カーマン・ライン

マン太

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第7章 未来

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 港に行くと既に出発の準備が整えられていた。旗艦では目立つため、巡航艦がつけられている。
 警備隊員の人数は、普段より控え目にしたそうだが、それでもアレクの周囲にはかなりの警備隊員がいた。

 目立つな…。

 ソルは心のうちでため息をつく。
 ここはブラシノス旧連合政府の管理する惑星であり、連合を弱体化させた存在が喜ばれるはずもない。
 良からぬ事に巻き込まれない為にも、速やかに出航するに限るのだ。

 上の連中は知っているんだろうけれど…。

 これだけ派手に動いて、旧連合軍の上層部が知らぬはずがない。知らぬふりを決め込んでいると言うことは、無駄な争いは避けたいと言うことだろう。

 旧連合が、アレク自身に手を下すことはないはず──。

 ただ、それ以外の連中は分からない。帝国に対して反感を持つものも少なくはないのだ。
 警備隊員に囲まれたアレクの元へ一歩下がった場所から向かおうとした所で、控えめな、でも鋭い声をかけられた。

「──ソル」

 この声は──。

 振り向こうとしたその背に硬いものが突きつけられる。それが何か、見なくとも分かった。ブラスター銃だ。小さく息を吐くと。

「ケイパー…。無事だったんだな?」

「──ああ。傷は治ったが、あいつに空けられた穴の痕は今でも痛む…。どうしてもケリをつけたいんだ」

「…もう、止めるんだ。ここでアレクを撃っても、この警備だ。失敗する。お前だって無事では済まされない。銃を下ろして立ち去るんだ。今なら知らなかった事にする…」

「失敗? どうして言える? あいつの弱点は分かっている。ソル、お前だ。お前であいつを釣る…」

「止めて置け。お前に利用される前に俺が止める」

「はっ。この状況でなにを──」

 言い終わる前に、素早くしゃがんだと同時、背後のケイパーのみぞおちを肘で殴りつけた。

「!」

 ケイパーは身体を折り曲げつつも発砲したが、それはソルの体当たりによって阻まれ、空に向かって放たれた。

「クソッ!」

「アレクを!」

 守れと背後の警備隊員に指示を飛ばし、逃げ出そうとしたケイパーを追う。
 しかし、追った先の路地で待っていた車に乗り込みそのまま走り去ってしまった。
 尚も追い掛けようとしたソルの肩を引き止めた者がいた。ユラナスだ。

「追っても無駄です。ここは敵地。これ以上は──」

 その通りだった。ソルは肩で大きく息をつくと。

「分かった…。アレクは?」

「無事です。戻りましょう」

 ユラナスに促されその場を後にした。

+++

「襲ったのは旧連合の反乱分子の残党だそうだな」 

 巡洋艦内の自室のソファで休むアレクは、顎に手をあて思案げに視線を揺らしていた。
 その手前のローテーブルには、既に空になったティーカップが置かれている。
 ソルはその向かいに座っていた。

「ケイパーだった。まだアレクを狙っていたなんて…」

 唇を噛み締め俯くソルに、アレクは薄く笑むと。

「余程君を取られたのが気に食わないらしい…」

「今更、そんなこと──」

 ソルは困惑して眉をひそめる。

「まあ、他にも理由はあるだろうが。凝り固まると、そこから抜け出せなくなる。だが、いくら旧連合でもこちらの動きが筒抜けになるというのはな。大方情報は内部から出たのだろうが…」

 ユラナスは飲み終えたカップを下げながら。

「帝国内部に動きの怪しい者が数名おり、追っておりますが、中でもここ最近、旧連合の者と接触した人物がいます。直ぐにでも捕らえますが──」

「いや…。いい。そのままにしておけ。ただ奴らの計画は入手しろ。上手く行けば利用させてもらう…。いや、気づかれないよう上手く事を運ばせよう…」

「アレク?」

 ソルは首を傾げる。

 一体何を考えているのか──。

 アレクは意地悪く笑むだけでそれ以上、話そうとはしなかった。

 それから数時間後。
 アレクがソルを伴って帰還した。ポートには皆が待ち構えている。ザインにアルバ、ラスター、リーノ。
 皆が揃う中、ゼストスの姿はない。
 彼は今も拘留中だと聞かされた。ゼストスにも自分が無事だった事は伝えられただろうが、今一度、会っておきたい所だった。
 巡航艦から降りると直ぐにザインが声をかけてくる。

