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第四十話 月明りの下の煩悶
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その日の晩、ヴァンは眠れなかった。
もちろん、貴族たちにかけられた言葉が原因だ。
眠れない夜、ヴァンは寝台をこっそりと抜け出した。
寝着の上に上着を羽織り、自室のバルコニーに出た。
夏でも夜であれば、空気はしんと冷えている。涼やかな空気に冷やされ、苦悩でいっぱいの頭の中が澄んでいくように感じられた。
頭上には満月が光っている。月光が照らし出す明るい夜、満天の星々の美しさがよく見えた。
ヴァンの頭の中にあるのは、彼――――ギュスターヴのことだった。
貴族たちの言う通り、身を引いた方が彼のためなのかもしれない。
「でも、そしたら僕はあの家に戻ることになるのか?」
満月を見上げ、ヴァンは呟く。
せっかくあの家から助け出してもらったのに。あの家が異常だったと気付かされてから、戻ることになるなんて。
「こんなことならば、最初から殿下に出会わなければ……」
最悪の言葉を口にしかけ、ヴァンははっと口を押さえる。
彼に出会わなければ良かったなんて、間違っても口にしてはいけない。
彼と過ごした時間はかけがえのないものだった。なかったことになんて、したくはない。
彼が優しくて真摯に自分を愛してくれるから、離れたくないと思ってしまっている。いつまでも彼の優しさに包まれて生きることができれば、どんなに良いことか。
だがもし自分がワガママを通して彼と無理矢理一緒にいれば、ギュスターヴの立場が悪いものとなるだろう。
せっかく彼は理想の王となれそうな人なのに、自分が王配になったばかりに彼の評判が落ちてしまう。自分は彼を支えるどころか、足を引っ張ることしかできない。
ギュスターヴに愛される素晴らしい人生は、やはり自分のような出来損ないには分不相応なものだったのだ。
出来損ないには、やはり存在価値などない。せっかく愛してもらっても、その愛に応えることすらできないのだから。
「ああ……」
ヴァンは満月を仰ぎ、願った。
今からでも加護が増えはしないかと。
ギュスターヴのように十二の精霊に加護されたいなんていう、ワガママは言わない。
せめてあと二つだけでいい。人並みになれれば、幸せになれるはずなのだ。
カツン。
その時、ヴァンのいるバルコニーに何かが投げ込まれてきた。
足元に転がったものを、ヴァンはとっさに拾い上げた。
それは石を核にして、丸め込まれた紙だった。
ヴァンが紙を広げると、そこには文字が書かれていた。
『明日、正午に庭の東屋で』
それは見覚えのある筆跡によるものだった。
ミレイユの字だ。
「ミレイユ……?」
慌ててバルコニーの下を見回すと、赤い髪が建物の陰に隠れていく様が月光に照らし出されていた。
「一体何の用だっていうんだ……?」
かつて自分を捨てた元婚約者からの誘いに、戸惑いを感じるばかりだった。
もちろん、貴族たちにかけられた言葉が原因だ。
眠れない夜、ヴァンは寝台をこっそりと抜け出した。
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ヴァンの頭の中にあるのは、彼――――ギュスターヴのことだった。
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「でも、そしたら僕はあの家に戻ることになるのか?」
満月を見上げ、ヴァンは呟く。
せっかくあの家から助け出してもらったのに。あの家が異常だったと気付かされてから、戻ることになるなんて。
「こんなことならば、最初から殿下に出会わなければ……」
最悪の言葉を口にしかけ、ヴァンははっと口を押さえる。
彼に出会わなければ良かったなんて、間違っても口にしてはいけない。
彼と過ごした時間はかけがえのないものだった。なかったことになんて、したくはない。
彼が優しくて真摯に自分を愛してくれるから、離れたくないと思ってしまっている。いつまでも彼の優しさに包まれて生きることができれば、どんなに良いことか。
だがもし自分がワガママを通して彼と無理矢理一緒にいれば、ギュスターヴの立場が悪いものとなるだろう。
せっかく彼は理想の王となれそうな人なのに、自分が王配になったばかりに彼の評判が落ちてしまう。自分は彼を支えるどころか、足を引っ張ることしかできない。
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出来損ないには、やはり存在価値などない。せっかく愛してもらっても、その愛に応えることすらできないのだから。
「ああ……」
ヴァンは満月を仰ぎ、願った。
今からでも加護が増えはしないかと。
ギュスターヴのように十二の精霊に加護されたいなんていう、ワガママは言わない。
せめてあと二つだけでいい。人並みになれれば、幸せになれるはずなのだ。
カツン。
その時、ヴァンのいるバルコニーに何かが投げ込まれてきた。
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それは石を核にして、丸め込まれた紙だった。
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それは見覚えのある筆跡によるものだった。
ミレイユの字だ。
「ミレイユ……?」
慌ててバルコニーの下を見回すと、赤い髪が建物の陰に隠れていく様が月光に照らし出されていた。
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