Holonic 〜百鬼夜行と僕との調和された世界〜

阿弥陀ヶ峰 風月

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2章 夢を見ましょうか

24話 夢遊空間にて

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 夢の中へ入る方法。


 写真でも良いので、本人の姿や顔のわかるものがあれば、そこから指定した者の夢の世界へ入れるらしい。
 僕はスマホで以前撮影したクラスの友達が数人写っている写真を枕返しに見せた。

 「この写真でも大丈夫かな?」
 
 「コイツがその坂口か?これだけ顔が見えりゃ問題ないぜ」

 「それじゃ今から行けるのか?」

 「行けるが、1人はここで留守番だ。全員があっちに行ってる間はこっちが完全に無防備だ、夢に誘き寄せてから本体を狙うってトラップパターンもあるから気を付けないとな」

 さすが餅は餅屋といったところか、先輩が枕返しを頼った意味がよくわかる。
 そして、その1人の留守番というのは誰がするのか?

 「それじゃ私が残るとするかねぇ。人の夢なんかに興味もないし。ここは咲に譲るから山姥は私が貰おうか」

 留守番は妖狐が務めることになった。
 夢の中には僕と、先輩、枕返しの3名で行くことになった。

 「それじゃ、俺の肩にでも手を当てろや。一瞬で夢遊空間に飛ぶぜ」

 僕と先輩は枕返しの肩に手を当てた。

 「氷花さん、少しの時間僕たちの身体をよろしくお願いします」

 「あぁ」

 「行くぜ!」

 枕返しがスマホに映る坂口くんへ指を当てた瞬間に、僕の意識はどこかに吸い込まれた。
 すごいスピードで意識がどこかに向かっていることがわかる。
 しかし、それは一瞬で次には見覚えのある景色が目に入った。
 
 それは前後左右上中下、全てを見渡して真っ暗な空間。
 事故で意識を失い、初めて天狗と出会った場所だ。
 そうかここは夢遊空間という場所だったのか、意識を失った者が来られる場所なのだろう。

 「やっぱり、先客が俺らの侵入を拒んでやがるぜ」

 「サキュバスか?」

 「何かいますね」

 真っ暗な空間の中、黒いシルクハットと黒いマントに身を包んだ者がこちらを向いて立っている。
 顔は白地に黒い目と口のみが笑っている、ホラーマスクのような仮面を被っている。
 そいつは僕たちに向かってつぶやいた。
 
 夢を見ましょうか?
 どんな夢がお望みでしょうか?
 ご希望がございましたら何なりとお申し付けください。

 ここは夢の中。
 どんな事だって思いのままです。
 好きな人とのデート。
 テーマパークで1日中友達と遊ぶ。
 スーパーヒーローになって悪人を倒す……等々お好きな内容で夢が見られます。

 「おい、夢の番人かよ?」

 「おやおや、枕返しではないですか?」
 
 「なんでお前がこんなところにいやがる?」

 「ふふふ、それはこちらのセリフだよ」
 
 夢の番人?サキュバスではないのか?
 互い顔見知りである2人は話しながらも、どこか警戒しあっている。
 僕は我慢ができず、口を挟んだ。
 
 「あなたが坂口くんにサキュバスを取り付かせた化け物ですか?」
 
 「そうだとしたら?」
 
 「すぐに解除してもらいたい」

 「……」

 夢の番人は仮面のせいで表情が読めない。
 なにを考えているのか、まったくわからない。
 枕返しは、冷静な眼差しで夢の番人を見つめている。

 「こちらの要望を聞く気はないのでしょうか?」

 先輩も続けて質問を投げかけた。

 「そうだな……聞く気はない」

 「!!」

 「この呪いの解除は不可。呪われている本人のみが解除できる呪い。外部から解除する方法がない呪いなのだ」

 己の意思のみで解除ができる呪い?外部から解除する方法がない?なにを無茶苦茶なことを言っているのか。
 こいつはここで倒すべきなのではないのか?
 
