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閑話 カロリーナのその後②
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カロリーナが投獄された直後、帝都にあるホルン侯爵邸に1通の手紙が届いた。執務室で業務をこなしていたホルン侯爵はその手紙を読んで顔を顰めた。
ベルを鳴らし、執事を読んで馬車の手配を申し付けると、クラバットを着け、宮廷服を着て、急いで外出用の服に着替えた。馬車に乗ったホルン侯爵は、宮廷へ向かった。
「娘がとんだ無礼を働き、申し訳ございません。つきましては、裁判長長官の辞任と爵位返上を致したく存じます」
謁見の間、赤い絨毯の上で潰れたヒキガエルのように、ホルン侯爵は己の尊厳を投げ捨てひれ伏した。
「よい、表をあげよ。とんでもないことをしでかしてくれたな。――サイラス」
「はい陛下」
「どうしようか?」
「ホルン侯爵が失脚すると、議会の議席が一つ減り、議題を通すのに確実に過半数取れなくなってしまいます」
王政派の派閥は辛うじて過半数であり、残りは四割の反王政派とどちらの派閥にも属さない中立派などだった。
「箝口令を引いて無かったことにしてはどうだ?」
「それだと万が一事実が白日の下に晒された場合の反発が酷くなるでしょう。王家を含めないで私とホルン候との問題で済ましましょう。殿下には話し合いに尽力してくださった事にして、噂を流布させるというのはいかがでしょうか?」
「連中は重箱の隅を突くように、娘の件を出しては不適合だと糾弾しては、裁判所長官の辞任を要求してくるぞ!裁判所が取られれば、連中を裁く機関がなくなり奴らは我が物顔でこの国を闊歩するに決まっておる」
裁判所を王政派が抑えてることにより、反対派閥の横行の抑止力になっている。
「では、裁判所長官辞任し、素早く後任を立てる他ないかと」
「副長官は反王政派だぞ。順当に行けば副長官だと訴えてくるに決まっておる。あぁ、頭が痛い。……エリカが犯人でなくてよかった。宰相をとられたら政治に干渉して、我をお飾りの王に仕立て上げようとするだろう。ともすれば煩わしくて敵わん。ご令嬢達の権力闘争に大人が振り回されるとは滑稽だな。あぁ、昼から酒でも煽りたい気分だ……」
「陛下、皇后様にお叱りを受けますよ」
「良い、二人とも下がれ」
――皇帝はワイングラスに波々注がれたワインを煽った。後で皇后様に叱られるのにも関わらず。向かいには黒髪に黒い宮廷服を着たヘルブラム伯爵が片膝を立て頭を下げている。
「裁判所副長官の悪事を掴んでこい!家族でも構わん」
「仰せのままに」
男は音もなく、気配もなく消えるように去っていった。
カロリーナは馬車に半月ほど揺られ、母の生まれ故郷に来ていた。何処までも続く広大な農地の奥にはまるで城のような大きな屋敷はカロリーナの夫となる男のものだ。カロリーナの夫となる男は公爵で広い土地と大きな権力を持っていた。カロリーナは嫌なことは忘れて、自分に相応しい生活、夫を夢想し、夢見心地になっていた。ホルン候が送ってくれた荷物の中に入っていた好物のお菓子を摘みながら、ようやっと夫のカントリーハウスに辿り着いた。何十人の使用人が玄関ホールに並んで、出迎えてくれた。カロリーナはここから自分の本当の人生が始まると、胸を踊らせた。
「ようこそ、僕の屋敷へ」
男は跪き、カロリーナの手を取ると、その手の甲に口づけた。男は輝く水色の髪をオールバックに撫で付けて、モノクルを付けた少し神経質そうな男だったが、見目は悪くなくカロリーナは男の容姿に及第点を付けた。
「宜しくお願い致しますわ」
カロリーナは優雅な所作で挨拶をした。
「あの他の奥様は?」
「あぁ今紹介するね」
