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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定
ゲームと違う国名、ゲームと違う思い出。ここは何?
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けれどもそれはとても引っかかる。攻略ルートに則ってエンドを迎える。
その行為と意味に既に少し懐疑的。なぜなら私は条件はよくわからないけれどもルートを踏み外すことがありうることを知ってしまったから。それに攻略ルートに則ったエンディングに心は発生するものなんだろうか。
心。みんなはゲームの攻略キャラ。けれども私はみんなを生きた人間だと、意志のある人間だと感じている。
だからアレクがグラシアノをグラシアノと名付けたように、私たちの未来をただゲームのルールに則って進めることに拒否感がある。
だって私は、少なくともジャスティンについてはゲームのルートと異なるエンディングに至る道が既に存在するように、思われるから。
いいえ、けれどもそれはよくわからない。だからとりあえず攻略を進めましょう。
私たちの目的はダンジョンを踏破すること、そしてそれは魔王の討伐とだいたい同じ意味。
その中でグラシアノは大きな不確定要素。私だけがグラシアノが魔王と繋がっていることを知っている。
ソルは今は繋がりを感知できていないけれど、それは魔王にとってオンオフできるものかもしれない。そして魔王が敵対的な存在となっているなら、戦闘中にグラシアノに背後から襲われる可能性がある。けれども私はグラシアノが魔王であるとみんなに言うことはできない。何故知っているのとかいう話になるし、そもそも今のグラシアノが魔王であるという確信は随分なくなってきた。だってあんまりにも『幻想迷宮グローリーフィア』のグラシアノと違うから。あんまりにも、怖がっているだけの子どもに見える、から。
私はもうみんなを危険に晒したくない。
もうあんな、フレイム・ドラゴンの時のような後悔をするのは嫌だ。だからなるべく、考えられるあらゆる可能性を考えようと。
「それでお前は何なんだ」
「……」
「答えろよ。少なくとも付いてきたいなら」
「……あの、わからないんです」
「わからない?」
「気がついたらあそこにいて……」
「わからないはずがあるかよ」
転移陣まで戻っても話は進展しなかった。薄ぼんやりと光る転移の魔法陣のそばで再開した話し合いも遅々として進まない。
アレクは転移陣に入れたこと自体がグラシアノに敵意が無いことの現れだと主張する。転移陣はセーフティゾーン。だから冒険者に危険をもたらすもの、敵意を持つものは入れない。それは、多分この世界の一般常識なのかもしれないけれど、それは本当なのかな。
今は敵意がなくても急に敵意が発生したら? 記憶、というか魔王との繋がりや使命を思い出して、何らかの条件を満たして襲ってきたら?
でも、けれどもやっぱり、グラシアノは確かに、本当に怯えている、ように、みえた。
「ねぇグラシアノ。あなたはどうして私たちを怖がるの? 私たちはあなたに何もしてないでしょう? むしろ助けてあげてると思うんだけど」
「わかんない……わかんないけど、みんな僕を嫌いでしょう? このお兄さん以外」
ジャスティンが困った顔をする。
嫌い、嫌い、か。確かに私はこの子を警戒している。ソルはもとよりグラシアノは魔族、どちらかといえばモンスターの類だと認識している。アレクは本来魔族を嫌っている、はずだ。
じゃあどうすればいいの。
グラシアノは転移陣を通れなかった。だからグラシアノは地上やもっと安全な階層に登ることもできない。
思い返せば『幻想迷宮グローリーフィア』でも魔王の欠片はダンジョンの外に出てくることはない。けれども子どもをダンジョンに放置するなんておかしい。そうも思う。敵対する可能性はあるとしても、今は怯えている子供にしか見えないのは確か。
「転移陣にはモンスターが入ってこれないから当面安全だけど、他のパーティに見つかれば襲われるかもしれない」
「方法はなくはない。寧ろそれなら信用できる。そいつはモンスターなんだからテイムすればいい。テイムの印があればそれは他人の財産だ。他のパーティに襲われることはないだろう」
「それは反対だ」
「アレクは魔族が嫌いなんじゃなかったの?」
「それは、そうなんだが……俺が魔族が嫌いなのには理由がある。魔族が俺の弟を殺したからだ」
アレクは苦渋に満ちた表情でそう呟いた。グラシアノを見る視線が一瞬鋭くなり、グラシアのがまたジャスティンの影に隠れる。
魔族が、弟を殺した?
