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眠り姫
帰宅しました(非公式)
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「ただいまです」
帰ってきましたよっ! 長かった!
そんな本日、90日目です。
と言っても正式に帰宅したってわけじゃないんです。
爵位の叙勲式とか色々新しい用事が出来たので。
爵位の件は正式に打診があり、悩みましたが受けることにしました。
……だって、温泉が領地にあるっていうから……。ユウリが即、なにそれずるい! と言い出したあたり、日本人って……と思いましたね。
基本的には直轄地と同等の扱いで、王家が責任をもって治めるという話でした。領地に住むとか領内を治めるという話は追々でよいそうです。本当なら爵位はもらっても領地はいらないんですけど、そこは箔をつける意味合いもあるそうで。
税収については、慰謝料として支払うということらしいんです。でも。そのままもらうのも気がひけるのでしばらくは貯蓄しておこうと思います。
カリナさんがキラキラした目で寄付と言い出していたので、そのあたりは検討しますけどね。
それに伴って、新しい手続きがあるそうで建前的には王都にいてほしいらしいですが断固拒否しました。
リリーさんはわかっていたようで、最初から期待してないと言ってましたね。
城下の屋敷に引きこもっているということにして、帰宅しました。王都からフェザーの町、森の中の家とつながっているからできることですね。
なお、どうしても外出しなければならない時にはリューさんが代役をしてくれるそうです。
嫌がる本人をカリナさんが見張っておくと言ってましたけど。あの二人は知り合いというより幼馴染という名の腐れ縁だそうで。
カリナさんには乙女ゲーのヒロイン並みに今、もて期がきてるんじゃないでしょうか。一人だけ未婚ですからね。
まあ、そんなわけで一時帰宅です。
あたしに言っても無駄とようやく悟ったのかエリックのほうにものすごく釘を刺されてましたね! あたしはあきらかにご機嫌で浮かれてますから全部聞き流すと思われたんでしょう。間違ってません!
食糧庫からの帰宅なのですが、ゲイルさんは全く驚いてませんでした。
むしろ、扉が開けっ放しでした。
どうせ、こうなると思ってたと言われるくらいには弟子を把握しているようですよ。そして、エリックを捕まえてひそひそ話をしてるんですけど。眉間にしわが寄ってますけど、大人しく聞いているんですがなんの話なんでしょうね?
「じゃ、俺は行くから」
「どちらに?」
「リリーのところ。食材は2、3日分はあるはずだ」
そう言ってゲイルさんはさっさと家を出て行ってしまいました。玄関にきっちり荷物まとめてあったので、待ち受けていたくらいの勢いじゃないですか。
今は昼過ぎくらいなので、町に戻るには問題ないでしょうけど。
……急に二人にするのやめてくれませんかね?
「お茶でも飲むか」
まあ、そういうことになりました。
久しぶりにキッチンに立つんですが、元々そこにありましたよという風にオーブンが追加されています。
エリックはお湯を沸かすあたしの横で当たり前のようにお茶の準備してますね。
揺れる茶色の髪は記憶にあるより伸びたような気がします。少し痩せたようにも見えるんですけど、どうなんでしょう。他はあまり変わってないようです。
まじまじと観察するような余裕今までなかったですからね。外で会うとやっぱり非日常のように思えます。
「湧いてる」
こっち向いたなと思えば、冷静に指摘されましたよ……。じっと見ているというか凝視してましたね。それもかなり長く。
何事もなかったように火を消しましたけど。お湯についてはお任せして、冷蔵庫の中身でも確認しておきましょうか。
キッチン全体はハウスクリーニングでも入ったのかというほど磨き上げられてます。鍋やフライパンなどが増えていたりするし、なんと冷蔵庫も新しいのです。
「ずいぶん、奮発しましたね」
「ゲイルに任せればこうなることくらいわかってたから問題ないだろ。他にも色々いじられた」
聞こえてきた声がちょっと不機嫌そうなのは、領域をいじられたからでしょうかね。
あたしとしては使い勝手がよくなるほうがいいんですけど。
冷蔵庫の中身は以前と変わりないようですが、ちょっと奥行が増えたような気もします。野菜とソーセージ、ハムと妙に懐かしい感じの並びです。ただ、ベリーがごっそりと入ってますのですが無言のメッセージと受け取れば良いのでしょうか。
あとでジャムにでもしましょう。オーブンの試運転もかねてパイを作って。
