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番外編
ギュスターヴの想い 第二話
ギュスターヴはヴァンの存在を周知するため、舞踏会にてフィアンセとして貴族たちにお披露目することに決めた。
剣闘大会の日、ヴァンは人目に怯えていた。
それゆえ、舞踏会に対しても気が重くなっているであろうことは察しがついた。
だがいつかは、彼の存在を知らしめねばならない。
ならばこそ、準備万端にして完璧なヴァンをお披露目しなければ。
彼が生まれながらの自分に自信を持ってくれるように。
ギュスターヴは城の針子たちに、ヴァンのための衣装を縫うように指示した。
デザインはすべてギュスターヴが考えた。
ヴァンの身体の細さを強調するため、コートの裾は限界まで長くさせた。
それもストンと下に落ちるのではなく、ドレスのように広がるようになっている。
金の刺繡もたっぷりとさせた。どれだけ自分がヴァンのことを大事に思っていて、手放したくないと考えているか、見ただけで理解らせるために。
ジャボには大きな青い宝石をつけさせる。衣装に手をかければかけるほど、それはヴァンを心強くさせるはずだ。
舞踏会当日まで、ヴァンの髪油には最高級のものを使うよう秘密裏に指示しておいた。
ヴァンが知ると、遠慮してしまいそうだからな。
時間は矢のように過ぎ去り、当日。
着飾ったヴァンは、想像以上だった。
自分がデザインした通りは意図した通りの効能を、いやそれ以上を発揮し、ヴァンの儚げな容姿をこれ以上なく引き立たせていた。
金の刺繍が施された青のコートをまとったヴァンは、宝石箱に飾られた宝石のようだった。
数日間、ずっと最高級の髪油が塗られてきた髪はキラキラと光を反射している。
自分の姿をどう感じているのだろうか、鏡を見つめる彼の頬が林檎のように赤くなっていて、愛おしくてたまらない。
ギュスターヴは似合っていると請け負ってあげた。
すると、ヴァンはしきりに確認を求めてくる。何度だって囁いてあげよう。
「今日のヴァンは本当に美しいぞ」
途端、ただでさえ赤かった顔が、耳まで真っ赤に染まった。
寸の間、寝台の中の彼を夢想にしてしまうほどにそそる表情だった。
フィリップがやってきて、ヴァンの眼鏡を外す。
ヴァンの両目に、星の加護が灯された。
ヴァンの視線がはっきりとするのが感じ取られた。視力が強化されたのだ。
裸眼になると、ヴァンの愛らしさはより一層ハッキリとした。
どんな星々よりも、彼の瞳が眩しい。
もちろん、眼鏡をつけていたってヴァンは美しい。だがこれでどんなボンクラにだって、ヴァンの素晴らしさが伝わるだろう。
ギュスターヴは彼の手を取り、舞踏会の会場へと足を踏み入れた。
貴族たちの前に姿を現した途端、会場は羨望の溜息に包み込まれた。
誰もがヴァンの美しさに見惚れているのだ。
隣のヴァンも、背筋をぐっと伸ばして前を見据えて隣を歩いてくれている。
自分は彼を幸せにできているだろうか。
いや、自分が幸せにするのだ。
会場の中央に進み出ると、ギュスターヴは貴族らに語りかけ始めた。
ヴァンの素晴らしいところ、偏見のない新しい社会を作っていきたいと考えていること、ヴァンとの結婚を祝福してほしいこと。言葉を尽くし、真摯に語りかけた。
結果として……貴族たちは大きな拍手を寄越してくれた。
そっと横を見ると、ヴァンの眦に光るものが見えた。
「君が堂々としていたから、彼らは賞賛しているんだ」
伝えると、そっと身を寄せられる。
「僕が堂々としていられたのは、殿下が隣にいてくれたからです。殿下、ありがとうございます」
気恥ずかしげに微笑んだ彼の笑顔に、夢にも上るような心地を覚えた。
精霊の姿がもし見えるならば、自分の精霊たちはきっと大はしゃぎしているのだろう。
ギュスターヴは至上の幸福を嚙み締めた。
少しして、楽団の演奏が耳に届く。
「ヴァン、行こう!」
ギュスターヴはヴァンの手を引いて、ダンスホールの中央に躍り出た。
くるりと身を翻すと、ヴァンの腰に手を添え、片手を握った。
「あの、僕リードされる側は踊ったことなくって……」
「私に合わせてくれ。これくらい緩い曲調なら大丈夫だろう?」
彼を安心させるように微笑む。
琥珀色の瞳と、しっかりと視線が合う。
瞬間、時が止まったかのように感じられた――
身体が勝手に動き出した。
曲に合わせ、身体が勝手に彼を導きながら舞う。
ヴァンはよどみなく、こちらの動きについてきてくれる。
琥珀の瞳に、自分の姿が映っている。
まるでこの世界に二人きりみたいだ。自分もヴァンしか目に入れたくない。
十五年間ずっと、恋焦がれてきた。
その彼が目の前にいて、踊ってくれている。
それを思うと夢のようだった。
手にはたしかに彼の温度が感じられて。
距離は呼吸の音が聞こえるほど近くて。
目の前の彼は、幸福そうに笑ってくれている。
ああ――――好きだ。
私も幸せだよ、ヴァン。ギュスターヴは唇だけ動かして呟いた。
ずっと一緒にいたい、この時間がずっと続いてほしい。
