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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定
捨てられた男爵令嬢による捨てた元第一王子の面接
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「申し訳ないッ! 俺の君にしたことは取り返しがつかないことだとは思う。マリー。それでも、それでも俺はダンジョンに潜りたい。だから、ダンジョン入場許可証を貸してもらえないだろうか」
そう言って今にも床に頭を擦り付けんばかりのウォルターの姿に混乱した。そしてその切羽詰まった様子にも。
それはジャスティンにとってもアレクとソルにとっても同様で、お借りしたプローレス家の客間にはなんとも名伏し難い空気が漂っていた。
こんなウォルターはゲームの中でも今世でも見たことがない。同じパーティにいた時、ウォルターというのはいつも当然のように命令して、思い通りにならないなんて思ってもみなさそうだった。それなのにいきなりの土下座。従来のウォルター像と違いすぎている。
それに『俺』?
ウォルターの一人称は『僕』だったはずなんだけど。エンディング後で設定外のことだからバグでも生じているのかな。
私たちは4人ですっかり困惑しきっていた。
そしてウォルターの視線も私たち4人を見て混乱していた。
「あの、それよりまず顔を上げて頂けないでしょうか」
そう言うと、ウォルターはこちらの様子を探りながら気まずそうな様子で、私の正面の椅子にそろりと座る。壁に待機していた伯爵家のメイドが紅茶を運ぶ。その間もウォルターの目は泳いでいた。私のソファの後ろに控えるジャスティンはともかくとして、私の隣に座るソルとテーブル脇の席に座るアレク。
「その、何故アレクとソルがここに?」
解除されたと思しきエンディングフラグと新しい生活
「どうして?」
「どうしてもなにも、私はもともと冒険者ですもの。ウォルターとの婚約が『白紙』となってしまった以上、私はもとの冒険者に戻るだけ。お2人は私の元々のパーティメンバーですしフリーだと伺いましたから」
その言葉にウォルターは雷にでも打たれたかのような表情を浮かべた。
違和感が浮かぶ。
何故驚くの? そもそもゲーム設定でも私は冒険者のはず。ゲームでもどのエンディング条件も満たさないときは『私たちの冒険はこれからだ』っていう感じの冒険者エンドになる。
ウォルターエンドだったから冒険者じゃなくなってしまったけれど、そもそもその結婚という前提がなくなったんだから当然冒険者に戻る、よね。元々のメンバー2人にジャスティンが加わっているけれど、ゲームの規定パーティ数は4人から6人。何もおかしくはない。
「そのような理由でダンジョン入場許可証をお貸しすることはできません」
「そんなっ。それじゃ俺はどうしたら」
「おいウィル、今更何のつもりなんだ。マリーがいらないって女連れ込んだのお前だろ?」
「いやそれは、攻略のためで」
「攻略のためってんならマリー以外ないだろ。これでずっとやってきたんだ」
「それは……それをようやくわかったんだ。……そうか。そうなのか。やはりマリーがいないと全部だめなんだな。この世界では」
この世界では?
その言い回しが妙に気にかかる。
けれども随分久しぶりに見たウォルターは憔悴しきっていた。いつものウザいほどの明るさなんて影も形もない。
本当に何があったの? 廃嫡されたから、なの?
そこでふと、思い当たる。
これはウォルター王子のノーマルエンド。それが御破算になれば最もバグるのはウォルターかもしれない。
そもそも私が結婚式で気を失わなければ、私はウォルターの妻となって何不自由なく暮らしていた、はずだ。ゲームではちっとも描かれていなかった針の筵のような空気感はともかくとして。
結婚式直後からウォルターの行動はおかしかった。前々から少し考えていたことだけど、ウォルターを狂わせたのは私なのかもしれない。私はあの結婚式の瞬間、つまりまだゲーム内にいるときに、心情的にも行動的にもウォルターとの結婚を明確に拒否した。それはゲームとしては全くの予定外のことだろう。
もともとウォルターはダンジョン探索を志していた。今まで一方的に不満に思っていたけれど、ウォルター自身についても、私が倒れて私との『結婚』という前提に不具合が発生すればダンジョン探索を再開したのはおかしいどころか当然のようにも思える。
「それじゃあ、俺をパーティに加えてもらえないか」
「お前ふざけんなよ!」
ソルの怒声が響く。
けれどもそれは論外だ。一体どんな顔をして、結婚破棄したばかりの元王子を加えて元のメンバーでダンジョン探索を再開するというの。やっぱり頭が沸いている。
そう言って今にも床に頭を擦り付けんばかりのウォルターの姿に混乱した。そしてその切羽詰まった様子にも。
それはジャスティンにとってもアレクとソルにとっても同様で、お借りしたプローレス家の客間にはなんとも名伏し難い空気が漂っていた。
こんなウォルターはゲームの中でも今世でも見たことがない。同じパーティにいた時、ウォルターというのはいつも当然のように命令して、思い通りにならないなんて思ってもみなさそうだった。それなのにいきなりの土下座。従来のウォルター像と違いすぎている。
それに『俺』?
