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恋人(偽)と一匹
二人の答え合わせ 5
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「それと王都では赤毛の娘がさらわれる事件が起きているって、聞いたわ」
クレープがだいたいなくなってから、ミリアはそう切り出してきた。
ナキはやっぱりそっちかと思った程度だが、少し変ではある。
「代わりを探して、って感じではあるけど、国がやるならもっとスマートにやりそう。こんなに大きな国なら、そういう手段持っている人くらい養ってるでしょ?」
「そうね。やるならちゃんと根回ししてやるわ。証拠の隠滅まで、お綺麗に処理すると思う」
何とも言えない沈黙が落ちる。
雑というよりなりふり構わない感をひしひしと感じる。
ナキとしては嫌な想像が現実としてありそうで、口には出したくない。ミリアもなにか察しているようで、表情が暗い。
「執着が歪んじゃったかな……」
「そうかも……」
図らずもため息が重なる。ナキはそこまでのなにかとは思っていなかった。しばらく再起不能かな程度ではまだ軽かったらしい。
ヤンデレを製造してしまったのであろうか。
ミリアにしてもさすがに死んだら、似た赤毛の娘を探しだすほどとは想定していなかったに違いない。
あるいは、そこまで考えてもいなかった。
あんな状況では、容量を溢れていそうな気もする。今までの努力も想定された未来も全否定されたのだから。
「大人しく受けいれた方が良かったのかしら」
「それも問題あるんじゃないかな。王国の方が今度は落ち着かないんじゃない? 自国の機密情報握った隣国の王妃、しかも恨まれる憶え有りなんてさ。
もし何かあったらどっちが勝ちそうなわけ?」
「帝国ね。国内の情勢が悪くなければ、うちは悪くないと言いたかったんじゃないかしら。
そんな風に扱う婚約者が悪いと。いらないというからもらったんだ。ぐだぐだ言うな。かしらね。文句をつけるなら武力をちらつかせるのも厭わないし、実際なにかしても良心の呵責も憶えないと思うわよ」
「……なるほど、帝国側の対応も変なんだ。
あのさ、ミリア」
言いづらいなと思いながらもナキは切り出した。
「なに?」
「結託してた、って、事ありうる?」
王国内に、ミリアを排除したいという勢力はあってもおかしくはない。完全に一枚岩な場所などないのだから。実行出来るほどの力があるのか、という点はわからないが、王国内の現状がわかれば見えてくるものもあるだろう。
ミリアは頬に手をあてて少し首をかしげた。
「……そうね。言われるまで気がつかなかったわ。
私を国外まで、問題なく出させるなんて殿下たちには難しい。少なくとも国内の移動には事前準備がいるはずだわ。そうでなければ国外にでるにはもっと時間がかかったはず。
その手はずを私に知られることなく、やってのけるのは数人くらいしかいない」
ミリアはにこりと笑った。可憐な花がほころぶような笑顔にナキは鳥肌がたつ。
今までがミリアであったとするならこれはミリアルドなのだろう。身に纏う雰囲気すら違うようで、思わずナキは距離を離した。
「憶測で言っても仕方ないわ。ちょうど良く情報源があるのだから、囀っていただきましょう」
「……ミリー、戻ってきて」
「あ。あ、えっと」
いつものミリアというには少々ぎこちないが、ミリアルドの気配は遠くなった。そして、すこしばかり離れた距離に不思議そうな表情をしている。
ナキは誤魔化すように笑うしかなかった。実は、ちょっとばかり怖かったとは伝えられない。
笑んでいるのに、とても冷たく見えた。もし、対婚約者でもこれだったら、親しくなるのは難しい気がする。
そして、あの彼女にちょっかいをかける猛者はほとんどいないだろう。それこそ、自分にとても自信があるような男だけが声をかけそうだ。ナキもあの状態なら、声をかけるどころか近寄らない。
「詳細はクリス様に話し聞いてからかな。さて、お仕事、お仕事。一緒に行こうか」
「うん」
不意にミリアは立ち上がった。そして、ナキの手を引く。
「遅くなってしまったから急ぎましょ」
赤くなった頬を隠すようにうつむきながら、ミリアは促した。
え、あう。などと微妙な返事をナキは返してしまった。これは、予想してなかった。
こんな事したことがないのかちょっと歩くには不向きな握り方をされている。ナキは立ち上がってから柔らかい白い手をそっとに握りなおす。
「じゃ、行こうか」
