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20.脱出
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セルサスはすっかり身支度を整え部屋に戻ってきた。
全身黒づくめだ。頭と口元を覆う、ターバンのような被り物に、黒い長袖のTシャツに防弾素材のジャケット、パンツ、ブーツ。
グローブも革のしっかりしたものだった。それは指先が出せるようになっていて、銃の扱いも楽にできる仕様だ。
着ているものの素材は、軍で支給しているものと同等かそれ以上に見える。俺ごときが着用できる代物ではない。
ふぐぐ。
「…いいものを揃えているな」
セルサスはグローブの具合を確かめながらそう口にした。カラザは笑みを浮かべつつ、
「金だけはあってな。部下もかなり鍛えている。あんたらの所といい勝負かそれ以上だ」
「──下手に取り締まらなくて正解だったな」
「そうだろう。思わぬ反撃にあっただろうからな?」
二人の鋭い視線がぶつかり合い、火花が散る様。だがそれも一瞬の事で。
「──セト」
セルサスに呼ばれ、俺は直ぐにそのもとへ駆け寄る。それを見てカラザが笑ったようだが無視してやった。
「無茶だけはするな。カラザの言う通りに動け。そうすれば大事にはならない。空港で会おう」
俺はニッと笑顔になるとセルサスを見あげ。
「それで、帰ってまた俺の下手糞なお茶を飲みましょう。覚悟しておいてください」
「ああ…」
セルサスはそこでようやく表情を緩めた。
やはりセルサスの笑顔は一番だ。何よりのご褒美で。なんとしても、この笑顔を守り抜こうと誓う。
セルサスは更に何か言いたそうな素振りを見せたが、カラザにそれを遮られた。
「──さて、もう出るぞ。奴らも外で今か今かと気をもんでいるようだからな? あまり待たせるとこっちへ突っ込んできそうだ」
満更嘘でもないのだろう。こんな狭い場所へ突入されては逃げ場が無い。
外では元秘書の息がかかったテロリストがこちらが出てくるのを待ち構えているのだ。あまり待たせると、確かになだれ込んでこないとも限らない。
カラザは皆を従え出口に向かった。
部下だけのグループは表から、カラザと俺、セルサスとブラウ、アウラのグループは裏口へと回る。
合図と共にそれぞれが一斉に外へと駆けだした。
逃げる経路は決めてある。敵の出現で変わりはするだろうが、おおよそはその通りに向かう予定だ。
セルサスらはやや遠回りで敵を欺きながら最終的に空港へと向かう。カラザと俺は、やはり遠回りをしつつも空港へ行くような経路を取る。こちらは本命だと思わせるためだ。
「ふん。予想通りだな? 今の所、だが」
カラザは銃を手に周囲に目を光らせる。
裏口を出た途端、セルサスのグループは走り出したため、別れを告げることも見送ることもできなかった。
当たり前だ。悠長にそんな事をしている場合ではない。田舎に帰る学生を見送る親ではないのだ。
俺とカラザの後を、それなりの人数が追ってきているのが分かった。時折、銃撃も起こる。
頃合いをみて、顔を隠していたフードを背に落としたのが効果的だったのだろう。直ぐに追っ手の人数が増した。
これでセルサス様たちは逃げやすいはず。
セルサスたちは、まるで空港とは反対の方向へいっとき逃げるのだ。どう見ても囮としか思わないだろう。
俺たちを追ってくる敵は、執拗に銃撃をして、なんとか進行を妨げようとしていた。どう見てもこちらが本命だ。
「一時間もしないうちに、あっちは空港に着くだろう。連絡が入る。そうすれば、引き上げだ」
敵の銃撃を交わした後、路地の壁に潜んだ所でカラザが告げた。
「こいつら、一網打尽にできるのか?」
「それは軍のお手並み拝見という所だが、セルサスならやれるだろう。これで大方治まるだろうな」
「…そいつらがいなくなれば、ここも少しは落ち着くのか?」
「直ぐにとはいかねぇが、随分、生きやすくはなるな。今は昼間でも、武装のない連中はうかうか出歩けねぇ。そんなことは少なくなるだろう」
「そっか…」