ウォルターの一人称は『僕』だったはずなんだけど。エンディング後で設定外のことだからバグでも生じているのかな。
私たちは4人ですっかり困惑しきっていた。
そしてウォルターの視線も私たち4人を見て混乱していた。
「あの、それよりまず顔を上げて頂けないでしょうか」
そう言うと、ウォルターはこちらの様子を探りながら気まずそうな様子で、私の正面の椅子にそろりと座る。壁に待機していた伯爵家のメイドが紅茶を運ぶ。その間もウォルターの目は泳いでいた。私のソファの後ろに控えるジャスティンはともかくとして、私の隣に座るソルとテーブル脇の席に座るアレク。
「その、何故アレクとソルがここに?」
解除されたと思しきエンディングフラグと新しい生活
「どうして?」
「どうしてもなにも、私はもともと冒険者ですもの。ウォルターとの婚約が『白紙』となってしまった以上、私はもとの冒険者に戻るだけ。お2人は私の元々のパーティメンバーですしフリーだと伺いましたから」
その言葉にウォルターは雷にでも打たれたかのような表情を浮かべた。
違和感が浮かぶ。
何故驚くの? そもそもゲーム設定でも私は冒険者のはず。ゲームでもどのエンディング条件も満たさないときは『私たちの冒険はこれからだ』っていう感じの冒険者エンドになる。
ウォルターエンドだったから冒険者じゃなくなってしまったけれど、そもそもその結婚という前提がなくなったんだから当然冒険者に戻る、よね。元々のメンバー2人にジャスティンが加わっているけれど、ゲームの規定パーティ数は4人から6人。何もおかしくはない。
「そのような理由でダンジョン入場許可証をお貸しすることはできません」
「そんなっ。それじゃ俺はどうしたら」
「おいウィル、今更何のつもりなんだ。マリーがいらないって女連れ込んだのお前だろ?」
「いやそれは、攻略のためで」
「攻略のためってんならマリー以外ないだろ。これでずっとやってきたんだ」
「それは……それをようやくわかったんだ。……そうか。そうなのか。やはりマリーがいないと全部だめなんだな。この世界では」
この世界では?
その言い回しが妙に気にかかる。
けれども随分久しぶりに見たウォルターは憔悴しきっていた。いつものウザいほどの明るさなんて影も形もない。
本当に何があったの? 廃嫡されたから、なの?
そこでふと、思い当たる。
これはウォルター王子のノーマルエンド。それが御破算になれば最もバグるのはウォルターかもしれない。
そもそも私が結婚式で気を失わなければ、私はウォルターの妻となって何不自由なく暮らしていた、はずだ。ゲームではちっとも描かれていなかった針の筵のような空気感はともかくとして。
結婚式直後からウォルターの行動はおかしかった。前々から少し考えていたことだけど、ウォルターを狂わせたのは私なのかもしれない。私はあの結婚式の瞬間、つまりまだゲーム内にいるときに、心情的にも行動的にもウォルターとの結婚を明確に拒否した。それはゲームとしては全くの予定外のことだろう。
もともとウォルターはダンジョン探索を志していた。今まで一方的に不満に思っていたけれど、ウォルター自身についても、私が倒れて私との『結婚』という前提に不具合が発生すればダンジョン探索を再開したのはおかしいどころか当然のようにも思える。
「それじゃあ、俺をパーティに加えてもらえないか」
「お前ふざけんなよ!」
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けれどもそれは論外だ。一体どんな顔をして、結婚破棄したばかりの元王子を加えて元のメンバーでダンジョン探索を再開するというの。やっぱり頭が沸いている。
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