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変化
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琉生が高校に入学して一年が過ぎた。
「琉生。最近顔色が良くないけど大丈夫?」
ある朝、朝ご飯を食べていると咲愛が琉生にそう尋ねた。琉生はここのところ食欲がなく、少し痩せていている気がした。
「なんでもない、勉強と部活が忙しくてさ」
「無理しなくても良いんだよ?」
杏子もそんな時期があり。嫌になった時期もたくさんあった。でもその都度友達が支えてくれて何度もどん底に落ちた杏子を引き上げてくれた。琉生にもそんな友達がいるものだと思っていた。
「分かっているよ。行ってきます」
「え?そんな時間?私も行ってきます!待って琉生!」
二人の食べ終わった皿を洗いながら琉生はなにか隠していることを確信している咲愛。でもその事をどう聞き出したら良いのか悩んでいた。
「おはよう」
昌太郎が今日は特別に遅番でシャワーを浴びて脱衣所からダイニングの方に歩いてくる。
「あ。あなた、実は・・・・・・」
***
「琉生!琉生ってば」
「ん?どうしたの?姉ちゃん」
「母さんに隠し事はしても、私達は隠し事しないって約束だったでしょ?」
「あ、そっか。うん、まぁ学校でちょっと上手く行ってなくてさ、二年に上がるときに就職組と進学組でクラス替えがあったんだけど、そのクラス替えで苦手な奴が居てさ、ちょっと行きづらくて」
知らなかった。琉生がこんな事を思っていたなんて。杏子は琉生の変化には気付いていたけど、始めて聞いた話でちょっと何てアドバイスしたら良いか、何が琉生の求めている答えなのかちょっとどうしたら良いのか上手い言葉が見つからなかった。
「琉生はどうしたい?」
思わず。口に出した台詞はそれだった。
「俺?俺は出来れば学校行きたくない。でも父さんも母さんも多分それは望んでないと思うから、言えなくて」
思い詰めた様子に杏子は琉生に嫌な思いさせている子に文句言いたくなったが、学校に親ではなく姉が乗り込むってどういうシチュエーションなんだ?と心の中で自問自答した。しかもそれは琉生も多分望んでいない。後先考えず行動するのは社会人として良くないかもって理性が働いてしまう。
「今日は学校行けそう?」
「学校には行く、でも出来ればソイツと会いたくないから、どうしようかな?って思っているんだよね。でも保健室の先生がとってもいい人で相談したらいつでもおいでって言ってくれた!」
穏やかに笑う弟が可愛くて。つくづく自分はブラコンなのかもって思う杏子であった。
「じゃ、俺こっちの道だから。姉ちゃんも無理すんなよ?何かあったら聞くからな?」
「ありがとう」
そして二人は分かれた。琉生は通学路の道を高校方面に、杏子は駅方面に歩いて行った。
***
「琉生!おはよう!」
親友の声がした。琉生は後ろを振り替えるとクラス替えで違うクラスになった小学校から一緒の親友が声をかけてきて琉生の方に走ってくる。
「あ、おはよう。佑樹」
「朝練無かったのか?」
「今、部活は休部しているから」
これは杏子にも言えていない話だ。琉生の部活は陸上部。琉生は小学校の頃から足が速かった。佑樹は野球部だったし、琉生も小・中学校の頃は野球部だったから佑樹とは腐れ縁もあるのだろう。高校に入り足の速さに目を付けていた陸上部顧問に声をかけられた。足が速い上に野球で鍛えた肩があるため琉生は一年で唯一の十種競技の選手として大会にも出て全県入賞を納めるほどの実力があった。決して才能ではなく琉生が今まで努力してきたからなしえた結果だった。
これからを期待されていた選手。良く思わない一年生もいた。でも気にはならなかった。傲っていた訳でもないが、自分は努力したからそこに居るものだと思っていたから。傲慢な態度もとったこと無いと記憶しているし。
「あー、アイツか?森山か?」
「まぁそんなとこ」