そんな設定あったっけ。そもそもアレクの設定に家族はほとんどでてこなかった。
他の国の王子で騎士の身分で武者修行の旅にでている、としか。
アレクは少し目を伏せて悩み、言葉を続ける。
「俺は『雪豹となだらかな海』の領域の育ちだ。この領域ほど温暖ではなく自然環境も厳しい。だから人と人との繋がりはおそらくもっと密接で助け合って生きている」
「あれ? アレクの出身ってバーヴァイア王国じゃなかったっけ」
「うん? どこだそれは。俺の出身はキウェリアという国だ。それで俺の国にも魔族がいた。キウェリアの魔族は岩山に住み、人を襲った。だから俺たちの国は魔族に対抗できるよう、鍛錬を積み重ねることが重要とされていた」
キウェリア?
アレクの国は確かバーヴァイアのはずで、アレクのエンディングで主人公はその国に嫁いだはずだ。公式設定資料集でもそうなっていた。
アレクが話している国の内容は国名以外はゲームと酷似しているように聞こえる。でも、キウェリア? 聞いたことがない。
それに『雪豹となだらかな海』……?
ふいに私の唱えていた呪文が頭をよぎった。
ゲームでは魔法は単に『攻撃力上昇』とかのバフ効果を選んで対象を選択していた。ゲームの中では呪文なんて改めて唱えていなかったけど、現実で魔法を使う時にはカーソル選択なんかできないから言葉になっているんだと思っていた。
だから素早さ上昇に風羽の靴とか、リフレクトに鏡面の守り、という願う効果を意味する言葉が入っていると思っていた。それに私の今世の知識ではそんなふうに学んだと記憶している。
でもわからない言葉がある。
『泥濘とカミツレ』。
泥濘というのはぬかるみのことだろう。カミツレはカモミールのこと。ぬかるみとカモミール? 私はなんでそんなものに祈っているの?
当然のようにその言葉を呪文の頭につけていたけれども。そして私の知識の中ではそれを唱えなければ魔法は発動しないことになっている。
その行為と意味に既に少し懐疑的。なぜなら私は条件はよくわからないけれどもルートを踏み外すことがありうることを知ってしまったから。それに攻略ルートに則ったエンディングに心は発生するものなんだろうか。
心。みんなはゲームの攻略キャラ。けれども私はみんなを生きた人間だと、意志のある人間だと感じている。
だからアレクがグラシアノをグラシアノと名付けたように、私たちの未来をただゲームのルールに則って進めることに拒否感がある。
だって私は、少なくともジャスティンについてはゲームのルートと異なるエンディングに至る道が既に存在するように、思われるから。
いいえ、けれどもそれはよくわからない。だからとりあえず攻略を進めましょう。
私たちの目的はダンジョンを踏破すること、そしてそれは魔王の討伐とだいたい同じ意味。
その中でグラシアノは大きな不確定要素。私だけがグラシアノが魔王と繋がっていることを知っている。
ソルは今は繋がりを感知できていないけれど、それは魔王にとってオンオフできるものかもしれない。そして魔王が敵対的な存在となっているなら、戦闘中にグラシアノに背後から襲われる可能性がある。けれども私はグラシアノが魔王であるとみんなに言うことはできない。何故知っているのとかいう話になるし、そもそも今のグラシアノが魔王であるという確信は随分なくなってきた。だってあんまりにも『幻想迷宮グローリーフィア』のグラシアノと違うから。あんまりにも、怖がっているだけの子どもに見える、から。
私はもうみんなを危険に晒したくない。
もうあんな、フレイム・ドラゴンの時のような後悔をするのは嫌だ。だからなるべく、考えられるあらゆる可能性を考えようと。
「それでお前は何なんだ」
「……」
「答えろよ。少なくとも付いてきたいなら」
「……あの、わからないんです」
「わからない?」
「気がついたらあそこにいて……」
「わからないはずがあるかよ」
転移陣まで戻っても話は進展しなかった。薄ぼんやりと光る転移の魔法陣のそばで再開した話し合いも遅々として進まない。
アレクは転移陣に入れたこと自体がグラシアノに敵意が無いことの現れだと主張する。転移陣はセーフティゾーン。だから冒険者に危険をもたらすもの、敵意を持つものは入れない。それは、多分この世界の一般常識なのかもしれないけれど、それは本当なのかな。
今は敵意がなくても急に敵意が発生したら? 記憶、というか魔王との繋がりや使命を思い出して、何らかの条件を満たして襲ってきたら?
