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第52話 犠牲の羊
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王宮を脱出した王子が最初にしたことは、兵士の糾合と兵器の確保です。
兵士達については、王子が直接に声をかけるだけで、あっさりと集まりました。
農民や戦地で直接指揮下にあった兵士達からの人望は薄い王子ですが、直接に王子を知らない兵士や都市の新興階級達からの支持は依然として高いのです。
貴族達が王の死と王子の所業を政治的理由から公表していなかっったことも悪い方向に働きました。
1000人程の兵士を率いた王子は、事情を知らない王宮警備の兵達に「訓練である」と称して抵抗無く通り抜け、王の間で結論の出ない会議にかまけていた貴族達を、逆に逮捕してしまったのです。
「殿下!これはいったい!」
「で、殿下!どういうおつもりですか!?」
狼狽える貴族達に、王子はうそぶきます。
「もちろん、陛下を殺した大逆犯の逮捕に来たのだよ。陛下のお命を救うには一歩遅かったが、クーデターを阻止できたことは誠に喜ばしい。君たちは大逆罪と国家反逆罪で裁かれることになる。略式裁判で銃殺刑だろうね。安心したまえ。国家の未来は私に託してくれて良い。中庭に連れて行け!」
「ばかな!殿下!お考え直しを!」
「我々は陛下を殺してなどいない!」
慌てた貴族達が立ち上がり、兵士に殴り倒されて連れて行かれるのを王子は愉快そうに見守ります。
「そうだ。近衛兵達も陛下をお守りできなかった罪がある。ついでに逮捕しろ」
「はっ!」
近衛兵達は王子が王を殺した場面を見ています。
生かしておくのは大変に都合が悪いのです。
貴族達と一緒に死んでもらうつもりです。
「さて・・・魔女を討つ前に、まずは干ばつの責任をとる者が必要だな」
王子は兵を引き連れて神殿に向かいます。
民衆は犠牲の羊を求めていることを、王子は本能的に察していたからです。
王子は自ら責任を取ることは苦手ですが、他人に責任を取らせることにかけては天才的に優れた手腕を発揮している、と言えるかもしれません。
◇ ◇ ◇ ◇
水の神殿は白亜の大理石で作られた瀟洒な建築で王都の中心地にあり、澄んだ美しい湖と緑の景観と癒しを王都の住人に提供してきました。
国中から多くの参拝者や観光客が訪れ、王国が平和な時代には周囲の宿や店舗も多くの人で賑わっていました。
今、その神殿は多くの武装した兵士達に包囲されています。
「で、殿下・・・ご機嫌うるわしゅうございます」
「麗しくはないな。祭司長」
奥の部屋から引きずり出されてきた祭司長は、その肥満した体の両脇を兵士達に挟まれてぶるぶると震えています。
「どうだ?なかなか男前になったであろう?うん?」
「は・・・」
王子が水の聖女の討伐に向かい戦死、と噂になるほどの大敗北を喫したことを王国の上層部は承知しています。右眼の眼帯を近づけられて、硬い義手で軽く顔を叩かれた祭司長は生きた心地がしません。
「それで?雨を降らせることはできんのか?」
「お・・・おそれながら殿下、神殿の神官達は総力を挙げて祈祷の儀式を行っております!」
「だが、現実として雨は降らんし王国の干ばつは続いている。そもそも国難の折りに役立たずなのでは、これまで王国が水の神殿を保護し財政的にも支援してきた全ては無駄であったことになるな」
「お・・・お許しを・・・」
平伏した祭司長に、王子は微笑みを向けます。
「ああ、許すとも。魔女と組んで王国に干ばつの呪いをもたらした、国家に対する反逆の罪も許そう」
「なっ・・・」
「しかし民衆には神殿の罪を知る権利がある。王室からは罪状については詳細に知らせることになるだろう。今のうちに言い訳を考えておくといい」
つまり国家による私刑の扇動です。干ばつをもたらした、などという荒唐無稽な罪で裁判を行うことはできませんから、民衆を扇動して私刑にする、というのです。
「そんなことをすれば、怒り狂った民衆が何をするかわかりません!」
「なに。水の神のご加護があればなんとでもなるだろう。幸い、焼き討ちにあっても消火に困らないだけの水はあろうだろう?」
王子は残った片方の眼を細めて、いびつな笑顔を浮かべたのです。
◇ ◇ ◇ ◇
その日も、あたしは資本家の義務として紅茶を嗜みながら映像歯車で作業の遠隔監視を行っておりました。
「リリア、暇でしたら御柱様が見せたいものがあるそうです」
などと聖女様が仰います。
暇じゃありません、と反射的に言い返したくなりましたが、嘘です。暇です。
そそくさと御柱様のところへ行きますと、床の一部が青く光って、いつかの大砲のように床下から「見せたいもの」とやらがせり上がってきました。
あの時の大砲よりはずいぶんと小さいです。
リンゴを入れる箱ぐらい、でしょうか?
