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19.孤独
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「マレ!」
サイアンが名を呼ぶ。マレはいてもたってもいられず、護衛の隙をついて、部屋を飛び出したのだ。
護衛が手を伸ばすが、それを振り切って、部屋の窓を開け放つと、テーブルに置かれていた香炉をつかみ、暖炉に向けて投げつけた。
派手な音とともに華奢な陶器のそれは、粉々に割れて形をなくす。中の灰や麻薬は炎に消えていった。
それを見届けてから、リーマを振り返って。
「あなたは、間違っている──。これを見て」
そう言って、マレは胸ポケットにしまっていたものを取り出し、よく見えるようかざした。
差し出した手に揺れるのは、ネックレスだ。そのトップには、綺麗な銀細工の施された緑の石がある。
「……」
リーマはそれに目を向け、何か気づいたようだったが、何も言わず、ただ感情のない目で見つめているだけだった。かまわずマレは続ける。
「──これは以前、ここであなたの従者を勤めていたアレン・オードランのもの…。そうでしょう? あなたが陥れた、大切なひとだ。そのことをずっと、後悔していたのでしょう? だから捨てられず、ずっと持っていたんだ…」
「馬鹿なことを…」
リーマは鼻で笑うが。マレは次に懐から、古びた手の平に収まる程の本を取り出し、それもリーマに見せつけるように示した。
「これは──アランが書いた日記です。書架の整理をしていて、偶然見つけたんです…。それを読んで、アランがどれだけあなたを大切に思っていたかがよくわかりました。あなただって、彼の優しさを感じていたはず。──なのに、自分の愚かな行為で失った…。孤独になったあなたは、それを埋める為、周囲に八つ当たりをしているだけなんだ」
「ふん…。勝手によくも、まあ、でっち上げたものだ」
リーマは差し出された日記を見て、せせら笑う。
「確かにそいつは従者だった。──だが、好意のひとかけらもない。勝手に向こうが熱を上げていたに過ぎない。押し付けの、いい迷惑な──」
「嘘です」
マレはそう言うと、さらに進んで、そのネックレスと日記を、ソファに座ったままのリーマの胸元に突きつける。
「日記にはアランの思いだけでなく、あなたが取った行動も書かれています。──それは、幼い子供が純粋に親を慕う姿しかありませんでした…。幼いあなたはこの屋敷に、たった一人で暮らすことになった。それを親の代わりに支えたのは彼だったはず…。それなのに、どうして彼を陥れたのですか?」
リーマは唇を噛みしめた後、突き付けたネックレスと日記とを、嫌々ながら受け取った。ネックレスは握り締め、その視界から消しさるが。
「…奴は、私を裏切った。一生傍にいると言ったくせに、ここで雇っていたメイドと親しくなって結婚すると…。奴は嘘をついたんだ。だから──」
すると、マレは大きく首を横に振って。
「──違います。日記の最後の方にありました。相手の女性の気持ちは嬉しいが、やはりここを、あなたの傍を離れることはできないと」
「──!」
リーマがはっとして顔を上げた。
「あなたには、絶対に裏切らない人物がそばに必要なのだと。──彼は、あなたを息子同然に思い、心から愛していました。あなたを選んでいたんです。なのに…」
「……嘘だ」
リーマはマレを睨みつけるが。
「あなたも、でしょう? でなければ、そのカフスはあなたの手元に今もある訳がない」
「……」
「愛する人を自らの過ちで失って……。それは、後悔しかないでしょう。その悲しみを周囲にぶつけても、彼は戻ってこない…。あなたの行動は間違ってる。人の幸せを奪っても、その孤独は埋まりはしないんです」
リーマはただ茫然としてそこにいる。
その間に、サイアンはリーマを押し退け避け立ち上がると、マレの元へ歩み寄った。
「…マレ。無事で良かった」
「サイアン…。心配かけてごめん。でも、大丈夫だよ」
