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第十五話 それだけでは不十分で
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男に恋をして、しかも抱かれたいと思っているだなんて。
これはバグのせいで姫扱いされてきたからなんだろうか。
心まで女になっている?
それとも……バグがなくても、オレは彼に恋をしたのだろうか――――
「……どうぞ」
ダンジョン探索を終え、城に戻ったその晩。
彼の部屋を訪ねたオレをエリクは招き入れてくれた。
彼の私室には初めて入る。
彼の研究室と同じく、整理整頓されて片付いた部屋だった。
不気味な髑髏が置いてあったり、壁から鹿の剥製が生えていたりとかはしない。
「何か珍しいものでも?」
部屋を見回すオレを、エリクが面白そうに見ている。
「いや」
むしろ大臣兼宮廷魔術師という地位の人間の部屋としては殺風景とすら言えた。
まあ前世が庶民のオレからすればこういう部屋の方が落ち着くからいいけど。
「ワインでも持ってこさせようか」
マホガニー製のソファに座るように促される。
この長椅子みたいに必要最低限置いてある家具も、比較的地味な色合いのもので統一されているように思う。
もしも彼が現代日本にいれば、もっと質素で機能的な家具ばかり選んだのではないかと思えた。
「ええと……ああ、そうしよう」
酒を嗜む習慣なんてほとんど無いので正直遠慮したかったが、頷いた。
だってここで「いらない」と言ったら、いきなり、その、アレをすることになるだろう?
ほどなくしてメイドさんが持ってきたトレーを、エリクが部屋の外で受け取って持ってきてくれた。
オレの姿がメイドさんに見られないようにと配慮してくれたのだろうか。
そうか……これからオレたちがすることはその、不倫だものな。
でも……
ずきん、と胸が痛む。
「どうした?」
エリクがグラスを手に取り、ワインをボトルから注いでくれる。
「浮かない顔だな? まさか今晩は断りに来たのか?」
「まさか……!」
首を横に振り、彼の差し出したグラスを受け取る。
華奢なグラスを満たす紫色の液体から、芳香が漂ってくる。
苦手な匂いではあるんだが……飲めばリラックスできるかもしれない。
オレはワイングラスを傾けた。
「ん……」
美味しい……ように感じられる。
前世とは舌が違うからだろうか。
「どうだ?」
彼が感想を求めてくる。
「好きな味だ」
「そうか、奇遇だな。私も好きな銘柄なんだ」
彼が手の中のグラスに視線を落として、顔を綻ばせる。
その柔らかい表情に、悔しいが胸がときめく。
彼がこんな素の表情を見せてくれるのはオレだけ……だといいな。
「さて、この後のことだが……」
彼の切り出した話題に、ドキリとする。
この後とはつまり、彼に……初めてを捧げることだろう。
「もし気が変わったら、いつでも言ってくれ」
その言葉に顔を顰める。
時間が経ってオレが怖気づいたとでも思っているのだろうか。
「そんな訳ないだろ」
「そのようだな」
オレのしかめっ面を見てが彼がくすくすと笑う。
「そうか。姫が後悔しないならそれでいい」
「後悔……」
その単語が胸に刺さる。
「後悔、しそうなことならある」
「なんだ? 言ってくれないか」
逡巡が生じる。
こんなこと言ったら、彼にどう思われるだろうかと。
だが言わなければ、オレはいつか後悔する気がした。
「初めてだけじゃなくて、ずっとがいい……エリクと結婚したい」
コトリ。
彼が静かにグラスをテーブルに置く。
「それは……駄目だ」
「何故?」
彼もオレのことを憎からず思っていると感じていたのだが、それは思い上がりだったのだろうか。
「貴方には幸福な生活を送って欲しいからだ。その為には私と結ばれるべきではない」
「ローランなんかと結婚したって幸せになれない。エリクとがいい」
オレのその言葉に、エリクは困ったような表情で笑う。
「姫、お忘れかな? 私が盗賊ギルドにいたことを」
「それ、は……」
ああ、そうだ。
あの時何故彼はあそこにいたのだろう。
今まで考えないようにしてきたそのことと、向き合わなければならない時が来たようだ。
これはバグのせいで姫扱いされてきたからなんだろうか。
心まで女になっている?