森山と呼ばれた男子生徒が琉生の苦手としている生徒だった。森山は陸上部の中距離選手でちょいちょい喧嘩腰で話し方もキツい生徒だった。陸上部で彼の事を苦手ではない生徒は居ないほどだった。
「しかもクラス一緒になったし席近いんだろ?そりゃ誰だって嫌だわ」
「まぁな、俺今日もまっすぐ保健室行くわ森山の隣に居ると胃痛するし」
「昼飯!保健室行くわ弁当分けてくれ」
「いいぜ」
「じゃーなー!」
保健室は二階にあるが職員室方面にあり、琉生の教室も二階だが教室とは反対方面にあるため階段の所で二人は分かれた。
「夏目くん。おはよう」
「おはようございます、速水先生」
「今日も居ますよね?」
「ダメですか?」
「いえいえ。新しい紅茶の試飲会しませんか?勉強しながら」
速水と呼んだ保健医は四十代前半くらいの女性で以前から話し相手と紅茶したいと思っていた。琉生がSOSを求めてきた時
『しばらく、保健室通いでも良いから学校には来なさい?』
そういって琉生に居場所を与えてくれた大恩人でもある。案の定琉生は一応学校には来ている。森山が選択していない移動教室はちゃんと参加しようと言う意思もある。まだ教室も戻ると言う段階ではないだけだ。
「紅茶そんなに詳しくないですよ?」
「いいの!いいの!私がブレンドした紅茶が美味しいか不味いか訊きたいだけだから」
にこにことサボらせるのを楽しんでいる。速水が琉生は安心した。ありがたい心底そう思った。
***
「う~ん、前より香りが良いように感じます」
紅茶を試飲した琉生が言う。紅茶の知識なんてない生徒に自分の独自の配合の茶葉で紅茶を淹れる速水。猫舌の琉生は少しふぅふぅと冷まして少し紅茶を口に含み溢れる茶葉の香りを感じていた。
「そっか夏目くんはこっちの紅茶が好みなのね」
何かメモ帳を開いて何か書きフムフムと納得している。
「いや!メモらないで下さい!俺、素人なので全然紅茶なんて分からないので」
「なに言っているの素人でも美味しいっていう配合を目指している私からしたら素人の夏目くんが一番の適合者よ!」
なんか『素人』と連呼されると落ち込むが実際素人なんだから少しでも速水の趣味に付き合って、ここに置いて貰えれば・・・・・・。と思ってしまう。どうせ自分の居場所なんてどこにもないんんだから。
もうどこにも
「いてっ!なんですか?いきなり!」
「夏目くん。今。自分の居場所なんてどこにも無いって思っていたでしょう!」
「え?」
「顔に出やすいわね。あのね?夏目くんは居場所がないって思っていても、生きている限りちゃんとそこにいると言うことが証明されているから、そこが居場所なのよ?ここでも良い、福地くんの隣でも良い、家族の誰かでも良いそこが居場所なんだよ?」
小突かれたおでこを撫でているとその言葉が飛んできて。呆気にとられ同時になぜか安心した。
大丈夫。俺はここにいる。
「ほら!ホームルームも終わった頃だろうから勉強してね?」
「あ、はい。速水先生、」
「なに?」
「ありがとうございます」
既に速水の身長を超えていた琉生は頭を下げて礼を言った。すると速水が近付いてきて下げた頭に手を乗せてポンポンとしてくれた。
「お礼なんか要らないから、夏目くんが苦しんでいるのはみんな分かっていることだよ?」
「~~~っ」
涙が潤んできたが留めた。まさか自分がこんなに弱くなるなんて思ってみなかったが、弱くても良い。逃げても良いんだって言われたみたいで本当に嬉しかった。
「ほら!頭上げて!教科書持ってきたでしょ?」
「はい!」
***
お昼休みになると購買に人集りが出来なかなかお目当てのパンを買えないものだから四時限目が終わる少し前になると佑樹に言われていたパンを買いに走る琉生。
歩いていると中で四時限目が終わり、生徒が走る音が聴こえてくる。
「カツサンドと特性メロンパン一個ずつ」
「はいよ三百円ね」
小銭を渡してパンを受けとる。琉生が立ち去ると一番速い生徒が購買に着く。パンは佑樹のものなのだが佑樹が行くより速くて確実なため佑樹はパンを買うときはいつも琉生に頼んでいる。