マレはサイアンに笑顔を向けたあと、リーマに向き直り。
「…リーマ様。今からでも遅くありません。もう、周囲の人々を虐げるのは止めにしましょう。そうすればきっと、またアランのようにあなたを思う人も──」
「……現れるわけがない。そんなもの、期待するだけ無駄だ。──マレ、お前を今ここで解雇する。今日でお終いだ。さっさと、そいつと出ていけ」
「けど、まだ約束のひと月は──」
「貴様はバカか? 主の私が出て行けと言っているんだ。──さっさと出ていけ!」
激高するリーマに、サイアンはそっとマレを促す。
「──マレ、行こう」
サイアンに促され、マレは渋々部屋を出た。
✢
しかし、出た所でマレは立ち止まって、サイアンを見上げると。
「──サイアン…。その、約束のひと月はここにいたいんだ。あと二週間…。だから──」
「どうしてだ? リーマ様はもう必要ないと言っている…。なのに、なぜ?」
マレは訝しむサイアンに、哀しい笑みを浮かべると。
「…あの人には、きっと信じられる誰かが必要なんだ。どんなに突っぱねても、傍に寄り添ってくれる人が。僕じゃ役不足だけど…。少しでも、逃げずに立ち止まる人がいるんだってこと、分かって欲しいんだ…」
「マレ…」
なぜ? とその顔が物語っていたが、マレは考えを曲げなかった。
ここでサイアンと帰るのは簡単だ。それで、また二人、幸せな生活を送る──。
けれど、リーマの孤独を知った今、見て見ぬふりは出来なかった。リーマの事は好きにはなれない。けれど、その孤独はわかる。
マレがこうして幸せでいられたのも、父ルボルをはじめ、ラーゴやサイアンが思いを向けてくれたから。
もし、それがなければ、マレだって孤独に囚われ、リーマの様に心がすさんでいたかもしれない。
本音を言えば、サイアンとこれ以上、別れて暮らすのは耐えられない。直ぐ様、帰りたかった。でも──。
「サイアン、僕のわがままを許して欲しい。これきりだから……」
サイアンの顔を見ると、その思いも失せそうになったが。
「…わかった」
サイアンはひどく落胆し、悲しい顔を見せて、それでも笑顔になると。
「二週間後、かならず迎えに来る。──必ずだ。そうしたら、二度と手放さない…」
「うん…」
サイアンはマレを強く抱きしめた。マレもまた、その温もりを確かめるように、強く抱き返す。
──サイアンがいてくれるから、僕は強くなれたんだ。
この人を悲しませてはいけないと、心から思った。
マレはその後、サイアンを見送り──麻薬の害は見受けられなかったが、医者には見せるように伝え──玄関先で見送った。
すると、傍らに控えていた執事が、
「よかったのですか? 今ならまだ間に合いますが──」
「いいんです。僕にはサイアンがいる…。けれどリーマ様には──。だからって、僕に何かできるわけではないんですが…」
リーマがいるであろう、居間に目を向ける。
ここで見捨てることは簡単だ。けれど、それでは、ますますリーマは心を閉ざしていくだろう。
あのカフスは、それを気づかせるきっかけとなった。アランの思いが、そこに見える気がする。
「そうですか…。では、引き続き、あと二週間、よろしくお願いいたします──」
初老の執事はそう言って、丁寧に頭を下げた。その目元が優しく笑んで見えたのは気のせいではないはず。
この執事も数少ない、リーマを思う一人なのかもしれないと気付いた。マレはにこりと笑むと。
「はい」
そう返した。
そうして、再び仕事へ戻った。
前と変わらず、夕食前の着替えに部屋へと向かえば、机に向かっていたリーマは、訪れたマレを一瞥し直ぐに視線をそらすと。
「…幸せ過ぎると、自身に迫る危機に気づきにくいものなのか?」
去ろうとしなかったマレに嫌味を言うが。
「ええ。僕は楽天家なんです。だから──」
言い終わらないうちに、リーマが椅子から立ち上がって、こちらに向かってきた。
なんだろうと首をかしげれば、いつの間にか手にしていたペーパーナイフを、首に突きつけてくる。