「よう。いい顔してるな?」

 こちらに手を差し出して来る。その大きな手を握り返しながら、顔を見上げると。

「ザイン…。もう身体はいいのか?」

「全く問題ない。前より動ける様になったくらいだ」

「みたいだな? 良かった…」

 頬や額に僅かに熱傷の跡が見られるものの、それくらいで問題は無さそうだった。
 ホッとして見せれば、ザインは不意にソルの肩を抱き耳元に唇を寄せ。

「あの時のこと。俺は一生忘れない…」

「ザイン…」

 そうして悪戯っぽく笑むと。

「ソルからの情熱的なキスもな?」

「あっ、あれは…!」

 顔を起こしてザインを仰ぎ見る。薬を口移しで与えた時の事を指しているのだ。

 記憶なんて、無いと思ったのに…。

 頬を赤くして睨みつけるが、ザインはニヤニヤ笑うばかりで効き目は無いよう。
 そんな二人の傍らに、つつっと寄ってきたリーノは肩を竦めつつ。

「ソル、ソル、って毎日、泣いて鬱陶しくてさ。無事に戻って来てくれて良かった。もう、飲んで管を巻くザインの面倒を見るのはごめんだって」

「言うんじゃねぇよ!」

 リーノの言葉に、ザインが怒って羽交い締めにする。

「ソル、お帰り。…生きているな?」

 そんな二人に苦笑しつつ、アルバが右手を差し出し、次いで肩も抱いてくる。

「勿論だ。アルバ、心配かけてすまなかった。ラスターと一緒に色々手を尽くしてくれたって聞いた。…ありがとう」

「まったく…。大人しくしてればいいのに、自分から面倒に巻き込まれるなんてな」

 その背後に現れたラスターは、口でそう言いながらも、アルバに続いてギュッと肩を抱いてきた。

「もう…心配かけるなよ?」

 抱かれた肩越しにラスターの声が低く響く。心からの言葉に胸のうちが温かくなった。
 ひと通り挨拶が終わる頃を見計らってアレクが声をかけてきた。

「そろそろ中へ。…ソルはまだ病み上がりだ」

 そっと肩を引き寄せ、額にキスを落とす。
 確かにポートの空気は冷え切っている。アレクが中へと促すのは当然だが、額にキスは落とす必要はない。
 それに気づいたザインはすかさず。

「…ったく。独占欲丸出しだな?」

 腕組みして大袈裟なほど大きなため息をつく。

「ザイン。お前のソルへの警護の任は解いたはずだが? もう、ソルにかまう必要はない」

 アレクは鋭い視線を投げかける。ザインは肩をすくめると。

「友人への挨拶くらい、許して欲しい所だな?」

「お前が挨拶で済めばいいがな。…ソル」

 ザインが抗議の言葉を発する前に、アレクが中へと招いた。皆もその後に続く。

 その後、医務室へと連れて行かれ落ち着くまで面会制限をかけられた。
 肺の状態がまだ良くないらしい。それでも、ひと月もすれば全快するだろうと言われた。
 就寝時間も近くなった頃、アレクが姿を見せた。ソルの横になるベッドに腰掛けると。

「医師からも聞いたが、もうしばらく休息が必要だな?」

「みたいだな。もう、俺自身は平気なんだけど…。──なぁ、ゼストスには会えるのか?」

「…会いたいのか?」

 その表情に冷たい色が浮かぶ。
 大切に思う相手を失うかも知れない状況を作ったゼストスに、アレクがいい顔をしないのは分かっている。

「…出来れば。アレクも俺も無事だった。こんな事になったけど、ゼストスは俺に良くしてくれた…。感謝している事は伝えたいんだ。──だめか?」

 アレクは軽いため息をつくと。

「…いいだろう。許可する。面会時間はユラナスに聞け」

「ありがとう。アレク」

「君に甘いのは惚れた弱味だな? 好きな様にするといい…」

 何処か諦めた様にそう言うと、ソルの額にキスを落とし、

「よく休んで早く治せ。…これは命令だ」

「分かった…」

 ふふっと笑んで、首筋に手を掛け引き寄せると、アレクの額に同じくキスを返した。

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