243 / 263
温泉と故郷と泣き叫ぶ豆
聖女様はお断りします
しおりを挟む
エリックに指摘されるまで抜けてたんですが、災厄にとどめ刺したのあたしってことになってます。より正確に言えば、あたしの体を使った神々連合であるのですが。
そっちのほうがよりまずいと言われました。
完全無欠の聖女様、ですよ。
一国の侯爵程度で済みません。教会でトップの座に君臨します。さらに言えば、魔導師というのも神々を信仰しておりますのでそっちでもトップになるわけですよ。
で、そんな権威と暴力の組織を好きにできるってわけです。国なんて、意味ありませんね!
言うなれば、権力者レベルMAXに近いです。世界はあたしを中心に回してね、が素でできそうな感じで。でも、全く自由はないでしょう。魔法とか使えなくなっちゃっていますし……。
詰んだ。
本気で泣きたくなりました。あ、あたしの、平和な日常……。あまりにもショックを受けていたあたしにエリックは逃亡するかと聞いてきたりしましてね。
それ、絶対、エリックが悪役振られるやつじゃないですかー、やだなー、と血涙を流したくなりました。
神様なんとかしてと言ったところで、そっちには干渉しないのでと逃げられるのがオチという。
よし、ユウリに全部手柄を押し付けよう、そうしようと決断に至ったわけです。なので、関係者全員にあの件はユウリがやったことにしておいてくれと話をつけなければならないんです。
エリックはそう上手くいくかなと懐疑的ではありましたが、失敗したらほとぼりが冷めるまで山奥スローライフです。引きこもります。
それが現実的かというとまた別問題ですけど。
そういう自分本位の考えがあり、階下に降りて食堂へ行ったわけです。
食堂にいたのはユウリとゲイルさんでしたね。フラウはどこかへ行ってしまった模様。刺激が強すぎたでしょうか。それとも身内のああいうのはちょっとという気持ちでしょうか。それは、よくわかりますけども。
他にもいそうなローゼとかフュリーとかティルスとかもいません。なにか不自然な気もしますけど、皆忙しいならありえますし。
「お、起きてきた、っていうか、大丈夫?」
声をかけるのをためらっている間にユウリが気がついて声をかけてきます。
「駄目ですが、話がありましてね……」
よろよろしながら近くの椅子に座ります。とりあえずとゲイルさんがお水を用意してくれました。師匠を使うのはよろしくないでしょうが、今日は勘弁していただきたいです。
はぁ、水分が染み渡る……。そして、お腹がキュウと鳴りました。
「おなかすきました」
「だろうな。まずいが、これでも食べてろ」
ゲイルさんが謎の緑の物体を目の前に置いていきましたよ。某栄養補助食品の形状に似てますけど臭いが青臭い。
「なんです? これ」
「魔導師用緊急補給用食品」
専用ってことは魔素回復薬みたいなものですかね?
エリックが嫌そうに見ていますね。俺はいらないと断りを入れているのでよほどまずいんでしょう。
で、これを食べろと。お断りできなさそうですね。
意を決してかじりますよ!
「……泥、みたいな、草みたいな」
何とも言えない甘味があります。喉の奥に残るえぐい甘さ。なのに、もっと食べたいという……。
まずい、もう一杯、みたいな。
「食べながら聞いてよ。
外の状況は町半壊。教会周辺はほぼ全壊。家がない人たちは外でしばらくテント暮らしになりそう。春先でよかったよ。
建物が壊れたときに巻き添えみたいな負傷者が多い感じ。魔物の巻き添えってのは少数」
「あの、魔物って?」
「ああ、見てなかったんだ。
教会長っぽいのがなんか、化け物になった。急に魔法の回路を開いたせいで、逆流して壊れたとか言ってたけど」
「厳密に言うともっと別の現象。まあ、魔導師外にはその認識で問題ないだろう」
ゲイルさんがそう言ってますが、ご希望なら説明するとうきうきしてます。説明したいんですね。でも、ここに魔導師が複数いることから見解の違いにより荒れる予想ができます。そうでなくても長いのが見込まれるのでスルーするのが正解でしょう。
「で、この辺に俺らがいる理由なんだけど。
アーテルちゃんさ、旅行の理由、別にあったでしょ」
「へ?」
間抜けな顔してたと思いますよ。
一応、ユウリにはなんかあるなと感づかれてはいると思っていました。ただし、それでも忙しくて動くことはないと踏んでましたね。
そこまで重要視されないであろう、という見解でした。
だって、表立っては温泉行って、エリックの故郷行って、最終的には領地にお忍び旅行なんですから。怪しまれても、そこまでのことが起こるとは思っていないと。
災厄については気にかけていたもののそれほど本腰は入れてませんでしたし。そもそもあたしが災厄についてなんか言った回数なんて数えるほど。それ関係だなんて関連付けることは難しいと思いますし。
「失礼な。楽しい新婚旅行ですよ」
「でも、ここは別の目的があったよね?」
「なくはないですけと、大したことじゃないですよ」
「へぇ。 なに?」
「えっとそのう」
ちらりとエリックを確認します。
なんか、ユウリそれで察したみたいです……。エリックですか? やっぱりな、みたいな顔してますよ。わざわざ言わないのって優しさでしょうか、面倒だからでしょうか?