「お前はどうしてセルサスの所にいるんだ? あいつの警護にしては──頼りない」
カラザはニヤリと笑うが。
「わかってる…。偶然なんだ」
そう言って簡単に出会いの経緯を話した。もちろん、間断なく起こる銃撃に対抗しながらだが。
◇
「──ふん。確かにそれは偶然だな…」
ひと通り聞いたカラザは鼻を鳴らした。
「俺は運が良かったんだ。一歩間違えば死んでたけど…。それでも良かったんだ」
生き残って、こんな幸運を得た。セルサスを守れるという幸運。
「あいつには思う相手がいると言っていたが、本当か?」
「セルサス様を庇って亡くなったんだ。その人を今でも思ってる…。胸のロケットが証拠だ。あそこにきっと写真が入ってる」
「ふーん…」
敵の攻撃を黙らせると、再び路地を出て駆けだした。部下も後に続くが、それぞれ無駄な動きがなく、足手まといになるような者はいなかった。確かに鍛え上げられているのだろう。
「それなら、お前の片思いか?」
駆けながらカラザが尋ねてきた。
「そ、それは、当たり前だろ! 俺はいち、サポーターであって、対等じゃない。セルサス様に思われるとか、そんな事を望む立場になれるような人間じゃない」
そこまで言い終わった所で、路地に逃げ込み身を隠した。カラザは銃を構えたまま周囲に視線を走らせながら。
「──なら、どうしてお前みたいにたいして強くもない、特別な好意もない相手を手元に置くんだろうな?」
「信頼できる話し相手が欲しかったって…。セルサス様だって、息抜きは必要だろう?」
「話し相手か…。それもお前じゃ物足りないんじゃないのか? セルサスのように頭のいい奴は同じように話せる相手が欲しいだろう」
う。痛い所を突く…。
「そ、それは…、そうだけど…。でも、置いてくれている。エルも──セルサス様の秘書も俺を気に入ったから置いているって…」
「お前はいっときの慰めか、もしくは、亡くした奴の代わりだろうな」
カラザはさらりとそう口にした。そこで敵がまた撃ちこんでくる。俺も応戦に加わった。
慰めと代わり。
確かにそうなのだ。俺にその青年を重ねているのを知っている。
「──分かってる」
「奴は慰めが必要なくなれば、お前を捨てるだろうな」
「……」
カラザは意地悪く笑って見せた。
「一時の感情でお前を手元に置いているだけだ。他に信頼できる奴が現れさえすれば、すぐにすげ変えるだろう。ああいった上流階級の連中は気まぐれだ。出会う相手も山のようにいる。今は物珍しくて置いているんだろうが、お前のように大してとりえもない人間をずっと手元に置くとは思えんな」
そこへ、潜んでいた路地へ敵から手りゅう弾が投げ込まれた。
流石にこれは対抗できない。直ぐに手近な物陰へ飛び込み身体を伏せた。爆音と砂煙、落ちてくる壁。それらが収まる前に立ち上がり駆けだす。銃撃が後を追ってきた。
「ったく。あいつら、まだか?」
カラザは腕にはめられた通信機器に目を落とした。そこへ連絡が来る手はずだ。俺はそんなカラザを横目に俯く。
そうだ。エルは気に入った者は手放さないと言っていたが、それは見限らない限り、だった。ほかにお気に入りが出来れば手放すに決まっている。
もともと、セルサスにはもっと似合う人物がいるだろうと思っていたじゃないか。
俺なんかより、いまセルサスと逃げている、アイレなら十分セルサスの気を引けるだろう。
──あいつなら。
あり得る。
セルサスは自分を助けた俺を、亡くしたアレアシオンに重ねただけ。夜、抱きしめて眠るのも、その寂しさを埋めるためだ。
それでもいいと俺は思っていた。けど、それは俺の思いで。セルサスが飽きればそれも終わる。
分かっていたことだって。
分かっていたが、いざそうなるだろうと思うと悲しい。頭でわかったつもりではいたけれど、いざ現実を突きつけられると、胸が苦しくなる。
ずっと、傍にいたい──。
それは俺の我儘なのだ。
「おい! ぼっとしてんな!」
足元に銃弾が撃ち込まれ我に返る。カラザに腕を掴まれ難を逃れた。
「──ごめん」
「そう言う所がまだまだだってんだ。セルサスをこれからも守るつもりなら、もっと注意深くなれ。気を抜くな」
「…分かってる」
