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第一部 リューナジア城編
第百話 南へ
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「やはり考え直さないか? カレンを南にやるのは不安だ」
皇帝のこの言葉に宰相は眉を上げた。
「どうなさったのですか、カレン殿下のお姿を直接目にして気が変わりましたか」
また困った上司が意見を翻そうとしているとぞとばかりに宰相は泣きそうな顔になった。
「まあ、そうとも言えよう」
「しかし、もう状況は変わってしまいました」
額に滲んだ汗を拭いながら宰相は答える。
「誕生祭の会場にカレン殿下が乱入したせいで、我々は彼の存在を公にせざるを得ませんでした。それもこの後すぐ彼を南部で療養させるのだから影響も少ないだろうと思ってのことです。しかしそれを今から翻そうものなら……」
突如として現れた新たな皇族の末子だ。
好奇の目に晒されるくらいなら軽いもので、おそらくは数々の貴族たちが自分たちの派閥にカレンを取り込もうと接触してくるだろう。
最悪の場合刺客を差し向けられる危険性さえある。何せカレンは病弱だ、病死に見せかけて殺すのなんて簡単だろう。
「……それもそうだな」
皇帝は重く息を吐いた。
「ご納得いただけましたか」
宰相はほっと胸を撫で下ろしたのだった。
*
「んう……あれ?」
「カレン!」
ふかふかで暖かい感触。
目を開けたら僕はベッドの上にいて、そんな僕をお兄ちゃんや乳母が見下ろしていた。
「僕、なんでここに……?」
「殿下はパーティ会場でお倒れになったのですよ」
「あ……」
乳母の言葉を聞いて、気を失う直前に何があったか思い出した。
そうだ、僕南部に追いやられることになったんだった。
お兄ちゃんとも離れ離れにさせられて……。
「ノーラ、少しおにーちゃんと二人にさせてくれる?」
「かしこまりました」
乳母のノーラは頭を下げると部屋から出ていった。
「おにーちゃん……」
二人きりになり、僕は兄を見上げた。
「カレン、大丈夫か?」
「身体の具合は大丈夫、でも……」
「南部行きのことか」
「うん」
やはり宰相のあの言葉は悪夢などではなかったのだと分かり、僕の心は重く沈んだ。
「やっぱりカレンは南には行きたくはないのか」
「そりゃそうだよ! だっておにーちゃんと離れ離れになっちゃうもん!」
ぱっと顔を上げた瞬間、涙が散った。
「そうか……ならオレが何とかしよう」
そう誓うように呟いた兄の顔は不気味なほどに落ち着き払っていた。
兄のその表情に悪い予感がした。
そうだ、お兄ちゃんは僕のこととなると向こう見ずになってしまう傾向がある。
「だ、ダメだよおにーちゃん! クーデター起こそうとか皇帝暗殺しようとか考えたりしたら!」
タソトキでウィルフリートが辿った末路を思い出して顔が青くなる。
「クーデター? 暗殺? 何を言ってるんだカレン、そんなことする訳ないだろ」
「そうなの? よかった……」
ひとまずお兄ちゃんの言葉は信じて良さそうだった。
では兄は一体何を考えているのだろう?
「とにかく、オレを信じて南で待っていてくれないか、カレン」
僕が早めに城に帰れるように根回しをしてくれるとかだろうか。
僕は兄の言葉に頷いた。
お兄ちゃんが信じてくれというなら信じるしかない。
そうして僕は六歳になった日に南部へと旅発つことになった。
皇帝のこの言葉に宰相は眉を上げた。
「どうなさったのですか、カレン殿下のお姿を直接目にして気が変わりましたか」
また困った上司が意見を翻そうとしているとぞとばかりに宰相は泣きそうな顔になった。
「まあ、そうとも言えよう」
「しかし、もう状況は変わってしまいました」
額に滲んだ汗を拭いながら宰相は答える。
「誕生祭の会場にカレン殿下が乱入したせいで、我々は彼の存在を公にせざるを得ませんでした。それもこの後すぐ彼を南部で療養させるのだから影響も少ないだろうと思ってのことです。しかしそれを今から翻そうものなら……」
突如として現れた新たな皇族の末子だ。
好奇の目に晒されるくらいなら軽いもので、おそらくは数々の貴族たちが自分たちの派閥にカレンを取り込もうと接触してくるだろう。
最悪の場合刺客を差し向けられる危険性さえある。何せカレンは病弱だ、病死に見せかけて殺すのなんて簡単だろう。
「……それもそうだな」
皇帝は重く息を吐いた。
「ご納得いただけましたか」
宰相はほっと胸を撫で下ろしたのだった。
*
「んう……あれ?」
「カレン!」
ふかふかで暖かい感触。
目を開けたら僕はベッドの上にいて、そんな僕をお兄ちゃんや乳母が見下ろしていた。
「僕、なんでここに……?」
「殿下はパーティ会場でお倒れになったのですよ」
「あ……」
乳母の言葉を聞いて、気を失う直前に何があったか思い出した。
そうだ、僕南部に追いやられることになったんだった。
お兄ちゃんとも離れ離れにさせられて……。
「ノーラ、少しおにーちゃんと二人にさせてくれる?」
「かしこまりました」
乳母のノーラは頭を下げると部屋から出ていった。
「おにーちゃん……」
二人きりになり、僕は兄を見上げた。
「カレン、大丈夫か?」
「身体の具合は大丈夫、でも……」
「南部行きのことか」
「うん」
やはり宰相のあの言葉は悪夢などではなかったのだと分かり、僕の心は重く沈んだ。
「やっぱりカレンは南には行きたくはないのか」
「そりゃそうだよ! だっておにーちゃんと離れ離れになっちゃうもん!」
ぱっと顔を上げた瞬間、涙が散った。
「そうか……ならオレが何とかしよう」
そう誓うように呟いた兄の顔は不気味なほどに落ち着き払っていた。
兄のその表情に悪い予感がした。
そうだ、お兄ちゃんは僕のこととなると向こう見ずになってしまう傾向がある。
「だ、ダメだよおにーちゃん! クーデター起こそうとか皇帝暗殺しようとか考えたりしたら!」
タソトキでウィルフリートが辿った末路を思い出して顔が青くなる。
「クーデター? 暗殺? 何を言ってるんだカレン、そんなことする訳ないだろ」
「そうなの? よかった……」
ひとまずお兄ちゃんの言葉は信じて良さそうだった。
では兄は一体何を考えているのだろう?
「とにかく、オレを信じて南で待っていてくれないか、カレン」
僕が早めに城に帰れるように根回しをしてくれるとかだろうか。
僕は兄の言葉に頷いた。
お兄ちゃんが信じてくれというなら信じるしかない。
そうして僕は六歳になった日に南部へと旅発つことになった。
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