隣で妙に緊張したようなミリアにナキは首をかしげる。最初に仕掛けてきたのはミリアだったような気がするのだが。
乙女心は、全く、わからない。
クレープがだいたいなくなってから、ミリアはそう切り出してきた。
ナキはやっぱりそっちかと思った程度だが、少し変ではある。
「代わりを探して、って感じではあるけど、国がやるならもっとスマートにやりそう。こんなに大きな国なら、そういう手段持っている人くらい養ってるでしょ?」
「そうね。やるならちゃんと根回ししてやるわ。証拠の隠滅まで、お綺麗に処理すると思う」
何とも言えない沈黙が落ちる。
雑というよりなりふり構わない感をひしひしと感じる。
ナキとしては嫌な想像が現実としてありそうで、口には出したくない。ミリアもなにか察しているようで、表情が暗い。
「執着が歪んじゃったかな……」
「そうかも……」
図らずもため息が重なる。ナキはそこまでのなにかとは思っていなかった。しばらく再起不能かな程度ではまだ軽かったらしい。
ヤンデレを製造してしまったのであろうか。
ミリアにしてもさすがに死んだら、似た赤毛の娘を探しだすほどとは想定していなかったに違いない。
あるいは、そこまで考えてもいなかった。
あんな状況では、容量を溢れていそうな気もする。今までの努力も想定された未来も全否定されたのだから。
「大人しく受けいれた方が良かったのかしら」
「それも問題あるんじゃないかな。王国の方が今度は落ち着かないんじゃない? 自国の機密情報握った隣国の王妃、しかも恨まれる憶え有りなんてさ。
もし何かあったらどっちが勝ちそうなわけ?」
「帝国ね。国内の情勢が悪くなければ、うちは悪くないと言いたかったんじゃないかしら。
そんな風に扱う婚約者が悪いと。いらないというからもらったんだ。ぐだぐだ言うな。かしらね。文句をつけるなら武力をちらつかせるのも厭わないし、実際なにかしても良心の呵責も憶えないと思うわよ」
「……なるほど、帝国側の対応も変なんだ。
あのさ、ミリア」
言いづらいなと思いながらもナキは切り出した。
「なに?」
「結託してた、って、事ありうる?」
王国内に、ミリアを排除したいという勢力はあってもおかしくはない。完全に一枚岩な場所などないのだから。実行出来るほどの力があるのか、という点はわからないが、王国内の現状がわかれば見えてくるものもあるだろう。
ミリアは頬に手をあてて少し首をかしげた。
「……そうね。言われるまで気がつかなかったわ。
私を国外まで、問題なく出させるなんて殿下たちには難しい。少なくとも国内の移動には事前準備がいるはずだわ。そうでなければ国外にでるにはもっと時間がかかったはず。
その手はずを私に知られることなく、やってのけるのは数人くらいしかいない」
ミリアはにこりと笑った。可憐な花がほころぶような笑顔にナキは鳥肌がたつ。
今までがミリアであったとするならこれはミリアルドなのだろう。身に纏う雰囲気すら違うようで、思わずナキは距離を離した。
「憶測で言っても仕方ないわ。ちょうど良く情報源があるのだから、囀っていただきましょう」
「……ミリー、戻ってきて」
「あ。あ、えっと」
いつものミリアというには少々ぎこちないが、ミリアルドの気配は遠くなった。そして、すこしばかり離れた距離に不思議そうな表情をしている。
ナキは誤魔化すように笑うしかなかった。実は、ちょっとばかり怖かったとは伝えられない。
笑んでいるのに、とても冷たく見えた。もし、対婚約者でもこれだったら、親しくなるのは難しい気がする。
そして、あの彼女にちょっかいをかける猛者はほとんどいないだろう。それこそ、自分にとても自信があるような男だけが声をかけそうだ。ナキもあの状態なら、声をかけるどころか近寄らない。
「詳細はクリス様に話し聞いてからかな。さて、お仕事、お仕事。一緒に行こうか」
「うん」
不意にミリアは立ち上がった。そして、ナキの手を引く。
「遅くなってしまったから急ぎましょ」
赤くなった頬を隠すようにうつむきながら、ミリアは促した。
え、あう。などと微妙な返事をナキは返してしまった。これは、予想してなかった。
こんな事したことがないのかちょっと歩くには不向きな握り方をされている。ナキは立ち上がってから柔らかい白い手をそっとに握りなおす。
「じゃ、行こうか」
隣で妙に緊張したようなミリアにナキは首をかしげる。最初に仕掛けてきたのはミリアだったような気がするのだが。
乙女心は、全く、わからない。
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