俺は自身に気合を入れ直す。
今はそんなことを考えている場合じゃないのだ。なんとしても、囮として敵を引きつけなければならない。
「おい、行くぞ!」
カラザに合図され走り出す。
なんとか足手まといにならぬようついていくのがやっとの自分を今更ながらに思い知らされた。
◇
どれほど逃げ回ったのか、気が付けば空港の明かりが見える場所まで来ていた。
そこは丘の上で周囲が見渡せる。もちろん、廃屋の陰に身を潜めてはいたが。そこへ連絡が入った。
「──そうか、分かった」
通信を切るとカラザは周囲の部下を振り返り、
「このまま追ってきた奴らを引き連れて空港へ突っ込む。表から出た奴らとも合流だ。──が、途中で地下へ潜る。奴らは俺たちを見失って右往左往するはずだ。そこを帝国軍が一掃する」
部下は皆頷いた。俺は傍らのカラザを見上げ、
「セルサス様は?」
「もちろん無事だ。アイレがセルサスを背後から撃とうとした奴を撃って、危機を救ったそうだ」
「そうか…」
俺の代わりについた青年。
やったじゃないか。お手柄だ。俺は盾になるのがせいぜいだったのに。
帝国に関わりのある人物の息子。
なんだろう。この、胸に湧くもやもやとした感情は。
カラザはニヤリと笑うと。
「あいつは帝国に戻りたがっていた。父親の果たせなかった事をしたいんだとさ。セルサスを見極めて、ついていくに足りる人物だったら力になりたいと言っていた。──奴はセルサスの気を引くのに十分たと思わないか? しかも父親同士は反目しながらも旧知の仲だったらしい。貴族出身でかなりの美形だ。総帥と貴族の息子。──合うと思わないか?」
「…何が言いたい?」
「いや。ただ現実を口にしただけだ。──よし! 行くぞ!」
言いたいことだけ言うと、カラザは俺と部下を引き連れ、空港へと続く道を下った。俺も遅れまいと慌てて後を追う。
カラザはそのまま空港へ向かうと見せかけ、予定通り隠された入口から地下道へと潜った。
追ってきたテロリストは、カラザの言った通り、あと僅かの所で俺たちを見失い路頭に迷う。
そこを、すでに待ち構えていた軍の兵に一掃された。テロリストはそれで一網打尽となった。
全身黒づくめだ。頭と口元を覆う、ターバンのような被り物に、黒い長袖のTシャツに防弾素材のジャケット、パンツ、ブーツ。
グローブも革のしっかりしたものだった。それは指先が出せるようになっていて、銃の扱いも楽にできる仕様だ。
着ているものの素材は、軍で支給しているものと同等かそれ以上に見える。俺ごときが着用できる代物ではない。
ふぐぐ。
「…いいものを揃えているな」
セルサスはグローブの具合を確かめながらそう口にした。カラザは笑みを浮かべつつ、
「金だけはあってな。部下もかなり鍛えている。あんたらの所といい勝負かそれ以上だ」
「──下手に取り締まらなくて正解だったな」
「そうだろう。思わぬ反撃にあっただろうからな?」
二人の鋭い視線がぶつかり合い、火花が散る様。だがそれも一瞬の事で。
「──セト」
セルサスに呼ばれ、俺は直ぐにそのもとへ駆け寄る。それを見てカラザが笑ったようだが無視してやった。
「無茶だけはするな。カラザの言う通りに動け。そうすれば大事にはならない。空港で会おう」
俺はニッと笑顔になるとセルサスを見あげ。
「それで、帰ってまた俺の下手糞なお茶を飲みましょう。覚悟しておいてください」
「ああ…」
セルサスはそこでようやく表情を緩めた。
やはりセルサスの笑顔は一番だ。何よりのご褒美で。なんとしても、この笑顔を守り抜こうと誓う。
セルサスは更に何か言いたそうな素振りを見せたが、カラザにそれを遮られた。
「──さて、もう出るぞ。奴らも外で今か今かと気をもんでいるようだからな? あまり待たせるとこっちへ突っ込んできそうだ」
満更嘘でもないのだろう。こんな狭い場所へ突入されては逃げ場が無い。
外では元秘書の息がかかったテロリストがこちらが出てくるのを待ち構えているのだ。あまり待たせると、確かになだれ込んでこないとも限らない。
カラザは皆を従え出口に向かった。
部下だけのグループは表から、カラザと俺、セルサスとブラウ、アウラのグループは裏口へと回る。
