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第二部 セルフィニエ辺境伯領編
第百五十四話 パン作り対決 ④
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「僕はウィルのパンの方が美味しいと思いました」
僕は裁定を下した。
お兄ちゃんのパンの方が記憶にある現代日本の菓子パンに近いように感じた。
だから僕にとっては甘いパンとしてはお兄ちゃんのパンの方が正しいと思ったのだ。
僕の言葉を聞いたお兄ちゃんはふふんとほくそ笑み、ケイスくんはガタリと肩を落とした。
「それでは私も」
今度は料理長の裁定である。
料理長はどちらの方を美味しいと思ったのだろうか。
「私としては――――お二方は引き分けですね」
「な……ッ!?」
「引き分け!?」
料理長の言葉に二人が目を剥く。
「お二人がこうしてパンを焼くことになった経緯を領主様から直接お聞きしまして。なんでも、卵黄が余りがちな城の現状を何とかする為に新しい料理を作ることにお二人で立候補して下さったとか。ケイスお坊ちゃまに次期当主としての自覚が芽生えてきたと領主様が大層喜んでおりました」
傍から見ればケイスくんが張り合ったのは「城のことはよそ者には任せておけない!」と次期当主としての責任から立ち上がったように見えたらしい。そのように見えていたのであればケイスくんの名誉の為にもそういうことにしておこう……。
「そこで私はこの城で頻繁に作ることになる料理としてどちらが相応しいかという判断基準で評価することにいたしました」
料理長が静かに語る。
「美味しさという点ではどちらも合格基準に達しております。技術的には拙いところもございますが、そこは普段は我々が作ることになりますので問題ではありません」
確かに。そういう判断基準ならばパン生地の捏ね方など技術に左右するところは採点に影響しないことになるのか。
「故に材料に何を選んだかとその配分に私は注目しました。ケイスお坊ちゃまのパンの主な特徴はふんだんに使用した卵黄と砂糖。アッシュフィールド様の方はバターと干し葡萄を使用されたのが特徴的でございましたね」
うんうんと頷く。
何故二人が引き分けになったのか見えてきた気がする。
「砂糖をふんだんに使うのもバターを使用するのも確かに大変美味しいものにはなりますが、普段から使用するには負担がいささか大きいのです」
それが主な理由だった。
あくまでも余っている卵黄で美味しいものが作れればいいのになっていう話題から発生した料理対決だったので、二人はこの城で無理なく作れる材料を考えるべきだったのだ。
自分が食べたいものを作ることしか考えずに砂糖をたっぷり入れたケイスくんも、南部では割高なバターをわざわざ使ってしまったお兄ちゃんも共にそこで失点となった。この世界では砂糖も貴重なものなのだろうと思われる。
「とはいえ美味しいのは確かなので特別なお客様をもてなす時には砂糖の配分やバターを使用することをご参考にさせていただきたく存じます」
料理長は柔らかく微笑みフォローした。
「普段この城で作る"ケーキ"は二人の案を合わせたものがよろしいように思われました」
「「合わせたもの?」」
「ええ、卵黄の配分はケイスお坊ちゃまを参考に。そして砂糖の量は控えめに干し葡萄で甘さを補う。そうすれば頻繁に城で皆様にお出しする代物ができるかと思われます」
卵もレーズンもここでは貴重なものではない。
多めの卵黄によって黄色がかったパン生地につぶつぶとレーズンが入った菓子パンは普段のお菓子としては充分すぎるほどの品質になることだろう。これからしょっちゅうそれを食べれるのかと思うと僕も期待に胸が膨らんでしまう。
偶然にも二人の合作が出来上がってしまい、お兄ちゃんとケイスくんはパチクリと顔を見合わせた。
「良かったですね、二人とも!」
何はともあれオムレツ地獄から抜け出して代わりに甘い物が食べたいという当初の目的はこれで達成されたのである。
「我々料理人が砂糖やらの貴重な物を使って失敗作ができたりしたら下手したら首が飛びますからね。貴族の方が実験台に名乗り出て下さって我々も助かりました」
料理長が小さく呟く。
料理人の人たちがやけに好意的にパン作り対決を見守っていると思ったらそういう事情があったらしい。
