ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定

ウォルターの幸運という特性と目的達成のための道筋

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 色々と考えた。
 色々と考えた結論としては、俺はモブ落ちしたのだと思う。
 結局の所、ここは『幻想迷宮グローリーフィア』だ。主人公がダンジョン攻略をしながら恋愛パートをこなすゲーム。そのゲームの中で俺は『第一王子』という設定で存在する。だから俺がいわゆるハッピーエンドを迎えるには、まず第一王子に返り咲かなければ話にならない。
 廃嫡された第一王子のイベントなど『幻想迷宮グローリーフィア』には存在しないからだ。

 結局の所、主人公はだいたいのパターンで、1番好感度の高いキャラとのエンディングを迎えるわけだ。好感度の上昇はたいていの場合、一緒にいた時間とイベントの達成率に比例する。
 たいていのトゥルーエンドの到達条件にダンジョンの攻略が含まれているが、そもそもRPGに興味がない女子も一定いる。だから面倒なところは放り投げるのだ。つまり内政メインの主人公の場合はダンジョン攻略は自身は参加せずにギルドで独自に冒険者を雇って突入させることもできる。内政パートで得られる収入で装備を強化し、最終的にそいつらに魔王攻略をおまかせできるのだ。極論を言えばそんな手間すら厭う場合、金はかかるがダンジョン攻略自体をシステムに丸投げすることもできる。オート攻略を目的とするスケルタスというNPCがいるんだ。
 逆もまたしかり。シミュレーション部分に興味がなければ店を作って店長を雇って丸投げし、ダンジョン攻略プレイに専念できる。
 そもそもこのゲームはダンジョン攻略がメインではあるものの、ダンジョンを完無視したエンディングも山ほどある。伝説の鍛冶屋エンドとか武闘キングエンドとかマフィアクイーンエンドとか。

 これが内政型主人公であれば、俺は内政に張り付いていれば好感度は上がるのだろうが、今の主人公はダンジョン探索型主人公だ。そもそもこの街の発展具合からも主人公は内政に興味がない。だから主人公に絡んでエンディングの恩恵を受けるには、主人公の探索パーティに入る、あるいは少なくとも関与して接触しないと話にならない、と思う。
 だが今はパーティに俺の居場所がない。
 俺の代わりにジャスティンが入っている。CPを考えると俺が入る余地がない。俺がジャスティンと入れ替わるために必要なこと。そのために俺の有用性を示さねばならない。

「さすがの幸運値ですな。それは何が出るとか、そういうものがわかる類の能力なのですか」
「少し、違う。おそらくだが俺の望む結果に引き寄せる能力、だと思う」
「素晴らしい。では例えば一定の柄の服飾が流行るように誘導することも可能、ということでしょうか」
「そう、だな。試したことはないがおそらく多少の影響は実感できるだろう。けれとそういった方向に願ったことはないから、効果の程はわからない」
「ふむ」

 俺はセバスチアンの前でサイコロを振っていた。
 まずは能力の見極めからだという。何ができて、何ができないのか。確かに納得できる話だ。活動の前提というものだ。
 そんなわけで俺は先程から連続5回6を出し、6回目に3を出したが7回目にまた6を出した。
 当然だが、外れることもままある。だからこそ、予告してしまえば外れた時に信憑性が失われる。
 これが百発百中なら自分の手柄だと言いふらすこともできるのだろうが。

「イカサマや手技によるものというのでもないのですな」
「なんならセバスチアン殿が振ってみるといい。6が出る」

 サイが振られる。6が3回出て4が出、6が2回出て1が出た。
 豪華なテーブルの上に置かれた朱色の盆の上に、カラカラと音を経てながら白いサイが踊る。

「他人が振ると成功率が下がるようですな」
「そうだな。試したのは初めてだが、おそらく貴殿が出目について何か考えたからだと思う」
「出目について? 特に6が出ろとも出るなとも思っておりませんが」
「うん。けれども『出るかもしれない』或いは『出るのだろうか』くらいは思っていたはずだ。その分おそらく、素の状態より貴殿の手に何らかの力や緊張が伝わるのだと、思う。つまり俺の運は他人の意思や行為が介在すると効力が落ちる、のだと思う。俺の運は人の意思や行動には影響しない」
「なるほど、願えば外れる。運というものはそのようなものかもしれませんな」

 結局の所、俺の有用性というのはこの高すぎるラックしかない。
 このゲームの中で第一王子の役どころはラッキーマンだ。あらゆる事象に幸運の補正がかかる。
 ダンジョン攻略に連れていけば宝箱やイベントに遭遇する可能性がアップする。地道なものでも積み重ねれば地味に差がついていく。内政パートに回せば売上が増加傾向となり、レアなアイテム入手やイベントが発生しやすくなる。冒険と内政、わりとどちらにも使えるキャラ。
 けれども幸運というのはどうアピールすればいいのだろう。確実ではない幸運は。
 俺が主体的に動くことによって何らかの成功率が上がっていく。それをアピールする。
 けれどもその前に、そもそもパーティに入れない。どのパーティにも。

「ウォルター様の目的はダンジョンに潜ることですか。それとも第一王子に返り咲くことですか」
「第一王子だ」
「どちらが早く達成できると思われますか?」
「ダンジョンだろう? 魔王を倒せば返り咲ける、と思う」
「何故そう思われるのです?」
「何故、何故って……」

 確か主人公が第3王子エリザベートと結婚して王になる百合エンドもあったはずだ。
 セバスチアンは、そうですねぇ、と呟きながらメイドに合図をして茶を持ってこさせる。
 芳しい薔薇のような香りが部屋にあふれる。

「私は茶狂いでしてね。これは私が他の国で育てさせた特別な茶葉で作ったものです」
「うん。いい香りだ」
「この茶はその国の国王から最高級の栄誉を受けました。農園主はそれによって莫大な報奨金を得ました。それではその茶について1番栄誉と利益を受けたのは誰でしょうか」
「ええと、その農園主?」
「いいえ、作らせた私です。私の名はその国で広まり、取引量が増えました。茶畑以外の商売においてもです。私はその農園になど行ったことすらないのにね。つまりは大事なのは名前です。作ったのは農園主でも誰が命じたか、誰が行なったのか、そこが重要です。ダンジョン 探索も同じです」
「マリーのパーティだから全てがマリーの手柄になるってことか?」

 セバスチアンは目を瞬かせ、そこまでわかるのにどうしてご理解されないのか、と呟く。
 つまんだ茶菓子に驚く。それはしっとりと滑らかなクッキーで、いつも王宮で食べていたボソボソとしたものより遥かに美味だった。
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