演奏よ、終わらないでくれ。願わずにはいられなかった。
剣闘大会の日、ヴァンは人目に怯えていた。
それゆえ、舞踏会に対しても気が重くなっているであろうことは察しがついた。
だがいつかは、彼の存在を知らしめねばならない。
ならばこそ、準備万端にして完璧なヴァンをお披露目しなければ。
彼が生まれながらの自分に自信を持ってくれるように。
ギュスターヴは城の針子たちに、ヴァンのための衣装を縫うように指示した。
デザインはすべてギュスターヴが考えた。
ヴァンの身体の細さを強調するため、コートの裾は限界まで長くさせた。
それもストンと下に落ちるのではなく、ドレスのように広がるようになっている。
金の刺繡もたっぷりとさせた。どれだけ自分がヴァンのことを大事に思っていて、手放したくないと考えているか、見ただけで理解らせるために。
ジャボには大きな青い宝石をつけさせる。衣装に手をかければかけるほど、それはヴァンを心強くさせるはずだ。
舞踏会当日まで、ヴァンの髪油には最高級のものを使うよう秘密裏に指示しておいた。
ヴァンが知ると、遠慮してしまいそうだからな。
時間は矢のように過ぎ去り、当日。
着飾ったヴァンは、想像以上だった。
自分がデザインした通りは意図した通りの効能を、いやそれ以上を発揮し、ヴァンの儚げな容姿をこれ以上なく引き立たせていた。
金の刺繍が施された青のコートをまとったヴァンは、宝石箱に飾られた宝石のようだった。
数日間、ずっと最高級の髪油が塗られてきた髪はキラキラと光を反射している。
自分の姿をどう感じているのだろうか、鏡を見つめる彼の頬が林檎のように赤くなっていて、愛おしくてたまらない。
ギュスターヴは似合っていると請け負ってあげた。
すると、ヴァンはしきりに確認を求めてくる。何度だって囁いてあげよう。
「今日のヴァンは本当に美しいぞ」
途端、ただでさえ赤かった顔が、耳まで真っ赤に染まった。
寸の間、寝台の中の彼を夢想にしてしまうほどにそそる表情だった。
フィリップがやってきて、ヴァンの眼鏡を外す。
ヴァンの両目に、星の加護が灯された。
ヴァンの視線がはっきりとするのが感じ取られた。視力が強化されたのだ。
裸眼になると、ヴァンの愛らしさはより一層ハッキリとした。
どんな星々よりも、彼の瞳が眩しい。
もちろん、眼鏡をつけていたってヴァンは美しい。だがこれでどんなボンクラにだって、ヴァンの素晴らしさが伝わるだろう。
ギュスターヴは彼の手を取り、舞踏会の会場へと足を踏み入れた。
貴族たちの前に姿を現した途端、会場は羨望の溜息に包み込まれた。
誰もがヴァンの美しさに見惚れているのだ。
隣のヴァンも、背筋をぐっと伸ばして前を見据えて隣を歩いてくれている。
自分は彼を幸せにできているだろうか。
いや、自分が幸せにするのだ。
会場の中央に進み出ると、ギュスターヴは貴族らに語りかけ始めた。
ヴァンの素晴らしいところ、偏見のない新しい社会を作っていきたいと考えていること、ヴァンとの結婚を祝福してほしいこと。言葉を尽くし、真摯に語りかけた。
結果として……貴族たちは大きな拍手を寄越してくれた。
そっと横を見ると、ヴァンの眦に光るものが見えた。
「君が堂々としていたから、彼らは賞賛しているんだ」
伝えると、そっと身を寄せられる。
「僕が堂々としていられたのは、殿下が隣にいてくれたからです。殿下、ありがとうございます」
気恥ずかしげに微笑んだ彼の笑顔に、夢にも上るような心地を覚えた。
精霊の姿がもし見えるならば、自分の精霊たちはきっと大はしゃぎしているのだろう。
ギュスターヴは至上の幸福を嚙み締めた。
少しして、楽団の演奏が耳に届く。
「ヴァン、行こう!」
ギュスターヴはヴァンの手を引いて、ダンスホールの中央に躍り出た。
くるりと身を翻すと、ヴァンの腰に手を添え、片手を握った。
「あの、僕リードされる側は踊ったことなくって……」
「私に合わせてくれ。これくらい緩い曲調なら大丈夫だろう?」
彼を安心させるように微笑む。
琥珀色の瞳と、しっかりと視線が合う。
瞬間、時が止まったかのように感じられた――
身体が勝手に動き出した。
曲に合わせ、身体が勝手に彼を導きながら舞う。
ヴァンはよどみなく、こちらの動きについてきてくれる。
琥珀の瞳に、自分の姿が映っている。
まるでこの世界に二人きりみたいだ。自分もヴァンしか目に入れたくない。
十五年間ずっと、恋焦がれてきた。
その彼が目の前にいて、踊ってくれている。
それを思うと夢のようだった。
手にはたしかに彼の温度が感じられて。
距離は呼吸の音が聞こえるほど近くて。
目の前の彼は、幸福そうに笑ってくれている。
ああ――――好きだ。
私も幸せだよ、ヴァン。ギュスターヴは唇だけ動かして呟いた。
ずっと一緒にいたい、この時間がずっと続いてほしい。
演奏よ、終わらないでくれ。願わずにはいられなかった。
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