まあ、今のところのお茶請けとして軽く泡立てたクリームにベリーとはちみつでもかけてしまいましょうか。ええ、主体がクリームです。
カロリー? そんなもの今日から数日は無視です。好きなものを好きなように食べるのです。まあ、在庫の範囲内ですけどね。
……そんな準備してたら今度は逆に見られているという。あまり観察しないでほしいんですよね。ちょっと増量した気がするので。食事量が増えたというより、大人しくしていたので運動不足なのです。眠っていた間の絶食がいい感じに減量にならないかと遠い目をしますよ……。
うん。やっぱり、カロリーは気にすべきかもしれませんね。明日から。
「楽しそうだな」
「楽しいですよ」
同意を求めたいところですが、そこまでは欲張りすぎですかね。
まあ、機嫌は良さそうですよ。
お茶を入れて、いつもの椅子にいつものように座って。そうできることがとても嬉しい。
ただ、気になることもありまして。
「そういえば、お風呂ってどうなりました?」
「外装はそのままで中身だけほぼ入れ替えたそうだ」
「入れ替えですか。ちょっといじって終わりかと思ったんですけど」
「なんでも珍しい呪式と構成らしく、研究のために剝がされた。代わりに中身は最新だ」
……図らずも最新設備を手に入れてしまいました。以前から調整が細かくてと言っていましたが、そのあたりでしょうか。
「……ところで。その」
聞くべきか否かを考えていることがあるのです。いえ、お風呂も気にはなっていたんですけど。
「寝室とか、改装されてませんよね?」
なんか、冗談のようにゲイルさんに言われて断ったんですが。
エリックに何とも言えない表情で見返されて、結果を知った気がします。
「一つ部屋が片付けられて、空いてはいる」
ある意味ご自由にどうぞと言われているようでそっちのほうが恥ずかしい気がしますよ。
気まずい沈黙が申し訳ないというか。なにを言っていいのかわかりませんね。
「え、ええと、他はどんな感じなんですか」
強引に元の話題に戻りましょう。どうせ、確認しなければならないんです。
リビングのほうの空調が調整されたとか、玄関回りのセキュリティが強化されたとか、細々とした改装が多かったようです。あとは床を綺麗に磨きなおしたり、壁紙も一部は張り直ししたそうですね。
個人で使っている部屋はそのままで、気になるようだったら職人を呼ぶということになりそうです。
お茶がなくなった時点で、一度、部屋に戻ることにしました。なんとなく離れがたく、だらだらしてしまいそうになりますから。
明日からならいいんですけど、今日のところは荷物の片付けをしたいです。ほぼ衣類と手紙類なので多くはないんですが。
あたしの部屋は全く変わっていませんでした。あたりまえですけど。
隙間があったクローゼットにワンピースをかけて、パジャマなどなどを引き出しにしまいます。
……そういえば。
引き出しの奥から、アレを引っ張り出してみました。透けてる下着。必要でしょうか?
真剣に検討して、そのまましまいました。着るところを想像して、羞恥心に負けましたよ。中身の問題で色気が溢れたりしない残念な感じになりそうですし。
新入りのパジャマは冬用の温か仕様です。袖と裾に花の刺繍があってちゃんと可愛い。見られても平気です。
まあ、見られるというのには平気でいられる気もしないんですけどね。
手紙は分けて箱に入れて保管します。
魔導師たちは筆マメというわけでもないらしいんです。だというのに、山ほどラブレターをいただきました。熱愛されている気になります。
あたしの知識が、ですけどね。
あたし自身に興味ないのでしょう。いえ、異界人という素材には興味あるらしいのですけど……。それって人間扱いなの? 同じ魔導師ですよね!? と言いたいくらいです。
ヒューイさんには言いましたけどね。きょとんとした顔で見返されて、心折れそうでした。頼りになるお医者さんではあるので、今後も付き合いはあると思うんですが。
今度、眠り姫をかけてくれとか言い出してきてどうしようかと。
起こしてくれる方の心当たりあるんですか? と言えば、そうか、恋人を作ることにすると逆方向にまい進していきました。
え、そっち!? と衝撃を受けましたね……。被害者が発生しないことを願っています。
その手紙たちへの返事は追々、していくつもりです。返事はすべて春になってからと言っておいてますし。返事書いたら即その返事がやってくることに気がついたので……。
この文通にもちゃんと対価を用意するということなので、個別交渉も発生しているんですよね。それは後追いで契約する形にするようです。
冬が終われば、いそがしくなりそうです。
……まあ、つまりは、冬の間くらいは空気読んで邪魔しないとそういうことですね。そう考えるのは穿ちすぎですか?
