Snow Leopard&Stray Cat

マン太

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 すべてが終わった頃、カラザは自身の隠れ家へと戻った。そこへ部下たちも戻ってくる。その中にはセルサスについていたブラウも含まれた。
 カラザはひとり端末片手に別室へ向かう。セルサスと話があるとのことだった。
 俺は早くそのもとに戻りたくて、うずうずとしていた。ここからは空港も近い。窓から軍のヘリが上昇していくのが見えた。
 置いてけぼりを食らうはずはないが、やはり気持ちがはやる。

 早く帰らないと──。

 帰ってお茶を淹れるのだ。一番香りのいい、セルサスの好きなのを。

「…お前、帰るつもりか?」

 窓際に張り付いて外を眺めていれば、唐突に尋ねられた。振り返ればそこにブラウが立っている。相変わらずの無表情だ。

 つもりって。

 まるで帰ってはいけないみたいだ。

「もちろんだ。もう、危険はないだろ? 俺だけ戻っても──」

 と、そこへカラザが戻ってくる。俺はブラウとの会話もそこそこに駆け寄る様にそのもとへ行くと、

「なあ。もう、戻っていいか? いいだろ?」

 しかし、カラザは首を傾けると、いい辛そうに頬を掻き。

「それなんだが──お前はここへ当分残されることになった」

「──へ?」

 素っ頓狂な声を上げれば、カラザは肩をすくめつつ。

「代わりにアイレを連れて行くそうだ」

 俺はがんと頭を殴られたような衝撃を受けた。
 ぐわんぐわんと鐘が鳴る。殴られてもいないのに、そこへ倒れそうな勢いだ。俺はなんとか衝撃に耐えつつ。

「…なんでだ?」

 声を振り絞った。

「本人たっての希望もあったが、単にセルサスが気に入ったからだろ? 短い間だが一緒にいてこれはと思ったんだろう。アイレも行きたがっていたしな。いい話だ。あいつはここにいていい奴じゃなかったからな? 代わりにお前を暫く預かってくれと頼まれた。ここに帝国軍が駐留することになる。その中の一兵卒としてな」

「……」

 一兵卒。

 俺はただ茫然としてそこに立つ。カラザが何か言っているが耳に入って来なかった。

 俺は──見限られた…?

 いや。そんなはずはない。セルサスは俺の事を気に入っていて──。帰ったら、俺のいれたお茶を飲むと笑んで答えてくれた。

 なのに? ──いや、しかし。

 もっと目を惹くものが現れれば、そちらに行きもするだろう。現に俺だってそう思っていたはず。

 これで──終わりなのか?

 自分がアイレに敵うとは、到底思えない。
 それまでのセルサスとの全てが、まさに走馬灯のように目の前を巡った。
 俺を川に放った時。闘技場で俺を見上げていた時。空港に向かう前、アジトで別れた時。
 セルサスは確かに俺を気づかい、必要としていた。
 それが──こうも簡単に終わるものなのか。いや。きっと何か理由があるんだ。

 きっと。

 信じられない。
 信じたくない自分がいた。



「──カラザ」

「なんだ?」

 カラザは窓辺に立ち、去っていくヘリや軍用艇を眺めている。
 彼らは当分ここへ駐留する。まだすべてを一掃できたわけではない。テロリストの頭も逃げたままだった。重傷を負ったはずで、そう遠くへは逃げられないと言われているが。そのうち探し出して捕えるつもりだった。
 声をかけてきたのはブラウだ。その表情からは何も感情を読み取ることができない。ただ、付き合いの長いカラザだけは少し読み取れる。

 今は──不満顔ってとこだな。

 カラザは苦笑した。

「あいつを、ここへ残すのは人質か?」

 あいつ、とはセトの事だと分かっている。面倒を見させているからだ。

「…どうしてそう思う?」

「あの男が、あいつを置いて行くとは思えない」

 あの男とは、セルサスのことだろう。カラザは笑った。

「セルサスを見てそう思ったのか? たいして傍にいなかったのにな」

「見ていればわかる…。あの男は空港へ向かう最中もずっと気にかけていた。──なぜあいつに嘘を?」

「そうでも言わないと、セトは後を追っただろう? それじゃあ困るんだ。だから、連絡もつかない様にした。あいつがここにいる限り、セルサスは必死にこのイムベルを治めようとするだろう。奴を取り戻したい一心でな? 俺に弱みを見せた奴が悪い」

「意地が悪い…。セルサスは裏切るような男には見えない」

「かもしれないが。──ラファガの息子だと思うとな。どうしても安心できねぇ。イムベルにある程度、見通しがついたら帰してやるさ。だが、その前にアイレがその居場所を奪うかもしれねぇな。あいつはしたたかだ」

「…似たもの同志では合わない」

 ブラウの指摘にカラザは苦笑する。

「かもしれねぇな」

 それからまた、カラザは窓の外に目を向け、

「セトは?」

「部屋で休んでいる。扱いはどうする?」

「俺かお前の下につける。目を離すな。まだテロリストの頭が捕まっていねぇ。どうせ時間の問題だが…。セトの顔はばれている。ここにいると知られれば、とっ捕まってセルサスへの脅しに使われる可能性もあるからな?」

「…同じ穴のムジナか?」

「そう言うな。俺と奴とじゃ、求めているもんが違うだろ?」

「汚い手は一緒だ」

「…今日はキツイな?」

「俺の命はあんたに預けている。あんたの為なら死もいとわない。…だが、それとこれとは別だ。──あいつは汚れていない。そう言う奴を陥れるのは──気が向かない…」

「ふん…。なにもかもイムベルの為だ。嘘だろうと何だろうと餅だろうとつくさ。俺はその為にここまでやってきたんだ。使えるもは何でも使ってな」

「…話はそれだけだ」

 そう言うと、ブラウは冷たい視線をカラザに向け部屋を後にした。
 カラザは窓枠へ肩を預けると。

「──汚れてない、ね」

 ふっと笑って首を振ると。

「汚れまくっているから、分かるんだろうな。俺もブラウも…」

 外では爆音を上げてへりが上昇した所だった。

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