まぁこの荒業は琉生が四時限目に出ていないと言うことが必須条件なのだが。
「おかえりー」
「ただいま。ほら、いつもの奴」
「サンキュー!やっぱパンはカツサンドと特性メロンパンに限るわ」
バリッとメロンパンの袋を破いて口一杯に頬張る。琉生はいつものように曲げわっぱに納められた弁当を開け箸を箸箱から出し、ゆっくりと口の中におかずを運ぶ。
「いつ見ても愛情感じるお弁当ね」
「え?こんなもんじゃないですか?」
「る~い~!弁当の無い俺の前で言う台詞か~!」
半泣きの佑樹に「ごめんって」と謝る琉生。速水も一応弁当を詰めてくるのだが。前の日にスーパーで買った惣菜がそのまま入っていて自分で詰めるのは白米だけどと言うザ☆手抜き弁当だ。
「厚焼き玉子一個やるからチャラな?」
「仕方ねぇ。琉生の母さんの玉子焼きに免じて許してやる!」
「あははっ!なんだよそれ」
暫くそんな文言を繰り返し。琉生も良く笑って速水は佑樹の存在が琉生にとても良い影響を与えているなっと温かい目で見ていた。
「な!なぁ、琉生」
「なんだ?」
琉生が麦茶を飲んでいると佑樹が口を開く。その表情は真剣な眼差しに変わっていて、琉生も真面目な顔をして佑樹の方を向き話を聞こうとする。
「俺の妹知っているだろう?」
「ああ、佑依ちゃんだろ?知っているよ、最近は近況知らねぇから分からんけど」
佑樹には妹がいた。佑樹の三つ下で今中学三年生で来年には高校受験を控えている。
「佑依ちゃんなんか遭ったのか?」
琉生は佑依の事は知っているが。佑樹の家に遊びに行った時とか小学生の頃一緒に遊んだことがある程度だ。しかも高校に入学してから遊びに行ったときも元気そうだった。
「実はアイツ、付き合ってた男子に一方的にフラれて今、その、」
「なんだよ、ちゃんと言えよ!」
「じ、自傷行為ってのしてるんだ」
「え?」
自傷行為ってリストカットの事?自分で手首切る奴だろ?と琉生の頭を巡る。
「なんで知ってるんだ?証拠あるのか?」
「見たんだ!夜中風呂場で、その、切るとこ・・・・・・」
「そ、っかぁ、」
あんなに明るく振る舞っている佑樹なのに。佑依が自傷しているなんてそんな素振り見せなかったのに、自分だけ辛いみたいな事している琉生は唇をグッと噛み締めた。
「そ、その佑依ちゃん。ビョーインとか、行かねぇの?そういうカウンセリング的なの」
「佑依が部屋からトイレと風呂以外出て来ないんだ!学校にも行ってないし!食事は部屋の前置いとくと食べている様子だから食べいるんだけど、俺なんて声かければ良いか分からなくて」
「うんうん」
「琉生、今度の休みとか家に来てくんね?琉生が居れば出てくる気がする」
「行っても良いけど、ホントに俺で良いのか?」
そういう専門の知識がある訳じゃない。身近にそんな精神的に苦しんでいるのもいない。まぁ今それで自分がどういう感じなのか分からないのだが。
「琉生にしか頼めない、『せめて食事くらい一緒に食べよう』って伝えて欲しい、『誰も佑依を責めているわけじゃ無い』ことも」
親友の必死な頼みに琉生はゆっくり口を開いた。
「任せろって大きな事は言えないけど、やってみるよ!」
「ありがとな、助かる、」
佑樹は自分の妹が昔から一番可愛いと思う節があり。癖は強いが心の内に入ると心強く本当に頼りになる奴なんだよ。ってのは今まで何度も琉生も実感している。その佑樹の頼みならなんでも聞こうと思っていたことだ。
「じゃ!今度の週末な?俺も部活休むからな!」
「それは任せるけど、俺一人で行くより良いなら好きにした方良いよ」
五時限目の鐘がなりその前に佑樹は去っていく。その顔はどこかホッとした様子で。本当に悩んでいたことなんだろうと持った。
「夏目くん」
「なんですか?」
「大丈夫か?」
「佑依ちゃんは放っておけないので頑張ります!」
「違うよ?君がだよ!君が!」
「え?」
「そんなに震えて、大丈夫?」
震えていた?俺が?と自分の手を見やる、カタカタと俄に震えていた。額には汗が滲みまるで真夏に外に居たかの様にじわりと湿っていた。
