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1章 噂の乙女ゲー転生と魔王様へと至る道、その阻害要因である王子
この国の最悪な原状
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王都教会は高台に設けられている。
この国の姿が最も見通せる。そこから広がる黄金色の田園風景。これから収穫される小麦。ただ、それだけ。
技術革新も何もなく、華やかな工場が立ち並んだり魔法生物の実験牧場があるわけでもなく、商業が発展して活気のある町並みが広がるでもなく、ただただ小麦しか生えない地面が広がっている。オウフ。
結局昨日の結婚式の光景はやはりウォルター王子ルートのノーマルエンド、だ。魔王のダンジョンは金銀財宝で溢れている。ダンジョン攻略が完了したのならそれはもうキンッキラに輝いた結婚式が開催される。そうじゃないからダンジョンは未攻略だ。
「あの、ジャスティン?」
「はい、マリオン様。何でしょうか」
「この国は、えっと、ここ1年ほどで変化はあったのでしょうか」
「変化……グローリーフィアが発生し、マリオン様が婚約なされたこと……かと」
「それ以外、技術革新がおきたり何かの変化はない?」
「これといっては……」
ジャスティンは実家から王都についてきた私の従者だ。幼馴染でもある。つまりこの王都の1年間の変化を最もよくしっている。
私の記憶の中のゲームのOP背景画像と街の様子がさほどかわらない。全く発展していない。何度もスキップしたゲーム背景に広がる田園風景。
未開だ。ここは未開だ。未開の原野に等しい。あぁ、もはや悪夢以外の何ものでもない。そもそも王都がこんな未開で魔王が倒せるはずがない。この世界では私も王子もなんら有意義な開発に着手していない。
何故攻略のために武器強化や魔法開発したり街を発展させてレアアイテムを入手したり、そのための資金を増やそうとしようとしなかったの?
「マリオン様、いかがなされました? お顔が真っ青です。まだ体調が優れませんか」
「いいえ、ええと、あんまり良くはないけれど、体調としては大丈夫」
「お茶をお入れしますね」
しばらくたつと備え付けられた台所から薔薇のような良い香りが漂ってきた。
結局の所で私が向かえたエンディングは、迷宮踏破も攻略もされないままゲーム内の1年という期限切れを向かえ、その時点で主人公と最も好感度が高かったキャラと結婚して幸せな生活を送るパターンだ。
そしえ最も高感度が高かったのが悪名高いウォルターなのだろう。
ウォルターの悪名が高い理由は明白だ。
ウォルターは第一王子だ。国をあげて魔王討伐を行う最中、率先するはずの王子が攻略を放棄する。
しかもウォルターは空気の読めないワンコ系ド天然。ネットの掲示板ではウォルターが国王になれば国が滅ぶともっぱらの評判。金銀財宝を手に入れるトゥルーエンドならまだしも、このノーマルエンドというのは実質バッドエンドとまことしやかにささやかれていた。
でもこの世界だと違うのかもしれない。
「マリオン様、どうぞ」
「ねぇジャスティン、あなたウォルターをどう思う」
「……マリオン様の婚約者です」
「率直にどんな人間だと思う?」
「それは……その……天真爛漫な方といいますか」
困惑げなジャスティンの声と記憶の中の凍りつくような視線にやはりゲームと同じだと悟る。絶望しか無い。
だから私はこの王子と結婚というエンディングを回避しないといけない。けれども他の攻略対象とのエンドはウォルターとの結婚式を迎えてしまった以上不可能だ。推しのアレクとソルもばっちり結婚式に参加していた。
何故結婚式の前に前世の記憶を取り戻さなかったのか。ウォルターめ、地獄に落ちろ。
いえ、真理、諦めては駄目。諦めたらそこで試合は終了よ。
前世の記憶を思い出した反動なのか、今世の記憶が随分ぼんやりとしているけれど、ダンジョン は突然現れたはずなのだ。ダンジョンが発生した時点、つまり今世の私のゲーム開始時点までの記憶とゲームが開始してからこのノーマルバッドエンドを迎えるまでの記憶が前世の記憶とダブついて霞がかかっている気がする。
そのなかで頭の中にうっすらとこの1年の私たちの冒険の記憶が浮かぶ。
私はバッファーとして補助魔法でパーティをサポートし、アレクが大剣を振るって敵を屠り、ソルが魔法で敵を次々と殲滅し、それをぼんやりウォルターが眺めていた。
はぁ。ダンジョンはまだ攻略されてきない。きっとアレクやソルはこれからも新しいパーティを組んでダンジョン探索を続ける、んだろうな。それもなんだか羨ましい。私は楽しい冒険からも素敵な恋からも取り残されたのに、二人はそのうちダンジョンをクリアして莫大な財宝と名誉を手に入れるのかな。それできっと綺麗な奥さんをもらって……。
あれ?
けれどもそうでもないのかな。
エンディング後の世界は語られない。けれども1年経ってゲームが終わったならそこからは自由のはず?
