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一章 - 満開のアキツベル公爵領 -

25.

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「おーい、二人とも! このあとお世話になるみたいだし、改めてクレア達の紹介をするよー」

 話を進めるため手招きしようとアキトが顔を向けたところ、スライムグミを胃袋に収めたサファがひらひらと飛んできた黄色い蝶々を追い掛け始めていた。

「アキト様に怒られておやつ抜きとならないように、駆け足ですよ!」
「くままー!」

 少しずつ離れていく行動だったサファに、クレアが急かすように声を掛けて後ろへ回った。
 そのとき、両手をふりふり跳ねる白熊から目を移したジャックが、ほがらかな笑みで早歩きする彼女の服装が変わっていることに気が付く。

「あれ? 彼女の鎧は……?」
「魔物もいなくなったしー」
「いや、アキトの言いたいことも分かるが、いつの間に着替えたんだよ……?」
「うわぁ、女性の着替えを覗きたいとか、ジャックゥ~」
「んなっ!? ち、ちがっ、違うぞっ!!」

 野郎二人から向けられたその思考は駄目だろうという無言の圧力に、からかわれていると分かっていても慌てたジャックが大きな声で否定する。

「ぷふ、慌てすぎだよぉ~」

 空色のフリルブラウスや藍色のフレアスカートの上に着用していた金属鎧の装備を脱いでいるところだけなら、ジーッとガン見し続けなければセーフ、だろうか。

「くまっ!」
「お待たせしました」

 にひひと意地悪な笑みを浮かべていたアキトが、先着したサファを抱き抱えながら紹介を始める。

「このふわっふわな子がハニーベアのサファだよ。さっきは言わなかったけど、僕が契約している守護の精霊だから、一般には聖獣タイプと呼ばれているみたいだね」
「まっ!」
「……へ?」

 アキトの話に合わせて『よっ!』と右手を挙げたサファの挨拶に、ジャックが驚きの表情を返した。

「それから、こっちのどこか良家のご令嬢と間違えそうな女性が神聖騎士のクレアだよ。同じく、僕が契約している守護の精霊で、英雄タイプと呼ばれているらしいね」
「クレア・ヴァルキアと申します」
「おいおい、マジかよぉ~……」

 若干、優美なクレアの微笑みに見惚れつつ、ジャックの驚きはより深くなる。
 英雄タイプの契約者が現れたとき、その多くが大なり小なり物語として活躍が後世に伝えられてきた。幼少期にそんな数々の冒険譚に憧れを抱いた者として、そうなり得る人物を目の前にして驚くなと言う方が無理だろうか。

(ぅええぇ~……、黎明の聖騎士っていうのは何度も耳にしたことあるけど、彼女の神聖騎士ってどうなんだー? えー、言葉の感じから考えちまうと絶対に上位互換な精霊だよなぁ……、ええぇ~)

 絶賛混乱中のジャックがちらりと視線を飛ばしたクラウスはクラウスで、頼りにしたい副団長ですら側に寄るほど分からされてしまう圧倒的強者を前にした空気感に息を呑んでいた。そして、恐ろしいほど稀有けうな存在と契約しているにも関わらず、その力量を測らせてくれない普通に見えてしまう青年をますます不可思議な存在に映していた。

「それでぇ――……。……あー、こちらの男性がアキツベル公爵領の護衛騎士団ってところで、大変な副団長を務められているクラウスさん」

 それとなく察していたはずのクラウスすら動きを見せないことから、抱えたサファを下ろしたアキトがサクッと紹介を終えることにした。

「それから、こちらの男性が、このあとアキツベルグの街まで案内してくれることになった、騎士のジャックさん」
「よろしくお願いします」
「くーまーま」

 クレアの真似をして、サファまで両手を揃えて頭を下げたところで『ええ』とか『ああ』とか反応して、騎士二人も慌てたようにぺこりぺこりと頭を下げ始めた。
 普段は冷静沈着な副団長が慌てている貴重な姿を横目に、ちょっとだけジャックは動揺が収まっていく気がした。

「それでね、クレアの見た目の変化をジャックさんが気になったみたいだから、もう一度鎧姿になってみてよ」
「分かりました」

 クレアが右足を動かし肩幅ほど開いた姿勢を取ると、ふわりふわりと発光体が彼女を覆い始める。そして、先程全身に纏っていた穏やかな白銀色の金属鎧へ、緩やかに塗り替えられていく。
 サファの戦いを見守っていた姿と異なっているところは、右手に握られた剣の先が地面を向いていること、その剣を収めていた鞘が腰に現れたこと、左手に鎧とお揃いの白銀色に青色装飾のカイトシールドが装備されている。
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