でも、けれどもやっぱり、グラシアノは確かに、本当に怯えている、ように、みえた。
「ねぇグラシアノ。あなたはどうして私たちを怖がるの? 私たちはあなたに何もしてないでしょう? むしろ助けてあげてると思うんだけど」
「わかんない……わかんないけど、みんな僕を嫌いでしょう? このお兄さん以外」
ジャスティンが困った顔をする。
嫌い、嫌い、か。確かに私はこの子を警戒している。ソルはもとよりグラシアノは魔族、どちらかといえばモンスターの類だと認識している。アレクは本来魔族を嫌っている、はずだ。
じゃあどうすればいいの。
グラシアノは転移陣を通れなかった。だからグラシアノは地上やもっと安全な階層に登ることもできない。
思い返せば『幻想迷宮グローリーフィア』でも魔王の欠片はダンジョンの外に出てくることはない。けれども子どもをダンジョンに放置するなんておかしい。そうも思う。敵対する可能性はあるとしても、今は怯えている子供にしか見えないのは確か。
「転移陣にはモンスターが入ってこれないから当面安全だけど、他のパーティに見つかれば襲われるかもしれない」
「方法はなくはない。寧ろそれなら信用できる。そいつはモンスターなんだからテイムすればいい。テイムの印があればそれは他人の財産だ。他のパーティに襲われることはないだろう」
「それは反対だ」
「アレクは魔族が嫌いなんじゃなかったの?」
「それは、そうなんだが……俺が魔族が嫌いなのには理由がある。魔族が俺の弟を殺したからだ」
アレクは苦渋に満ちた表情でそう呟いた。グラシアノを見る視線が一瞬鋭くなり、グラシアのがまたジャスティンの影に隠れる。
魔族が、弟を殺した?
そんな設定あったっけ。そもそもアレクの設定に家族はほとんどでてこなかった。
他の国の王子で騎士の身分で武者修行の旅にでている、としか。
アレクは少し目を伏せて悩み、言葉を続ける。
「俺は『雪豹となだらかな海』の領域の育ちだ。この領域ほど温暖ではなく自然環境も厳しい。だから人と人との繋がりはおそらくもっと密接で助け合って生きている」
「あれ? アレクの出身ってバーヴァイア王国じゃなかったっけ」
「うん? どこだそれは。俺の出身はキウェリアという国だ。それで俺の国にも魔族がいた。キウェリアの魔族は岩山に住み、人を襲った。だから俺たちの国は魔族に対抗できるよう、鍛錬を積み重ねることが重要とされていた」
キウェリア?
アレクの国は確かバーヴァイアのはずで、アレクのエンディングで主人公はその国に嫁いだはずだ。公式設定資料集でもそうなっていた。
アレクが話している国の内容は国名以外はゲームと酷似しているように聞こえる。でも、キウェリア? 聞いたことがない。
それに『雪豹となだらかな海』……?
ふいに私の唱えていた呪文が頭をよぎった。
ゲームでは魔法は単に『攻撃力上昇』とかのバフ効果を選んで対象を選択していた。ゲームの中では呪文なんて改めて唱えていなかったけど、現実で魔法を使う時にはカーソル選択なんかできないから言葉になっているんだと思っていた。
だから素早さ上昇に風羽の靴とか、リフレクトに鏡面の守り、という願う効果を意味する言葉が入っていると思っていた。それに私の今世の知識ではそんなふうに学んだと記憶している。
でもわからない言葉がある。
『泥濘とカミツレ』。
泥濘というのはぬかるみのことだろう。カミツレはカモミールのこと。ぬかるみとカモミール? 私はなんでそんなものに祈っているの?
当然のようにその言葉を呪文の頭につけていたけれども。そして私の知識の中ではそれを唱えなければ魔法は発動しないことになっている。
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