婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

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第十五話 大精霊の祠

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 ギュスターヴとヴァンは、城の中庭を奥へ奥へと進んでいた。
 フィリップを含めた側仕えたちが数歩後ろをついてくる。
 
「あの、神聖な場所って一体……?」
 
 ギュスターヴの背中に、おずおずと声をかける。
 彼は躊躇なく颯爽と先へと進んでいく。
 
「ヴァンは知っているかい、初代国王が同性の伴侶を結ばれる時にどうしたか」
「いえ、存じません」

 ヴァンは、ふるふると首を横に振った。

「初代国王は大精霊たちのために祠を作り、そこで祈りを捧げ、伴侶と結ばれるための許可を得た。すると不思議なことに、同性同士でも子供に恵まれることができたんだ」
「へー、そんな逸話があるんですね」
 
 初代国王にまつわる精霊伝説は好きだ。
 知らない話に、ヴァンは目を輝かせて聞き入る。

「その時作られた祠はまだ残っていて、祈りを捧げれば同じご利益を得られるんだって言ったら、信じる?」
「同じご利益って……え!?」
 
 彼の言葉に目を丸くした時。ヴァンは、空気が甘くなっていくのに気付いた。風の精霊が気を利かせて花の匂いを運んでくれているのだ。
 花の匂いがどこから来るのか、ほどなくして見えてきた。
 
「うわぁ……っ!」
 
 思わず感嘆の声が漏れ出た。
 
 紫と黄のウィステリアの花が、カーテンのように上から大量に垂れ下がっていた。それが何メートルも先に続いている。花でできたカーテンの先は、異界に繋がっているのはないかという気すらした。その印象はあながち間違いではなかった。
 
 自然が織りなすアーチの最後を越えた瞬間、何かの境界を越えた感覚がした。
 魔術の結界だ。
 
 王家は魔術結界で、この先にある物を厳重に守っているのだ。頭上には青空が広がっているが、恐らく上も目に見えぬ魔術結界に覆われているはずだ。
 精霊に愛されしエスプリヒ王国では、精霊の御力を物体に籠める付与魔術が盛んだ。代表的なのがシャンデリアから降ってくる魔術光だ。シャンデリアの硝子に光を発する魔術が付与され、眩しく光り輝くのだ。この魔術結界も、結界を生成する魔術が付与された依代が地中に埋められて維持されているのだろう。
 
 アーチの先には、御伽噺の世界みたいな光景が広がっていた。
 緑色の蔦が絡まった遺跡が、そこにあった。蔦からは色とりどりの花が咲き誇り、石製の祠を華やかに飾っていた。
 鳥たちが花の側に留まり、さえずっている。

 否、この建物は今も人の手が入り維持されているようだ。ならば、遺跡とは呼ばない。

「これが大精霊を祀った祠だ。美しいだろう?」
「ええ」
 
 彼の言葉に同意してこくりと頷く。
 
 彼の言う通り、美しいと感じた。まるで御伽噺に出てくる、菓子でできた家のように色鮮やかだと思った。
 絵に描いてみたい、とヴァンは胸が膨らむのを感じた。
 
「同じご利益が得られるということはつまり、ここで祈り捧げれば同性同士でも子を得られるということですか?」
「ヴァン、敬語は必要ないと言っただろう?」
 
 彼は問いに答える前に口調を指摘する。
 
「えっ、あ、ごめんなさいっ! まだ慣れなくて……」
「まあ、少しずつ慣れてくれればいいから」
 
 ヴァンが恐縮すると彼は快く許してくれた。
 申し訳ない気分になるけれど、王太子相手にタメ口を利くなんて、どれだけ時間があっても慣れる日が来るとは思えなかった。
 
「その通りだよ。祈りを捧げると、今でも同性同士でも子を得られるようになる。結婚式の前の晩に、この祠に来て祈りの儀式を行うんだ」

 と、彼は説明した。
 
「祠で儀式を行えるのは王族だけでなく、身元がきちんとしている人ならば申請すれば使用できるんだ。だから祠の存在は知られているものだと思っていたけれど、そうでもないようだね」
「不勉強で申し訳ありません……」

 自分の知識には偏りがあるのかもしれない、とヴァンは項垂れた。
 父も母も自分には世間話を振ることがなく、ほとんど無視されている。
 基本的な読み書きや算術は家庭教師をつけてもらえたが、ヴァンが望むような高度な学問は学ばせてもらえなかった。
 家の蔵には埃をかぶった書物があり、ヴァンはしょっちゅう蔵に籠って古い本を読んでいた。蔵の本に書かれていなかったことは、あまりよく知らないのが実情だ。

「申し訳なく思う必要なんてないのに。ふふっ、ヴァンにいろいろ教える日が楽しみだな」
「はあ、いろいろですか……?」

 ギュスターヴ自らが勉強を教えてくれる気なのだろうか、ときょとんと首を傾げる。

「それで結婚前夜に祠で儀式を行えば、不思議な力で赤子が腕の中に現れるのですか?」

 子供を授かる、という言葉の内容が上手く想像できず尋ねる。
 するとギュスターヴは、おかしそうにくすりと笑いを漏らした。

「そこまで御伽噺のような方法ではないよ。正確には祈りを捧げることによって、同性同士でも子を懐胎することが可能な身体になるんだよ」
「子を懐胎することが可能な身体ってことは……」
「相手の精を受けた方が、お腹の中に赤ちゃんができるんだよ」
「せ、精を受けた方……!」
 
 想像して顔が熱くなってしまう。
 伴侶となるからには、彼とそういうこと・・・・・・をするのは当然のことだ。ただ何もかもが急に決まったので、今の今までまったく意識していなかった。
 ヴァンは照れるあまり、俯いて地面に視線を落とした。
 
「その可愛すぎる顔、他の誰にも見せてないよね?」
「ひぇ!?」
 
 あまりにも唐突な言葉に、すぐに顔を上げることになった。
 蒼い瞳がじっとヴァンに視線を注いでいた。
 
「あまりにも無防備すぎて、心配になっちゃうねヴァンは」
「あ、あ、あのっ、からかわないで下さい……っ!」
 
 眼鏡でそばかすだらけの自分が、可愛いわけなどないのに。
 有り得ない言葉を吐く彼が何のつもりなのか、ヴァンにはわからない。
 
「からかってなどいないさ。ヴァン、君は可愛い」
「可愛くなんかないです、うぅ……」
 
 どうやら彼の審美眼は、完全に狂ってしまっているようだ。彼の言葉に、顔がどんどん赤くなっていくのがわかった。
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