悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん

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第一部 リューナジア城編

第八十一話 宰相の憂鬱

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「皇帝陛下、お耳に入れたいことが……」

 月の国の宰相を務める私は、額に脂汗を滲ませながら皇帝陛下に声をかけた。

「なんだ?」

 じろりと鋭い視線が私を射抜く。
 気怠げに書類に落としていた目が私に向くだけでこの威圧感だ。
 正直この眼光に慣れることはあるのだろうかと思う。

「また余の息子らのことについてか?」

 もううんざりだとばかりに皇帝陛下は重々しい溜息を吐き出す。
 その吐き出された息が私の肺まで満たして内側から重量で圧し潰そうするかのような圧迫感があった。

「また余の息子らが下らない諍いを起こしたとかいう話か? それなら余にではなく……」
「いえ、違うのです!」

 話も聞かずに追い払われる前に声を挟んだ。
 確かに皇子たちの仲の悪さには辟易とするものがあるが、今日はその話ではない。

 そもそもまともな後継者候補が育たなかったのには、皇帝陛下にも一部責任があると私は思っている。もちろんそんなこと口が裂けても言葉には出せないが。

 皇帝陛下は帝国のシステムを過信し過ぎていたのだ。
 兄弟の中で最も優れた者を次代の皇帝とする。そうすれば、兄弟たちの母方の親族らが自分たちの子供が皇帝になって派閥が有利になるように子供にこぞって最高の教育を受けさせるだろう。子供たちも自分こそが次の皇帝たらんと相争う中で皇帝に相応しい格を手にする。
 そういうシステムの中で自動的に後継者に相応しい子供が育つと陛下は思い込んでおられた。ちょうど陛下自身がそのようにして継承権を勝ち取ったように。

 偉大な後継者は自然とは育たない。子供は親とは違う生き物である。
 そういった当たり前のことを皇帝陛下は見逃し、その結果がこれであった。

「いえ、正確には陛下のご子息に関するお話ではあるのですが……とにかく、これをご覧下さい」

 私は手に入れてきたそれを皇帝陛下に差し出した。

「これは……一体なんだ? 精巧な装飾品のようだが」

 陛下がそれを手に取ると、レンズがキラリと光を反射した。

「これは近頃社交界で流行っている片眼鏡という物でございます。その『れんず』という名のガラスを通して景色を見ると、景色が大きく見えるので目の悪い者に良いのだとか」

「確かに、視界が歪んで見えるな。だが何故社交界で流行る? こんなものは貴族には無用の長物だろう。ある程度魔術を心得た者ならば誰でも視力強化の魔術を使える」

 陛下の"ある程度"の基準は高過ぎるんですよ、と言いたくなるのを抑える。
 あくまでも事実を伝えることに注力しなければ。

「いえ。それが貴族自身が身に着けるのではなく、自分の雇っている執事やメイドなどに買い与えているのでございます」

「使用人にだと? 安い物ではなかろう」

「ええ。だからこそ『自分はこんな高価な物を使用人にぽんと買い与えられるほどの財力を持っている』、また『こんな高価な物を買い与えるに相応しいほど有能な使用人を自分は抱えている』という示威になるのです。誰もが見栄を張る為にこの片眼鏡を求め、ちょっとした混乱が起こっているほどです」

「なんだと……」

 皇帝陛下は厳めしく渋面を作る。

「何でも商人が言うにはまだ職人が作り始めたばかりの物らしく、あまり数が出回っていないのです。この片眼鏡も大金をはたいて何とかやっと手に入れた物でございます」

「余の息子に関する話だと言ったな? それを作ったのはまさか……ウィルフリートか」

 こんな妙なことをするのはアレしかいない、とばかりに陛下はその名を言い当てた。

「ええ。そればかりか――――流行の発端はカレン殿下の専属執事に片眼鏡が与えられたことからだと言われているのです」
「カレン、だと……っ!?」

 カレン。
 その名が出た途端、皇帝陛下は重苦しい空気を投げ捨て、カッと目を見開いたのだった。
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