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第三十一話 それではオークション当日です

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 さて、何はともあれまずはオークションである。
 王都に着いて一晩泊まるともうオークションの日だ――まだ式を挙げてないからというロベールの主張により僕たちは別々の部屋を借りて泊まった。どうせもうすぐそういう関係になるから同じ部屋に泊まってもいいのに!

 当日。恐らく別行動の爺やも今頃会場に向かっているだろうと信じて、僕らもコートを纏い馬車に乗り込んだ。馬車はオークション会場へと向かう。

 会場に着くと、僕らは係の者に招待状を見せた。
 すると出品者専用の席へと案内される。出品された品ではなく、それを競る参加者の方がよく見える席である。
 もちろん、出品者でありながら他の品を競り落としたい者は参加者側の席に座ることになる。

 参加者に紛れている爺やの姿を発見することができた。

「おい。本当に爺やは大丈夫なんだろうな」
「爺やに任せておけば何にも問題ないって」

 心配するロベールを横にオークションが始まりを告げた。

「まずは一品目。レアモンスター、ゴールデントレントの実でございます」

 拡声の魔導具デバイスを手にした司会者が品よく一品目の素材を紹介する。

 レアモンスターというのは時折ダンジョンに出てくる珍しい魔物のことである。その素材はとても高値で売れる。
 うちの村も最初のフロアボスを倒したのだから、そろそろレアモンスターが出てくるようになるだろう。
 フロアボスを倒せばもっと深い階層まで潜れるようになるからだ。

「まずは金貨一枚からのスタートでございます」

 司会者が告げるとチラホラと手が上がる。
 手を上げた時の指の本数でどれくらい入札するかを示すらしい。

「二枚、三枚、四枚……」

 ここで爺やが手を上げる。

「金貨で五枚!」
「ああ、何をやっているんだ! 全然関係ない物に入札したぞ!」

 その様子にロベールが慌てる。

「僕たちの素材にだけ入札したら怪しいでしょ」
「ああ、それもそうか……いやしかし間違って落札してしまったら……」

 まったく、僕の伴侶は肝が小さい。
 その後もロベールはハラハラと成り行きを見守っていた。爺やは適当なところで入札を止めるので、間違って他の品を落札してしまうようなことはなかった。
 そしていよいよ僕たちが出品した素材の番になった。

「さてお次は遠き辺境の地で討伐されたグレートベヒモスの角でございます」

 誰の村が辺境だって? え?
 司会の言葉にはほんのりイラッとしたが入札が始まる。
 爺やは適度に手を上げて値を少しずつ吊り上げていく。

「よし、いいぞ爺や……!」

 ロベールは実に楽しそうに爺やの奮闘を観戦している。
 やがて入札する者は段々と少なくなっていく。

「お、おい……そろそろ入札を止めないと謝って落札してしまうのではないか?」

 遂に入札し続けているのは三人だけになった。
 一人は爺や。一人は魔術師風の老婦人。一人はメガネの若き商人……見覚えのある男だな。

「……よく見たらあれはエーミールではないか?」
「うん、どうやらそのようだね」

 競り合っている相手の一人はエーミールであった。
 どうやらグロスマン商会はグレートベヒモスの角を欲しているらしかった。

 やがて老婦人が入札しなくなる。
 爺やとエーミールの一騎打ちになった。

「いやいやいや今すぐを止めないとまかり間違って落札しかねんぞ!?」
「何を言ってるの、ここからだよ」

 二人の入札は過熱していく。

「大金貨七枚と金貨九枚」
「大金貨八枚」
「大金貨八枚と一」
「八枚と二」

 どんどん値が吊り上がっていく。

「爺や、やめろ……! その辺にしておけ……!」

 爺やは涼しい顔で入札を続ける。

「八枚と六」
「八枚と七」
「……」

 エーミールが手を止めて考える素振りを見せる。

「ああ、欲張るから……!」

 ロベールの顔が真っ青になる。

「……大金貨十枚!」

 エーミールは再び手を挙げた。
 一気に値が上がった。
 まさか大金貨十枚まで上がるとは僕も思っていなかった。
 場内がどよめく。

「よ、よし! でかしたぞ爺や! よくぞ引き出した!」

 ロベールの顔が一気に明るいものになる。
 ころころと顔色が変わる楽しい奴だ。

「……」

 爺やは考え込む顔つきになっている。

「お、おい、まさか……?」

 ロベールの顔が再び色を失う。
 まさか爺やはこれ以上値を吊り上げようとしているのだろうか。
 その頭の中では目まぐるしくグロスマン商会の総資産とオークションに出せる金額を計算して弾き出しているのかもしれない。

「……」

 爺やはふっと手を下げた。

「大金貨十枚! 落札されました!」

 無事グロスマン商会の落札で決まった。



 オークションが終わり、僕たちは会場を後にする。
 早く爺やを褒め称えてやりたい気持ちでいっぱいだった。

「こんにちは、クラウセン様。ナルセンティア様」

 そんな僕たちに聞き覚えのある声が背後からかかった。
 僕らは恐る恐る振り向く。

「シンプルながら大胆な戦略、お見事でした。まさか従者をオークションに参加させることで値を吊り上げさせるとは」

 そこにはエーミールがキラリとメガネを光らせて立っていた。
 やば、バレてしまった。
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