活出来そうにないもの」
「実家……帰れよ」
「勘当されたの知ってるでしょ」
「このご時世だ。わかってくれるだろ?」
「もう行ったけど、入れてもらえなかったわ」
「仕方がないな」
彼女にもう恋心など微塵もないが、幼少時代を過ごした情があるので受け入れる事にした。
「ありがとう! エディ!」
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