カーマン・ライン

マン太

文字の大きさ
19 / 84
第2章 流転

4

しおりを挟む
「アクセスがあった?」

「はい。辺境の惑星、中立国です。連合の艦艇に救出されそこへ避難した模様です。その星からアレク様のデータにアクセスありました。現地の駐在員に確認したところ、同日、確かに子どもが尋ねてきたと…」

 アレクはイスから身を乗り出す。

「それはソルだ。間違いない。どうした?」

「衛兵が対応中に去ったと言うことです。その後、彼のデータが基本データ以外、探る事が出来なくなりました。連合の少年兵に志願したようです」

「それは…本当か?」

 ユラナスは頷く。

「孤児であるなら尚更でしょう。戦災孤児を兵士にするのはどこでもあることです。彼を探すのはやめてはいかがでしょうか? あのネックレスはいずれ取り返すとしても…」

 ユラナスは幾らでも手はあると考えていた。
 どこの部隊に所属したか探ればすぐにわかる。流石に連合軍の中にいる時は手は出せないが、休暇ともなればどこか外へ出るだろう。

 その時を見計らって、奪えばいい。

 あれはアレクの正式な血統を示すものだ。
 何処の者ともわからない子どもが持っていていいものではない。抵抗するようなら始末してしまえばいいのだ。
 しかし、アレクはイスに背を預けると、口元に手を当て思案顔になる。

「…お前のことだ。ソルの居所などすぐにつかめるだろう? 見つけたらすぐに知らせろ。ネックレスを取り戻そうと、くれぐれもバカな気は起こすなよ? あれは、ソル込みで取り戻す。その為に与えた印だ。彼が生きていなければ意味がない」

 とっくにお見通しだったらしい。そう言われてしまえば手も出せない。ユラナスは視線を落とすと。

「子ども相手にそんな物騒な手は使いません…。分かりました。見つけ次第、報告します」

「三日だ。お前なら出来るだろう?」

「分かりました…」

 ユラナスは深々と頭を下げ退出した。

+++

「…志願か」

 ユラナスが去った後、アレクは席を立ち、宇宙を映し出すスクリーンに目を向けた。
 何万、何億という星が、ゆったりと画面を流れていく。

 あのまま、無理にでも迎えに行けば良かった。

 戦闘が始まり、初めは小惑星の影で傍観していたものの、身内同士の争いはなかなか収まらず、次々と飛び火していった。
 そこに何時までもいることができず、結局安全な距離まで離れた。
 その間にソルのいた工場は破壊され、避難した輸送船も攻撃を受け。その後、ソルは行方不明となった。
 それが今、ようやく生存していることが分かったのだ。
 行き先は辺境の惑星。中立地帯。
 今すぐにでも迎えに行きたい所だが、上からの指令でこの場を動くことができない。雇われとは言え、流石に雇用主の指示を無視できなかった。
 せめてその行方を追う事で気持ちを落ち着かせる。
 なぜ、これほどまであの少年に自分が固執するのか、ユラナスから見れば理解できないだろう。幾ら能力者の片りんを見せたからといって。
 しかし、その能力の発現の仕方が予想を超えていたのだ。
 戦闘機に残された飛行データにも、その異常とも言えるデータが記録されている。
 通常では有り得ない反応速度、機敏性。

 これで敵と相対すればどうなるか。

 期待は増すばかりだった。
 しかし、それだけかと問われれば、否となる。
 たった、一週間程度、共に過ごしただけなのに、あの時が何にも代えがたい記憶となって、自身に刻まれていた。

 あれほど、幸福な時間を今まで過ごしたことがあっただろうか? 

 そう思えるほど、ソルと過ごした日々は深く心を揺さぶった。
 毎朝、同じ時間に起きて食卓を囲み、日中は二人、額を寄せ合い修理に明け暮れ。
 途中、ランチ休憩を挟みながら、夕方日が暮れるまで熱中し。

 たったそれだけのこと。

 それなのに、思い出す度、心の内が温かくなるのを感じた。
 傍らではにかんだ笑みを見せるソルがいて。からかえば本気で怒ってみた。それを、愛おしく感じて。
 
 ソルだからこそ。

 あらゆる意味で手放したくないと思う。
 他人が見れば、まさか、あんな子どもにと思うだろう。だが、一旦、惹かれてしまえば歳など関係ない。

 あれは、私がみつけたのだ。

 誰かの手に渡ることなど考えたくもなかった。

 そうなる前に、なんとしても取り戻す。

 柄にもなく高揚しキスした自分を、戸惑いながらも拒絶しなかった。
 それに、自分のデータにアクセスしたと言う事は、会う気があったと言う事だ。

 ソル──。

 今は無事生きていたことを感謝しつつ、ユラナスからの報告を待つしかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

デコボコな僕ら

天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。 そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...