あたしは知らなかったんですけど、魔道具って多少個性が出るそうでどこの一門が作ったかはわかりやすいそうです。そのうえ、エリックのはかなり尖った性能の一点ものばかりなのでさらにわかりやすいと。
それを身に着けていたあたしを見て、大体の魔導師は理解したそうです。あー、あいつのね、と。そうでなくてもエリックからもらったマントもステラ師が依頼した一点ものらしく、誰のものかも噂で出回り……。
魔導師の方々にその方面でのちょっかいをかけられない理由がここにっ!
人のものには手出ししない不文律があるんだそうで、おかげで今のところは他の男性を送り込まれることは基本的にはありません。
それでも普通に惚れて口説かれるかもしれないとは言われましたけど。もしあったとしても、あたし本体というよりはあたしの知識がお好きですよねーという気持ちになりそうです。
手紙を大体片付けて、残ったのは大量の黒い手紙です。
諦めませんね。店長。そんな愛されていた気は全くないんですけど。あたしの好意は全くないので諦めていただきたいところです。
悪いのですが、あたしの好みはアラブの石油王(偽)ではございません。昔から、年上の余裕のありそうな優しい男性ですので。なにかにつけ突っかかってくる愉快犯ではございません。
なお、返信すると場所が特定され、なんらかの攻撃を食らうかもしれないから置いといてと言われています。
その手紙を入れる黒い箱だけ、別に隠しておきます。
片付け終わって一階に降りて、リビングを覗いてみました。
掃除したりなかったところもきっちり綺麗になっていたのは、ゲイルさんがしたのか業者の人が入ったのかどっちなんでしょうね?
いつものソファにカバーがかかっています。カーテンも冬仕様の厚手のもので、暖炉前のラグも毛足の長い温かそうなものでした。
居心地よく整える指示をしたのはゲイルさんでしょうね。エリックにはこういうのは期待できませんし、リリーさんも言う前に全部用意されているようなところありましたから。
主夫として格上ですね……。師匠としてだけではなく、家事の先達としても尊敬するところありますよ。
ちょっと敗北感も覚えますけどね。
エリックはまだ部屋から出てきていないようですし、他の場所も確認してみましょう。
そう、お風呂を!
「わぉ」
脱衣所のほうはほとんど変わってないなぁと見ていたら、鏡が新しくなっていました。以前のようにぼんやりしてません。ちょっと見慣れない自分の顔が見返しています。
自画自賛ですが、まえよりちょっと可愛い。
こうして見ると祖母に似ているのですね。兄とは全く似てないと思っていましたが、案外、目元は似ている気がしてきました。
髪の根本がやや黒くなっていることも発見してしまいました。見なかったことにして、浴室をのぞいてみます。
白いタイルの床は素足では冷たそうに見えます。猫足のバスタブは大きめで、ゆったり入れそうです。お湯を入れる蛇口が増設され、シャワーも形が変わりましたね。お湯を入れるボタンや温度設定などのパネルがありましたが、そこは見るだけにしておきます。
浴室の鏡はなぜか曇ったままで、ぼんやりとしたままでした。どうせ曇ってよく見えないのでいいんですけどね。予算が足りなかった、なんてことなさそうですけど。
なにはともあれ、いつでもお風呂にはいれます!
ご機嫌で、お風呂から出てくるとエリックと遭遇したのですが。
「え? あれ?」
……見逃してくれませんでした。髪の伸びた分だけ黒いのを発見されてそのまま染められましたよ……。
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そんな本日、90日目です。
と言っても正式に帰宅したってわけじゃないんです。
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それに伴って、新しい手続きがあるそうで建前的には王都にいてほしいらしいですが断固拒否しました。
リリーさんはわかっていたようで、最初から期待してないと言ってましたね。
城下の屋敷に引きこもっているということにして、帰宅しました。王都からフェザーの町、森の中の家とつながっているからできることですね。
なお、どうしても外出しなければならない時にはリューさんが代役をしてくれるそうです。
嫌がる本人をカリナさんが見張っておくと言ってましたけど。あの二人は知り合いというより幼馴染という名の腐れ縁だそうで。
カリナさんには乙女ゲーのヒロイン並みに今、もて期がきてるんじゃないでしょうか。一人だけ未婚ですからね。
まあ、そんなわけで一時帰宅です。
あたしに言っても無駄とようやく悟ったのかエリックのほうにものすごく釘を刺されてましたね! あたしはあきらかにご機嫌で浮かれてますから全部聞き流すと思われたんでしょう。間違ってません!