今は春で、桜が終わった頃だが夏ではない。過ごしやすい日々が続いていた中の一コマだった。
「琉生。最近顔色が良くないけど大丈夫?」
ある朝、朝ご飯を食べていると咲愛が琉生にそう尋ねた。琉生はここのところ食欲がなく、少し痩せていている気がした。
「なんでもない、勉強と部活が忙しくてさ」
「無理しなくても良いんだよ?」
杏子もそんな時期があり。嫌になった時期もたくさんあった。でもその都度友達が支えてくれて何度もどん底に落ちた杏子を引き上げてくれた。琉生にもそんな友達がいるものだと思っていた。
「分かっているよ。行ってきます」
「え?そんな時間?私も行ってきます!待って琉生!」
二人の食べ終わった皿を洗いながら琉生はなにか隠していることを確信している咲愛。でもその事をどう聞き出したら良いのか悩んでいた。
「おはよう」
昌太郎が今日は特別に遅番でシャワーを浴びて脱衣所からダイニングの方に歩いてくる。
「あ。あなた、実は・・・・・・」
***
「琉生!琉生ってば」
「ん?どうしたの?姉ちゃん」
「母さんに隠し事はしても、私達は隠し事しないって約束だったでしょ?」
「あ、そっか。うん、まぁ学校でちょっと上手く行ってなくてさ、二年に上がるときに就職組と進学組でクラス替えがあったんだけど、そのクラス替えで苦手な奴が居てさ、ちょっと行きづらくて」
知らなかった。琉生がこんな事を思っていたなんて。杏子は琉生の変化には気付いていたけど、始めて聞いた話でちょっと何てアドバイスしたら良いか、何が琉生の求めている答えなのかちょっとどうしたら良いのか上手い言葉が見つからなかった。
「琉生はどうしたい?」
思わず。口に出した台詞はそれだった。
「俺?俺は出来れば学校行きたくない。でも父さんも母さんも多分それは望んでないと思うから、言えなくて」
思い詰めた様子に杏子は琉生に嫌な思いさせている子に文句言いたくなったが、学校に親ではなく姉が乗り込むってどういうシチュエーションなんだ?と心の中で自問自答した。しかもそれは琉生も多分望んでいない。後先考えず行動するのは社会人として良くないかもって理性が働いてしまう。
「今日は学校行けそう?」
「学校には行く、でも出来ればソイツと会いたくないから、どうしようかな?って思っているんだよね。でも保健室の先生がとってもいい人で相談したらいつでもおいでって言ってくれた!」
穏やかに笑う弟が可愛くて。つくづく自分はブラコンなのかもって思う杏子であった。
「じゃ、俺こっちの道だから。姉ちゃんも無理すんなよ?何かあったら聞くからな?」
「ありがとう」
そして二人は分かれた。琉生は通学路の道を高校方面に、杏子は駅方面に歩いて行った。
***
「琉生!おはよう!」
親友の声がした。琉生は後ろを振り替えるとクラス替えで違うクラスになった小学校から一緒の親友が声をかけてきて琉生の方に走ってくる。
「あ、おはよう。佑樹」
「朝練無かったのか?」
「今、部活は休部しているから」
これは杏子にも言えていない話だ。琉生の部活は陸上部。琉生は小学校の頃から足が速かった。佑樹は野球部だったし、琉生も小・中学校の頃は野球部だったから佑樹とは腐れ縁もあるのだろう。高校に入り足の速さに目を付けていた陸上部顧問に声をかけられた。足が速い上に野球で鍛えた肩があるため琉生は一年で唯一の十種競技の選手として大会にも出て全県入賞を納めるほどの実力があった。決して才能ではなく琉生が今まで努力してきたからなしえた結果だった。
これからを期待されていた選手。良く思わない一年生もいた。でも気にはならなかった。傲っていた訳でもないが、自分は努力したからそこに居るものだと思っていたから。傲慢な態度もとったこと無いと記憶しているし。
「あー、アイツか?森山か?」
「まぁそんなとこ」
森山と呼ばれた男子生徒が琉生の苦手としている生徒だった。森山は陸上部の中距離選手でちょいちょい喧嘩腰で話し方もキツい生徒だった。陸上部で彼の事を苦手ではない生徒は居ないほどだった。