合図と共にそれぞれが一斉に外へと駆けだした。
逃げる経路は決めてある。敵の出現で変わりはするだろうが、おおよそはその通りに向かう予定だ。
セルサスらはやや遠回りで敵を欺きながら最終的に空港へと向かう。カラザと俺は、やはり遠回りをしつつも空港へ行くような経路を取る。こちらは本命だと思わせるためだ。
「ふん。予想通りだな? 今の所、だが」
カラザは銃を手に周囲に目を光らせる。
裏口を出た途端、セルサスのグループは走り出したため、別れを告げることも見送ることもできなかった。
当たり前だ。悠長にそんな事をしている場合ではない。田舎に帰る学生を見送る親ではないのだ。
俺とカラザの後を、それなりの人数が追ってきているのが分かった。時折、銃撃も起こる。
頃合いをみて、顔を隠していたフードを背に落としたのが効果的だったのだろう。直ぐに追っ手の人数が増した。
これでセルサス様たちは逃げやすいはず。
セルサスたちは、まるで空港とは反対の方向へいっとき逃げるのだ。どう見ても囮としか思わないだろう。
俺たちを追ってくる敵は、執拗に銃撃をして、なんとか進行を妨げようとしていた。どう見てもこちらが本命だ。
「一時間もしないうちに、あっちは空港に着くだろう。連絡が入る。そうすれば、引き上げだ」
敵の銃撃を交わした後、路地の壁に潜んだ所でカラザが告げた。
「こいつら、一網打尽にできるのか?」
「それは軍のお手並み拝見という所だが、セルサスならやれるだろう。これで大方治まるだろうな」
「…そいつらがいなくなれば、ここも少しは落ち着くのか?」
「直ぐにとはいかねぇが、随分、生きやすくはなるな。今は昼間でも、武装のない連中はうかうか出歩けねぇ。そんなことは少なくなるだろう」
「そっか…」
「お前はどうしてセルサスの所にいるんだ? あいつの警護にしては──頼りない」
カラザはニヤリと笑うが。
「わかってる…。偶然なんだ」
そう言って簡単に出会いの経緯を話した。もちろん、間断なく起こる銃撃に対抗しながらだが。
◇
「──ふん。確かにそれは偶然だな…」
ひと通り聞いたカラザは鼻を鳴らした。
「俺は運が良かったんだ。一歩間違えば死んでたけど…。それでも良かったんだ」
生き残って、こんな幸運を得た。セルサスを守れるという幸運。
「あいつには思う相手がいると言っていたが、本当か?」
「セルサス様を庇って亡くなったんだ。その人を今でも思ってる…。胸のロケットが証拠だ。あそこにきっと写真が入ってる」
「ふーん…」
敵の攻撃を黙らせると、再び路地を出て駆けだした。部下も後に続くが、それぞれ無駄な動きがなく、足手まといになるような者はいなかった。確かに鍛え上げられているのだろう。
「それなら、お前の片思いか?」
駆けながらカラザが尋ねてきた。
「そ、それは、当たり前だろ! 俺はいち、サポーターであって、対等じゃない。セルサス様に思われるとか、そんな事を望む立場になれるような人間じゃない」
そこまで言い終わった所で、路地に逃げ込み身を隠した。カラザは銃を構えたまま周囲に視線を走らせながら。
「──なら、どうしてお前みたいにたいして強くもない、特別な好意もない相手を手元に置くんだろうな?」
「信頼できる話し相手が欲しかったって…。セルサス様だって、息抜きは必要だろう?」
「話し相手か…。それもお前じゃ物足りないんじゃないのか? セルサスのように頭のいい奴は同じように話せる相手が欲しいだろう」
う。痛い所を突く…。
「そ、それは…、そうだけど…。でも、置いてくれている。エルも──セルサス様の秘書も俺を気に入ったから置いているって…」
「お前はいっときの慰めか、もしくは、亡くした奴の代わりだろうな」
カラザはさらりとそう口にした。そこで敵がまた撃ちこんでくる。俺も応戦に加わった。
慰めと代わり。
確かにそうなのだ。俺にその青年を重ねているのを知っている。
「──分かってる」
「奴は慰めが必要なくなれば、お前を捨てるだろうな」
「……」
カラザは意地悪く笑って見せた。