食糧庫からの帰宅なのですが、ゲイルさんは全く驚いてませんでした。
むしろ、扉が開けっ放しでした。
どうせ、こうなると思ってたと言われるくらいには弟子を把握しているようですよ。そして、エリックを捕まえてひそひそ話をしてるんですけど。眉間にしわが寄ってますけど、大人しく聞いているんですがなんの話なんでしょうね?
「じゃ、俺は行くから」
「どちらに?」
「リリーのところ。食材は2、3日分はあるはずだ」
そう言ってゲイルさんはさっさと家を出て行ってしまいました。玄関にきっちり荷物まとめてあったので、待ち受けていたくらいの勢いじゃないですか。
今は昼過ぎくらいなので、町に戻るには問題ないでしょうけど。
……急に二人にするのやめてくれませんかね?
「お茶でも飲むか」
まあ、そういうことになりました。
久しぶりにキッチンに立つんですが、元々そこにありましたよという風にオーブンが追加されています。
エリックはお湯を沸かすあたしの横で当たり前のようにお茶の準備してますね。
揺れる茶色の髪は記憶にあるより伸びたような気がします。少し痩せたようにも見えるんですけど、どうなんでしょう。他はあまり変わってないようです。
まじまじと観察するような余裕今までなかったですからね。外で会うとやっぱり非日常のように思えます。
「湧いてる」
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キッチン全体はハウスクリーニングでも入ったのかというほど磨き上げられてます。鍋やフライパンなどが増えていたりするし、なんと冷蔵庫も新しいのです。
「ずいぶん、奮発しましたね」
「ゲイルに任せればこうなることくらいわかってたから問題ないだろ。他にも色々いじられた」
聞こえてきた声がちょっと不機嫌そうなのは、領域をいじられたからでしょうかね。
あたしとしては使い勝手がよくなるほうがいいんですけど。
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まあ、今のところのお茶請けとして軽く泡立てたクリームにベリーとはちみつでもかけてしまいましょうか。ええ、主体がクリームです。
カロリー? そんなもの今日から数日は無視です。好きなものを好きなように食べるのです。まあ、在庫の範囲内ですけどね。
……そんな準備してたら今度は逆に見られているという。あまり観察しないでほしいんですよね。ちょっと増量した気がするので。食事量が増えたというより、大人しくしていたので運動不足なのです。眠っていた間の絶食がいい感じに減量にならないかと遠い目をしますよ……。
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まあ、機嫌は良さそうですよ。
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ただ、気になることもありまして。
「そういえば、お風呂ってどうなりました?」
「外装はそのままで中身だけほぼ入れ替えたそうだ」
「入れ替えですか。ちょっといじって終わりかと思ったんですけど」
「なんでも珍しい呪式と構成らしく、研究のために剝がされた。代わりに中身は最新だ」
……図らずも最新設備を手に入れてしまいました。以前から調整が細かくてと言っていましたが、そのあたりでしょうか。
「……ところで。その」
聞くべきか否かを考えていることがあるのです。いえ、お風呂も気にはなっていたんですけど。
「寝室とか、改装されてませんよね?」
なんか、冗談のようにゲイルさんに言われて断ったんですが。
エリックに何とも言えない表情で見返されて、結果を知った気がします。
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「え、ええと、他はどんな感じなんですか」
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リビングのほうの空調が調整されたとか、玄関回りのセキュリティが強化されたとか、細々とした改装が多かったようです。あとは床を綺麗に磨きなおしたり、壁紙も一部は張り直ししたそうですね。
個人で使っている部屋はそのままで、気になるようだったら職人を呼ぶということになりそうです。
お茶がなくなった時点で、一度、部屋に戻ることにしました。なんとなく離れがたく、だらだらしてしまいそうになりますから。
明日からならいいんですけど、今日のところは荷物の片付けをしたいです。ほぼ衣類と手紙類なので多くはないんですが。
あたしの部屋は全く変わっていませんでした。あたりまえですけど。
隙間があったクローゼットにワンピースをかけて、パジャマなどなどを引き出しにしまいます。
……そういえば。
引き出しの奥から、アレを引っ張り出してみました。透けてる下着。必要でしょうか?