頑張れば大人の男の人なら持ち上げられそうなサイズです。
「ええと・・・これは・・・」
「魔導蒸気推進機関 デアル」
「えー!これがー!?」
あたしの知っている魔導蒸気機関は、列車とか軍艦に使う巨大で黒い鉄の塊のことです。
だんじて、こんな野菜が入ってそうな蟲車に積めそうなサイズの箱ではありません。
「再設計 シタ」
「わー、ちっさーい」
御柱様がちょっと自慢気にしています。これは御柱様が「歯車が荒い」と文句を言っていた魔導蒸気推進機関の小さい版、ということになるでしょうか。
洗濯やお菓子づくりに使えそうな大きさです。
ですが、御柱様の説明を聞いて口から紅茶を吹き出しそうになりました。
「重量 ハ 100分 ノ 1 出力 ハ 5分 ノ 1」
「へ?」
「すごいですね。5基もあれば軍艦も動かせる、と。燃費も良さそうです」
「すごすぎてよくわかりませんけど、洗濯に使ったら服が千切れそうなことはわかります」
「それでね、リリア。御柱様が見せた理由は、この魔導蒸気機関の使いみちを考えて欲しいのだそうです」
「使いみち・・・」
「市井の暮らしに関しては、リリアが一番よく知っているでしょう?私と御柱様は少し世間知らずなところもありますし」
「たしかに・・・いえ、なんでもありません!はい、考えてみます!」
うっかり頷きそうになって慌てて前言を撤回したのです。
「使いみち、ねえ・・・」
なんだかよくわからないうちに、よくわからない宿題をもらいました。
でも、最近は暇だったので少し考えてみるのも面白いかもしれません。
兵士達については、王子が直接に声をかけるだけで、あっさりと集まりました。
農民や戦地で直接指揮下にあった兵士達からの人望は薄い王子ですが、直接に王子を知らない兵士や都市の新興階級達からの支持は依然として高いのです。
貴族達が王の死と王子の所業を政治的理由から公表していなかっったことも悪い方向に働きました。
1000人程の兵士を率いた王子は、事情を知らない王宮警備の兵達に「訓練である」と称して抵抗無く通り抜け、王の間で結論の出ない会議にかまけていた貴族達を、逆に逮捕してしまったのです。
「殿下!これはいったい!」
「で、殿下!どういうおつもりですか!?」
狼狽える貴族達に、王子はうそぶきます。
「もちろん、陛下を殺した大逆犯の逮捕に来たのだよ。陛下のお命を救うには一歩遅かったが、クーデターを阻止できたことは誠に喜ばしい。君たちは大逆罪と国家反逆罪で裁かれることになる。略式裁判で銃殺刑だろうね。安心したまえ。国家の未来は私に託してくれて良い。中庭に連れて行け!」
「ばかな!殿下!お考え直しを!」
「我々は陛下を殺してなどいない!」
慌てた貴族達が立ち上がり、兵士に殴り倒されて連れて行かれるのを王子は愉快そうに見守ります。
「そうだ。近衛兵達も陛下をお守りできなかった罪がある。ついでに逮捕しろ」
「はっ!」
近衛兵達は王子が王を殺した場面を見ています。
生かしておくのは大変に都合が悪いのです。
貴族達と一緒に死んでもらうつもりです。
「さて・・・魔女を討つ前に、まずは干ばつの責任をとる者が必要だな」
王子は兵を引き連れて神殿に向かいます。
民衆は犠牲の羊を求めていることを、王子は本能的に察していたからです。
王子は自ら責任を取ることは苦手ですが、他人に責任を取らせることにかけては天才的に優れた手腕を発揮している、と言えるかもしれません。
◇ ◇ ◇ ◇
水の神殿は白亜の大理石で作られた瀟洒な建築で王都の中心地にあり、澄んだ美しい湖と緑の景観と癒しを王都の住人に提供してきました。
国中から多くの参拝者や観光客が訪れ、王国が平和な時代には周囲の宿や店舗も多くの人で賑わっていました。
今、その神殿は多くの武装した兵士達に包囲されています。
