月の光に

マン太

文字の大きさ
15 / 45

13.試合

しおりを挟む
 その日、城内にある闘技場では、高らかに剣と剣がぶつかり合う音が響いていた。
 もちろん模造刀だが、当たれば相応のケガを負うのは必死だ。
 ガツン! と、ひと際、鈍い音がして、一方の剣が空へ跳ね上がる。どっと歓声が湧いた。

「勝負あり! 勝者、サイアン・ラクテウス!」

 審判がサイアン側に手を差し向ける。
 今日は年に春と秋にある、騎士団内での勝ち抜き形式の試合の日だった。
 剣の技術を高める意味もあるが、息抜きでもある。皆の士気を高めるいい機会だった。
 その春の大会でも、見事、猛者を討ち果たしサイアンは勝ち抜いたのだ。
 団員になったその年は惜しくも二位に甘んじた。その後、さらに腕を磨き、二年目からは春秋とも優勝した。その後も一位の座は誰にも譲らず、五年後の今年も。
 この戦いに階級も年齢も関係ない。大格差も無視された。ただ、強いものが勝つ。
 そんな中、身長はあれど、そこまで大柄ではないサイアンが勝ち抜いたのは異例だった。今までは大柄で、がっしりとした体躯の猛者が勝ち抜いていたのだから。
 サイアンは皆の歓待を受けながら、流れる汗を手で拭おうとすれば、すっとそこへタオルが差し出される。

「マレ…」

「サイアン、すごいね。かっこよかった! 流石だよ」

 銀色の髪をひとまとめにして、肩に流したそれが跳ねるように揺れた。マレは晴れやかな笑顔でサイアンを迎える。日を受ける褐色の肌が眩しく目に映った。
 あれから、歳月は過ぎ。気が付けばサイアンは二十五才、マレは十八才となっていた。
 サイアンはすっかり騎士団でも一目置かれる存在となり。所属する青の騎士団は安泰だと言われていた。

「ありがとう。マレ」

 タオルを受け取り、汗を拭うのもそこそこに、その腕をマレの腰に回すと、共に歩き出す。

「でも、ちょっと怖かったな。やられるわけがないって思っても、相手がかなりの猛者だとね…」

「マレの前で情けない姿は見せるつもりはない。安心してくれ」

「ふふ。相変わらずだね」

「こんな僕になったのは、マレのせいだ。──責任はとると、君は昨晩、言っただろう?」

「──っ! サイアン…」

 こそと耳元で囁けば、マレの頬が面白い様に赤くなる。
 マレは成人を誕生日と共に数日前に迎え、晴れてサイアンの相手として認められ、周知された。
 祝いの為、集った気心の知れた知人友人らに囲まれる中。マレの前で片膝をついたサイアンは、

「マレ・リンデル。私、サイアン・ラクテウスを、生涯の伴侶として認めて欲しい」

 そう言って手を差し出した。
 マレは感極まって涙を浮かべつつ、震える手を恐る恐る差し出し、手を握ると。

「もちろん…。よろこんで、サイアン──」

「──ありがとう。マレ」

 そう言って、あふれんばかりの笑顔で、マレを抱え上げ抱き締めた。キスの雨を降らせたことは言うまでもない。



 その夜から、マレはサイアンと寝所を共にしている。
 マレにその知識はあっても、経験は皆無だ。サイアン自身はそれなりにあるが、あってもそれを商売としている玄人の女性のみ。同性はマレだけだ。
 緊張でかちこちになっているマレは、ここへ来た当初を思い起こさせ、思わず笑みがこぼれた。
 それを見たマレがすねて怒り出し。なんとかなだめて、ようやく思いを遂げることができた。
 愛おしさがさらに増す。こんなマレを、自分以外の誰にも与えたくはなかった。
 朝、目覚めて腕の中に眠るマレを見つめ。
 ここまで良くもったものだと、自分でも驚いていた。
 マレは大人に近づくたびに、その魅力を開花させ、サイアンを悩ませていたのだ。
 銀の髪が珍しいと言うのもあるが、マレの笑顔はとても魅力的で。身体つきも幼さが抜け大人へと向かい。しなやかに伸びた手足はひと目を惹きつけた。
 時折、街へ出かけようものなら、皆が振り返る。マレをひとりにしてもそれは起こった。サイアンばかりを見ているわけではないのだ。

 ──マレは自身の魅力を分かっていないだろうが。

「本当はここへも呼ぼうか迷ったんだ。ひとも多いし…」

 騎士団の座興の範囲とは言え、王族も見に来ていたのだ。そこには王を含め、王妃や王子たちもいた。もちろん例の第四王子リーマも。
 あの夜の邂逅以降、リーマはなにもしては来なかった。かわりに嫌な話ばかり耳にする。
 花瓶を割ったメイドを、部下に命じて慰みものにした後、解雇しただの、シャツにできた僅かな染みを落しそこねた下僕を鞭で叩き、その時の傷が元で亡くなっただの。その他、血なまぐさい話しに暇がなかった。
 王もそう言った話は耳にしているはずだが、第一王妃の忘れ形見として溺愛していたため、見て見ぬふりをしているらしい。
 それが余計に拍車をかけたのだろう。残虐な行為はエスカレートし。今ではすっかり皆怯え、または嫌悪し、リーマの傍に進んで近寄るものはいなかった。
 傍にいるものは王子に恐怖するものか、媚を売るもののみ。従者も親衛隊もそのどちらかだった。愛情など、向けられたこともないのだろう。
 ふと、見上げた貴賓席にその姿を認め、マレを腕に抱きながら、守る様にその視線から遮った。

 ──やはり、マレを連れ出したのは、間違いだったな。

 目立って余計な注目を浴びたくはなかった。



「ふん。相変わらず、だな…」

 貴賓席で、イスの背にしなだれるように座ったリーマは、手にした扇子を閉じたり開いたりさせながら、サイアンとマレに目をむけていた。
 そのたびに、パチン、パチンと音がする。嫌な事があると、尾尻をパタパタと揺らして見せる猫と同じ。気に入らない事があると、よくやる癖だ。
 サイアンが、視線から遮るようにマレを腕に隠した所で視線を逸らした。それから、控えていた従者に向けて。

「父上に話がある──」

「は」

 頭を垂れた従者が、それを知らせるため姿を消した。

「もう、待ちくたびれた。せいぜい仲良くするといい。……今の内だけだ」

 去っていくサイアンとマレの背に向けて、そう口にした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...