「──これで頬や口を切ってやったこともある…。気に入らない奴はそうやって処分してきた。おまえも、同じ目にあわせようか?」
鋭い切っ先が、首筋に突きつけられる。ちりと痛んだのは、先が食い込んだせいだろう。しかし、もう怖くはない。
──もちろん、紙一重ではあるが。
「僕は、ひと月ここにいると約束いたしました。…それに、どんなに脅されても、もう怖くはありません。アランが見たあなたを知っているから…」
その言葉に、眉間にしわが寄り心底嫌がる顔になったが。
「……バカにつける薬はないな。──だが、二度とそいつの名を口にするな」
「いいえ。これはきっかけです。きっと、アランがあなたに立ち直って欲しいから起こした奇跡です。彼はここにいて、あなたを愛していた。──いなかった事にはできません」
「っ、まえは──!」
睨まれたが、怯まなかった。これは賭けだ。もし、失敗して、鋭い切っ先が胸を突けばジエンド。
けれど、それは起こらないと理解していた。なぜだかわからないが、その自信がある。
日記を読んだことで、アランの思いが乗り移ったとでも言うのだろうか。その気持ちがマレにも理解できたからだ。
幼いリーマを心から心配し、心を寄せるアラン。日記にはいつも心を砕く様子が記されていた。その日記は、今はリーマの手にある。
当時の彼もまだ若かったはず。子育てなどしたこともないなら、苦労しどうしだっただろう。それでも手放さなかった。
──最後は手痛い仕打ちを受けたけれど。
それでも、アランは最後までリーマを心配していただろうと思う。どんな仕打ちを受けても、その心の底にあるものを見ぬいていたからだ。本当は生きてその傍に仕えていたかったことだろう。
けれど、それは望めなかった。心労もたたって、追い込まれた彼は、望まない選択をしてしまった。──そう思えた。
だから、せめて彼の代わりに、期限までここにいようと思った。
──どんなに脅されても、せめて決められた期間だけは。
信じられるものがリーマには必要なのだ。
そうして、あと数週間のマレのここでの生活が始まった。
サイアンが名を呼ぶ。マレはいてもたってもいられず、護衛の隙をついて、部屋を飛び出したのだ。
護衛が手を伸ばすが、それを振り切って、部屋の窓を開け放つと、テーブルに置かれていた香炉をつかみ、暖炉に向けて投げつけた。
派手な音とともに華奢な陶器のそれは、粉々に割れて形をなくす。中の灰や麻薬は炎に消えていった。
それを見届けてから、リーマを振り返って。
「あなたは、間違っている──。これを見て」
そう言って、マレは胸ポケットにしまっていたものを取り出し、よく見えるようかざした。
差し出した手に揺れるのは、ネックレスだ。そのトップには、綺麗な銀細工の施された緑の石がある。
「……」
リーマはそれに目を向け、何か気づいたようだったが、何も言わず、ただ感情のない目で見つめているだけだった。かまわずマレは続ける。
「──これは以前、ここであなたの従者を勤めていたアレン・オードランのもの…。そうでしょう? あなたが陥れた、大切なひとだ。そのことをずっと、後悔していたのでしょう? だから捨てられず、ずっと持っていたんだ…」
「馬鹿なことを…」
リーマは鼻で笑うが。マレは次に懐から、古びた手の平に収まる程の本を取り出し、それもリーマに見せつけるように示した。
「これは──アランが書いた日記です。書架の整理をしていて、偶然見つけたんです…。それを読んで、アランがどれだけあなたを大切に思っていたかがよくわかりました。あなただって、彼の優しさを感じていたはず。──なのに、自分の愚かな行為で失った…。孤独になったあなたは、それを埋める為、周囲に八つ当たりをしているだけなんだ」
「ふん…。勝手によくも、まあ、でっち上げたものだ」
リーマは差し出された日記を見て、せせら笑う。
「確かにそいつは従者だった。──だが、好意のひとかけらもない。勝手に向こうが熱を上げていたに過ぎない。押し付けの、いい迷惑な──」
「嘘です」