「ほんとブレないな……」
「あはは……。で、ユウリはその件であたしたちを追いかけてきたんですか?」
元の話に戻して誤魔化しましょう。
「一週間くらい前に謎の記憶が戻ってきたところがあったんだよ。それで、温泉とか色々なことを思い出して変だぞと思って調べたら色々まずいことがわかって急いできたんだよ」
ああ、温泉行ってた時あたりですね。そっちまで影響出るとは思ってませんでした。なにか解放条件を満たしたのかもしれません。
「それで最短で来ようとしたけど、邪魔がいろいろ入ってグルウの町にはいれたのが昨夜遅く。
その場にいたロブさんに話を聞いて、災厄がいて二人が隔離したらしいってことを聞いてどれだけ焦ったかわかる?」
笑顔が怖いですよユウリさん。
「ごめんなさい。死体になるつもりはなかったんですが」
「結果的になりかけたよね? というか、怒ってるのそこじゃないんだけど」
首をかしげたのは実はあたしだけではなくて、エリックもだったりします。
ユウリははぁっと大きなため息をつきました。ゲイルさんはゲイルさんでこいつらと言いたげな表情です。
「俺は、ちゃんと、心配したの。わかる? なんか斜めに解釈されそうだから言うけど、二人の安全とかをだよ」
「そ、それはご心労をおかけしました」
わかってんのかなとぶつぶつとユウリは言っております。なんか、ユウリに心配されるってピンとこないんですよね。
エリックも面食らっているようですし。
「今まで散々裏であれこれされたから心配って言われてもその通り受け取れないかなあって」
ということもあるんですよね。
ぐっとユウリも言葉に詰まっていましたね。今回もなんかあったりするんでしょうか。
「と、とにかく、災厄はいなくて魔物が残っていたから倒したあとに次元に穴開けたんだ」
「無茶しますね」
「お互い様だろ。
で、そこからは知っての通り」
「そうですか」
「で、そっちの話は?」
さっくり返ってきましたよ。
「あたしは一度この世界に来て帰ったことがあるんですけど、そのこと自体を忘れていました。それで、ある筋から情報をもらって記憶を取り戻しに行ったんです。それが一週間くらい前なので、多分、その影響でユウリたちにも記憶が戻ってきたんだと思います。
それからは普通の観光でしたよ。ここには用事がありましたけどね」
我ながら、豪快に災厄のことを無視したものです。
あー、緑の泥まずいなー、もう一つ欲しいな。ちらっとゲイルさんに視線を向ければもう一つ出てきました。
「つまり、災厄がここにいるとは知らなかったってこと? ディレイも?」
ユウリの疑惑の眼差しにきょとんとした表情で応じます。えーそんなのしらないですよーと口で言うと嘘くさいので黙ってますよ。都合よく食べるものがあるのでもぐもぐしてます。
「なにかいるとは思っていたが、それがなにかは明確にはわからなかったな」
「そんなとこにアーテルちゃん連れてきたわけ?」
「断ったら、あとで一人ででも行くだろうと思って」
「そうだね」
皆が納得する答えだったようです! なぜ、バレてるのです。
「じゃ、なんで逃げなかったわけ? あんなの相手にできないでしょ」
「逃げそびれました」
嘘ですが。
「あれから逃げると町がひどいことになるうえに避難もさせることもできない」
エリックもまあまあ嘘にならない程度に取り繕ってきましたね。弟の件は言う気はなさそうです。
「……まあ、妥当な感じなんだけど。
これは俺の直感なんだけど。最初から災厄を狙ってなかった?」
「なんのために?」
「そこがわかんない。どう考えても、不利益を超えて損害しかないはず。それこそ、よほどの……」
はっと気がついたようにユウリはエリックを見ました。気がついちゃいましたか。あたしには理由があった、ということに。
「……、うん。ちょっと席外してくれる?」