「一時の感情でお前を手元に置いているだけだ。他に信頼できる奴が現れさえすれば、すぐにすげ変えるだろう。ああいった上流階級の連中は気まぐれだ。出会う相手も山のようにいる。今は物珍しくて置いているんだろうが、お前のように大してとりえもない人間をずっと手元に置くとは思えんな」
そこへ、潜んでいた路地へ敵から手りゅう弾が投げ込まれた。
流石にこれは対抗できない。直ぐに手近な物陰へ飛び込み身体を伏せた。爆音と砂煙、落ちてくる壁。それらが収まる前に立ち上がり駆けだす。銃撃が後を追ってきた。
「ったく。あいつら、まだか?」
カラザは腕にはめられた通信機器に目を落とした。そこへ連絡が来る手はずだ。俺はそんなカラザを横目に俯く。
そうだ。エルは気に入った者は手放さないと言っていたが、それは見限らない限り、だった。ほかにお気に入りが出来れば手放すに決まっている。
もともと、セルサスにはもっと似合う人物がいるだろうと思っていたじゃないか。
俺なんかより、いまセルサスと逃げている、アイレなら十分セルサスの気を引けるだろう。
──あいつなら。
あり得る。
セルサスは自分を助けた俺を、亡くしたアレアシオンに重ねただけ。夜、抱きしめて眠るのも、その寂しさを埋めるためだ。
それでもいいと俺は思っていた。けど、それは俺の思いで。セルサスが飽きればそれも終わる。
分かっていたことだって。
分かっていたが、いざそうなるだろうと思うと悲しい。頭でわかったつもりではいたけれど、いざ現実を突きつけられると、胸が苦しくなる。
ずっと、傍にいたい──。
それは俺の我儘なのだ。
「おい! ぼっとしてんな!」
足元に銃弾が撃ち込まれ我に返る。カラザに腕を掴まれ難を逃れた。
「──ごめん」
「そう言う所がまだまだだってんだ。セルサスをこれからも守るつもりなら、もっと注意深くなれ。気を抜くな」
「…分かってる」
俺は自身に気合を入れ直す。
今はそんなことを考えている場合じゃないのだ。なんとしても、囮として敵を引きつけなければならない。
「おい、行くぞ!」
カラザに合図され走り出す。
なんとか足手まといにならぬようついていくのがやっとの自分を今更ながらに思い知らされた。
◇
どれほど逃げ回ったのか、気が付けば空港の明かりが見える場所まで来ていた。
そこは丘の上で周囲が見渡せる。もちろん、廃屋の陰に身を潜めてはいたが。そこへ連絡が入った。
「──そうか、分かった」
通信を切るとカラザは周囲の部下を振り返り、
「このまま追ってきた奴らを引き連れて空港へ突っ込む。表から出た奴らとも合流だ。──が、途中で地下へ潜る。奴らは俺たちを見失って右往左往するはずだ。そこを帝国軍が一掃する」
部下は皆頷いた。俺は傍らのカラザを見上げ、
「セルサス様は?」
「もちろん無事だ。アイレがセルサスを背後から撃とうとした奴を撃って、危機を救ったそうだ」
「そうか…」
俺の代わりについた青年。
やったじゃないか。お手柄だ。俺は盾になるのがせいぜいだったのに。
帝国に関わりのある人物の息子。
なんだろう。この、胸に湧くもやもやとした感情は。
カラザはニヤリと笑うと。
「あいつは帝国に戻りたがっていた。父親の果たせなかった事をしたいんだとさ。セルサスを見極めて、ついていくに足りる人物だったら力になりたいと言っていた。──奴はセルサスの気を引くのに十分たと思わないか? しかも父親同士は反目しながらも旧知の仲だったらしい。貴族出身でかなりの美形だ。総帥と貴族の息子。──合うと思わないか?」
「…何が言いたい?」
「いや。ただ現実を口にしただけだ。──よし! 行くぞ!」
言いたいことだけ言うと、カラザは俺と部下を引き連れ、空港へと続く道を下った。俺も遅れまいと慌てて後を追う。
カラザはそのまま空港へ向かうと見せかけ、予定通り隠された入口から地下道へと潜った。
追ってきたテロリストは、カラザの言った通り、あと僅かの所で俺たちを見失い路頭に迷う。
そこを、すでに待ち構えていた軍の兵に一掃された。テロリストはそれで一網打尽となった。
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