男はカロリーナより一回りも上だったが、笑うと目尻に皺が寄り、それが可愛らしく親しみ深いものとなった。
男に連れられカロリーナは、地下へ続く階段を怪訝な顔で降りていった。分厚い鉄のドアの前でカロリーナは悪寒がし、体をブルリと震わした。
男が赤黒く錆びた鍵を鍵穴に突っ込むと、ガチャリと音がして、解錠した。ギギギッと耳障りな音がしてドアを開き、部屋に灯りが灯されると中が見渡せるようになった。カロリーナは中を見た瞬間、後退りしようとしたが何かにぶつかって、それ以上進めなかった瞬間、両手を後ろから拘束された。振り返ると屈強な男が私の両端に居て、逃走出来なかった。
「僕のお嫁さんになってくれる人が国内にはいなくてね、君が来てくれて嬉しいよ」
「いや、やめて!離してぇー!」
叫び声は部屋だけに響いて、地上には届かない。万が一届いた所で誰も助けになど来るはずがない。
「これが僕の一人目の奥さんジブリースだよ。この耳から顎にラインが綺麗だろう」
等身大の蝋人形の顎を愛おしげに撫でながら紹介した。
一人、二人とその男の妻だった蝋人形を紹介していくに連れ、カロリーナの目には絶望が滲んでいく。7人目を紹介し終えた頃にはもうその瞳は暗く、欠片ほどの希望も残っていなかった。
――2年後
「もう、殺して……」
一年ぐらい前からカロリーナは口を開けば、その言葉を懇願していた。
「違うよ。カロリーナ。永遠に生きて生きて行けるんだよ」
もう、首から下はろうに覆われていて、動けなかった。動けない、ただそれだけがこんなにも辛いものだとは思わなかった。最初の頃は母親が訪ねてくれば助けてくれると思っていた。けれどもとうとう一度も会いにやって来なかった。
最初の頃はカロリーナは己の人生を悔やんだ。こんな事になるなら、エリカを貶めるなんて考えなければ良かったとそう考えることもあった。そして次は自分を憐れんだ。然し死を目前とした今では、ただでは死ねない。エリカも不幸になれと呪詛のように唱えていた。そうして、彼女は息絶えてった。
ベルを鳴らし、執事を読んで馬車の手配を申し付けると、クラバットを着け、宮廷服を着て、急いで外出用の服に着替えた。馬車に乗ったホルン侯爵は、宮廷へ向かった。
「娘がとんだ無礼を働き、申し訳ございません。つきましては、裁判長長官の辞任と爵位返上を致したく存じます」
謁見の間、赤い絨毯の上で潰れたヒキガエルのように、ホルン侯爵は己の尊厳を投げ捨てひれ伏した。
「よい、表をあげよ。とんでもないことをしでかしてくれたな。――サイラス」
「はい陛下」
「どうしようか?」
「ホルン侯爵が失脚すると、議会の議席が一つ減り、議題を通すのに確実に過半数取れなくなってしまいます」
王政派の派閥は辛うじて過半数であり、残りは四割の反王政派とどちらの派閥にも属さない中立派などだった。
「箝口令を引いて無かったことにしてはどうだ?」
「それだと万が一事実が白日の下に晒された場合の反発が酷くなるでしょう。王家を含めないで私とホルン候との問題で済ましましょう。殿下には話し合いに尽力してくださった事にして、噂を流布させるというのはいかがでしょうか?」
「連中は重箱の隅を突くように、娘の件を出しては不適合だと糾弾しては、裁判所長官の辞任を要求してくるぞ!裁判所が取られれば、連中を裁く機関がなくなり奴らは我が物顔でこの国を闊歩するに決まっておる」
裁判所を王政派が抑えてることにより、反対派閥の横行の抑止力になっている。
「では、裁判所長官辞任し、素早く後任を立てる他ないかと」
「副長官は反王政派だぞ。順当に行けば副長官だと訴えてくるに決まっておる。あぁ、頭が痛い。……エリカが犯人でなくてよかった。宰相をとられたら政治に干渉して、我をお飾りの王に仕立て上げようとするだろう。ともすれば煩わしくて敵わん。ご令嬢達の権力闘争に大人が振り回されるとは滑稽だな。あぁ、昼から酒でも煽りたい気分だ……」