ユウリはゲイルさんとエリックにそう言っています。が、二人とも拒否しました。面白そうというゲイルさんの理由はなんでしょうかね……。
「俺、なんにもしないけど」
「信用できない」
きっぱりはっきりエリックに言われてますね。過去の実績やらなんやらがほんとに響いてますね。ユウリはショックと言いたげによろけてます。
まあ、あっちは友人と思っているのですから。でもですね、エリックの性格上、それはそれ、これはこれの処理だと思いますよ。
別に助けるのはいいけど、あたしの件だけは譲らないし、信用しない。でも、エリックなりの友情的な何かはあるんじゃないですかね。一応。
「……じゃあ、別の機会に聞くよ。じゃ、そっちの話って何?」
「ユウリにもらってほしいものがあるんですよ」
「嫌な予感しかしないけど」
「手柄。あたしじゃなくてユウリが災厄を滅したことにしてください。なんか理由を考えて」
「丸投げ」
「だってユウリのお仕事でしたし。あたしがしなかったら、再起不能になったのユウリのほうですよ?」
「げっ」
「神様、人の心ありませんから」
そもそも人ではありませんからね。
あり得るとユウリが呟く程度には説得力があったようです。あたしとエリックの両方を見比べてユウリは何かを決めたようでした。
「わかった。あの場にいた人たち以外は見てないから理由をつけて口裏合わせする。どこかから漏れることがない、という約束はできないよ」
「それは諦めますよ。
魔導協会は、どう扱いますか?」
一応、この場にいる魔導協会関係者であるゲイルさんに確認を取ります。
「持っていかれると困るからそのあたりは徹底させる、と思うぞ」
ゲイルさんの見解はあたしの見通しとも合致します。
ただ、もう、使えない魔導師のあたしに用があるかは別ですね。
「それから、アーテルの意向を損なうのもなしだと思う。異界の知識は貴重だ。
だから、そのあたり心配はないぞ。な、ディレイ」
そこでなぜ、エリックが? と思いましたけど、エリックも魔導師やめるかもしれないんですよね。そうなると他の魔導師でどうよ?とやってくる可能性もあるかもしれないってことでしょうか。
どこかで魂の修復とかできませんかね。
「ま、なんかあったらクルス一門が黙ってないから安心しとけ」
「……戦争するならよそでやって。ゲイルもディレイもとんでもないのに、あれで中堅あたりとか信じられない」
ユウリがげんなりしています。ええ、そうですよね。普通に困ります。
「ちゃんと戦場はあるからそっちで片を付ける」
あっさりとゲイルさんは言いますが、あるんだ。戦場。驚愕の事実。まあ、こんな好戦的な魔導師たちが暴れないわけもないですかね……。一般人相手になんかするのは基本的にないですし、大っぴらに語られることもないのかも。仕事だったら別ですけど。
「じゃ、そういうことで。しばらく休養します」
思ったよりあっさり片付きましたね。なんてのは油断だったわけです。
「別に部屋で休養すること。しばらく面会謝絶。ディレイだぞ」
「な、なんでですかっ!」
「そりゃ、治るものも治りそうにないから」
……。
なぜでしょう。すぐに否定できなかったのは痛恨の極みです。
その後、ユウリは立ち去り、あたしとエリックはゲイルさんに説教され、そのあとフラウに心配したのだと怒られ、カリナさんにあとで覚えてなさいよと恐喝されました。
寄付はしますぅと言えば、そう言うことじゃないとさらにお怒りでしたね。
色々な人に無茶するなとか色々言われて、まあ、それなりにこの世界にもあたしも馴染んでいたんだと感慨深かったものです。
そっちのほうがよりまずいと言われました。
完全無欠の聖女様、ですよ。
一国の侯爵程度で済みません。教会でトップの座に君臨します。さらに言えば、魔導師というのも神々を信仰しておりますのでそっちでもトップになるわけですよ。
で、そんな権威と暴力の組織を好きにできるってわけです。国なんて、意味ありませんね!
