カーマン・ライン

マン太

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第1章 出会い

6

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 時間になると、工場長がやってきた。
 滑走路に見慣れない戦闘機を見つけ、寝癖のついた後ろ頭もそのままに慌ててソルのもとにやってくる。
 側に来るとむっとアルコールの臭いが鼻を突いた。目も血走っている。昨晩も深酒したのだろう。

「いったいあれはなんだ?」

「昨日の夜、不時着したんです。修理を頼まれて──」

「戦闘機だろう? どこの国のもんだ? 許可した覚えはないぞ?」

 こちらの言葉など無視して、矢継ぎ早に質問を浴びせかける。その後、急いで戦闘機を見に行こうとするが、そこへ淡い金の髪を揺らしながらアレクが現れた。
 工場長の動きがピタリと止まる。アレクの容姿は相手の思考を奪うのに威力絶大だろう。

「あなたが工場長ですか? 私はアレク・ラハティ。エテルノ帝国宇宙軍の大尉です。昨晩、機体不良によりここへ臨時着陸させていただきました。修理まで数週間、ここに滞在させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

 初めてアレクの身分を耳にし、ソルはその横顔をまじまじと見つめた。

 エテルノ帝国の…大尉。

 この星は帝国と連合、そのどちらにも属していない、中立の地域だった。
 双方の取り決めで、どんな場合も共有し独占しないと確約されている。貴重な金属や、資源がある星だ。どちらかに占領されてしまえば、互いに不都合が生じる。
 だから帝国の士官が滞在しても何ら問題はない。
 工場長に対するそれは、規律正しい士官のそれだ。アレクは話しながら、胸元から取り出した身分証を提示して見せる。
 アレクの立体画像が映し出され、文字盤には帝国の紋章と身分とが明示されていた。
 工場長は慌てて居住まいを正し、

「あ、ああ、それは…。全然かまわんですが…。しかし、ここで出来る修理は限られまして。どこかよそへ運んだ方がよくないですか?」

 白髪交じりの頭を掻き回しながら弱った顔をする。
 確かに工場長の手には余る代物だろう。何処にでもある輸送船などではないのだ。
 大掛かりにはなるが、もう少し大きな街へ機体を運んで整備したほうがいいと考えるのが普通だろう。
 しかし、アレクは丁寧な態度でそれを固辞した。

「いいえ。彼がいれば大丈夫でしょう。私もある程度はできますので、そこまでしなくてもいいかと。ただその間、彼を借りる事になりますが、よろしいですか? もちろん、その分の料金はお支払います」

 アレクの勢いに押され、工場長はしどろもどろになりつつ。

「いや、まあ、そこまで言うなら…。しかし、ソル、大丈夫か?」

「俺はちょっと手伝うだけだから…」

 そう言った方が安心すると思った。
 案の定、工場長はそれならと、作り笑いをしつつ、そそくさとそこを後にし、途中、こちらにチラチラと視線を送りながら店を開ける準備を始めた。

「ちょっと手伝うだけか?」

 傍らに立ったアレクは腕を組み笑みを浮かべ見下ろしてくる。

「そう言わないと…。俺、工場長には何も話していないんです。色々聞かれるのも面倒で…」

「だろうな。第一、君が色々話してもきっとあの男は信用しないだろう」

「あなたは、信用するんですね?」

 アレクは向き直ると。

「確かに君はまだ若く経験も浅い。だが、それだけで判断しては重要なものを見落とすかもしれない。今までの作業の様子を見ても君が口だけの知識でないのが分かる。君は原石だな…」

「原石…?」

「磨けば光る。きっとな」

 ニッと笑んだその意味深な眼差しに、気恥ずかしさとともに誇らしい気持ちにもなった。
 アレクの様な人間に認められるのは嬉しい事だ。

 その後、昼食も挟み午後も日が暮れるまで戦闘機の修理にかかり切りだった。
 昼休みは簡単に作ったサンドイッチを頬張りながら、アレクとともに端末や各部位を検証しながら進めていく。
 二人とも一旦没頭すると周りが気にならなくなるタイプらしく、工場長が声をかけるまで日の暮れたのも気付かないくらいだった。
 工場長は手にした袋を軽く持ち上げながら。

「今日からしばらくお湯は自由に使っていいからな。あと、ここに頼まれたもん置いとくぞ」

「はい!」

 潜り込んでいたコックピットから顔を出し返事を返す。アレクに断りを入れてから、置かれた袋の中身を確認しに行った。
 工場長に毛布を一つと新品の着替えを頼んであったのだ。
 工場長が置いて行った大きな袋には、確かに下ろし立ての毛布と新しい衣類が入っている。
 帝国の士官に何かあってはいけないと、気を使ったのだろう。衣類に関してはあらかじめサイズは伝えてあったため、デザイン以外合わないことはないはずだ。
 とは言っても派手な色合いのものは無く、ブルーグレーや濃紺など落ち着いた色合いのものばかり。作業用にツナギやTシャツも入っている。
 工場長はアレクを自宅へと招いたが、ここに居住することを希望した。
 工場長にして見ればここで過ごすなどあり得ないのだろうが、アレクたっての希望なのだから仕方ない。
 流石に帝国の兵士に粗末な対応はできない。ソルにも十分粗相のないようにと忠告し、自宅へ帰って行った。
 アレクも手を休めこちらに向かって来た。同じ様に袋を覗き込むと。

「すまないな。色々気を使わせて」

「いいえ。先にシャワーを浴びていてください。俺はちょっと市場まで買い付けに行ってきます」

「夜も市場がやっているのか?」

「はい。夜も開いているんです。て言うか、朝より夜の方が賑やかで。少ないですけど、屋台も出ていて──」

「屋台か。今晩はそこで夕食にしても?」

「俺は構わないですけど…。いいんですか?」

 屋台で売られる物はみな庶民が口にするもので、アレクのような身分の人間が喜んで口にするような代物ではないのだが。

「私を見た目の通りに決めつけないことだ。君が出してくれる食事で私は十分満足できているのだからな?」

「はい…」

 確かにそうだった。あんな、質素な食べ物を口にして文句ひとつ言わず、逆に喜んで食べていたのだから。

「じゃあ、片付けたら行きましょう」

 お互い顔や手についた汚れを落とし簡単に身支度を済ませると、夜の市場へとくり出した。
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