ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定

セバスチアンと新しいお店

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「それでギルドのクエストについての条件ということですが」
「単刀直入に申し上げますが、そちらで調合ができるのであれば素材は提供できます」
「なんと! しかし本当でしょうか……?」
「主要な素材は神樹とドラゴンの肝。当方は神樹を。そして肝は入手可能です。証に神樹の種を差し上げましょう。まぁ、育成は難しいかとは存じますが」

 セバスチアンはぐぅと息を呑んだ。神樹の育成。それはつまり誰かを苗床にしろという意味だ。
 けれども神樹を求めるということはそういうことだ。相手に犠牲を求めるのであれば、自分がそれを贖ってもよいのではないかとは思う。真実にパナケイアを欲するのであれば。
 それに適正にパナケイアに育てるには特別な手順が必要だ。
 ……あれ? 俺はなんでそんなことを知ってるんだ? 今世のどこで知ったんだ?
 懐から出した黄金色の種をその震える手に乗せる。小さくて売れそうなもんは念の為色々と鞄に忍ばせてきた。ダンジョンで死んだやつの所持金なんかもたくさんあるが、あまり嵩張る量を持ち歩くのも面倒だ。
 ただまぁ俺も別に意地悪をしたいわけではない。42階層にいきゃ神樹なんて生え放題だ。伐採して持ってくるのは面倒くせぇが、作れる奴がいるってんならやぶさかではない。

「神樹自体を提供することも可能です。しかし調合士に伝手がございません。ご用意できるのでしたら神樹と肝を用意しましょう」
「……わかりました。ありがとうございます。調合士が手配出来次第ご連絡差し上げます。しかしこれほどの貴重なものを、ただご提供頂くわけには参りません。何らかの対価をお支払いさせていただきたく存じます」
「ふむ……そうですね。では店を一つご用意頂けますでしょうか。貴殿が営業されるカウフフェル商会の3分の1ほどの規模の商店とそれより大きな倉庫の附随する物件です。費用は私が拠出します。金に糸目はつけません。場所をお探し願いたい。賃貸でも売買でも結構です」
「場所……ですか? それは専門の業者をあたったほうがよろしいのでは」

 この世界にも不動産業のようなものはある、と思う。
 シミュレーションパートでは店を出したい場合、都市内の複数箇所の購入可能な物件がリストアップされる。そしてそのリストは時間の経過とともに変化する。ということは時々に応じて空き物件が移ろっていて、それを仲介する業者というものが存在はするのだろう。
 けれども俺は自分が表に出ることは極力避けたい。魔王だしな。恐らく俺の店は莫大な売上を叩き出すだろう。その時に背後関係を探られたくはない。手がかりは極力残したくない。だからこそのセバスチアンだ。こいつは後ろ暗すぎる。
 だから俺は狼狽えつつも種を握り込めたセバスチアンの手の甲をつつく。

「貴殿も色々なお仕事をされているのでしょう? 私は身分を隠して店を経営したいのです。ご懸念されるような非合法な商売をしようというつもりはありません。私が出したい店は表の店です。まぁ、今考えているのは鍛冶屋とか飲食店とか、そういった真っ当なものです。だから何も残したくない」
「……詳細な条件はございますか」
「そうですね。真っ当な店といっても大通りより一つは後ろに入ったところがよいでしょう。目立ちたいわけではない。先程も申しましたが鍛冶ができればなお良いです。職人街に近いほうがよいかもしれない。それから様々な規制のゆるい場所がいい。現存する法を犯すつもりはありません。そうですね、あとは多少の改築が許されること、小さくても地下室があれば嬉しいです」
「わかりました。一つ心当たりがございます。ご購入頂くことになりますから価格は法外ですがよろしいでしょうか」

 いいね。さすが変態紳士セバスチアン。話が速い。
 翌日、さっそく現場を見せてもらう。昨日と比べてやけに顔色が悪いな。神樹の種で悩んだのか。……すまんかった。
 職人街と商人街の間にあるその店は、古いがしっかりとした建て付けの建物。接客可能なスペースの規模はカウフフェル商会の4分の1程度だったが倉庫を含めた敷地の規模はカウフフェル商会に匹敵するだろう。購入であれば改築も思いのままだ。

「購入します」
「ではすぐに片付けさせます。お代はいかが致しましょうか」
「そうですね。生憎ですが現金の持ち合わせがない。現物で宜しいでしょうか」

 鞄を弄り、セバスチアンの言う額に満つるまでいくつかのものを出す。
 希少な宝石、希少な素材。そして小さな財宝。俺には市場価値なんぞわからんからな。適当だ。

「これで結構です。眼福に預かりました。お釣りが生じますが現金でのお渡しでよろしいでしょうか」
「ご挨拶料として進呈いたしますよ」
「いいえ、こういった取引はきちんと始末をつけなければ」
「そうですね。では現金で」

 取引は拍子抜けするほどスムーズに完了した。いざとなれば脅すネタは色々とあったのだが、それは今後に取っておこう。
 さっそく購入した店舗の地下に入り座標を記録する。まずはここに転移陣を作る。
 とりあえずこれでエスターライヒでの拠点ができた。いわばここは俺の庭だ。
 第一はこの国と世界の調査だが後は……そうだな、やはり鍛冶屋から始めてみようか。それでどの程度市場や国が変化するかを観測しよう。
 そして可能であれば、誰かが俺の部屋まで到達する前にこの国と和解をして、俺はダンジョンに引きこもりたい。今の主人公がどんな奴だかはわからねぇが、そもそも魔王エンドでは国と和解ができる。だからやってやれないはずはない、と思う。

「おいヘイグリッド。お前何かしたいことがあるか」
「私ですかぁ? そうですねぇ。やっぱり鍛錬? でも強い人あんまりいなさそうですよねぇ」
「そんなもんはダンジョンでいくらでもできるだろ。ティアマトとでも遊んどけ。人間の国でしたいことはねぇか」
「やだなぁ。あの人怒ると怖いししつこいんですよう。うーん、人間の国? そうですねぇ、ここでないとできないこと? そういえば昨日みたいなのしたいです」
「昨日? 酒場か?」
「ダンジョンじゃ一緒に飲み食いする人っていないから」

 あれで楽しかったのか? よくわかんねぇがまあいい。飲食店にも興味があった。
 ドワーフは酒が好きだと言うからな。悪くないかも知れない。俺が酒を飲んだのもこの世界に来てからは昨日が初めてだった。そういえば畑だらけだったからバーボンでも作ってみるのもアリかね。ここの酒は弱すぎる。
 不意に前世の記憶がよぎる。あんまり金はなかったが仲が良かった連中とよく鍋を突きながら宅飲みをしていた。
 ああ、あいつらと宴会してぇな。前世、か。もう会うこともねぇんだろうな。
 いや、昔を思い出してもしかたねぇ。今はここで楽しく暮らす。それだけだ。
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