真剣に検討して、そのまましまいました。着るところを想像して、羞恥心に負けましたよ。中身の問題で色気が溢れたりしない残念な感じになりそうですし。
新入りのパジャマは冬用の温か仕様です。袖と裾に花の刺繍があってちゃんと可愛い。見られても平気です。
まあ、見られるというのには平気でいられる気もしないんですけどね。
手紙は分けて箱に入れて保管します。
魔導師たちは筆マメというわけでもないらしいんです。だというのに、山ほどラブレターをいただきました。熱愛されている気になります。
あたしの知識が、ですけどね。
あたし自身に興味ないのでしょう。いえ、異界人という素材には興味あるらしいのですけど……。それって人間扱いなの? 同じ魔導師ですよね!? と言いたいくらいです。
ヒューイさんには言いましたけどね。きょとんとした顔で見返されて、心折れそうでした。頼りになるお医者さんではあるので、今後も付き合いはあると思うんですが。
今度、眠り姫をかけてくれとか言い出してきてどうしようかと。
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え、そっち!? と衝撃を受けましたね……。被害者が発生しないことを願っています。
その手紙たちへの返事は追々、していくつもりです。返事はすべて春になってからと言っておいてますし。返事書いたら即その返事がやってくることに気がついたので……。
この文通にもちゃんと対価を用意するということなので、個別交渉も発生しているんですよね。それは後追いで契約する形にするようです。
冬が終われば、いそがしくなりそうです。
……まあ、つまりは、冬の間くらいは空気読んで邪魔しないとそういうことですね。そう考えるのは穿ちすぎですか?
あたしは知らなかったんですけど、魔道具って多少個性が出るそうでどこの一門が作ったかはわかりやすいそうです。そのうえ、エリックのはかなり尖った性能の一点ものばかりなのでさらにわかりやすいと。
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魔導師の方々にその方面でのちょっかいをかけられない理由がここにっ!
人のものには手出ししない不文律があるんだそうで、おかげで今のところは他の男性を送り込まれることは基本的にはありません。
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手紙を大体片付けて、残ったのは大量の黒い手紙です。
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なお、返信すると場所が特定され、なんらかの攻撃を食らうかもしれないから置いといてと言われています。
その手紙を入れる黒い箱だけ、別に隠しておきます。
片付け終わって一階に降りて、リビングを覗いてみました。
掃除したりなかったところもきっちり綺麗になっていたのは、ゲイルさんがしたのか業者の人が入ったのかどっちなんでしょうね?
いつものソファにカバーがかかっています。カーテンも冬仕様の厚手のもので、暖炉前のラグも毛足の長い温かそうなものでした。
居心地よく整える指示をしたのはゲイルさんでしょうね。エリックにはこういうのは期待できませんし、リリーさんも言う前に全部用意されているようなところありましたから。
主夫として格上ですね……。師匠としてだけではなく、家事の先達としても尊敬するところありますよ。
ちょっと敗北感も覚えますけどね。
エリックはまだ部屋から出てきていないようですし、他の場所も確認してみましょう。
そう、お風呂を!
「わぉ」
脱衣所のほうはほとんど変わってないなぁと見ていたら、鏡が新しくなっていました。以前のようにぼんやりしてません。ちょっと見慣れない自分の顔が見返しています。
自画自賛ですが、まえよりちょっと可愛い。
こうして見ると祖母に似ているのですね。兄とは全く似てないと思っていましたが、案外、目元は似ている気がしてきました。
髪の根本がやや黒くなっていることも発見してしまいました。見なかったことにして、浴室をのぞいてみます。
白いタイルの床は素足では冷たそうに見えます。猫足のバスタブは大きめで、ゆったり入れそうです。お湯を入れる蛇口が増設され、シャワーも形が変わりましたね。お湯を入れるボタンや温度設定などのパネルがありましたが、そこは見るだけにしておきます。
浴室の鏡はなぜか曇ったままで、ぼんやりとしたままでした。どうせ曇ってよく見えないのでいいんですけどね。予算が足りなかった、なんてことなさそうですけど。
なにはともあれ、いつでもお風呂にはいれます!
ご機嫌で、お風呂から出てくるとエリックと遭遇したのですが。
「え? あれ?」
……見逃してくれませんでした。髪の伸びた分だけ黒いのを発見されてそのまま染められましたよ……。
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