「しかもクラス一緒になったし席近いんだろ?そりゃ誰だって嫌だわ」
「まぁな、俺今日もまっすぐ保健室行くわ森山の隣に居ると胃痛するし」
「昼飯!保健室行くわ弁当分けてくれ」
「いいぜ」
「じゃーなー!」
保健室は二階にあるが職員室方面にあり、琉生の教室も二階だが教室とは反対方面にあるため階段の所で二人は分かれた。
「夏目くん。おはよう」
「おはようございます、速水先生」
「今日も居ますよね?」
「ダメですか?」
「いえいえ。新しい紅茶の試飲会しませんか?勉強しながら」
速水と呼んだ保健医は四十代前半くらいの女性で以前から話し相手と紅茶したいと思っていた。琉生がSOSを求めてきた時
『しばらく、保健室通いでも良いから学校には来なさい?』
そういって琉生に居場所を与えてくれた大恩人でもある。案の定琉生は一応学校には来ている。森山が選択していない移動教室はちゃんと参加しようと言う意思もある。まだ教室も戻ると言う段階ではないだけだ。
「紅茶そんなに詳しくないですよ?」
「いいの!いいの!私がブレンドした紅茶が美味しいか不味いか訊きたいだけだから」
にこにことサボらせるのを楽しんでいる。速水が琉生は安心した。ありがたい心底そう思った。
***
「う~ん、前より香りが良いように感じます」
紅茶を試飲した琉生が言う。紅茶の知識なんてない生徒に自分の独自の配合の茶葉で紅茶を淹れる速水。猫舌の琉生は少しふぅふぅと冷まして少し紅茶を口に含み溢れる茶葉の香りを感じていた。
「そっか夏目くんはこっちの紅茶が好みなのね」
何かメモ帳を開いて何か書きフムフムと納得している。
「いや!メモらないで下さい!俺、素人なので全然紅茶なんて分からないので」
「なに言っているの素人でも美味しいっていう配合を目指している私からしたら素人の夏目くんが一番の適合者よ!」
なんか『素人』と連呼されると落ち込むが実際素人なんだから少しでも速水の趣味に付き合って、ここに置いて貰えれば・・・・・・。と思ってしまう。どうせ自分の居場所なんてどこにもないんんだから。
もうどこにも
「いてっ!なんですか?いきなり!」
「夏目くん。今。自分の居場所なんてどこにも無いって思っていたでしょう!」
「え?」
「顔に出やすいわね。あのね?夏目くんは居場所がないって思っていても、生きている限りちゃんとそこにいると言うことが証明されているから、そこが居場所なのよ?ここでも良い、福地くんの隣でも良い、家族の誰かでも良いそこが居場所なんだよ?」
小突かれたおでこを撫でているとその言葉が飛んできて。呆気にとられ同時になぜか安心した。
大丈夫。俺はここにいる。
「ほら!ホームルームも終わった頃だろうから勉強してね?」
「あ、はい。速水先生、」
「なに?」
「ありがとうございます」
既に速水の身長を超えていた琉生は頭を下げて礼を言った。すると速水が近付いてきて下げた頭に手を乗せてポンポンとしてくれた。
「お礼なんか要らないから、夏目くんが苦しんでいるのはみんな分かっていることだよ?」
「~~~っ」
涙が潤んできたが留めた。まさか自分がこんなに弱くなるなんて思ってみなかったが、弱くても良い。逃げても良いんだって言われたみたいで本当に嬉しかった。
「ほら!頭上げて!教科書持ってきたでしょ?」
「はい!」
***
お昼休みになると購買に人集りが出来なかなかお目当てのパンを買えないものだから四時限目が終わる少し前になると佑樹に言われていたパンを買いに走る琉生。
歩いていると中で四時限目が終わり、生徒が走る音が聴こえてくる。
「カツサンドと特性メロンパン一個ずつ」
「はいよ三百円ね」
小銭を渡してパンを受けとる。琉生が立ち去ると一番速い生徒が購買に着く。パンは佑樹のものなのだが佑樹が行くより速くて確実なため佑樹はパンを買うときはいつも琉生に頼んでいる。
まぁこの荒業は琉生が四時限目に出ていないと言うことが必須条件なのだが。
「おかえりー」
「ただいま。ほら、いつもの奴」
