Take On Me 4

マン太

文字の大きさ
7 / 42

6.真琴のこと

しおりを挟む
 真琴は度重なるホテル泊に疲れを感じ、また、経済的とは言えない利用回数に、職場の近くのマンションを借りる事に決めた。
 大和たちの待つ家に帰りたいのは山々だったが、仕事が不定期に忙しくなり、帰れない日々が続き。ホテル暮らしもどこか落ち着かず休まらない。仕方なくこの決断に至ったのだ。
 本当は大和が日々作ってくれる食事を食べたい。皆とくだらない冗談を言い合いながら、疲れを癒したい。

 それが生きる糧にもなっていたと言うのに。

 生きる為に仕事は必要だ。それに、忙しいのは悪い事ではない。暇よりずっとましで。
 仕事が大事である事は十分わかっている。

 けれど、こう忙しいとな。

 流石の真琴も根を上げそうになる。弁護士事務所より、企業内弁護士に転職した方がいいだろうか。そうなれば、ある程度、業務内容は抑制されるはず。
 ふと忙しいまま、この時を過ごすのに抵抗を覚える様になり。

 もっと自分のプライベートを充実させたい。

 ただ、今の事務所は以前の仕事を知った上で、雇ってくれた恩がある。
 それに、自分の前職を知られれば、企業が雇うかどうか。ヤクザの顧問弁護士兼秘書など、普通に聞けば、除外の対象になるだろう。諸々の事情で転職へは一歩踏み出せないでいた。

 当分はこのままだな。

 暫く様子を見るしかない。
 今日も残業で深夜を回り、帰宅すれば朝になっていた。夕食は既に外食で済ませてある。シャワーを浴びて寝るだけだ。眠れても五時間か六時間か。
 寝つきは良い方だが、ここの所、疲れて寝落ちしているのが分かる。あまりいい状態ではなかった。
 と、昼から放ってあった、プライベート用の端末にメッセージの通知があったのに気付く。何気に置いたテーブルの上で、チカチカと蒼白い光を点滅させていた。手に取って見れば大和からだった。

『お疲れさま! 金曜日は真琴さんの好きなコロッケだよ。お楽しみに~!』

 チュッとハートを飛ばして来るコツメカワウソのスタンプが踊っていた。クスリと笑う。

 大和に会いたい。 

 切実に思う。岳の様に触れることはできないが、会話を交わし軽いスキンシップをとることでいつも充たされていた。
 女性とは付き合うが、正直、充たされることがなく。それも当然ではあった。好きな相手が他にいるのだ。真剣に付き合うなど、できるはずもなく。
 一度、真面目に付き合おうとした相手から言われたことがある。『あなたは私を見ていない』と。その通りで何も言えなかった。嘘はつけないのだ。
 それで大抵は去っていく。去らない相手は、真琴と同じ、遊びならと付き合う相手位だ。真剣な交際には進展しない。
 そんな相手に充たされるはずもなく。自分でもどうにかしたいとは思うが、いかんせん、思いが大和に向いているため、他に目が行かない。
 大和は岳のパートナーだ。いい加減、諦めて他を見るべきなのだろうが、それでもいいからと、つい傍にいてしまう。
 だいたい、二人の事が好きなのだ。嫌いになどなれるはずもなく。諦めはつかない。
 真琴はため息をつくと、端末から返信を送った。『了解』と敬礼している眼鏡をかけたキリンのスタンプをつけて。
 いつか、大和が皆が動物だったら何だろうと言い、皆──真琴と岳と亜貴とで──意見を出し合った結果、そうなった。
 大和は、大和以外全員一致でコツメカワウソ。亜貴は猫。岳が──これは意見が割れた──ライオン、真琴がキリンだ。
 岳は犬科っぽいと大和が言い、シェパードとか、ハスキーだとかあがったが、それは大和といる時だけだという話になり、亜貴が猫なら岳はライオンだとなったのだ。
 キリンは注意深く周囲を観察し、穏やかに草を食んでいるイメージがある。真琴はそれだと大和が笑った。
 が、本当は肉食でもあるのだと言いたい。

 大和に関しては──だが。

 岳はひと月後、ネパール、ヒマラヤ山系に撮影に向かう予定だ。二カ月ほど家を留守にする。その間の家の監視を、岳から頼まれた。
 どうやら、同行する先輩の子どもらを家で預かることにしたらしいのだ。引き受け先がなく、二人きりにするのはいただけないと、大和と相談して決めたらしい。
 赤子ではないのだが、預かるうち、息子の方に難があるらしい。岳的には分かりやすくとんがっているから扱いやすいとは言っていたが。
 岳の目から見れば、大抵の相手はそう見えるだろう。
 とにかく、そんな息子に手を焼くことは目に見えている。ことに大和は小柄な見た目に侮られやすい。高校生になるというその息子が黙って言うことを聞くはずがなかった。
 それで、岳に目を光らせていて欲しいと言われたのだ。が、言われなくともそうするつもりだった。

 岳のいない間は、せめて一番頼れる存在でありたい。いつもより、もう少し近くでスキンシップをはかりたい──。

 けして、草食動物などではないのだ。
 家に帰る日が待ち遠しかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ランドセルの王子様(仮)

万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。 ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。 親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...