そういうことで二人のパン作り対決は平和な形で終結を迎えたのだった。
僕は裁定を下した。
お兄ちゃんのパンの方が記憶にある現代日本の菓子パンに近いように感じた。
だから僕にとっては甘いパンとしてはお兄ちゃんのパンの方が正しいと思ったのだ。
僕の言葉を聞いたお兄ちゃんはふふんとほくそ笑み、ケイスくんはガタリと肩を落とした。
「それでは私も」
今度は料理長の裁定である。
料理長はどちらの方を美味しいと思ったのだろうか。
「私としては――――お二方は引き分けですね」
「な……ッ!?」
「引き分け!?」
料理長の言葉に二人が目を剥く。
「お二人がこうしてパンを焼くことになった経緯を領主様から直接お聞きしまして。なんでも、卵黄が余りがちな城の現状を何とかする為に新しい料理を作ることにお二人で立候補して下さったとか。ケイスお坊ちゃまに次期当主としての自覚が芽生えてきたと領主様が大層喜んでおりました」
傍から見ればケイスくんが張り合ったのは「城のことはよそ者には任せておけない!」と次期当主としての責任から立ち上がったように見えたらしい。そのように見えていたのであればケイスくんの名誉の為にもそういうことにしておこう……。
「そこで私はこの城で頻繁に作ることになる料理としてどちらが相応しいかという判断基準で評価することにいたしました」
料理長が静かに語る。
「美味しさという点ではどちらも合格基準に達しております。技術的には拙いところもございますが、そこは普段は我々が作ることになりますので問題ではありません」
確かに。そういう判断基準ならばパン生地の捏ね方など技術に左右するところは採点に影響しないことになるのか。
「故に材料に何を選んだかとその配分に私は注目しました。ケイスお坊ちゃまのパンの主な特徴はふんだんに使用した卵黄と砂糖。アッシュフィールド様の方はバターと干し葡萄を使用されたのが特徴的でございましたね」
うんうんと頷く。
何故二人が引き分けになったのか見えてきた気がする。
「砂糖をふんだんに使うのもバターを使用するのも確かに大変美味しいものにはなりますが、普段から使用するには負担がいささか大きいのです」
それが主な理由だった。
あくまでも余っている卵黄で美味しいものが作れればいいのになっていう話題から発生した料理対決だったので、二人はこの城で無理なく作れる材料を考えるべきだったのだ。
自分が食べたいものを作ることしか考えずに砂糖をたっぷり入れたケイスくんも、南部では割高なバターをわざわざ使ってしまったお兄ちゃんも共にそこで失点となった。この世界では砂糖も貴重なものなのだろうと思われる。
「とはいえ美味しいのは確かなので特別なお客様をもてなす時には砂糖の配分やバターを使用することをご参考にさせていただきたく存じます」
料理長は柔らかく微笑みフォローした。
「普段この城で作る"ケーキ"は二人の案を合わせたものがよろしいように思われました」
「「合わせたもの?」」
「ええ、卵黄の配分はケイスお坊ちゃまを参考に。そして砂糖の量は控えめに干し葡萄で甘さを補う。そうすれば頻繁に城で皆様にお出しする代物ができるかと思われます」
卵もレーズンもここでは貴重なものではない。
多めの卵黄によって黄色がかったパン生地につぶつぶとレーズンが入った菓子パンは普段のお菓子としては充分すぎるほどの品質になることだろう。これからしょっちゅうそれを食べれるのかと思うと僕も期待に胸が膨らんでしまう。
偶然にも二人の合作が出来上がってしまい、お兄ちゃんとケイスくんはパチクリと顔を見合わせた。
「良かったですね、二人とも!」
何はともあれオムレツ地獄から抜け出して代わりに甘い物が食べたいという当初の目的はこれで達成されたのである。
「我々料理人が砂糖やらの貴重な物を使って失敗作ができたりしたら下手したら首が飛びますからね。貴族の方が実験台に名乗り出て下さって我々も助かりました」
料理長が小さく呟く。
料理人の人たちがやけに好意的にパン作り対決を見守っていると思ったらそういう事情があったらしい。
そういうことで二人のパン作り対決は平和な形で終結を迎えたのだった。
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