「陛下、皇后様にお叱りを受けますよ」
「良い、二人とも下がれ」
――皇帝はワイングラスに波々注がれたワインを煽った。後で皇后様に叱られるのにも関わらず。向かいには黒髪に黒い宮廷服を着たヘルブラム伯爵が片膝を立て頭を下げている。
「裁判所副長官の悪事を掴んでこい!家族でも構わん」
「仰せのままに」
男は音もなく、気配もなく消えるように去っていった。
カロリーナは馬車に半月ほど揺られ、母の生まれ故郷に来ていた。何処までも続く広大な農地の奥にはまるで城のような大きな屋敷はカロリーナの夫となる男のものだ。カロリーナの夫となる男は公爵で広い土地と大きな権力を持っていた。カロリーナは嫌なことは忘れて、自分に相応しい生活、夫を夢想し、夢見心地になっていた。ホルン候が送ってくれた荷物の中に入っていた好物のお菓子を摘みながら、ようやっと夫のカントリーハウスに辿り着いた。何十人の使用人が玄関ホールに並んで、出迎えてくれた。カロリーナはここから自分の本当の人生が始まると、胸を踊らせた。
「ようこそ、僕の屋敷へ」
男は跪き、カロリーナの手を取ると、その手の甲に口づけた。男は輝く水色の髪をオールバックに撫で付けて、モノクルを付けた少し神経質そうな男だったが、見目は悪くなくカロリーナは男の容姿に及第点を付けた。
「宜しくお願い致しますわ」
カロリーナは優雅な所作で挨拶をした。
「あの他の奥様は?」
「あぁ今紹介するね」
男はカロリーナより一回りも上だったが、笑うと目尻に皺が寄り、それが可愛らしく親しみ深いものとなった。
男に連れられカロリーナは、地下へ続く階段を怪訝な顔で降りていった。分厚い鉄のドアの前でカロリーナは悪寒がし、体をブルリと震わした。
男が赤黒く錆びた鍵を鍵穴に突っ込むと、ガチャリと音がして、解錠した。ギギギッと耳障りな音がしてドアを開き、部屋に灯りが灯されると中が見渡せるようになった。カロリーナは中を見た瞬間、後退りしようとしたが何かにぶつかって、それ以上進めなかった瞬間、両手を後ろから拘束された。振り返ると屈強な男が私の両端に居て、逃走出来なかった。
「僕のお嫁さんになってくれる人が国内にはいなくてね、君が来てくれて嬉しいよ」
「いや、やめて!離してぇー!」
叫び声は部屋だけに響いて、地上には届かない。万が一届いた所で誰も助けになど来るはずがない。
「これが僕の一人目の奥さんジブリースだよ。この耳から顎にラインが綺麗だろう」
等身大の蝋人形の顎を愛おしげに撫でながら紹介した。
一人、二人とその男の妻だった蝋人形を紹介していくに連れ、カロリーナの目には絶望が滲んでいく。7人目を紹介し終えた頃にはもうその瞳は暗く、欠片ほどの希望も残っていなかった。
――2年後
「もう、殺して……」
一年ぐらい前からカロリーナは口を開けば、その言葉を懇願していた。
「違うよ。カロリーナ。永遠に生きて生きて行けるんだよ」
もう、首から下はろうに覆われていて、動けなかった。動けない、ただそれだけがこんなにも辛いものだとは思わなかった。最初の頃は母親が訪ねてくれば助けてくれると思っていた。けれどもとうとう一度も会いにやって来なかった。
最初の頃はカロリーナは己の人生を悔やんだ。こんな事になるなら、エリカを貶めるなんて考えなければ良かったとそう考えることもあった。そして次は自分を憐れんだ。然し死を目前とした今では、ただでは死ねない。エリカも不幸になれと呪詛のように唱えていた。そうして、彼女は息絶えてった。
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