言うなれば、権力者レベルMAXに近いです。世界はあたしを中心に回してね、が素でできそうな感じで。でも、全く自由はないでしょう。魔法とか使えなくなっちゃっていますし……。
詰んだ。
本気で泣きたくなりました。あ、あたしの、平和な日常……。あまりにもショックを受けていたあたしにエリックは逃亡するかと聞いてきたりしましてね。
それ、絶対、エリックが悪役振られるやつじゃないですかー、やだなー、と血涙を流したくなりました。
神様なんとかしてと言ったところで、そっちには干渉しないのでと逃げられるのがオチという。
よし、ユウリに全部手柄を押し付けよう、そうしようと決断に至ったわけです。なので、関係者全員にあの件はユウリがやったことにしておいてくれと話をつけなければならないんです。
エリックはそう上手くいくかなと懐疑的ではありましたが、失敗したらほとぼりが冷めるまで山奥スローライフです。引きこもります。
それが現実的かというとまた別問題ですけど。
そういう自分本位の考えがあり、階下に降りて食堂へ行ったわけです。
食堂にいたのはユウリとゲイルさんでしたね。フラウはどこかへ行ってしまった模様。刺激が強すぎたでしょうか。それとも身内のああいうのはちょっとという気持ちでしょうか。それは、よくわかりますけども。
他にもいそうなローゼとかフュリーとかティルスとかもいません。なにか不自然な気もしますけど、皆忙しいならありえますし。
「お、起きてきた、っていうか、大丈夫?」
声をかけるのをためらっている間にユウリが気がついて声をかけてきます。
「駄目ですが、話がありましてね……」
よろよろしながら近くの椅子に座ります。とりあえずとゲイルさんがお水を用意してくれました。師匠を使うのはよろしくないでしょうが、今日は勘弁していただきたいです。
はぁ、水分が染み渡る……。そして、お腹がキュウと鳴りました。
「おなかすきました」
「だろうな。まずいが、これでも食べてろ」
ゲイルさんが謎の緑の物体を目の前に置いていきましたよ。某栄養補助食品の形状に似てますけど臭いが青臭い。
「なんです? これ」
「魔導師用緊急補給用食品」
専用ってことは魔素回復薬みたいなものですかね?
エリックが嫌そうに見ていますね。俺はいらないと断りを入れているのでよほどまずいんでしょう。
で、これを食べろと。お断りできなさそうですね。
意を決してかじりますよ!
「……泥、みたいな、草みたいな」
何とも言えない甘味があります。喉の奥に残るえぐい甘さ。なのに、もっと食べたいという……。
まずい、もう一杯、みたいな。
「食べながら聞いてよ。
外の状況は町半壊。教会周辺はほぼ全壊。家がない人たちは外でしばらくテント暮らしになりそう。春先でよかったよ。
建物が壊れたときに巻き添えみたいな負傷者が多い感じ。魔物の巻き添えってのは少数」
「あの、魔物って?」
「ああ、見てなかったんだ。
教会長っぽいのがなんか、化け物になった。急に魔法の回路を開いたせいで、逆流して壊れたとか言ってたけど」
「厳密に言うともっと別の現象。まあ、魔導師外にはその認識で問題ないだろう」
ゲイルさんがそう言ってますが、ご希望なら説明するとうきうきしてます。説明したいんですね。でも、ここに魔導師が複数いることから見解の違いにより荒れる予想ができます。そうでなくても長いのが見込まれるのでスルーするのが正解でしょう。
「で、この辺に俺らがいる理由なんだけど。
アーテルちゃんさ、旅行の理由、別にあったでしょ」
「へ?」
間抜けな顔してたと思いますよ。
一応、ユウリにはなんかあるなと感づかれてはいると思っていました。ただし、それでも忙しくて動くことはないと踏んでましたね。
そこまで重要視されないであろう、という見解でした。
だって、表立っては温泉行って、エリックの故郷行って、最終的には領地にお忍び旅行なんですから。怪しまれても、そこまでのことが起こるとは思っていないと。
災厄については気にかけていたもののそれほど本腰は入れてませんでしたし。そもそもあたしが災厄についてなんか言った回数なんて数えるほど。それ関係だなんて関連付けることは難しいと思いますし。
「失礼な。楽しい新婚旅行ですよ」
「でも、ここは別の目的があったよね?」
「なくはないですけと、大したことじゃないですよ」
「へぇ。 なに?」
「えっとそのう」
ちらりとエリックを確認します。
なんか、ユウリそれで察したみたいです……。エリックですか? やっぱりな、みたいな顔してますよ。わざわざ言わないのって優しさでしょうか、面倒だからでしょうか?