マレはそう言うと、さらに進んで、そのネックレスと日記を、ソファに座ったままのリーマの胸元に突きつける。
「日記にはアランの思いだけでなく、あなたが取った行動も書かれています。──それは、幼い子供が純粋に親を慕う姿しかありませんでした…。幼いあなたはこの屋敷に、たった一人で暮らすことになった。それを親の代わりに支えたのは彼だったはず…。それなのに、どうして彼を陥れたのですか?」
リーマは唇を噛みしめた後、突き付けたネックレスと日記とを、嫌々ながら受け取った。ネックレスは握り締め、その視界から消しさるが。
「…奴は、私を裏切った。一生傍にいると言ったくせに、ここで雇っていたメイドと親しくなって結婚すると…。奴は嘘をついたんだ。だから──」
すると、マレは大きく首を横に振って。
「──違います。日記の最後の方にありました。相手の女性の気持ちは嬉しいが、やはりここを、あなたの傍を離れることはできないと」
「──!」
リーマがはっとして顔を上げた。
「あなたには、絶対に裏切らない人物がそばに必要なのだと。──彼は、あなたを息子同然に思い、心から愛していました。あなたを選んでいたんです。なのに…」
「……嘘だ」
リーマはマレを睨みつけるが。
「あなたも、でしょう? でなければ、そのカフスはあなたの手元に今もある訳がない」
「……」
「愛する人を自らの過ちで失って……。それは、後悔しかないでしょう。その悲しみを周囲にぶつけても、彼は戻ってこない…。あなたの行動は間違ってる。人の幸せを奪っても、その孤独は埋まりはしないんです」
リーマはただ茫然としてそこにいる。
その間に、サイアンはリーマを押し退け避け立ち上がると、マレの元へ歩み寄った。
「…マレ。無事で良かった」
「サイアン…。心配かけてごめん。でも、大丈夫だよ」
マレはサイアンに笑顔を向けたあと、リーマに向き直り。
「…リーマ様。今からでも遅くありません。もう、周囲の人々を虐げるのは止めにしましょう。そうすればきっと、またアランのようにあなたを思う人も──」
「……現れるわけがない。そんなもの、期待するだけ無駄だ。──マレ、お前を今ここで解雇する。今日でお終いだ。さっさと、そいつと出ていけ」
「けど、まだ約束のひと月は──」
「貴様はバカか? 主の私が出て行けと言っているんだ。──さっさと出ていけ!」
激高するリーマに、サイアンはそっとマレを促す。
「──マレ、行こう」
サイアンに促され、マレは渋々部屋を出た。
✢
しかし、出た所でマレは立ち止まって、サイアンを見上げると。
「──サイアン…。その、約束のひと月はここにいたいんだ。あと二週間…。だから──」
「どうしてだ? リーマ様はもう必要ないと言っている…。なのに、なぜ?」
マレは訝しむサイアンに、哀しい笑みを浮かべると。
「…あの人には、きっと信じられる誰かが必要なんだ。どんなに突っぱねても、傍に寄り添ってくれる人が。僕じゃ役不足だけど…。少しでも、逃げずに立ち止まる人がいるんだってこと、分かって欲しいんだ…」
「マレ…」
なぜ? とその顔が物語っていたが、マレは考えを曲げなかった。
ここでサイアンと帰るのは簡単だ。それで、また二人、幸せな生活を送る──。
けれど、リーマの孤独を知った今、見て見ぬふりは出来なかった。リーマの事は好きにはなれない。けれど、その孤独はわかる。
マレがこうして幸せでいられたのも、父ルボルをはじめ、ラーゴやサイアンが思いを向けてくれたから。
もし、それがなければ、マレだって孤独に囚われ、リーマの様に心がすさんでいたかもしれない。
本音を言えば、サイアンとこれ以上、別れて暮らすのは耐えられない。直ぐ様、帰りたかった。でも──。
「サイアン、僕のわがままを許して欲しい。これきりだから……」
サイアンの顔を見ると、その思いも失せそうになったが。
「…わかった」
サイアンはひどく落胆し、悲しい顔を見せて、それでも笑顔になると。
「二週間後、かならず迎えに来る。──必ずだ。そうしたら、二度と手放さない…」
「うん…」
