悪の皇帝候補に転生したぼくは、ワルワルおにいちゃまとスイーツに囲まれたい!

野良猫のらん

文字の大きさ
41 / 57

第四十一話 おにいちゃまのお誕生日パーティ

しおりを挟む
 一ヶ月後、ぼくはきらびやかに着飾っていた。
 もちろん、シルヴェストルお兄様のお誕生日パーティに出席するためだ。

「ふっふん」

 ぼくは鏡に写る自分の姿に、胸を張った。
 ふわふわの金髪と同じ色のリボンタイをつけてもらったのだ。なんて立派な格好だろう!

「よくお似合いでいらっしゃいますよ、殿下」

 ステラが褒めてくれた。

「ええ、本当に素敵よリュカ」

 声の主が、優しい手つきでぼくの頭を撫でてくれた。
 ぼくを撫でてくれているのは、お母様だ。今日はお母様も一緒なのだ!

 この機会に、シルヴェストルお兄様とお母様が仲良くなってくれないかなと思っている。

「じゃあ、一緒に行きましょうね」
「うん!」

 手を差し出されたので、ぼくはお母様の手を握って歩き出した。

 お母様と手を繋いで一緒に歩けるなんて、滅多にあることではない。
 ぼくはるんるんで、パーティ会場までの道のりを歩いた。
 後ろからはステラやらお母様の側仕えやらが、大人数でずらりとついてきているよ。
 仰々しいねえ。

 パーティ会場に近づくにつれ、音楽が聞こえてくることに気がついた。まさか楽団に演奏させているのか。なんて豪華なのだろう!
 ぼくのわくわくは最高潮に高まった。

 扉の前まで来ると、お母様が立ち止まったのでぼくも立ち止まった。
 お母様の側仕えが前に出てきて、恭しく扉を開けた。

「わあ!」

 豪華絢爛なパーティ会場に、ぼくは歓声を上げた。

 キラキラ眩しいシャンデリアの数々。生演奏を響かせる楽団。豪華な装いに身を包んだ人々。場内を包み込む品のある笑い声。
 夢のような光景だ。

「おとぎばなしみたぁい」

 ぼくは目を輝かせて、パーティ会場を見回した。

「あら、あなたのお父様のお誕生日はもっとすごいのよ? 王都をあげてのお祭りになるんだから」

 お母様がおかしそうにくすくすと笑った。

「ふーん」

 ぼくとしてはよく知らないお父様のお誕生日パーティが豪華だろうが、お祭りをやっていようがどうでもいい。街に行ったことないし。国王陛下のお誕生日はすごいね、はいはい。

 パーティ会場に入ると、お母様に話しかけてくる人がいた。
 ぼくは教えられた通りに、礼儀正しく自己紹介していく。

「ぼくのなまえはリュカといいます。よろしくおねがいします」

 どうだ、やろうと思えば敬語くらい使えるんだからな。

 お母様は何人もの人に挨拶され、ぼくも何人もの人に自己紹介した。誰と話して誰と話していないのやら、途中でわけがわからなくなってきた。
 王族って、これ全員顔と名前を覚えなきゃいけないの? 大変だなあ。

「はあはあ」

 もう飽きた。お部屋帰ってスイーツ食べたいよう。
 思わずめげそうになっていたときだった。
 
「リュカ、よく来てくれたな」
「おにいちゃま!」

 シルヴェストルお兄様が現れた。
 ぼくはすぐさま抱き着いた。お兄様はぼくの身体を受け止め、頭を撫でてくれた。
 ああ、癒される~。

「シルヴェストル王太子殿下、いつもリュカと仲良くしてくださっているそうで、ありがとう存じます」
 
 お母様がにこやかに挨拶した。

「あ……これはセレノスティーレ王妃殿下」

 お兄様の顔に緊張が走る。やっぱり、ぼくのお母様のことは苦手なのだろうか。
 セレノスティーレとは、お母様の名前だ。

「こちらこそ、いつもリュカ殿下の存在が支えとなっています。仲良くしていただけて、こちらこそ礼を言いたいくらいです」

 おお、貴重なお兄様の敬語だ。
 王太子よりは王妃の方が偉いのかな。

「あら、これはこれは」

 その時、横合いから女性の声が聞こえてきた。気の強そうな声だ、と感じた。

「セレノスティーレ第一王妃殿下、ご機嫌うるわしゅう」

 真っ赤な羽飾りのついた扇をゆっくりと扇ぐ、毒々しいほどに真っ赤なドレスを着た女性が現れた。髪と瞳の色まで赤いのを見て、誰なのか予想がついた。
 シルヴェストルお兄様の母親だ。

「……ローズリーヌ第二王妃殿下」

 ローズリーヌというのが、シルヴェストルの母親の名前のようだ。

 お母様は柔和な笑みをローズリーヌに向けたが、眼光が鋭いように感じられた。
 うう、互いに笑みを向け合いながらバチバチと火花が散っているのが見えるようだよ。怖い怖い。
 