「で、殿下・・・ご機嫌うるわしゅうございます」
「麗しくはないな。祭司長」
奥の部屋から引きずり出されてきた祭司長は、その肥満した体の両脇を兵士達に挟まれてぶるぶると震えています。
「どうだ?なかなか男前になったであろう?うん?」
「は・・・」
王子が水の聖女の討伐に向かい戦死、と噂になるほどの大敗北を喫したことを王国の上層部は承知しています。右眼の眼帯を近づけられて、硬い義手で軽く顔を叩かれた祭司長は生きた心地がしません。
「それで?雨を降らせることはできんのか?」
「お・・・おそれながら殿下、神殿の神官達は総力を挙げて祈祷の儀式を行っております!」
「だが、現実として雨は降らんし王国の干ばつは続いている。そもそも国難の折りに役立たずなのでは、これまで王国が水の神殿を保護し財政的にも支援してきた全ては無駄であったことになるな」
「お・・・お許しを・・・」
平伏した祭司長に、王子は微笑みを向けます。
「ああ、許すとも。魔女と組んで王国に干ばつの呪いをもたらした、国家に対する反逆の罪も許そう」
「なっ・・・」
「しかし民衆には神殿の罪を知る権利がある。王室からは罪状については詳細に知らせることになるだろう。今のうちに言い訳を考えておくといい」
つまり国家による私刑の扇動です。干ばつをもたらした、などという荒唐無稽な罪で裁判を行うことはできませんから、民衆を扇動して私刑にする、というのです。
「そんなことをすれば、怒り狂った民衆が何をするかわかりません!」
「なに。水の神のご加護があればなんとでもなるだろう。幸い、焼き討ちにあっても消火に困らないだけの水はあろうだろう?」
王子は残った片方の眼を細めて、いびつな笑顔を浮かべたのです。
◇ ◇ ◇ ◇
その日も、あたしは資本家の義務として紅茶を嗜みながら映像歯車で作業の遠隔監視を行っておりました。
「リリア、暇でしたら御柱様が見せたいものがあるそうです」
などと聖女様が仰います。
暇じゃありません、と反射的に言い返したくなりましたが、嘘です。暇です。
そそくさと御柱様のところへ行きますと、床の一部が青く光って、いつかの大砲のように床下から「見せたいもの」とやらがせり上がってきました。
あの時の大砲よりはずいぶんと小さいです。
リンゴを入れる箱ぐらい、でしょうか?
頑張れば大人の男の人なら持ち上げられそうなサイズです。
「ええと・・・これは・・・」
「魔導蒸気推進機関 デアル」
「えー!これがー!?」
あたしの知っている魔導蒸気機関は、列車とか軍艦に使う巨大で黒い鉄の塊のことです。
だんじて、こんな野菜が入ってそうな蟲車に積めそうなサイズの箱ではありません。
「再設計 シタ」
「わー、ちっさーい」
御柱様がちょっと自慢気にしています。これは御柱様が「歯車が荒い」と文句を言っていた魔導蒸気推進機関の小さい版、ということになるでしょうか。
洗濯やお菓子づくりに使えそうな大きさです。
ですが、御柱様の説明を聞いて口から紅茶を吹き出しそうになりました。
「重量 ハ 100分 ノ 1 出力 ハ 5分 ノ 1」
「へ?」
「すごいですね。5基もあれば軍艦も動かせる、と。燃費も良さそうです」
「すごすぎてよくわかりませんけど、洗濯に使ったら服が千切れそうなことはわかります」
「それでね、リリア。御柱様が見せた理由は、この魔導蒸気機関の使いみちを考えて欲しいのだそうです」
「使いみち・・・」
「市井の暮らしに関しては、リリアが一番よく知っているでしょう?私と御柱様は少し世間知らずなところもありますし」
「たしかに・・・いえ、なんでもありません!はい、考えてみます!」
うっかり頷きそうになって慌てて前言を撤回したのです。
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