「マリオン様、とにかく今はお休み下さい。ウォルター王子との結婚式はマリオン様の調子が戻られるのを待って仕切り直しです」
「仕切り直し? じゃあ、まだ諦めなくていいってこと?」
「はい?」
そう、か。
よく考えるとダンジョンはまだ攻略されていない。ゲーム上では便宜的に1年のプレイ期間というものが定められているけれど、今のこの世界は私の現実。今ならまだ挽回の目が……ある?
トゥルーエンドの達成条件は迷宮の討伐。私がダンジョンを攻略すれば新しくエンディングが上書きされるかも知れない。
それじゃぁどうすれば、どうすればいい?
このまま状況に甘んじれば、私は朽ち果てるまであのウォルターとこの国中から向けられる冷え切った視線の中で一生を送る羽目になる。それは嫌。絶対に嫌。
運命は自らの手で掴み取るもの、と前世のCMが言っていた。
せっかくの異世界転生。私はここからでも狙えるかもしれないルートを必死で探し、一つの可能性にたどり着く。
裏ルート、魔王グローリーフィアとのトゥルーエンド。魔王は引きこもりだから外の世界に関心はないはず。結婚式が執り行われたなんて知りもしないはず。
だから私は決意した。
とりあえず私はダンジョン攻略を再開する。
「ねぇジャスティン。私、もう一度ダンジョンに潜り直したいのだけれど、どうかしら」
「……マリオン様? 本当に大丈夫なのですか? お休みになられては」
「ジャスティン、あなたは一緒について来てくれるかしら」
「私が、ですか?」
「ええ」
「私はマリオン様にどこまでもついていきます。けれども私は従者で戦いの心得などまるでありません」
「一から鍛えればいいのよ。あなたはきっと強くなれる」
「失礼します」
ジャスティンは私の額に手を当てた。
けれどもジャスティンは鍛えようによっては強くなるはずだ。そういうキャラだ。
私がきちんと攻略ルートを踏みながらエンディングを迎えればきっとその先にトゥルーエンドが待っている、はず。
冷静に考えると魔王攻略は難易度が極限に高い。けれども私はそれにかけるしかない。人見知りで趣味が迷宮運営というところはちょっと変わっているけど、顔はいいしお金ともっているスパダリともいえる。私のこの破滅的な運命から救ってくれる唯一の相手に違いない。
そう、だから私はダンジョンに潜る。
そのための攻略方法もきっちり記憶の中にある。
よし、私の異世界生活はこれからだ!
この国の姿が最も見通せる。そこから広がる黄金色の田園風景。これから収穫される小麦。ただ、それだけ。
技術革新も何もなく、華やかな工場が立ち並んだり魔法生物の実験牧場があるわけでもなく、商業が発展して活気のある町並みが広がるでもなく、ただただ小麦しか生えない地面が広がっている。オウフ。
結局昨日の結婚式の光景はやはりウォルター王子ルートのノーマルエンド、だ。魔王のダンジョンは金銀財宝で溢れている。ダンジョン攻略が完了したのならそれはもうキンッキラに輝いた結婚式が開催される。そうじゃないからダンジョンは未攻略だ。
「あの、ジャスティン?」
「はい、マリオン様。何でしょうか」
「この国は、えっと、ここ1年ほどで変化はあったのでしょうか」
「変化……グローリーフィアが発生し、マリオン様が婚約なされたこと……かと」
「それ以外、技術革新がおきたり何かの変化はない?」
「これといっては……」
ジャスティンは実家から王都についてきた私の従者だ。幼馴染でもある。つまりこの王都の1年間の変化を最もよくしっている。
私の記憶の中のゲームのOP背景画像と街の様子がさほどかわらない。全く発展していない。何度もスキップしたゲーム背景に広がる田園風景。
未開だ。ここは未開だ。未開の原野に等しい。あぁ、もはや悪夢以外の何ものでもない。そもそも王都がこんな未開で魔王が倒せるはずがない。この世界では私も王子もなんら有意義な開発に着手していない。
何故攻略のために武器強化や魔法開発したり街を発展させてレアアイテムを入手したり、そのための資金を増やそうとしようとしなかったの?