サイアンはマレを強く抱きしめた。マレもまた、その温もりを確かめるように、強く抱き返す。
──サイアンがいてくれるから、僕は強くなれたんだ。
この人を悲しませてはいけないと、心から思った。
マレはその後、サイアンを見送り──麻薬の害は見受けられなかったが、医者には見せるように伝え──玄関先で見送った。
すると、傍らに控えていた執事が、
「よかったのですか? 今ならまだ間に合いますが──」
「いいんです。僕にはサイアンがいる…。けれどリーマ様には──。だからって、僕に何かできるわけではないんですが…」
リーマがいるであろう、居間に目を向ける。
ここで見捨てることは簡単だ。けれど、それでは、ますますリーマは心を閉ざしていくだろう。
あのカフスは、それを気づかせるきっかけとなった。アランの思いが、そこに見える気がする。
「そうですか…。では、引き続き、あと二週間、よろしくお願いいたします──」
初老の執事はそう言って、丁寧に頭を下げた。その目元が優しく笑んで見えたのは気のせいではないはず。
この執事も数少ない、リーマを思う一人なのかもしれないと気付いた。マレはにこりと笑むと。
「はい」
そう返した。
そうして、再び仕事へ戻った。
前と変わらず、夕食前の着替えに部屋へと向かえば、机に向かっていたリーマは、訪れたマレを一瞥し直ぐに視線をそらすと。
「…幸せ過ぎると、自身に迫る危機に気づきにくいものなのか?」
去ろうとしなかったマレに嫌味を言うが。
「ええ。僕は楽天家なんです。だから──」
言い終わらないうちに、リーマが椅子から立ち上がって、こちらに向かってきた。
なんだろうと首をかしげれば、いつの間にか手にしていたペーパーナイフを、首に突きつけてくる。
「──これで頬や口を切ってやったこともある…。気に入らない奴はそうやって処分してきた。おまえも、同じ目にあわせようか?」
鋭い切っ先が、首筋に突きつけられる。ちりと痛んだのは、先が食い込んだせいだろう。しかし、もう怖くはない。
──もちろん、紙一重ではあるが。
「僕は、ひと月ここにいると約束いたしました。…それに、どんなに脅されても、もう怖くはありません。アランが見たあなたを知っているから…」
その言葉に、眉間にしわが寄り心底嫌がる顔になったが。
「……バカにつける薬はないな。──だが、二度とそいつの名を口にするな」
「いいえ。これはきっかけです。きっと、アランがあなたに立ち直って欲しいから起こした奇跡です。彼はここにいて、あなたを愛していた。──いなかった事にはできません」
「っ、まえは──!」
睨まれたが、怯まなかった。これは賭けだ。もし、失敗して、鋭い切っ先が胸を突けばジエンド。
けれど、それは起こらないと理解していた。なぜだかわからないが、その自信がある。
日記を読んだことで、アランの思いが乗り移ったとでも言うのだろうか。その気持ちがマレにも理解できたからだ。
幼いリーマを心から心配し、心を寄せるアラン。日記にはいつも心を砕く様子が記されていた。その日記は、今はリーマの手にある。
当時の彼もまだ若かったはず。子育てなどしたこともないなら、苦労しどうしだっただろう。それでも手放さなかった。
──最後は手痛い仕打ちを受けたけれど。
それでも、アランは最後までリーマを心配していただろうと思う。どんな仕打ちを受けても、その心の底にあるものを見ぬいていたからだ。本当は生きてその傍に仕えていたかったことだろう。
けれど、それは望めなかった。心労もたたって、追い込まれた彼は、望まない選択をしてしまった。──そう思えた。
だから、せめて彼の代わりに、期限までここにいようと思った。
──どんなに脅されても、せめて決められた期間だけは。
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そうして、あと数週間のマレのここでの生活が始まった。
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