「恐れ多いことながら、リュカ殿下にうちのシルヴェストルは好かれているようで。先日も新しいスイーツを食べさせていただいたそうですの。セレノスティーレ殿下は、何か新しいスイーツを召し上がっていて? あら、その顔色ではまだみたいですわね。おっほほほほ!」

 ローズリーヌは扇を派手に扇いで、高笑いした。
 完全に勝ち誇った笑いだ。
 いいね、悪人っぽくて親近感を覚えるよ。

 それからローズリーヌは、ぼくに視線を向けた。

「ねえリュカ殿下、せっかくですから今度一緒にお茶会をいたしませんこと? もちろんシルヴェストルも一緒に、家族三人で」

 家族三人でというのは、ぼくとシルヴェストルお兄様と、ローズリーヌの三人を表しているようだ。
 あからさますぎる誘いに、思わず笑いが零れてしまった。それが友好的な表情に見えたようで、ローズリーヌは笑みを深める。
 はいはい、要はぼくを取り込みたいのね。

「あのね、まちがってるよ。ローズリーヌしゃまはぼくのかぞくじゃないよ?」

 にっこり。
 幼児の純真無垢な笑みで言い放ってやった。

「お……おほほほ、決してそういう意味で言ったのではなくってよ殿下。わたくしとシルヴェストルは家族ですから、ええ。そういう意味で言ったのでございますわよ」

 ローズリーヌの顔はめちゃくちゃ引きつっていた。
 あはは、面白いなあ。

 ぼくが「うん」って頷いていたら、「リュカ殿下は実の母親よりも、わたくしの方を家族だと思っていましてよ」とかなんとかあちらこちらに吹聴するつもりだったんだろうなあ。

 ぼくは別に、ローズリーヌ派閥に取り込まれてもいいんだけれどね。
 でも、こんなの絶対に蹴った方が反応が面白いに決まってるじゃん!
 ちょっとぼくのワルワル王子の素質が出ちゃったかな。ふっふん。

 そっと、ぼくの頭に触れるものがあった。それはお母様の手だった。
 なんだか「ありがとう」と言われている気がして、ぼくは得意な気分になったのだった。

「やあ、お元気そうでなによりでございます」

 バチバチな空気に、呑気な声が割り入ってくる。

「あ、セドリック! セドリックもパーティに来てたんだね!」

 見慣れた専属医術士の姿に、ぼくは笑顔になった。

「リュカ、そんな口の利き方をしてはなりませんよ。セドリック殿は遠縁ではありますが、王族の血を継ぐ方です」
「え、セドリックってぼくの親戚なの⁉」

 公爵だとは聞いていたが、そんな偉い人だったなんてと目を剥く。

「いいのでございますよ、リュカ殿下の好きな呼び方で。毎朝顔を合わせているのですから、今更でしょう」

 セドリックは鷹揚に笑う。いい人だなあ。

「リュカ」

 シルヴェストルお兄様が、こっそり近づいて耳打ちしてくる。

「このパーティでもスイーツが出ているんだ。食べに行かないか?」
「うん!」

 お兄様の誘いに、二つ返事で頷いた。
 派閥争いなんて、大人たちに任せておけばよいのだ。

 ぼくらはこっそりその場を離れてテーブルにつき、側仕えやステラにスイーツを持ってきてもらって堪能したのだった。

 クッキーにパウンドケーキにシフォンケーキにプリンを食べて、にこにこになった。スイーツ祭りだ!

「おにいちゃま、おたんじょうびおめでとう!」
「ありがとう、リュカ」

 お兄様はくしゃりと顔をしわくちゃにして笑ってくれた。

「でもおたんじょうびといえばあれだよね、やっぱりバースデーケーキがないと」

 パウンドケーキを食べながら零す。

「バースデーケーキ? それはパウンドケーキやシフォンケーキとは別物なのか?」
 
「ううん、バースデーケーキはケーキのしゅるいじゃないの。あのね、ケーキの上に年のぶんだけろーそくを立てるんだよ。それでへやをまっくらにして、まわりのひとがはっぴばーすでーとぅゆーって歌って、歌のおわりにたんじょうびのひとがふーって、ろーそくの火をけすの。それがバースデーケーキ」

 ぼくはバースデーケーキのやり方を説明した。
 それから「はっぴばーすでーとぅゆー」と口ずさんで、歌を教えてあげた。

「へえ、それはおもしろそうだな。リュカの誕生日はバースデーケーキをやるか!」
「えへへ、バースデーケーキかあ」

 バースデーケーキの提案に顔を綻ばせる。
 蝋燭を立てるのは、ショートケーキじゃなくてもできるはずだし。
 ショートケーキが食べられなくても、特別な感じがしていいかなと思ったのだった。

 こうして、シルヴェストルお兄様の十三歳の誕生日は楽しく終わった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...