それとも……バグがなくても、オレは彼に恋をしたのだろうか――――
「……どうぞ」
ダンジョン探索を終え、城に戻ったその晩。
彼の部屋を訪ねたオレをエリクは招き入れてくれた。
彼の私室には初めて入る。
彼の研究室と同じく、整理整頓されて片付いた部屋だった。
不気味な髑髏が置いてあったり、壁から鹿の剥製が生えていたりとかはしない。
「何か珍しいものでも?」
部屋を見回すオレを、エリクが面白そうに見ている。
「いや」
むしろ大臣兼宮廷魔術師という地位の人間の部屋としては殺風景とすら言えた。
まあ前世が庶民のオレからすればこういう部屋の方が落ち着くからいいけど。
「ワインでも持ってこさせようか」
マホガニー製のソファに座るように促される。
この長椅子みたいに必要最低限置いてある家具も、比較的地味な色合いのもので統一されているように思う。
もしも彼が現代日本にいれば、もっと質素で機能的な家具ばかり選んだのではないかと思えた。
「ええと……ああ、そうしよう」
酒を嗜む習慣なんてほとんど無いので正直遠慮したかったが、頷いた。
だってここで「いらない」と言ったら、いきなり、その、アレをすることになるだろう?
ほどなくしてメイドさんが持ってきたトレーを、エリクが部屋の外で受け取って持ってきてくれた。
オレの姿がメイドさんに見られないようにと配慮してくれたのだろうか。
そうか……これからオレたちがすることはその、不倫だものな。
でも……
ずきん、と胸が痛む。
「どうした?」
エリクがグラスを手に取り、ワインをボトルから注いでくれる。
「浮かない顔だな? まさか今晩は断りに来たのか?」
「まさか……!」
首を横に振り、彼の差し出したグラスを受け取る。
華奢なグラスを満たす紫色の液体から、芳香が漂ってくる。
苦手な匂いではあるんだが……飲めばリラックスできるかもしれない。
オレはワイングラスを傾けた。
「ん……」
美味しい……ように感じられる。
前世とは舌が違うからだろうか。
「どうだ?」
彼が感想を求めてくる。
「好きな味だ」
「そうか、奇遇だな。私も好きな銘柄なんだ」
彼が手の中のグラスに視線を落として、顔を綻ばせる。
その柔らかい表情に、悔しいが胸がときめく。
彼がこんな素の表情を見せてくれるのはオレだけ……だといいな。
「さて、この後のことだが……」
彼の切り出した話題に、ドキリとする。
この後とはつまり、彼に……初めてを捧げることだろう。
「もし気が変わったら、いつでも言ってくれ」
その言葉に顔を顰める。
時間が経ってオレが怖気づいたとでも思っているのだろうか。
「そんな訳ないだろ」
「そのようだな」
オレのしかめっ面を見てが彼がくすくすと笑う。
「そうか。姫が後悔しないならそれでいい」
「後悔……」
その単語が胸に刺さる。
「後悔、しそうなことならある」
「なんだ? 言ってくれないか」
逡巡が生じる。
こんなこと言ったら、彼にどう思われるだろうかと。
だが言わなければ、オレはいつか後悔する気がした。
「初めてだけじゃなくて、ずっとがいい……エリクと結婚したい」
コトリ。
彼が静かにグラスをテーブルに置く。
「それは……駄目だ」
「何故?」
彼もオレのことを憎からず思っていると感じていたのだが、それは思い上がりだったのだろうか。
「貴方には幸福な生活を送って欲しいからだ。その為には私と結ばれるべきではない」
「ローランなんかと結婚したって幸せになれない。エリクとがいい」
オレのその言葉に、エリクは困ったような表情で笑う。
「姫、お忘れかな? 私が盗賊ギルドにいたことを」
「それ、は……」
ああ、そうだ。
あの時何故彼はあそこにいたのだろう。
今まで考えないようにしてきたそのことと、向き合わなければならない時が来たようだ。
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