悪役令嬢に転生したけど足掻きます

石原 ぴと

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37話 誘拐事件

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 クリフ殿下の顔を見て悲しかった。なんでこの人なんだろうと。この人以外なら誰でも良かったのに……目に涙が滲んでくる。零れない様に天を仰いだ。

 それと同時に彼の声が懐かしくて、好きな理由も理解した。ゲームと一緒の殿下の声は、私の一番好きな声優さんと一緒の声だから。この世界では、不機嫌そうな低い声しか聞いたことがないから気づかなかったし、今の今まで声優さんの事なんて忘れてたよ。もう綺麗な思い出のまま、会わなければ良かったのに。

 もう頭も心もパンクしそう。しかも、この状況紛うことなく乙女ゲームのイベントですよね。勘弁してください。

 ここは何処かの森の中の木でできた山小屋で、窓からは針葉樹と月しか見えない。

「んっ……」

 クリフ殿下の声が聞こえ、彼が身を捩る布擦れの音が聞こえた。どんな顔をしてなんて言葉をかければ良いのかわからず、再び気絶したふりをした。

 彼は起き上がると、私の髪を触った。ずっとこちらを見ている気がする。彼は溜息を吐いたあと、舌打ちをした。

「おい、起きろ!」

 後ろ手に縛られた不自由な腕で、私の背中を小突いた。

 今起きたように演じながら、起き上がると眉間に皺を寄せたクリフ殿下が居た。

「この状況は?」

 私が知る訳ない。乙女ゲームでは、殿下目当ての誘拐だったが、詳しい理由に関しては語られていない。けど助けは来るし、大丈夫。

「わからないわ」

「ほんとに?」

「ええ。お父様に怨みを持つ人物にも心当たりもないわ」

「そうか」

 再び無言の時間が過ぎる。

「お前、ずっと前から俺だって気づいてたのか?」

「知らなかったわ。声もそんなふうにかけられたこと無かったから。いつも不機嫌そうな声で……だから同一人物とはわからなかった」

「あぁ、めんどくせー」

 彼は頭を掻いた。

「じゃあこうしましょ。あそこで貴方に会っていたのは私じゃない。私が、会っていたのも貴方じゃない。もう二人は会わない」

「随分あっさり言うんだな。なんとも思わないのかよ」

「なんとも思ってないなら、あんな事しないわよ」

 何よ、私だってショックなんだから。本当に悲しかった。

「俺だって……なんで最初から普通に話さないんだよ。だったら別に……嫌ったりしなかった」

 最後の方は掠れて聞こえなかった。

「ってかなんであんな所にいたの?バルコニーが定位置でしょ!?」

 そうよ、2階のバルコニーでキャロラインと逢引するはずじゃない。

「エリカに神桜祭で見つかって、押しかけられたらめんどくせぇからだろ」

「…………」

 私のせいかぁ~~~!!!

「まぁ過去を嘆いても変わらないわよ。それより今よ。今!この状況をどうするかでしょ」

「そうだな……」

「取り敢えず殺すつもりはないみたいね」

 だったら気絶している内に殺られてる。

「何かあっても対処できる様に縄を緩めておきましょう」

 私は殿下と背中合わせになり、少しづつ縄を緩めていった。

「あともうちょっと……やった、取れたわ!」

 両手足の縄を解いていると……あれ?指環が無くなっている事に気がついた。首に手をやるとネックレスも、更にイヤリングも無くなっていた。
 お父様に買ってもらった物なのに……

 両手足のいつでも解けるように緩くに結び直した。




「おいっ!起きろ」

 目を開けると外は明るくなっていた。

「誰か来たぞ!」

 覆面を被った体格のいい男が無言で、パンと水を無造作に置いて出ていった。

「よくこんな所で寝れるな」

「何があるかわからないじゃない。体力は温存したほうがいいでしょ」

 そう言ってパンと水をを取って殿下に渡した。

「……尊敬するよ」

 クリフ殿下は呆れたように言った。

「ちょっと食べさせてくれない?」

「はぁ!?」

「だって食べれないでしょう?いつ来るかわからないから縄解けないし」

「先に食べたいなら、私が毒味してから……」

「はぁー……ほら」

 クリフ殿下は溜息をついて、後ろ手で縛られたままパンを持って立ち上がり食べさせてくれた。

 そうして1日が過ぎ、2日が過ぎても助けは来なかった。

 3日目の朝。

 どうしよう。もしかして一緒に攫われたのはヒロインではなかったし、攫われた場所も違うから助けが来ないのかと不安になった。

「このままずっと助けを待っているつもりか?」

「でも、どうやって?」

「パンを持ってきた時だな」

 私は頷いた。




 いつもの様に覆面の男がパンと水を持ってきた。

「ねぇ、私のアクセサリー返してよ」

 覆面の男を注意深く見ながら、縛られた足で跳ねながら近寄った。無視して踵を返してドアへ向かった男を、急いで手足の縄をとり近づいて、男の首に縄を掛けて締め上げた。それとも同時にクリフ殿下が、彼の剣を奪い胸に一突きした。
 男の抵抗は弱くなり、最後は倒れて動かなくなった。

「別に殺さなくてもいいじゃない!」

「どうせ打首になる。逆徒として首を晒され、民衆に石を投げられる運命が待っていても、生かしておいた方が良いというのか?」

「ごめんなさい」

「それより急ごう」

 山小屋を出て、山道から外れた道を必死に走って山を下って行った。

 靴のヒールは折れて、ドレスは木に引っ掛けてもうボロボロだった。けど弱音は吐かないって決めてる。歯を食いしばってクリフ殿下に付いていった。
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