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序章 - 廃墟のリキッド王国 -
7.
しおりを挟むちなみに、食いしん坊なサファが『両方たくさん食べられるけどなぁ』とお腹一杯に詰め込むことを目論んでいるスライムグミとは、スライムを斃したときに得られるドロップアイテムだ。世界中で湧いてくる、誰しもが見慣れている魔物のスライムを一体斃すごとに、ミニトマトを二個合体させたくらいのちょっと大きめな楕円形グミが五粒から十粒ほど手に入る。
ハムハムとじっくり噛んでいるとラムネみたいな甘さを感じるため、子供のおやつ代表格だ。成長に必要な栄養素が揃っていたり寝起きや食後の口腔を綺麗にしてくれたり、他の甘い物に比べて良い点が多く積極的な摂取が推奨されている。
退魔の宝剣を装備できるようになった子供達が、最初に睨み合う対象がスライムとなりやすい理由は負けるような危険が少ないからだけではないのだ。
「くくく、くままぁぁぁ~。……くまっ!?」
両手で口元を押さえ『こっそり食べれば、今度こそバレないよねっ!』とか企んでいたサファが、何かに気付いて驚きの声を上げた。
ちなみに、スライムグミを始めとしたドロップアイテムの魔物食材は、その魔物から受け継ぐように僅かな経験値を有している。王侯貴族や裕福な商人の子供のレベルアップが早かったりするのは、経験値の残る高ランクの魔物食材などを口にする機会が多くなりやすいからだろう。
当然、魔物食材に囲まれたアキトのレベルが、あっという間に同年代を追い越していることにも寄与している。
ちなみに因みに、退魔の宝剣の成長には自身の行動を伴う経験が糧となっているので、魔物を斃すことだけが必須な条件ではない。多種多様な変化を求めるなら方向性を縛り付けない方が良かったりもする。
「ふふ、早速一つ切り分けましたので、これを味見して頑張るとしましょう。サファも頑張れるわよね?」
収穫されたばかりの白銀桃が、クレアによって綺麗に切り分けていた。
堅い白色の種までスパンと切断されているのは、手に持つナイフの威力というよりは彼女の圧倒的技量のせいか。
「くままぁ~! くままぁ~~~!」
四等分された白銀桃の内、右手と左手に一切れずつ美味を受け取ったサファが歓喜の踊りを披露し始めた。
「それじゃあ、スライムグミは次回のおやつにするんだよ?」
「くまっ!」
「大きな獲物を見付けたときは教えて下さいね?」
「くまっ!」
コソッとアキトが思考の誘導を試みたところに、クレアが振り返らないように畳み掛けて隠す。
「スライムを追い掛けて、あんまり遠くまで行っちゃ駄目だからね?」
「くっまくまー!」
器用に種だけ弾き飛ばして、皮ごとがぶっと頬張って空いた左手で『子供扱いするなー!』とサファが抗議をする。
ただし、するりと皮を剥いて今年最初の白銀桃を味わうアキトと同じで、その顔はどう見ても緩みっぱなしである。
「はいはい、じゃあ食べたら散開ぃ~」
狙い通りに指示を出したアキトが《時収納》から木箱を取り出し並べていく。
王都ロックムーンの探索にて保存状態の良い大工道具を見付けて、雨の日にサファとトンカン日曜大工してみた作品なので、少々歪んでしまっているのはご愛嬌。
ちなみに、サファとクレアが使う《収納》とアキトが使った《時収納》には、時間の経過による状態の変化が起こるかどうかの違いがある。マナポイントの総量に応じて収納可能な量が増減するところは同じだ。
空魔法の中級ランクの《収納》と上級ランクの《時収納》では、時間の影響を排除してしまえる方が当然難しく、使い手も圧倒的に少ない。常温放置でも十年くらいは平気で食べられる特殊食材スライムグミを除いて、刻々と変化する《収納》は使い手による中身のチェックが必須だ。
ときどき、最初の分からない物体Xが発掘されては騒動となるのだから。
ちなみに因みに、空魔法には長距離移動を楽にする《転移門》や自分が飛べるようになる《飛翔》という魔法も存在しており、いつの日か大空を自由自在に翔ることを夢見ているアキトである。
「今年はたくさん収穫できそうで良かったですね」
「だね~、翡翠梅も思っていた以上に多かったし、丁度そういう年なのかもね」
慣れた手付きで熟れた実からクレアが収穫して、それを受け取って傷付かないようにアキト木箱へが並べていく。
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