 「何とかしてもらいたい!」

 「無理だ」

 僕はさとりの眼と全身に鳳凰の妖力を解放した。

 「おい!人間!戦うなと約束したろうが!」

 「火鳥くん!いけません!まだ話し合いの途中です」

 さとりの眼で見る夢の番人からは感情を読み取れず、妖気的な物を一切感じない。
 そして、なぜか解放した鳳凰の力が、かき消されたかのように落ち着いた。
 
 「煉、ここは夢遊空間だ。こちら側と相手も全ての陰陽術が無効にされる。無駄な力は使うな、冷静になるのだ」
 
 右手の鳳凰が姿を現した。

 「夢の番人よ、夢の化け物同志のよしみで、訳を聞かせてもらえんのか?」

 枕返しは食い下がった。

 「枕返し、こればかりはお主の頼みでも無理なのだ。察してくれ」

 「……」

 「察っすれるわけないだろ!」

 冷静さを失っている僕の一歩前に枕返しが出て制止した。
 枕返しは何かを察したかのように話し始めた。

 「呪いの設定が回りくどいよな。殺すなら普通に呪い殺せば良いだけだ、そこにわざわざサキュバス使って生気を搾り取って殺すなんて効率が悪すぎるぜ。それに解除方法がなく、解除できるのは呪われた本人の意思だけってのはなかなか聞かねぇ代物だ」

 「枕返し、どういうことでしょうか?わかりやすく私たちにも説明していただけませんか?」

 「さぁな、さすがに情報が少なすぎてわからんが、坂口って奴を確実に殺すための呪いだな。夢の中の呪いなら誰にも邪魔されない、しかし万が一今回のように邪魔されても解除方法がなく、時間がかかってでも呪いを成就させるように準備されている」
 
 「……」

 「察してくれか……呪い主は誰だ?呪い主はすでに死んでるのか?訳も言えねぇってことは……」

 「枕返し、もう良いだろう」

 「そいつに正夢の術を使わせたな?」

 夢の番人の動きが止まった。
 枕返しが真を突いたのだろうか。
 それから、夢の番人は一言も発しなくなった。
 何より、正夢の術とか何なのだろうか?

 「引き返してくれ、枕返し。私はお前たちの希望は聞けない、実力行使に出てもここは戦闘が不可能な空間だ」

 「呪いを解除するまで引き返せるものか!」

 僕は必死に食らいついた。こいつのせいで彼は苦しんでいるのだから。
 何が何でも引き下がらない。

 「人間よ、不思議な眼を持つ人間よ。お前はその眼であの人間の何を見た?」
 
 「何だと!」

 「あの人間とは知り合いか友人なのだろうな。お前は己の眼とその不思議な眼で真実を見ようとしたことがあるのか?」

 枕返しが僕の腕を掴んだ。
 先輩も戦闘をするつもりはまったくないようで、僕のシャツを掴んで離さない。
 
 「おい、戻るぞ」
 
 「僕は戻らない」

 「バッカ!意地張ってんなよ!ここでできることはもうねぇよ。正夢の術が発動されてるんだ。もう止められん」

 「さっきから何なんだよ?その正夢の術って!」

 枕返しは僕を落ち着かせるため、正夢の術に関してゆっくりと答え始めた。
 
 正夢の術とは。
 夢で見た内容が、強制的に現実世界に反映されるというもので、我々が知っている正夢と同じようなものだ。
 違うところがあるとすれば、この術に関しての夢というのは希望という言葉に置き換えた方がいいのかもしれない。
 その希望を叶えるために、化け物と契約を結ぶことが正夢の術。
 代償は呪い主の命。
 叶えられる希望(夢)の大きさは呪い主の命の価値に比例する。
 世界平和を願ったところで無理な話、せいぜいその者の家族みんなが、ひと時の平和が味わえるくらいのレベルに調整される。

