ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

Tempp

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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定

俺から見てもこの街のシミュレーションパートは手つかずだ

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 ったく。わけがわからねぇ。
 とりあえずギルドにいた全員を倒したころには夜はすっかり明けていた。呑み潰れた輩がいるのはいつものことなのだろう。ギルド職員がこちらをチラリと見て、興味もなさそうにその日の新しいクエストの掲示を始め、早起きの冒険者どもがぞろぞろとギルドに現れていた。ちらほらと攻略対象の姿も見える。

 俺?
 魔王が酒に潰れるはずがあるか。ラスボスに状態異常かけるのがどんだけ大変か考えたらわかるだろ。
 酔っ払わないのはちょっとつまんない。なおヘイグリッドは途中で飽きたのか宴会中なのに一人でブツブツ手元で何かの術式を編んでいて、今はギルド職員の後ろについてうろうろと掲示板やらその辺の注意事項やらを眺めていた。

「ねぇアレグリット様。私、この辺のクエストだいたいクリアできるわぁ」
「当たり前だろ。つまんねぇこと言ってねぇでついてこい」

 当然だ。お前最弱でないほうの四天王クラスだろ。クリアできないクエストがあってたまるか。
 そもそも俺らはどのモンスターも狩り放題だしダンジョン内に用意できるものは手に入れ放題だ。

「でもねぇ。できないの見つけちゃった」
「ん?」

 その一言が気になって、少しだけ人だかりのできた掲示板に近づく。まさかドブさらいとかじゃねぇだろうな。プライド的にとか。
 そう思ってギルド職員が新しく貼った紙を見たら、セバスチアンのパナケイアイベントだった。ああ、確かにこれは難しいな。できねぇこたぁねえだろうが調合スキルのあるペットがパッと思い浮かばねぇ。
 うん? 調合? パナケイアって調合がいるのか。いや、そうだよな、薬だもんな。
 ……?
 そういえば昨日主人公がフレイム・ドラゴン倒してたな。だからこのクエストが出たのか。フレイム・ドラゴン討伐がセバスチアンのクエスト解放条件だ。
 セバスチアン、セバスチアンねぇ。
 面白れぇこと思いついた。

 ギルドを出てスンと冷えた冬の朝の大通りを歩く。慌ただしく人が行き交い、石畳をガタつかせながら荷車が往来している。
 ……本当に何もしてねぇな。
 シミュレーションパートはどこから着手するかってのもあるが、大体は何がしかの店を始めて種銭稼いで、そこからインフラ整備したり店を増やしたりして国を発展させていく。最初は元手が少ないからカフェとか飲食店から始めるプレイヤーが多いし推奨されている。
 それで初心者が店を経営するのであれば、この冒険者ギルドから商業区域に繋がる大通りに店を出すことが多い。チュートリアルでもここでカフェを開くことを勧められるし、表通りの方が売上がでかいからだ。

 チュートリアル?
 そういえばチュートリアルは存在するのかな。まあスキップはできるだろうけどさ。ゲーム以外でも?
 そう思いながらぷらぷら歩いてはみたものの、チュートリアルに出てくるようなテンプレ店舗は大通りの中にはみつけられない。
 そう考えると店は作ってはいないのか。

 結局の所、街が発展していないことがダンジョン攻略に悪影響を与えているのだろうなとは思う。だからこのままのほうがよいような気はする。少しつまらなくはあるが、街が発展しない限りモンスターからのドロップ品以外まともな武器防具は揃わないわけで、一年経っても主人公が25階層あたりにいてもおかしくは、ない?
 わけのわからねえ装備作るの楽しいのにな。

 ……俺が外に出られるということは、俺がこの街を発展させれば俺に金がじゃぶじゃぶ流れ込んでくるのかな。そうすれば調合士を雇ったりとやれることは増えそうな気はする。だが国全体が富む結果となっては、ダンジョン攻略には資するだろう。技術革新は是か非か。
 そんなことを考えながらカウフフェル商会の扉を開く。

 ゲームではカウフフェル商会は武器防具、冒険に必要な道具を売っている印象しかなかったが、日用品や服飾なんかも販売しているようだ。どうやら百貨店のようなものらしい。まあゲームで歯ブラシ買ったりしないしな。……買っとこう。
 けれども全体的に売り物がショボい。武器にしても鋼の剣くらいしか置いてない。街の発展に比して商材も増えてくるものだ。初期の販売品が何だったかは覚えてねえが、それと大差なく思える。

「何かお探しでしょうか」
「ん? あぁ。セバスチアン氏はいらっしゃいますでしょうか」
「前会頭でしたらもう店には来られません。あ、ギルドのクエストを見た冒険者の方でしょうか。それでしたら自宅におりますのでお手数ですがそちらにお越し願えますでしょうか」

 やけに説明的な自宅への誘導。
 ニコニコした店員から自宅までの地図を手渡された。貴族街に程近い小さな丘の途中。
 俺が強盗だったらどうするんだと思わなくもないが、せっかく得られた情報だ。ありがたく使わせてもらおう。

「それにしてもしょっぱい街ねぇ。面白いものが何もないじゃない」
「まあな。ダンジョンドロップの方がよほど優等だ。俺がドロップ品持ち込んだら高値で売れそうだな……ってギルドに持ち込まれた素材はどうなってるんだ? 今の攻略状況だと最深で34階層だが、そこまで行くとそれなりの素材は拾って帰れるだろ」
「うぅん、このくらいの規模だと加工も難しいのかもしれないわねぇ。昨日アレグリット様が見てたフレイム・ドラゴンもなめすのにそれなりの技術が必要でしょう?」

 そうだなぁ。鍛治士も育てないとなぁ。
 そうするとこの街の鍛治士は誰も育成されてねぇのか。かぁ勿体ねぇ。
 うーん、攻略対象の中にドワーフだからって差別されて鍋修理してた特級品がいたな。拾って育てるか。確か鍋と酒もってって世間話すれば仲間になるはずだ。鍛治士のレベルを上げるには定量の鉱石が必要だがそんなもんダンジョンには腐るほどある。

「お約束でしょうか」
「いいえ。ですが冒険者ギルドの方から来ました。クエストの達成条件等のお話をお伺いしたくて」
「少々お待ち下さい」

 セバスチアンの家は貴族の家と見紛う程度には豪華で、たくさんの使用人が慌ただしく働いていた。景色から思ったが季節は冬だ。年の瀬が近いのかもしれんな。通された客間は高級そうな赤いラグにつやつや光るマボガニーっぽいテーブルセットが置かれていた。壁には何枚も風景画が飾られて、部屋の隅のでかい壺も高そうだ。
 金もってんな。まあ大商人だもんな。けれども菓子はぼそぼそして不味い。これだけでも市場を席巻できそうな気がするな。
 しばらく待つと見慣れたセバスチアンが現れて簡単に挨拶をする。もちろんアレグリッドの名前で、だが。
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