「マリオン様、いかがなされました? お顔が真っ青です。まだ体調が優れませんか」
「いいえ、ええと、あんまり良くはないけれど、体調としては大丈夫」
「お茶をお入れしますね」
しばらくたつと備え付けられた台所から薔薇のような良い香りが漂ってきた。
結局の所で私が向かえたエンディングは、迷宮踏破も攻略もされないままゲーム内の1年という期限切れを向かえ、その時点で主人公と最も好感度が高かったキャラと結婚して幸せな生活を送るパターンだ。
そしえ最も高感度が高かったのが悪名高いウォルターなのだろう。
ウォルターの悪名が高い理由は明白だ。
ウォルターは第一王子だ。国をあげて魔王討伐を行う最中、率先するはずの王子が攻略を放棄する。
しかもウォルターは空気の読めないワンコ系ド天然。ネットの掲示板ではウォルターが国王になれば国が滅ぶともっぱらの評判。金銀財宝を手に入れるトゥルーエンドならまだしも、このノーマルエンドというのは実質バッドエンドとまことしやかにささやかれていた。
でもこの世界だと違うのかもしれない。
「マリオン様、どうぞ」
「ねぇジャスティン、あなたウォルターをどう思う」
「……マリオン様の婚約者です」
「率直にどんな人間だと思う?」
「それは……その……天真爛漫な方といいますか」
困惑げなジャスティンの声と記憶の中の凍りつくような視線にやはりゲームと同じだと悟る。絶望しか無い。
だから私はこの王子と結婚というエンディングを回避しないといけない。けれども他の攻略対象とのエンドはウォルターとの結婚式を迎えてしまった以上不可能だ。推しのアレクとソルもばっちり結婚式に参加していた。
何故結婚式の前に前世の記憶を取り戻さなかったのか。ウォルターめ、地獄に落ちろ。
いえ、真理、諦めては駄目。諦めたらそこで試合は終了よ。
前世の記憶を思い出した反動なのか、今世の記憶が随分ぼんやりとしているけれど、ダンジョン は突然現れたはずなのだ。ダンジョンが発生した時点、つまり今世の私のゲーム開始時点までの記憶とゲームが開始してからこのノーマルバッドエンドを迎えるまでの記憶が前世の記憶とダブついて霞がかかっている気がする。
そのなかで頭の中にうっすらとこの1年の私たちの冒険の記憶が浮かぶ。
私はバッファーとして補助魔法でパーティをサポートし、アレクが大剣を振るって敵を屠り、ソルが魔法で敵を次々と殲滅し、それをぼんやりウォルターが眺めていた。
はぁ。ダンジョンはまだ攻略されてきない。きっとアレクやソルはこれからも新しいパーティを組んでダンジョン探索を続ける、んだろうな。それもなんだか羨ましい。私は楽しい冒険からも素敵な恋からも取り残されたのに、二人はそのうちダンジョンをクリアして莫大な財宝と名誉を手に入れるのかな。それできっと綺麗な奥さんをもらって……。
あれ?
けれどもそうでもないのかな。
エンディング後の世界は語られない。けれども1年経ってゲームが終わったならそこからは自由のはず?
「マリオン様、とにかく今はお休み下さい。ウォルター王子との結婚式はマリオン様の調子が戻られるのを待って仕切り直しです」
「仕切り直し? じゃあ、まだ諦めなくていいってこと?」
「はい?」
そう、か。
よく考えるとダンジョンはまだ攻略されていない。ゲーム上では便宜的に1年のプレイ期間というものが定められているけれど、今のこの世界は私の現実。今ならまだ挽回の目が……ある?
トゥルーエンドの達成条件は迷宮の討伐。私がダンジョンを攻略すれば新しくエンディングが上書きされるかも知れない。
それじゃぁどうすれば、どうすればいい?
このまま状況に甘んじれば、私は朽ち果てるまであのウォルターとこの国中から向けられる冷え切った視線の中で一生を送る羽目になる。それは嫌。絶対に嫌。
運命は自らの手で掴み取るもの、と前世のCMが言っていた。
せっかくの異世界転生。私はここからでも狙えるかもしれないルートを必死で探し、一つの可能性にたどり着く。
裏ルート、魔王グローリーフィアとのトゥルーエンド。魔王は引きこもりだから外の世界に関心はないはず。結婚式が執り行われたなんて知りもしないはず。
だから私は決意した。
とりあえず私はダンジョン攻略を再開する。
「ねぇジャスティン。私、もう一度ダンジョンに潜り直したいのだけれど、どうかしら」
「……マリオン様? 本当に大丈夫なのですか? お休みになられては」
「ジャスティン、あなたは一緒について来てくれるかしら」
「私が、ですか?」
「ええ」
「私はマリオン様にどこまでもついていきます。けれども私は従者で戦いの心得などまるでありません」
「一から鍛えればいいのよ。あなたはきっと強くなれる」
「失礼します」
ジャスティンは私の額に手を当てた。
けれどもジャスティンは鍛えようによっては強くなるはずだ。そういうキャラだ。
私がきちんと攻略ルートを踏みながらエンディングを迎えればきっとその先にトゥルーエンドが待っている、はず。
冷静に考えると魔王攻略は難易度が極限に高い。けれども私はそれにかけるしかない。人見知りで趣味が迷宮運営というところはちょっと変わっているけど、顔はいいしお金ともっているスパダリともいえる。私のこの破滅的な運命から救ってくれる唯一の相手に違いない。
そう、だから私はダンジョンに潜る。
そのための攻略方法もきっちり記憶の中にある。
よし、私の異世界生活はこれからだ!
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