 正夢の術の契約方法は簡単で、夢の入り口にいる番人からチケットを一枚受け取り、そのチケットを握りしめながら正夢を希望する内容を思い描いて、先にある夢の開設口を潜くぐるだけ。
 それだけで、夢が叶う。
 ただし、無理がある内容の場合は改札口が現れない。
 改札をが現れて潜った時点で希望(夢)は叶う。そして本人は2度と目覚めることはない。
 
 また正夢が長期の間継続する内容の場合、誰かにそれがバレたりすると、その術自体が無効になるので注意が必要とのことだ。

 「つまり、自分の命を懸けてでも坂口って奴を殺したかった奴がいるんだよ。そして正夢の術で呪いが継続中だから、アイツは俺らにいらんことが何も言えねえんだ」

 一体、坂口くんは何をしてこんなことに巻き込まれたっていうんだ。

 「夢のよ、邪魔したな。俺らは一旦帰らせてもらうぜ」

 「あぁ、頼むよ。すまないな、久しぶりの再会に喜ぶ暇も作れなかった」

 「近々、また会うかもな」

 「楽しみにしているよ」

 僕たちは何もできないまま、現実世界へ戻ることになった。


 ――――――


 意識がすごいスピードで光ある方へ向かい、僕達は目覚めた。


 「おかえり。そっちは万事解決かい?」

 「……」

 「では、無さそうだねぇ」

 何が何やらだ……。
 解決に近づけると思っていたら、さらに謎が深くなったように思う。
 今から直接、僕が坂口くんへ会いに行くしかない。

 「このまま坂口くんの元へ向かいます」

 僕は勢いよく立ち上がったが、フーッと力が抜けていく感じがして膝を着いてしまった。

 「夢遊空間に行ったから力が削がれちまったんだろう。人間のむき出しの精神では少々きつい空間だからな。少し横になっとけば回復するぜ」

 「ち、力がはいらない」

 僕は少し休むこととなった。
 その間にこれからの作戦会議を妖狐と先輩、枕返しで行ってくれた。
 
 「今回の件だが、詳細聞かせてくれよ」

 「何だい、さっきまではぶっきら棒に関わっていたくせに」

 「夢の番人に正夢の術まで出てきたんだぜ、俺からしたら只事じゃない。正夢の術の契約まで普通の人間では辿り着けない。一体どうなってやがる」

 先輩は一連の話を枕返しに聞かせた。
 出会った時には、まったく興味を見せなかった枕返しも真剣に耳を傾けていた。
 先輩は話の終わりに、一晩家で観察していたことで僕には言い辛かった話をし始めた。

 「坂口くんは本当に山姥を慕っています。そして、何人の子供が犠牲になったかはわかりませんが坂口くんも子供達をその手にかけていると思います。」

 「どうしてそう思ったんだい?」

 「人体の切り口が、一刀で切り落としたものとノコギリで切ったように削り切ったようなものでした。おそらく後者が坂口くんの手にかけたものだと思います。そして何より、死んだ子供達の怨念のような叫びは山姥にも坂口くんへも向けられていました」

 あくまで、先輩が一晩あの家にいて感じ取った主観の話だ。
 だけど、だからこそ自身のある内容だから僕に気を遣って言えなかったのだと思う。
 
 とてもじゃないけど坂口くんが子供を殺しているなんて……信じられない。

 「発情鬼が復活したら、さとりの眼の出番だね。それで真実がわかるだろう。彼の望まない結果になるかもしれないけどね」
 
 「俺も気になることが多いからな、これが解決するまで迷い家に戻るのはやめとくか」

 友人の欠席から始まった今回の件は、想像もできなかった方向に話が進んでいる。
 山姥、サキュバス、夢の番人が絡んでしまい、こちらも枕返しに力を借りている。
 内情を想像のみで把握している状況の僕たちは、対応に苦慮している。


 その想像がどこまで正しいのか、僕の体力が回復でき次第もう一度あの血の香る家に向かう。
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