「ほんとブレないな……」
「あはは……。で、ユウリはその件であたしたちを追いかけてきたんですか?」
元の話に戻して誤魔化しましょう。
「一週間くらい前に謎の記憶が戻ってきたところがあったんだよ。それで、温泉とか色々なことを思い出して変だぞと思って調べたら色々まずいことがわかって急いできたんだよ」
ああ、温泉行ってた時あたりですね。そっちまで影響出るとは思ってませんでした。なにか解放条件を満たしたのかもしれません。
「それで最短で来ようとしたけど、邪魔がいろいろ入ってグルウの町にはいれたのが昨夜遅く。
その場にいたロブさんに話を聞いて、災厄がいて二人が隔離したらしいってことを聞いてどれだけ焦ったかわかる?」
笑顔が怖いですよユウリさん。
「ごめんなさい。死体になるつもりはなかったんですが」
「結果的になりかけたよね? というか、怒ってるのそこじゃないんだけど」
首をかしげたのは実はあたしだけではなくて、エリックもだったりします。
ユウリははぁっと大きなため息をつきました。ゲイルさんはゲイルさんでこいつらと言いたげな表情です。
「俺は、ちゃんと、心配したの。わかる? なんか斜めに解釈されそうだから言うけど、二人の安全とかをだよ」
「そ、それはご心労をおかけしました」
わかってんのかなとぶつぶつとユウリは言っております。なんか、ユウリに心配されるってピンとこないんですよね。
エリックも面食らっているようですし。
「今まで散々裏であれこれされたから心配って言われてもその通り受け取れないかなあって」
ということもあるんですよね。
ぐっとユウリも言葉に詰まっていましたね。今回もなんかあったりするんでしょうか。
「と、とにかく、災厄はいなくて魔物が残っていたから倒したあとに次元に穴開けたんだ」
「無茶しますね」
「お互い様だろ。
で、そこからは知っての通り」
「そうですか」
「で、そっちの話は?」
さっくり返ってきましたよ。
「あたしは一度この世界に来て帰ったことがあるんですけど、そのこと自体を忘れていました。それで、ある筋から情報をもらって記憶を取り戻しに行ったんです。それが一週間くらい前なので、多分、その影響でユウリたちにも記憶が戻ってきたんだと思います。
それからは普通の観光でしたよ。ここには用事がありましたけどね」
我ながら、豪快に災厄のことを無視したものです。
あー、緑の泥まずいなー、もう一つ欲しいな。ちらっとゲイルさんに視線を向ければもう一つ出てきました。
「つまり、災厄がここにいるとは知らなかったってこと? ディレイも?」
ユウリの疑惑の眼差しにきょとんとした表情で応じます。えーそんなのしらないですよーと口で言うと嘘くさいので黙ってますよ。都合よく食べるものがあるのでもぐもぐしてます。
「なにかいるとは思っていたが、それがなにかは明確にはわからなかったな」
「そんなとこにアーテルちゃん連れてきたわけ?」
「断ったら、あとで一人ででも行くだろうと思って」
「そうだね」
皆が納得する答えだったようです! なぜ、バレてるのです。
「じゃ、なんで逃げなかったわけ? あんなの相手にできないでしょ」
「逃げそびれました」
嘘ですが。
「あれから逃げると町がひどいことになるうえに避難もさせることもできない」
エリックもまあまあ嘘にならない程度に取り繕ってきましたね。弟の件は言う気はなさそうです。
「……まあ、妥当な感じなんだけど。
これは俺の直感なんだけど。最初から災厄を狙ってなかった?」
「なんのために?」
「そこがわかんない。どう考えても、不利益を超えて損害しかないはず。それこそ、よほどの……」
はっと気がついたようにユウリはエリックを見ました。気がついちゃいましたか。あたしには理由があった、ということに。
「……、うん。ちょっと席外してくれる?」
ユウリはゲイルさんとエリックにそう言っています。が、二人とも拒否しました。面白そうというゲイルさんの理由はなんでしょうかね……。
「俺、なんにもしないけど」
「信用できない」
きっぱりはっきりエリックに言われてますね。過去の実績やらなんやらがほんとに響いてますね。ユウリはショックと言いたげによろけてます。