「サンキュー!やっぱパンはカツサンドと特性メロンパンに限るわ」
バリッとメロンパンの袋を破いて口一杯に頬張る。琉生はいつものように曲げわっぱに納められた弁当を開け箸を箸箱から出し、ゆっくりと口の中におかずを運ぶ。
「いつ見ても愛情感じるお弁当ね」
「え?こんなもんじゃないですか?」
「る~い~!弁当の無い俺の前で言う台詞か~!」
半泣きの佑樹に「ごめんって」と謝る琉生。速水も一応弁当を詰めてくるのだが。前の日にスーパーで買った惣菜がそのまま入っていて自分で詰めるのは白米だけどと言うザ☆手抜き弁当だ。
「厚焼き玉子一個やるからチャラな?」
「仕方ねぇ。琉生の母さんの玉子焼きに免じて許してやる!」
「あははっ!なんだよそれ」
暫くそんな文言を繰り返し。琉生も良く笑って速水は佑樹の存在が琉生にとても良い影響を与えているなっと温かい目で見ていた。
「な!なぁ、琉生」
「なんだ?」
琉生が麦茶を飲んでいると佑樹が口を開く。その表情は真剣な眼差しに変わっていて、琉生も真面目な顔をして佑樹の方を向き話を聞こうとする。
「俺の妹知っているだろう?」
「ああ、佑依ちゃんだろ?知っているよ、最近は近況知らねぇから分からんけど」
佑樹には妹がいた。佑樹の三つ下で今中学三年生で来年には高校受験を控えている。
「佑依ちゃんなんか遭ったのか?」
琉生は佑依の事は知っているが。佑樹の家に遊びに行った時とか小学生の頃一緒に遊んだことがある程度だ。しかも高校に入学してから遊びに行ったときも元気そうだった。
「実はアイツ、付き合ってた男子に一方的にフラれて今、その、」
「なんだよ、ちゃんと言えよ!」
「じ、自傷行為ってのしてるんだ」
「え?」
自傷行為ってリストカットの事?自分で手首切る奴だろ?と琉生の頭を巡る。
「なんで知ってるんだ?証拠あるのか?」
「見たんだ!夜中風呂場で、その、切るとこ・・・・・・」
「そ、っかぁ、」
あんなに明るく振る舞っている佑樹なのに。佑依が自傷しているなんてそんな素振り見せなかったのに、自分だけ辛いみたいな事している琉生は唇をグッと噛み締めた。
「そ、その佑依ちゃん。ビョーインとか、行かねぇの?そういうカウンセリング的なの」
「佑依が部屋からトイレと風呂以外出て来ないんだ!学校にも行ってないし!食事は部屋の前置いとくと食べている様子だから食べいるんだけど、俺なんて声かければ良いか分からなくて」
「うんうん」
「琉生、今度の休みとか家に来てくんね?琉生が居れば出てくる気がする」
「行っても良いけど、ホントに俺で良いのか?」
そういう専門の知識がある訳じゃない。身近にそんな精神的に苦しんでいるのもいない。まぁ今それで自分がどういう感じなのか分からないのだが。
「琉生にしか頼めない、『せめて食事くらい一緒に食べよう』って伝えて欲しい、『誰も佑依を責めているわけじゃ無い』ことも」
親友の必死な頼みに琉生はゆっくり口を開いた。
「任せろって大きな事は言えないけど、やってみるよ!」
「ありがとな、助かる、」
佑樹は自分の妹が昔から一番可愛いと思う節があり。癖は強いが心の内に入ると心強く本当に頼りになる奴なんだよ。ってのは今まで何度も琉生も実感している。その佑樹の頼みならなんでも聞こうと思っていたことだ。
「じゃ!今度の週末な?俺も部活休むからな!」
「それは任せるけど、俺一人で行くより良いなら好きにした方良いよ」
五時限目の鐘がなりその前に佑樹は去っていく。その顔はどこかホッとした様子で。本当に悩んでいたことなんだろうと持った。
「夏目くん」
「なんですか?」
「大丈夫か?」
「佑依ちゃんは放っておけないので頑張ります!」
「違うよ?君がだよ!君が!」
「え?」
「そんなに震えて、大丈夫?」
震えていた?俺が?と自分の手を見やる、カタカタと俄に震えていた。額には汗が滲みまるで真夏に外に居たかの様にじわりと湿っていた。
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