婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

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第二十四話 精霊チェス

「えっと、『風』を進ませます」
「そう来たか。ならば、『塔』で守ろう」
 
 ギュスターヴは少し考えると、ヴァンの『風』の駒の進路を塞ぐために、盤上を右から左へと大きく横切るように『塔』の駒を動かした。
 
 二人はエスプリヒ王国式のチェスに興じているところだ。 
 エスプリヒ王国式のチェスでは、駒は精霊の形を象っている。駒の種類も普通のチェスよりも多く、複雑だ。このチェスは通称「精霊チェス」と呼ばれている。
 
 今日の彼はチェス盤を持って、ヴァンの部屋を訪れてくれた。最初は繊細な彫刻が施された可愛らしい駒に触れるのが恐れ多かったが、ゲームに熱中するうちに自然に駒を動かせるようになっていた。
 
 室内にはフィリップが控えていて、時折二人にお茶を淹れてくれている。
 
「えっと……じゃあその、ごめんなさい。殿下の『太陽』、いただいちゃいます」
 
 『塔』の駒が動かされたのを見ると、ヴァンはくすりと笑って潜ませていた『月』を動かし、彼の『太陽』の駒を奪った。
 
「あ……! いつの間にそんなところに!」
「えへへ、チェックメイトです」
 
 ヴァンは彼の切り札を奪うと同時に、『王』の駒を追い詰めた。手際の良さに彼は舌を巻く。
 
「参ったな、私の負けだ」
「やった、また勝っちゃいました」
 
 勝利にヴァンは嬉しそうにはにかんだ。
 
「今日初めてチェスをやったなんて信じられないな。私もチェスの腕にはそこそこ自信があったのだが」
 
 彼が素直に賞賛してくれる。

「蔵に精霊チェスの定跡書があったので、何度も読み込んだんです。家族は誰もチェスの相手をしてくれませんでしたが、父と兄がチェスに興じているのを見ながら『僕ならこう動かす』って考えるのが好きでした。こうして実際にチェスをプレイできる日が来るなんて、感動です」

 自分の思う通りに駒を動かす喜びを、今日は存分に味わうことができた。ヴァンは頬を紅潮させて喜んでいた。

「……ヴァンさえよければ、好きなだけ相手になってやるからな」

 ギュスターヴは一瞬固まったかと思うと、まるで誓うように言った。

「ええ、いいんですか? 嬉しいです!」

 好きなだけチェスしてくれるだなんて。ヴァンは満面の笑みを見せた。
 
「なんなら、チェスの大会に出てもいい。私が許可を出そう。ヴァンならばいい線行くだろう」
「あ、でも、他の人相手だとそんなに強くないかもしれないですよ?」
 
 ヴァンの言葉に、どういう意味だとばかりに彼は片眉を上げた。
 
「殿下が負ける時って『あ、しまった』って慌てた顔をするじゃないですか。それが見たくて、一生懸命手を考えたので」
 
 いつも優雅で美しく余裕のある彼の慌てた顔を見られるなんて、滅多にあることじゃない。とても可愛らしいので、ヴァンはつい本気を出してしまったのだった。
 
「少々複雑な気持ちではあるが、そういうことなら私がいつでも君の相手になろう」
「はい、嬉しいです!」
 
 ヴァンが満面の笑みを見せると、彼もにこりと綻んだ。
 
『――――……結界の破壊には成功した。これで祠に侵入できる』
 
 突然、目の前で第三者が喋っているかのように、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
 
「精霊様……?」
「ヴァン、どうした?」
 
 風の精霊がここではないどこかの場所で発された声を運んできたのだ。
 いや、ここではないどこかではない。場所なんて分かりきっている。
 
「殿下! 大精霊の祠に誰かが侵入しようとしています!」
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