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第十六話 当然の扱い
赤面してしまっていること自体が恥ずかしくて、ヴァンは話題を逸らすことにした。
「あのっ、それより聞きたいことがあるのですけど」
「なんだい? ヴァンの聞きたいことならば、何でも答えてあげよう。大精霊の祠についてまだ聞きたいことが?」
ヴァンは首を横に振る。
「そうではなくて、さっきの会話の中で出てきたことです。僕は確かに孤児院で子供たちに読み書きなどを教えていましたけれど、どうしてそれを殿下がご存知なのですか?」
先ほどの国王夫妻との会話の中で出てきたことである。
ヴァンが休日に孤児院で慈善活動を行っていたことを、どうして彼が知っているのだろうか。
「……」
彼は笑顔のまま、すいっと顔を逸らした。
「殿下、答えて下さい!」
ヴァンは頬を膨らませて促す。
「その、実を言うと諜報員に君の周辺を調査させていたのだ……その諜報員というのはフィリップのことなのだが。秘密裏に君のことを探るようなことをして、すまなかった」
ギュスターヴは気まずそうに告白した。
ずっと後方に控えてヴァンたちを見守っていたフィリップが、にこりと微笑む。彼は諜報活動も得意らしい。
「そうだったのですか。殿下は一方的に僕のことを知っていたのですね」
新たな事実が判明したが、そうだったとしても彼がヴァンに惚れた理由は依然として明らかにはならない。別に身の周りや今までしてきたことに惚れる要素があるとは思えないからだ。
孤児院で慈善活動している人など、いくらでもいるのではないだろうか。
「ギュスターヴ殿下、ヴァン様。従僕の身でありながら口を差し挟む無礼をお許し下さい」
それまで静かにしていたフィリップが発言する。
「フィリップさん、どうしたのですか?」
「本当のところ婚約と同時にヴァン様の居を城に移すように殿下が命じたのは、その事前調査の結果がきっかけなのでございます」
「フィリップ……!」
ギュスターヴが目を尖らせるが、フィリップは涼しい顔で受け流す。
いつも笑顔のギュスターヴも、こういう表情ができるのだなとびっくりしてしまった。
「調査の結果、ミストラル家はヴァン様の身を預けておく場所としてはその……あまり相応しくない。殿下はそのように判断されたのでございます」
「相応しくない?」
意外な言葉にきょとんとする。
確かに婚約が決定するなり王城に越すのは急だとは思ったが、王配教育などがあるからだろうと思っていた。まさか相応しくないなんて評価が下されていたとは、露とも思わなかった。
一体、どこが相応しくなかったというのだろう。
「それはそうだろう、あの家の者は全員ヴァンのことを軽んじている。夫人は茶会に出掛ければ長男を持ち上げてヴァンを貶し、当主はヴァンと目を合わせようともしない。あろうことか召使いたちまで主人に影響されて、ヴァンに気安い態度を取っている。あのようなところにいれば、ヴァンの精神にどんな悪影響が出ることか……!」
ギュスターヴは眉を吊り上げ、怒りを滲ませる。
フィリップは随分と詳しく調べ上げたらしい。ヴァンが家でどう扱われているかまで知っているなんて。
初めてみた怒りの表情に、ヴァンは目をぱちくりとさせる。
「はあ、それがどうかしましたか?」
ヴァンには彼がなぜ怒っているのか、理解できなかった。
「だって兄は、父とまったく同じく風と氷と空気の精霊に加護されていますし。僕が風の精霊からしか加護を受けていなかったせいで、母は平民と不貞でもしたのではないかと疑われたんですよ」
父が自分そっくりな長兄のことばかり可愛がって兄には笑顔を見せていたことは、仕方のないことのように思われる。不貞を疑われた母が、ヴァンのことを可愛く思えなかったのも無理はない。
「ミストラル家は代々風の精霊の加護を受けている家系なので、僕はかろうじて父の子と認められたのです。なのでミストラル家の一員として認められただけでもありがたいし、兄の方が何においても優先されるのは当たり前のことなんです」
彼に言い聞かせるように説明する。
長男を優先するなんて、貴族社会どころか農家でも行われていることなのではないだろうか。彼はごく普遍的な事柄のどこに腹を立てているのだろう、何を考えているのか相変わらず読めない人だなとヴァンは思った。
もちろん、自分が出来損ないでなければもう少し両親に可愛がってもらえただろうなと思う。でもそうではなかったのだから、家での扱いは当然のことなのだ。
「……そういうところだ。だから私は一刻も早く、君をミストラル家から引き離したかったんだ」
「はあ、そうですか」
相も変わらず彼の感情が理解できず、ヴァンは首を傾げる。
いつも人形のように笑顔を浮かべているかと思えば、変なタイミングで怒り出すのだから、変な人だ。
こんな人のことが理解できるようになる日は、果たしてやって来るのだろうか。
要領を得ないまま、ミストラル家に関する話は終了したのだった。
「あのっ、それより聞きたいことがあるのですけど」
「なんだい? ヴァンの聞きたいことならば、何でも答えてあげよう。大精霊の祠についてまだ聞きたいことが?」
ヴァンは首を横に振る。
「そうではなくて、さっきの会話の中で出てきたことです。僕は確かに孤児院で子供たちに読み書きなどを教えていましたけれど、どうしてそれを殿下がご存知なのですか?」
先ほどの国王夫妻との会話の中で出てきたことである。
ヴァンが休日に孤児院で慈善活動を行っていたことを、どうして彼が知っているのだろうか。
「……」
彼は笑顔のまま、すいっと顔を逸らした。
「殿下、答えて下さい!」
ヴァンは頬を膨らませて促す。
「その、実を言うと諜報員に君の周辺を調査させていたのだ……その諜報員というのはフィリップのことなのだが。秘密裏に君のことを探るようなことをして、すまなかった」
ギュスターヴは気まずそうに告白した。
ずっと後方に控えてヴァンたちを見守っていたフィリップが、にこりと微笑む。彼は諜報活動も得意らしい。
「そうだったのですか。殿下は一方的に僕のことを知っていたのですね」
新たな事実が判明したが、そうだったとしても彼がヴァンに惚れた理由は依然として明らかにはならない。別に身の周りや今までしてきたことに惚れる要素があるとは思えないからだ。
孤児院で慈善活動している人など、いくらでもいるのではないだろうか。
「ギュスターヴ殿下、ヴァン様。従僕の身でありながら口を差し挟む無礼をお許し下さい」
それまで静かにしていたフィリップが発言する。
「フィリップさん、どうしたのですか?」
「本当のところ婚約と同時にヴァン様の居を城に移すように殿下が命じたのは、その事前調査の結果がきっかけなのでございます」
「フィリップ……!」
ギュスターヴが目を尖らせるが、フィリップは涼しい顔で受け流す。
いつも笑顔のギュスターヴも、こういう表情ができるのだなとびっくりしてしまった。
「調査の結果、ミストラル家はヴァン様の身を預けておく場所としてはその……あまり相応しくない。殿下はそのように判断されたのでございます」
「相応しくない?」
意外な言葉にきょとんとする。
確かに婚約が決定するなり王城に越すのは急だとは思ったが、王配教育などがあるからだろうと思っていた。まさか相応しくないなんて評価が下されていたとは、露とも思わなかった。
一体、どこが相応しくなかったというのだろう。
「それはそうだろう、あの家の者は全員ヴァンのことを軽んじている。夫人は茶会に出掛ければ長男を持ち上げてヴァンを貶し、当主はヴァンと目を合わせようともしない。あろうことか召使いたちまで主人に影響されて、ヴァンに気安い態度を取っている。あのようなところにいれば、ヴァンの精神にどんな悪影響が出ることか……!」
ギュスターヴは眉を吊り上げ、怒りを滲ませる。
フィリップは随分と詳しく調べ上げたらしい。ヴァンが家でどう扱われているかまで知っているなんて。
初めてみた怒りの表情に、ヴァンは目をぱちくりとさせる。
「はあ、それがどうかしましたか?」
ヴァンには彼がなぜ怒っているのか、理解できなかった。
「だって兄は、父とまったく同じく風と氷と空気の精霊に加護されていますし。僕が風の精霊からしか加護を受けていなかったせいで、母は平民と不貞でもしたのではないかと疑われたんですよ」
父が自分そっくりな長兄のことばかり可愛がって兄には笑顔を見せていたことは、仕方のないことのように思われる。不貞を疑われた母が、ヴァンのことを可愛く思えなかったのも無理はない。
「ミストラル家は代々風の精霊の加護を受けている家系なので、僕はかろうじて父の子と認められたのです。なのでミストラル家の一員として認められただけでもありがたいし、兄の方が何においても優先されるのは当たり前のことなんです」
彼に言い聞かせるように説明する。
長男を優先するなんて、貴族社会どころか農家でも行われていることなのではないだろうか。彼はごく普遍的な事柄のどこに腹を立てているのだろう、何を考えているのか相変わらず読めない人だなとヴァンは思った。
もちろん、自分が出来損ないでなければもう少し両親に可愛がってもらえただろうなと思う。でもそうではなかったのだから、家での扱いは当然のことなのだ。
「……そういうところだ。だから私は一刻も早く、君をミストラル家から引き離したかったんだ」
「はあ、そうですか」
相も変わらず彼の感情が理解できず、ヴァンは首を傾げる。
いつも人形のように笑顔を浮かべているかと思えば、変なタイミングで怒り出すのだから、変な人だ。
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