24 / 55
第二十四話 精霊チェス
「えっと、『風』を進ませます」
「そう来たか。ならば、『塔』で守ろう」
ギュスターヴは少し考えると、ヴァンの『風』の駒の進路を塞ぐために、盤上を右から左へと大きく横切るように『塔』の駒を動かした。
二人はエスプリヒ王国式のチェスに興じているところだ。
エスプリヒ王国式のチェスでは、駒は精霊の形を象っている。駒の種類も普通のチェスよりも多く、複雑だ。このチェスは通称「精霊チェス」と呼ばれている。
今日の彼はチェス盤を持って、ヴァンの部屋を訪れてくれた。最初は繊細な彫刻が施された可愛らしい駒に触れるのが恐れ多かったが、ゲームに熱中するうちに自然に駒を動かせるようになっていた。
室内にはフィリップが控えていて、時折二人にお茶を淹れてくれている。
「えっと……じゃあその、ごめんなさい。殿下の『太陽』、いただいちゃいます」
『塔』の駒が動かされたのを見ると、ヴァンはくすりと笑って潜ませていた『月』を動かし、彼の『太陽』の駒を奪った。
「あ……! いつの間にそんなところに!」
「えへへ、チェックメイトです」
ヴァンは彼の切り札を奪うと同時に、『王』の駒を追い詰めた。手際の良さに彼は舌を巻く。
「参ったな、私の負けだ」
「やった、また勝っちゃいました」
勝利にヴァンは嬉しそうにはにかんだ。
「今日初めてチェスをやったなんて信じられないな。私もチェスの腕にはそこそこ自信があったのだが」
彼が素直に賞賛してくれる。
「蔵に精霊チェスの定跡書があったので、何度も読み込んだんです。家族は誰もチェスの相手をしてくれませんでしたが、父と兄がチェスに興じているのを見ながら『僕ならこう動かす』って考えるのが好きでした。こうして実際にチェスをプレイできる日が来るなんて、感動です」
自分の思う通りに駒を動かす喜びを、今日は存分に味わうことができた。ヴァンは頬を紅潮させて喜んでいた。
「……ヴァンさえよければ、好きなだけ相手になってやるからな」
ギュスターヴは一瞬固まったかと思うと、まるで誓うように言った。
「ええ、いいんですか? 嬉しいです!」
好きなだけチェスしてくれるだなんて。ヴァンは満面の笑みを見せた。
「なんなら、チェスの大会に出てもいい。私が許可を出そう。ヴァンならばいい線行くだろう」
「あ、でも、他の人相手だとそんなに強くないかもしれないですよ?」
ヴァンの言葉に、どういう意味だとばかりに彼は片眉を上げた。
「殿下が負ける時って『あ、しまった』って慌てた顔をするじゃないですか。それが見たくて、一生懸命手を考えたので」
いつも優雅で美しく余裕のある彼の慌てた顔を見られるなんて、滅多にあることじゃない。とても可愛らしいので、ヴァンはつい本気を出してしまったのだった。
「少々複雑な気持ちではあるが、そういうことなら私がいつでも君の相手になろう」
「はい、嬉しいです!」
ヴァンが満面の笑みを見せると、彼もにこりと綻んだ。
『――――……結界の破壊には成功した。これで祠に侵入できる』
突然、目の前で第三者が喋っているかのように、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「精霊様……?」
「ヴァン、どうした?」
風の精霊がここではないどこかの場所で発された声を運んできたのだ。
いや、ここではないどこかではない。場所なんて分かりきっている。
「殿下! 大精霊の祠に誰かが侵入しようとしています!」
「そう来たか。ならば、『塔』で守ろう」
ギュスターヴは少し考えると、ヴァンの『風』の駒の進路を塞ぐために、盤上を右から左へと大きく横切るように『塔』の駒を動かした。
二人はエスプリヒ王国式のチェスに興じているところだ。
エスプリヒ王国式のチェスでは、駒は精霊の形を象っている。駒の種類も普通のチェスよりも多く、複雑だ。このチェスは通称「精霊チェス」と呼ばれている。
今日の彼はチェス盤を持って、ヴァンの部屋を訪れてくれた。最初は繊細な彫刻が施された可愛らしい駒に触れるのが恐れ多かったが、ゲームに熱中するうちに自然に駒を動かせるようになっていた。
室内にはフィリップが控えていて、時折二人にお茶を淹れてくれている。
「えっと……じゃあその、ごめんなさい。殿下の『太陽』、いただいちゃいます」
『塔』の駒が動かされたのを見ると、ヴァンはくすりと笑って潜ませていた『月』を動かし、彼の『太陽』の駒を奪った。
「あ……! いつの間にそんなところに!」
「えへへ、チェックメイトです」
ヴァンは彼の切り札を奪うと同時に、『王』の駒を追い詰めた。手際の良さに彼は舌を巻く。
「参ったな、私の負けだ」
「やった、また勝っちゃいました」
勝利にヴァンは嬉しそうにはにかんだ。
「今日初めてチェスをやったなんて信じられないな。私もチェスの腕にはそこそこ自信があったのだが」
彼が素直に賞賛してくれる。
「蔵に精霊チェスの定跡書があったので、何度も読み込んだんです。家族は誰もチェスの相手をしてくれませんでしたが、父と兄がチェスに興じているのを見ながら『僕ならこう動かす』って考えるのが好きでした。こうして実際にチェスをプレイできる日が来るなんて、感動です」
自分の思う通りに駒を動かす喜びを、今日は存分に味わうことができた。ヴァンは頬を紅潮させて喜んでいた。
「……ヴァンさえよければ、好きなだけ相手になってやるからな」
ギュスターヴは一瞬固まったかと思うと、まるで誓うように言った。
「ええ、いいんですか? 嬉しいです!」
好きなだけチェスしてくれるだなんて。ヴァンは満面の笑みを見せた。
「なんなら、チェスの大会に出てもいい。私が許可を出そう。ヴァンならばいい線行くだろう」
「あ、でも、他の人相手だとそんなに強くないかもしれないですよ?」
ヴァンの言葉に、どういう意味だとばかりに彼は片眉を上げた。
「殿下が負ける時って『あ、しまった』って慌てた顔をするじゃないですか。それが見たくて、一生懸命手を考えたので」
いつも優雅で美しく余裕のある彼の慌てた顔を見られるなんて、滅多にあることじゃない。とても可愛らしいので、ヴァンはつい本気を出してしまったのだった。
「少々複雑な気持ちではあるが、そういうことなら私がいつでも君の相手になろう」
「はい、嬉しいです!」
ヴァンが満面の笑みを見せると、彼もにこりと綻んだ。
『――――……結界の破壊には成功した。これで祠に侵入できる』
突然、目の前で第三者が喋っているかのように、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「精霊様……?」
「ヴァン、どうした?」
風の精霊がここではないどこかの場所で発された声を運んできたのだ。
いや、ここではないどこかではない。場所なんて分かりきっている。
「殿下! 大精霊の祠に誰かが侵入しようとしています!」
あなたにおすすめの小説
当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
転生したら最強辺境伯に拾われました
マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。
死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。
「大好きです」と言ったらそのまま食べられそうです
あまさき
BL
『「これからも応援してます」と言おうと思ったら誘拐された』のその後のお話
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
リクエストにお答えしましてその後のお話🔞を書きました。
⚠︎
・行為に必要な色んな過程すっ飛ばしてます
・♡有り
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317