まあ、あっちは友人と思っているのですから。でもですね、エリックの性格上、それはそれ、これはこれの処理だと思いますよ。
別に助けるのはいいけど、あたしの件だけは譲らないし、信用しない。でも、エリックなりの友情的な何かはあるんじゃないですかね。一応。
「……じゃあ、別の機会に聞くよ。じゃ、そっちの話って何?」
「ユウリにもらってほしいものがあるんですよ」
「嫌な予感しかしないけど」
「手柄。あたしじゃなくてユウリが災厄を滅したことにしてください。なんか理由を考えて」
「丸投げ」
「だってユウリのお仕事でしたし。あたしがしなかったら、再起不能になったのユウリのほうですよ?」
「げっ」
「神様、人の心ありませんから」
そもそも人ではありませんからね。
あり得るとユウリが呟く程度には説得力があったようです。あたしとエリックの両方を見比べてユウリは何かを決めたようでした。
「わかった。あの場にいた人たち以外は見てないから理由をつけて口裏合わせする。どこかから漏れることがない、という約束はできないよ」
「それは諦めますよ。
魔導協会は、どう扱いますか?」
一応、この場にいる魔導協会関係者であるゲイルさんに確認を取ります。
「持っていかれると困るからそのあたりは徹底させる、と思うぞ」
ゲイルさんの見解はあたしの見通しとも合致します。
ただ、もう、使えない魔導師のあたしに用があるかは別ですね。
「それから、アーテルの意向を損なうのもなしだと思う。異界の知識は貴重だ。
だから、そのあたり心配はないぞ。な、ディレイ」
そこでなぜ、エリックが? と思いましたけど、エリックも魔導師やめるかもしれないんですよね。そうなると他の魔導師でどうよ?とやってくる可能性もあるかもしれないってことでしょうか。
どこかで魂の修復とかできませんかね。
「ま、なんかあったらクルス一門が黙ってないから安心しとけ」
「……戦争するならよそでやって。ゲイルもディレイもとんでもないのに、あれで中堅あたりとか信じられない」
ユウリがげんなりしています。ええ、そうですよね。普通に困ります。
「ちゃんと戦場はあるからそっちで片を付ける」
あっさりとゲイルさんは言いますが、あるんだ。戦場。驚愕の事実。まあ、こんな好戦的な魔導師たちが暴れないわけもないですかね……。一般人相手になんかするのは基本的にないですし、大っぴらに語られることもないのかも。仕事だったら別ですけど。
「じゃ、そういうことで。しばらく休養します」
思ったよりあっさり片付きましたね。なんてのは油断だったわけです。
「別に部屋で休養すること。しばらく面会謝絶。ディレイだぞ」
「な、なんでですかっ!」
「そりゃ、治るものも治りそうにないから」
……。
なぜでしょう。すぐに否定できなかったのは痛恨の極みです。
その後、ユウリは立ち去り、あたしとエリックはゲイルさんに説教され、そのあとフラウに心配したのだと怒られ、カリナさんにあとで覚えてなさいよと恐喝されました。
寄付はしますぅと言えば、そう言うことじゃないとさらにお怒りでしたね。
色々な人に無茶するなとか色々言われて、まあ、それなりにこの世界にもあたしも馴染んでいたんだと感慨深かったものです。
3
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
地味でブスな私が異世界で聖女になった件
腹ペコ
恋愛
どこからどう見ても、地味女子高校生の東雲悠理は、正真正銘の栗ぼっちである。
突然、三年六組の生徒全員でクラス召喚された挙句、職業がまさかの聖女。
地味でブスな自分が聖女とか……何かの間違いだと思います。
嫌なので、空気になろうと思っている矢先、キラキラ王子様に何故か目をつけられました……
※なろうでも重複掲載します。一応なろうで書いていた連載小説をモチーフとしておりますが、かなり設定が変更されています。ただキャラクターの名前はそのままです。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる